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オフィーリア大聖堂

 アンジェリカ達、イザヴェル王国御一行様は、聖女スバルに面会するため、オフィーリア大聖堂に来ていた。アンジェリカはアンゼリッテの件もあって、いい思い出の無い場所であったが、それはそれと割り切って考えようと気合を入れ直した。フンスッ!と鼻息荒くする妻にリシャールはなんだか可笑しくて笑ってしまった。


 大聖堂に到着し、中に入る。大きな礼拝堂は両側を大理石の太い柱が等間隔で並びゴシック様式の高い天井を支えていて、柱と柱の間の窓は太陽光がどの角度からでも入るように工夫されている。さらに、各窓はステンドグラスになっており、至高神エリスを始め、十二の神々が生き生きと描かれている。また、礼拝堂の奥には高さ数mにもなるエリスの立像が鎮座していた。


「これは…。荘厳の一言に尽きるな」

「そうですね。あの時は全然見る余裕なかったけど、改めて見ると凄いですね」

「綺麗だわ…」


 アンジェリカやシェリーがうっとりして周りを見ていると、神官服を着た司祭が声を掛けて来たので身分を明かし、聖女スバルとの面会に来たことを告げると話が通っていたらしく、大聖堂の奥に案内された。


「こちらでお待ちください。スバル様をお呼びしてまいります」


 別の神官が応接室の扉を開け、中に入るように促した。応接室は飾り気のない部屋で白い石造りのテーブルを挟んで両側に長ソファが置かれている。アンジェリカ達はソファに座らず、立ったままスバルが来るのを待った。


「お待たせしました。聖女スバル様がお見えです」


 アンジェリカ達を案内してきた司祭がスバルの到着を告げた。司祭に続いて応接室に入ってきたのは年齢20~25歳位、身長165cmほどの弩級美女だった。長い金髪を背中まで伸ばし、頭には金の台座に赤蒼の宝石で飾られたティアラを乗せている。目鼻立ちは整っており、左目の下の小さな泣きほくろは、優し気で柔和な印象を与える。豪華な絹のドレスは胸元がやや広めに開いており、Fクラスの巨乳の谷間を色っぽく覗かせていた。スバルはアンジェリカ達の対面に移動するとゆっくりと頭を下げて挨拶をした。


「聖女スバルです。リシャール様には邪龍戦争以来ですね。ご健勝麗しく思います」

「こちらこそ。連合軍の編成に当たってスバルーバル連合諸王国のご助力とご協力、感謝の念に堪えません。また、御身自ら統合作戦本部に参加され、諸王国軍の連絡調整、士気高揚にご尽力いただきましたこと、我が母からも感謝の言葉を預かっております」

「うふふ、連合軍を率い、勝利に貢献された英雄から褒められると照れてしまいます」

「英雄だなんてとてもおこがましい。勝利はここにいる妻のアンジェリカや連合軍を構成した各国軍の協力あってこそ。私の力などではありません」


 あはは、うふふと楽しそうに笑い合う二人に軽い嫉妬を覚えるアンジェリカだった。夫の横顔をちらりと横目で盗み見る。


(スバル様って結構な美人よね。でも、アンゼリッテの方がもっと美人かな。リシャール様は…。特に変な感情は抱いていないようね。よしよし…)


 ほっとして安堵するアンジェリカだった(意外とヤキモチ焼きなのだ)。一通り挨拶と自己紹介が終わると、スバルはソファに座るよう促した。シスターが紅茶と大皿に乗った菓子をテーブルに置く。全員に紅茶が行き渡ったところで、スバルは私的な会談だからと言って司祭やシスターを退席させた。


「ふーっ、やっとお目付け役がいなくなったわ。もう、肩がこっちゃうわよ」

「わははは! 聖女ってやつも大変だな。笑いを堪えるのが辛かったぜ」


 突然、砕けた雰囲気になったスバルにアンジェリカやシェリーは驚いた。ソファの後ろに控えているジェスやリムもびっくりしている。


「あれ? 驚かせちゃった? 実は私、これが素なのよね」


 舌をペロッと出していたずらっ子のように笑うスバルに、アンジェリカ達は緊張の糸が切れてしまって、思わず笑い出してしまうのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「へえ~。アンジェリカは一度大聖堂に来たことがあるんだ。いつの話?」

