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アレーナス村大決戦②

「私はイザヴェル王国王子リシャールだ。しばらくこの村に滞在していたから顔は見知っていると思う。魔物の群れとの戦いは私が指揮を執る!」

「皆に紹介しよう、私の妻アンジェリカ、妹シェリー、友人スバルだ。彼女らは上位攻撃魔法を使える魔術師であり、ひとりで1個中隊もの戦力に匹敵する力を持っている。それに我が弟ジャン、配下のジェス、リムも優秀な戦士だ。魔物が何体来ようと敵ではない。ラビィは弾除けにはなる。魔物が大群で押し寄せようが、何ほどの事もない!」


「なんか、あたしだけ扱いが酷いッス!」(ラビィ)


 リシャールは村人達を見回して宣言した。


「私は宣言する。我々の力で魔物を撃退し、この村の安全を守ると! 生まれ住んでいる国は違えど、我ら王族は民の生存権を守るため、多くの義務を負わねばならないのだ。皆は不安であろうが我々に任せてもらいたい。役場職員の指示に従って速やかに避難を!」


「急げ、魔物の群れは間もなく村に到達するぞ!」

「急げこっちだ!」


 レオンとリシャールの退避命令に逡巡した村人達であったが、役場職員の誘導に従って一斉に避難場所に移動を始めた。避難が終了した広場には戦いに赴く勇士たちだけが残った。いや、彼ら以外にも残った者たちがいた。


「リシャール様。オレ達も連れて行ってくれ!」


 スバル、ミッキー、ウォーレンにシルディがリシャールに声をかけた。その後ろでプルメリアとナナミ、シトリが不安そうな目でスバル達を見つめている。


「…だめだ」


「どうしてだ! オレ達も戦える。オレ達だって村を守りたいんだ!」

「わたしも元レードン軍の見習士官だった。戦闘訓練は受けているわ!」


 リシャールは不安そうな瞳でスバルを見つめるプルメリアを見た。壇上でああは言ったものの、相手の勢力も分からない中、どんな危険がるか分からない。そもそも、スバル達の実力は未知数だ。下手に怪我でもされてその対応に追われると、戦うよりそちらの方が手間になる。冷たいようだがそれが現実的な判断だ。それに、万が一の事があって、プルメリアやナナミ、シトリを悲しませたくはない。特に、ここでようやく幸せを掴んだプルメリアには、この先ずっと愛する人と幸せになってもらいたい。


「だめだ。お前らが来ると足手まといになるだけだ」

「な、なんてことを言うんだ。俺たち友達じゃなかったのか!?」

「今、それは関係ない。早くプリムさん達を連れて避難所に行け。邪魔だ」

「チッ、ああそうかよ! くそ、見損なったぜ。プリム、ナナミ、行くぞ!」

「所詮お前ら高貴な輩に俺らの気持なんかわかるわけねぇよな」


 スバルはプルメリアの手を取ると、足音も荒く教会へ向かい、ミッキーやウォーレンもそれぞれの彼女の手を引いて続いた。ナナミはジャンの側に寄って手を取ると、半泣きで無理矢理笑顔を作り震える声で言った。


「ジャン様、無理はしないでね。必ず戻ってきて顔を見せてください…ね」

「必ず戻るよ、約束する。ナナミちゃんの所に必ずね。さあ、プリムさん達が待ってる。早く行って」

「はい。あの…わたし、教会で皆さんの勝利をお祈りしてます」


 ナナミは名残惜しそうに手を離すと、何度も振り返りながら教会の前で待つプルメリアの許に走って行った。ナナミの後姿をじっと見つめるジャンをニヤニヤして冷やかすスバルやキリカ婆さんだった。


