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オフィーリア大聖堂地下墳墓最深部

「まずいよね…」

「まずいですね」

「何がです? 乾パンも干し肉も美味しいですよ」


「そんなことじゃねえよ、バカウサ! 水が足りねぇって言ってんだよ!」

「ああ!」

「ああ…ってな、お前どこまでのんきなんだよ…」

「残りはどのくらいあるかな」


 全員手持ちの水筒を並べ、ラビィはマジックバッグから水を入れた容器を出した。


「うーん…。容器の水を全員の水筒に分けたら終りだね」

「…ですね。保って1日、良くて2日ってとこですか」

「ごめんね、わたしのせいで」

「いや、君のせいじゃないよ」


 失禁した後、着替えをする際、ラビィに下半身を水で流して洗ってもらったスピカが申し訳なさそうに謝った。ジェスとラビィはスピカの急激な変化に驚いたが、ジャンはこうなることを予期していたのか、小さく笑ってスピカの責を咎めなかった。


(さすが天下に名だたるイザヴェル王族。人間が出来てやがる)


 ジェスが感心したようにジャンを見る。その視線に気づかずか、ジャンは容器の水を全員の水筒に分け入れた。


「ジャン様ぁ、これからどうします?」

「そうだね…。全員でこの部屋を調べよう。もしかしたら、隠し通路なんかがあるかも知れない。希望は捨てないで頑張ろう!」


「という訳で、ラビィ」

「ひゃい!?」

「スカウトとしての技能、期待してるからね」

「うう…、一気にプレッシャーが来ました。おしっこちびりそう…」

「しっかりしろよ、このドジウサ!」


 ジャンの号令の後、皆で手分けして壁を探り始めた。トントンと壁を叩いてみたり、少しでも形の違うレンガがあれば、その周囲を含めて押したり引いたりしてみたり。そうすること数時間。しかし、隠し通路や隠し部屋的なものは見つからない。ジェスやラビィは無駄かも知れないと思い始めているが、ジャンが諦めた様子を見せないので、探索を続ける。そんな中…。


「もう無駄よ。こんなに探しても見つからないんだもの、通路なんてないのよ。わたし達、ここで死ぬんだわ!」


 疲労と絶望と申し訳なさで心が折れたスピカが喚き出し、泣き出した。封鎖された室内に女の子の甲高い鳴き声が反響して他のメンバーの神経を逆なでする。


「ウルセェ! 喚く暇があったら手を動かせ!」

「そーだそーだと言いましたー!」

「ドジウサ、テメェはもう少し真剣に探せ!」

「むぅ、やってますよー。イライラをあたしにぶつけないでくださいよー」


「みんな、落ち着いて。疲れたろうから少し休んで」

「ジャン様は?」


「ボクはもう少し調べるよ。諦めたくないんだ。絶対にみんな一緒に生きて帰ると思ってるからね。スピカ、泣いてても物事は解決しないよ。最後の最後まで諦めずに頑張ろうよ。さあ、こっちに来て。一緒に探そう」

「ぐすっ…。うん…」


 ジャンはスピカを手招きして呼び寄せると、一緒に並んで壁をトントンと叩き始めた。少しの音の違いも聞き逃さないように耳もそばだてる。さらに、1時間以上経過した後、ついにジャンの行為は報われた。


「ん?」

「どうしたの」

「ここの音が少し違うような気がする。スピカ、聞いてみて」


 小型ナイフの柄でトントンと対象のレンガを叩くと、確かに周囲のレンガと音が違うような気がする。


「ホントだ。確かに音が違うわ。少し鈍い感じの音がする」

「だろ! ラビィ、ジェス、ちょっと来て!」


 音の違うレンガをラビィが調べ始めた。ぺたぺたと触って感触を確認し、両手の親指を使ってグッと押してみた。すると、レンガが壁の中に押し込まれ、「ガタン!」と小さな音がした。それと同時に、反対側の壁の一部が「ガコン!」と大きな音を立てて、内側に移動し、横にスライドして、高さ1m、幅50cm程の口が開いた。


「や、やった! 隠し通路だ!」

「凄いです、ジャン様。流石です、りゅーせきです。豚もおだてりゃ木に登るです!」

「それ、全然褒めてないよ。ラビィ」

「奥が深いですね。上手く地上に続いてればいいんですが…」

「そこは行ってみるしかないよね。少し休憩したら中に入ってみよう」


 ジャン達は開いた口を覗き込み、魔道灯で照らしてみた。しかし、通路はずっと奥まで続いており、先が見通せない。しかし、ジャン達にはここに留まるという選択肢はない。乾パンなどで軽く食事をし、少しの水で喉を潤して体力を回復させたジャン達は、意を決して通路の中に入った。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 通路を歩いて最初の扉を開けたリシャール達は、魔物からの先制攻撃を警戒して外から様子を伺って、その恐れがないことを見極めてから武器を構えて中に入った。扉の内側は10m四方の広い部屋になっており、魔術的な仕掛けによると思われる照明で明るかった。それだけでも驚きだったが、中にいたモノを見てさらに驚いた。


 何体ものスケルトンの前で、一回り大きい骨太のスケルトンが、正面を向いて力こぶのポーズで両腕の上腕骨を見せてたり、両手の拳を腰骨に当てて肩甲骨を広げながら肋骨を膨らませてたり、胸をぐっと前にせり出して、両脚を少し曲げ、見せたいほうの腕を反対の手で掴み、上腕骨を見せつけるなど、所謂ボディビルのポーズを取っていて、その他大勢のスケルトン達に見せつけていた。室内にその他大勢のスケルトンの拍手が鳴り響く。