「2年ほど前ですね。親友のユウキと旅をしてて聖王国に来た時でした」

「えっと、ユウキって…もしかして帝国皇太子妃のユウキ様じゃないよね!?」

「そのユウキ様です。その頃のユウキは大陸を巡る旅をしてたんですよ。アレシアで出会って、それ以降、戦争まで一緒に冒険しました」


 アンジェリカはユウキとの出会いと、婚約者に振り向いて貰いたくてユウキの作戦に乗たものの、結果は失敗。完全敗北して恥を上塗りし、学校にもいられなくなったため、ユウキの旅に同行したことを話して聞かせた。アンジェリカにとっては辛く悲しい失恋話なのだが、それまでの経緯が面白く、アンデッド音頭の下りは大爆笑になってしまった。


「あはははははっ! アンデッド音頭! なにそれー、アンジェリカもだけど、そのポポって子も、ユウキ様も大概よね。あはははは、あーお腹痛い」

「私も当人達も笑い事じゃなかったんですけどね…」


 アレシアを出てリューベックのお祭りに参加し(ぬるぬるバトル)、ユウキ共々観客に痴態を晒した話もした。これもスバルのツボに入ったらしく、テーブルをバンバン叩きながら笑い転げる。その様子にシェリーは「ホントに聖女様?」と疑念を抱いた(聖女様です)。


「その後、逃げるようにリューベックを出て聖都に来たのですけど、当時の聖女アンゼリッテとトラブルになってしまいまして…」

「アンゼリッテ様ですって!? ある日突然行方不明になられた、歴史上最高の聖女と呼ばれたアンゼリッテ様…。あの方がいなくなったため、私が聖女なんてメンドクサイことに…。まあそれはいいわ。もし知っているのならアンゼリッテ様について教えて!」


「知らない方が幸せと思いますけど…」


 それでも教えてとスバルが懇願してきたので、アンジェリカは仕方なく話すことにした。隣でリシャールやシェリー達が笑いを堪えているのを見て、スバルの頭の上に「?」マークがいくつも浮かぶ。

 アンジェリカはアンゼリッテとユウキとの出会い、トラブルの内容、従者の女がユウキを殺害しようと不意打ちをしてユウキが瀕死の重傷を負ったこと、それによって、ユウキの眷属であるワイトキング「エドモンズ三世」の怒りを買い、従者の女は殺され、アンゼリッテは生きたまま不死体アンデッドにさせられ、エドモンズ三世の下僕にされたことを話して聞かせた。


「そ…そんな事があったなんて…。どおりで行方が分からない訳よね。てか、ワイトキングって眷属にできるものなの? 驚きでいっぱいだわ。で、アンゼリッテ様はどうなったの?」

「アンゼリッテは帝都で普通に生活してるぞ」

「えっ!? 本当なのリシャール様」

「ホントもホント。な、アンジェリカ」


「はい。その後色々あって、アンゼリッテは高位不死体ハイスペックアンデッドにクラスアップし、カストル君という魔族の美少年の従魔となりました。今じゃ、カストル君のハーレムメンバーの一員で、彼の使用済み洗濯前パンツを隠れ穿いて悦に入ってる頭おかしい変態に成り下がっていますね」


「な、なにそれ…。一体どういう経緯なの? ハーレムの一員? 訳わかんないんだけど」

「ちなみに、アンゼリッテ(大貧乳アンデッド)、パールバティ(上級巨乳悪魔羅刹)、アリエル(古代兵器貧乳大天使)、クリスタ(巨乳の年上お姉さん)の4人がハーレム四天王と呼ばれてて、その下にカストル君が通っている学校の女子からなるラブリー親衛隊十数名がいるそうですよ。そうそう、別にストーカーもいるって聞いてますね」


「凄いんだけど。びっくりなんだけど。カストル君って何者なの?」

「カストルはイケメンだけど普通の男の子だぞ。女の子に気配りができる優しい人物だ。ちなみにアンゼリッテ以外の3人も頭のネジが1本どころか、数本飛んでる変人ぞろいだ」

「そういう話ではないと思うけど…。ま、まあアンゼリッテ様が元気ならそれでいいわ」


「ド変態アンデッドに変わり果てましたけどね」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 その後も肩の力を抜いた、楽しい会話が続いた。時折、シスターがお茶のお代わりを持って部屋に入ってくるが、その時だけ気取った話し方をするスバルが面白くて大笑いした。


