第60話 ユーリカの想い
王宮での謁見と晩餐会が終了して2週間ほど経った。その間、特に大きな出来事もなく、ユウキ達は毎日、平凡ながらも楽しい学園生活を送っていた。
ある日のホームルーム、クラス委員のララとヘラクリッドが、1か月後の学園祭について説明をしている。
「学園祭は王都の住人もたくさん訪れる2日間に亘るイベントです。各クラスの出し物のほか、部活の発表会、1日目に全学年対抗武術大会、2日目に学園美少女コンテストがあります。そうだね…。始めに武術大会と美少女コンテストの出場者を決めようか」
「武術大会は男子と女子各1名だね。男子はヘラクリッド君でいいよね」
「うむ! 任せてもらおう!」
「女子はと、誰か立候補する子いる?」
(美少女コンテスト、イヤな予感がする。絶対避けねば! ここは武術大会あるのみ!)
ユウキが一瞬逡巡した隙に「ハイ!」と手を上げられてしまった。
(出遅れた…。誰、手を上げたの? えっ! ユーリカ?)
「私、出たいです」
「ユーリカ、いいの?」
「ハイ! お願いします」
「えっと、ほかにいませんか。ん、ユウキが手を上げてるね、却下。ユーリカに決まり」
「な、なぜ!」
「じゃ、次は美少女コンテスト!」
「は~い、ユウキさんを推薦しま~す」
カロリーナが真っ先に手を上げて、ユウキの名を告げる。
「(カロリーナめ、またララと結託したな~)ボクは出たくありません!」
「じゃ、多数決しましょ。はい、39対1で、ユウキの出場に決定!」
「ぐぬぬぬ、また、公衆の面前で恥を晒せっていうの…」
「お約束少女の実力、見せてあげてね。コンテストで優勝よ!」
カロリーナがにこやかにユウキに笑いかけるが、ユウキには、その顔が悪魔の笑顔に見えた。
武器屋住まいの4人の少女が夕食を囲んでいる。ダスティンはさっさと食べて風呂に行ってしまった。
「結局、私たちのクラス、男子が串焼き屋、女子が手作り小物の販売になったね。Sクラスはなんなの?」
「私のクラスは王国文化の発表会ですって。つまんないですね」
「武術大会はマルムト様とアイリ様です。2人とも強いです。美少女コンテストはルミナ、中々の美少女ですよ」
「あれ、フィーアは出ないんだ?」
「だって、そちらのクラスはユウキさんでしょ。ボクっ子ドジっ子おっぱいと属性てんこ盛りのユウキさんに勝てるわけないですもの」
「褒められてる気がしないし、嬉しくない。何、最後のおっぱいって」
「美少女コンテストでは、水着審査と私服審査があるみたいですね」
「水着と私服、やっぱりイヤな予感が当たったよう…。うっ、マヤさん…」
ユウキが見ると、マヤが台所でガッツポーズをしているのが見えた。
「ねえ、ユウキさん、ちょっとお話いいですか」
その晩、ユウキがお風呂から上がってベッドに入ろうとしたら、ユーリカが部屋を訪ねてきた。
「ん、どうしたの? いいよ、入って」
「夜分にすみません…」
ユーリカがベットに腰かけるユウキに並んで座るが、何故か下を向いて黙っている。
「ユーリカ、どうしたの? 何か悩み事?」
「…ユウキさん」
「なに?」
「私に剣の稽古をつけてくれませんか…」
「ええっ!」
「どうしたの急に、武術大会に立候補した事と言い、何かあるの?」
「…ゴブリン退治」
「ゴブリン退治の時、フィーアさんもカロリーナもユウキさんと一緒に戦って勝ちを掴みました。ララさんだって、臨海学校でユウキさんを助けました…。私だけ何もしていないんです。でも、いいんです。いつか一緒に戦うことができれば」
「ユーリカ…」
「そのためには強くなりたい。実は私、魔法が使えません。だから入学試験は剣術を選びました。あっという間に負けてしまいましたけどね」
「私は変わりたいんです。フィーアさんやカロリーナみたいにユウキさんと一緒に戦える力が欲しいんです。だから…」
「武術大会に志願したのね」
ユーリカはこくんと頷く。
「でも私、剣の腕がからっきしで…。だから、ユウキさんに稽古をつけてもらいたくて。難しいですか」
(いつも明るくて、気配り上手のユーリカにこんな悩みがあったなんて。力になってあげたい。だって、ユーリカも大切な友達だもの)
「うん。ボクで力になれるなら協力するよ」
「わあ、ありがとうございます」
「じゃ、明日の早朝、学園に登校する前に手合わせしてみようか。ユーリカの実力見てみたいし」
「わかりました。お願いします。そうとなれば早く寝なくちゃ、おやすみなさい」
部屋を出ていくユーリカを見ながら、助さん格さんと訓練に明け暮れた日々を思い出し、少し懐かしく感じるユウキだった。
早朝、武器屋の裏庭でユウキとユーリカは剣の手合わせをしていた。カロリーナとフィーアがその様子を見学している。
カン!カキン!と剣の打ち合う音が響き、ユウキの一振りでユーリカが跳ね飛ばされる。これが何度も繰り返されていた。
「どうしたの! これで終わり!?」
「うう、まだまだ…、です!」
ユーリカが剣を振りかざして、ユウキに飛び掛かる。ユウキはスッと後ろに下がって、剣を躱すとユーリカに向かって踏み込み、剣を胴に打ち付ける。
「ウグッ」
くぐもった声を上げて、ユーリカが倒れ、動かなくなった。
「わあ! ユーリカ大丈夫? 今、治癒魔法かけてあげるね!」
「ねえ、フィーア。ユウキって、さすが剣の腕は凄いよね」
「ええ、ホントに。でも、2人が戦うと、揺れるおっぱいが気になって仕方ないです」
「うん、わかる…」