第61話 ユーリカの特訓
「ユーリカ、大丈夫? 痛いところない?」
「ええ、大丈夫です。でも、さすがユウキさん。全然敵いませんでした」
「始めたばかりだから仕方ないよ。でも、ユーリカの欠点が見えたよ」
「欠点ですか?」
「うん。まず継戦するための体力が全くと言っていいほど足りない。それと、剣の基礎ができてない。まず剣技よりこっちを何とかしないとね」
「ど、どうしたらいいんでしょう」
「最初は体力づくりのため、走り込みをしよう。放課後に学園グラウンドを20周、その後に剣の素振り。朝はボクと一緒に早朝ランニング。ボク、王都の防壁の上を1周してるんだ。これを毎日行います」
「わ、わかりました。剣技の方は?」
「それは任せて、考えがあるんだ」
放課後、グラウンド20周を余裕でこなしたユウキと、息も絶え絶えなユーリカ。ユウキは誰からもわからないように、そっと治癒魔法をユーリカの体に流し、体力を回復させると、訓練用の重い鉄の剣で素振りを始めるよう指示する。
「筋力をつけるためだよ、がんばって。バストアップの効果もあるよ」
「は、はい! バストアップは嬉しいです。くっ、重い…、腕が…」
「じゃ500回行ってみよー!」
「鬼!」
夕暮れのグラウンドにユーリカの叫びがこだまする。
「ユウキのおっぱいの張りと形がいいのは、この訓練のお陰なのか…」
「カロリーナさんには無意味な訓練ですね。私はやってみようかな」
「フィーア、いっぺん死んでみる?」
その夜、お風呂に入ったユーリカは、夕飯もそこそこにベッドに倒れ込むと深い眠りに落ちてしまった。
(ユーリカ、訓練にしっかりついてきた。これならいけるかも)
ユウキは、ベットでぐうぐう眠るユーリカを扉の隙間から見ながら思うのであった。
「おはようユーリカ。さあ、早朝ランニング行くよ~、着いてきて!」
「は、はい!」
大通りを東に向かって走る。しばらく走ると、東門の城壁が見えてきた。
「門の脇に、上に昇る階段があるんだ」
ユーリカが、ひいひい言いながら階段を上がると、城壁の上に出た。城壁の上は幅10mほどの通路になっており、普段は誰でも昇ることができる。
「ホラ見て」
ユウキが東の方を指さすと、今まさに太陽が昇るところで、美しい朝焼けが広がっている。
「キレイ…」
「でしょ。ボク、ここからの景色大好きなんだ!」
「うん、その気持ち、わかります」
「ふふっ、ユーリカもこの景色を好きになってくれて嬉しい。じゃ、城壁を1周するよ!」
一瞬で、感動が絶望に変わったユーリカだった。
ユーリカの訓練は、もう2週間も走り込みと素振り、筋力トレーニングを繰り返している。ユーリカ自身、大分体力や筋力が付いてきたのを感じている。
そんな、ある休日、ユウキはユーリカに、剣の訓練をするから一緒に来るように言った。
「どこに行くんですか」
「ふふ、着いてくればわかるよ。あ、カロリーナ、カロリーナも一緒に来て」
「え、私も?」
「うん。手伝ってほしいんだ」
「わかった」
「それなら、私も行きます!」フィーアも付いてくることになった。
4人で大通りから、市内中心部へ向かって歩く。
「ん?ユウキさん、これって、王宮の方向ですよね」
「さすがフィーア。うん、目的地は王宮だよ。まあ、黙って着いて来て」
ユウキは、王宮の警備兵に何事か告げ、暫く待っていると、1人の騎士が出てきた。
「モーガンさん、こんにちは」
「おお、ユウキちゃん。マクシミリアン様から聞いてるよ。友人に訓練を付けてもらいたいんだってね」
「はい、無理行ってすみません。お願いできますか」
「ああ、マクシミリアン様からも頼まれているからね。こっちだ」
「それはそうと、友達の訓練が終わったら、私と勝負の約束だからね」
「はい、わかってます。でも、ボクじゃ勝負にならないと思いますよ」
「ユウキって、王国騎士にも知り合いがいるんだね」
「あの騎士さん、メイド喫茶でユウキさんの乳を揉んだ人ですよ」
ユーリカが、カロリーナとフィーアにそっと耳打ちする。
「まあ、あの方、王国第1騎士団の副騎士団長ですよ。真面目な方と伺ってましたが」
「むっつりスケベっぽいもんね」
女の子達は、ひそひそと、しかし、モーガンに聞こえるように話をする。
「やっぱり…、わざとだったんだ」
ユウキがジト目になってモーガンを見る。モーガンはあわてて、違う違うと全力で否定するのであった。
「ここだ」
案内されたのは騎士の訓練所。
「あっちに更衣室があるから着替えてくるといい。準備が出来たら、訓練場に来てくれ」
「わかりました。ユーリカ、行こう」
「は、はい」
「私とカロリーナさんは訓練場に行ってますわね」
訓練着に着替えたユーリカとユウキは、訓練場に入った。訓練場にはモーガンのほか、騎士が20人ほど待機している。女性の騎士も数人いるようだ。
「訓練をするのは、ユーリカちゃんでよかったんだよな。ちょっと確認させてくれ」
モーガンが、ユーリカの周りを回りながら、体の状態を確認していく。ユーリカは少し恥ずかしくなってしまった。
「うん、筋肉がそこそこついていて、いい体つきだな。武器適性を見るから、そこに並んでいる武器を順番に振ってみてくれ」
「はい。」
ユーリカは言われた通り、準備されていた剣、槍、メイス、ハルバードといった武器を振り回していく。
「彼女は、君たちの中では一番背が大きく体格もいいから、そうだな…、これがいいだろう。実際、これが一番スムーズに振れていたしな」
そう言ってモーガンがユーリカに渡したのは、戦斧ハルバードであった。