「な、なんなんだ?」

「スケルトンが変なポーズ取ってますね」

「変態アンデッド集団だ」


 肉体派(?)スケルトン達は呆然と立ち竦むリシャール達に気付くと、ギュッとポーズを取りながら近づいてきた。


『ほう、入門か?』

『ここに入門希望者がくるのは数百年ぶりか。むふー♡』

『うほっ! や・ら・な・い・か』

『我ら、肉体派ビルダーチーム、くそみそカーニバル!』


「いや、オレ達は入門者じゃ無い」

『遠慮するな。さあ、我らと筋肉について語り合おうではないか!』

「いやアンタ達、筋肉なんて無いじゃない」

『なにっ、我らの筋肉が見えんとは! さてはお主ら、バカだな!?』


「バカはアンタ達でしょう。骸骨の癖に何が筋肉よ。このスカポンタン!」(スバル)


『おおう、口が悪い姉っこだな。ところで、入門者じゃなければ何の用だ』

「実は、我々はこの地下空間のどこかにあるという「聖域」という場所を探している。何か知らないか?」


『せいえき? 精液って、そこの姉っこ共の「下のお口」がだーい好きな白い液体のことか? それなら、お前の如意棒を「下のお口」にぶち込み、擦って絞り出せばよかろう』


「やだぁ~。ストレート過ぎない?」(スバル)

「エッチ、ドスケベ!!」(シェリー)

「この骸骨、サイテーだな。エドより酷い」(アンジェリカ)


「そうじゃない! 聞き間違いにも程があるぞ。聖域だ聖域。知らないか?」

『知らんなぁ。ミルクセーキなら知ってるが』

『性器なら知ってる』

『せっくす。くすくすっ♡』


「アホか! 全然違う!!」

『そんな事よりどうだ、我らと筋肉の宴としゃれこまぬか』


 肉体派スケルトン達は、両手を開いた状態で正面を向き、両腕の上腕骨を見せるポーズでぐいぐい迫って来る。上下の顎骨にキレイに並んだ歯がキラリと光り輝く。


『お前達も生まれたままの姿になれ。服という殻を脱ぎ去り、おっぱいも股の秘裂も全てさらけ出して肉体美(?)を競おうではないか』

「絶対イヤよ! このド変態。私達の裸が見たいだけでしょう!」

「なに肉体言ってるの、骸骨野郎の癖に」


「もういい…。邪魔したな」


 リシャールは大きなため息をつくと、ボディビルのポーズを取るスケルトン達の部屋から出て扉を固く閉めた。


「一体何だったんだ?」

「地下墳墓とは大分雰囲気が違いますね」

「スケルトン達、魔物って感じがしなかったわね。ド変態だったけど」

「疲れました…」


 一行は気を取り直して次の扉の前まで進み、開けて中に入った。次に展開されていたのは…。


『立ち上がりなさい! いいですか、どんなに影が濃くても光が無ければ影はできないのです! あなたに足りないのは、主役になろうとする覚悟。覚悟が足りないのです!!』

『せ、せんせい!』

『オーホホホホ! 未熟ね、マーヤ。その程度の演技に躓いているようじゃ、わたくしに勝とうなんて、1兆年早いわ。オーッホホホホ!』

『ミユア…いつの間に…』


「今度は一体なんだ!?」


 リシャール達の目の前では、癖のある長い黒髪で顔(髑髏)の半分を隠し、黒のロングドレス姿のスケルトンが腕組みをして、床に這いつくばっている紫のレオタードを着たスケルトンを見下ろしている情景だった。さらにロング金髪、ピンクのレオタードを着たスケルトンが、右手の甲を口元に当てて「オーホホホ!」と高笑いしている。


『くっ…、あたし負けない。必ずこの役を自分のモノにしてミユア、貴女に勝って見せる!』

『よく言いました。あなたに足りなかったのはその気概です。さあ、立ちなさい。あなたの真の演技を見せるのです』

『はい! ムーンシャドウ先生!!』


『ではシーン43、あなたの元に彼が来るところからよ!』


 唖然として佇むリシャール達の所に1体のスケルトンがやってきて紙を渡してきた。受け取って読んでみるとこう書かれていた。 


 解説

 裕福な家庭の彼と貧しい家庭のマサコ(マーヤ)。お互い愛し合う二人だったが、きっつい性格の義母ミアユが息子には相応しい身分の女性がいると二人の仲を認めないのだった。愛する女と母との関係に苦悩する彼は…。


「なんだこりゃ?」(リシャール)

「えーと…はて?」(アンジェリカ)


 困惑するリシャール達が見ていると、寂しそうな表情(?)で歩くマーヤという名の紫レオタードスケルトンに、高級スーツをビシッと着込んだスケルトンがダダダッと駆け寄ってきた。


『マサコ!』

『ヨシヒコさん! どうして…』

『聞いてくれマサコ、ボクは、ボクは気付いたんだ。ボクは心から君を愛している。君を離したくない! 結婚してくれマサコ。二人でどこか遠くに行こう。そして一緒に暮らすんだ!』

『ヨシヒコさん、嬉しい!』


 そこにスッと現れる母親ミユア。冷たい視線(?)でマサコを見つめ、冷たい声で言い放った。


『…この、ドロボウ猫……』

『お、お義母さまぁ~!?』


『………。(この短時間で演技ががらっと変わった。これが本当のマーヤの実力…。マーヤ、恐ろしい子…)』


『はい、そこまで!』


 パン! とムーンシャドウ先生が手を叩いた。


『完璧よ、マーヤ。ミユアも。これなら観客も満足するわ』

『せんせ~い!』


 ムーンシャドウ先生にマーヤとミユアが抱きついた。先生は優しく二人の頭を撫でる。ヨシヒコ役のスケルトンもウンウン頷いている。


 リシャール達はそっと静かに部屋を後にした。

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