「お辛いですね…」

「アンジェリカ…」


 マジックバッグからハーフプレートとロングソードを取り出し、暗い顔をしながら装備しているリシャールにアンジェリカが優しく声をかけた。


「仕方ないさ。ああでも言わないと付いてきそうだったからな」

「リシャール様はお優しいですね。きっと彼らも分かってくれますよ」

「そうだといいがな。さあ、皆準備は出来たか。村はずれで迎え撃つぞ!」


「ちょっと待ってください。ボースさんが…」


 シェリーの声に全員ボースを見ると、女将さんが泣きそうな顔で別れを告げていた。周りで子供達も「とうちゃーん!」と声を上げている。


「あんた、必ず…、必ず帰ってきておくれよ。きっとだよ、待ってるからね」

「フッ…。俺がお前の元に帰って来なかった事があったか…」

「そうだね。そうだよね。あんた強いもんね」

「俺は臆病者さ…。だが、お前の愛が俺を強くする…。俺は生きる。泥を啜ってでもな…。そして、お前を抱くために帰る…」

「待ってるから。あんたの好きなチキンのバジルソテー作ってあげるからね」

「………。それは楽しみだ…」


 各々の台詞がカッコよく、感動的なシーンではあるが、何せ当事者がどこかのスナイパーのような顔の禿げ頭中年オヤジと、胸より腹の方が出ているような恰幅の良いおばさんでは感動も今一つ。微妙な空気がその場を包む。


「愛してるよ、ボース…」

「…俺もだ。クリスチーネ…」


「誰? クリスチーネって」

「ボクのママ」


 ボースの子供(男の子と女の子)がトコトコとやってきて答えた。


「絶対ウソだぁ~。名前が可愛すぎる」(スバル)

「今の姿から全然想像できないです…」(シェリー)

「どう見てもキングコングとか、獣人ハルークにか見えないっす」(ラビィ)

「お前、人の奥さんを酷い言い方すんな!」(ジェス&リム)


 女の子は額に入った1枚の小さな絵画を差し出した。シェリーが手に取ってみると、ふさふさの髪の毛を綺麗に整えた、スラリとした体形の超イケメン男性(スーツ姿)と、ぼっきゅんぼんのバツグンに良いスタイルの体を純白のウェディングドレスに身を包んだ超絶美女の肖像画だった。シェリーが恐る恐る子供に聞いた。


「こ…これは…。もしかして…」

「うん。とーちゃんとかーちゃん」


『う、うそだーッ!!』


 シェリーを始め、その場の全員が絶叫した。


「うそじゃないよ。とーちゃんとかーちゃんの絵」


「マジ…?」(スバル)

「ホントかよ。あの奥さん、こんなに美人だったのか? 女って怖いな」(ジェス)


 男の子と女の子をよく見ると、二人とも中々の美少年に美少女。絵画に書かれたボースとクリスチーネによく似ている。シェリー達は「ひし!」と抱き合うボース達と絵を見比べて、時の流れとは残酷なものだなと思いを馳せるのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 リシャール達イザヴェル王国一行とレオン、ボース、キリカの3名は村の外れにいた。全員戦闘に備え、完全武装して魔物の群れが来るのを待っている。

 偵察に出ていたジェスとリムのうち、リムが戻ってきて情勢報告をしてきた。


「報告! 魔物の群れは村の南約1kmに迫っております。敵はゴブリンとオークの混成約200~300! 偵察によりますと群れの中にゴブリンチャンピオンとゴブリンマジシャンの姿を確認しました」


「チャンピオンにマジシャンだと!?」

「…ゴブリンの魔術師ですか。ただでさえ数が多いのに厄介ですね」


「それと、魔物の中に1体ですが、身長3m以上ある大型のゴブリンが存在するのを確認しました」

「大型のゴブリン? なんだそれは」


「恐らくソイツはゴブリンキングです」

「村長、知ってるのか?」

「はい。身長3m以上、体重300kg以上になる怪物です。言葉を話し、統率力に優れ、戦闘能力も高い。精鋭騎士団1個中隊いてもかなうかどうかという強敵です」

「そんな奴が…」


「……そいつは俺が殺る…」

「ボース?」

「1人で戦うってのか!? 無茶だオレも戦う。キリカ婆も一緒にだ!」

「…いらん。俺の仕事だ…」

「ボース…」

「俺は犠牲になる気はない…自分が生き抜くために、やるのだ…」


「村長、ボース氏がここまで言うのだ。ゴブリンキングは彼に任せよう。アンジェリカ達に魔法による援護をさせる。村長達は我々の指示に従って戦ってくれ。まずは目の前の敵を倒す事だ」

「は…。仰せの通りに」


「ヒャーッヒャッヒャ! さすがイザヴェルの王族。落ち着いているわい。どうじゃ、ワシの男にならんか?」

「いや、申し訳ないが、謹んで辞退させていただこう」

「遠慮ぶかいのう。惚れちまうよ。ヒャーッヒャッヒャ!」

「リシャール様にくっつかないで! 離れなさい、このババア!」


 ゴブリンとの戦いの前に、リシャールにべたべた纏わり付くキリカ婆さんと、それを引き剝がそうとするアンジェリカとの攻防が始まった。そこに、最後まで敵情を偵察していたジェスが戻ってきた。


「何をしてるんですか?」

「ジェスか。何でもない。状況を報告してくれ」

「ハッ! 魔物の群れはゴブリンとオークを前面に押し出し、真っ直ぐこちらに向かってきます。距離は約300mもありません」


 リシャールは双眼鏡を覗くと、麦畑の中を麦を踏み倒しながら進んでくるゴブリン達が遠目に見えて来た。双眼鏡をレオンに渡すとシェリーとスバルを手招きして呼び寄せた。


「シェリー、スバル。お前達二人の魔法で先制する。風の力で炎のパワーを増し、敵を畑ごと焼き払え。村長、麦があると戦いにくい。申し訳ないが麦を焼き払わせてもらうぞ」

「致し方ありません。まずは勝つのが先決です」


 レオンは先ほどまで覗いていた双眼鏡を返しながら了承した。リシャールは次にアンジェリカに声をかけた。


「アンジェリカ。シェリーとスバルが敵の前衛を焼き払ったら次は君の出番だ。君の最強魔法で残った敵を薙ぎ払え。残敵は我々が直接戦闘で叩く。その間、魔法でのサポートを頼む」

「はい。お任せください!」


「リシャール様、魔物です」

「来たか。シェリー、スバル!」

「はいっ!!」


 麦畑の向こう、約200m先にゴブリンやオークが「ギャアギャア」と不快で耳障りな声を上げながら迫って来る。麦に邪魔されて姿全体は良く見通せないものの、前衛だけで200近い数はいるようだ。


 シェリーとスバルが迎撃部隊の前に進み出た。二人は魔術師の杖を高く掲げると背中合わせのポーズを取った。


「輝く金の花。キュアプリンセス、シェリー!」

「煌めく銀の翼。キュアセイント、スバル!」


『聖なる大地を穢す者よ! 地獄の鬼が待ってるわ! 華麗に羽ばたく二つのハート。レッツ、キューティプリンセスッ!』


「あいつらは何をいってるんだ?」(リシャール)

「さあ?」(ラビィ)

「シェリー姉…」(ジャン)

「………。(負けられないッ!)」(アンジェリカ)


「ワハハハ! 緊張感が無いですな」(レオン)

「……フッ。どんな時も…ユーモアを忘れない…か。さすがだ。躍動する巨乳もまた、素晴らしい…」(ボース)


「行くわよ、いいわね!」

「キュート・ウィンドストーム!」

「ラブラブ・ファイアストーム!」


『合体魔法、プリンセス・ファイア・ブラストーッ!!』


「シェリーとスバルは何か悪いモノでも食ったのか?」(リシャール)

「やば、カッコカワイイ…。(私は技の名前、何にしよう…)」(アンジェ)


 困惑するリシャールが見守る中、二人の合体魔法は灼熱の炎の嵐となって襲い掛かり、前衛のゴブリンとオークを業火の中に包み込んだ! 数千度にもなる轟炎に突然襲われ、訳も分からないうちに全身が焼き尽くされ、魔物達は絶叫を上げながら次々と炭化して崩れていく。

 その圧倒的な魔法威力にレオンやボースは目を見張った。以前ゴブリンに襲われた時にプルメリアが放った電撃魔法も凄まじい威力だったが、シェリーとスバルの風と炎の合体魔法も同等かそれ以上だ。


「さあ、次は私の番ね!」

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