 アンジェリカは、スバルが何故聖女になったか聞いてみた。


「スバル様はアンゼリッテの後任になられたんですよね。経緯って何かあったんですか?」


「諸王国連合って聖王国のほか、アレシア公国、リューベック侯国、オーヴィル大公国、レードン国の5つの国の連合体ってことは知ってるでしょ。私はその内のオーヴィルの片田舎の出身でね。両親と私と妹の4人で生活していたんだけど、家は貧しくて自前の畑作だけでは生活できなくて、農閑期に両親が出稼ぎに行って生活費を稼いでいたんだ。でも私が10歳の時、働き先の事故で死んじゃってね」


「まあ…。それでどうなさったんですか?」(シェリー)


「親を失って途方に暮れていた私と妹は、見かねた近所の人達によって修道院に入れられたの。勉強とか礼拝とか作法とか、めんどくさくてイヤだったけど、とりあえず食べるに困らないし、雨露も凌げるから我慢したよ。妹も面倒見なきゃいけなかったしね。そしたら、なんか魔法の才能があるって司祭に言われてさ、魔法訓練をめちゃくちゃさせられた。そしたら、自分でも驚くくらい魔法が使えるようになったのよ。すごいでしょ」


「で、アンゼリッテ様がいなくなって、急な候補者選びの中で、魔術師として注目されていた私に白羽の矢が当たったって訳。っていうか、他に適当な人がいなかったって事だと思うんだ。私なら孤児だし、何かあって死んでも誰もいたまないからね」


 あははと笑うスバルだったが、意外と重い話にアンジェリカ達は神妙な顔になった。場の空気が重くなりかかったところで、雰囲気を変えようとシェリーが話題を変えた。しかし、それは決して踏み込んではいけない禁断のパンドラの箱。この話題が災いを引き起こす原因となろうとは、さすがのリシャールとアンジェリカも知り得る術を知らなかった。


「そ、そういえば、妹様がおられるとのお話でしたが、妹様はどちらに? オーヴィルにおられるのですか?」


 その瞬間、終始にこやかだったスバルの顔が一気に曇った。触れてはいけない話題だったのだろうか、シェリーは焦った。


「いもうと…妹ね…。いますわよ、1人だけ…。ああっ、もう! もうイヤ! 考えるだけで頭が痛い! あのバカ妹、なんでああなっちゃったのよー!!」


 スバルは机に突っ伏してわあわあと喚き出した。驚くイザヴェル王国御一行様。


「ス、スバル様?」

「お、おい、どうしたんだ?」


 顔を上げたスバルの目から滝のような涙が流れている(星飛雄馬のようなイメージ)。ドン引きするリシャールにアンジェリカ達。


「うう…。私の唯一の悩みなの。妹は…ああっ、もうー!!」

「相当悩んでいるみたいだな」

「そうなの。良かったら聞いてくれる?」

「さて、長居をしてしまったようだ。アンジェリカ、シェリー、スバル様もお忙しい身、そろそろおいとましようか」


「ちょっと待ったぁーッ!!」

「おうわ!」


 立ち上がったリシャールの腕をガッシ!と掴んだスバル。絶対に逃がさないとばかりに全体重をかけてしがみついた。その聖女とも思えない行動に全員、再度ドン引きする。弩級美女の鬼気迫る顔に恐怖したリシャールは、すとんと椅子に座ってしまった。それを見て逃げるのを諦めたアンジェリカ達も椅子に座りなおした。途端にニコニコ顔になるスバル様。リシャールを逃がすまいと動いた際に乱れた衣服を直しながら、コホンとひとつ咳払いをして、妹について話し出した。


「妹はスピカという名で、私の8歳年下の13歳なの。おっぱいは(かなり)小さいけど、顔は悪くないわ。まあ、美少女と言って差し支えないかな。オフィーリアの神学校の宿舎に入って、そこから神学校に通ってる」

「将来は神官を目指すのか?」

「どうかしら。小学校は普通の学校に入ったのだけど、とにかく問題児で先生方も手を焼いてしまって、規則と先生が厳しい神学校に放り込んだ…と言った方が正しいのよ」


「問題児」というワードにジャン、ラビィ、ジェスがぴくっと反応した。


「妹はとにかく曲がったことが大嫌いで、全部自分が正しいと思い込んでる「正義厨」ってヤツなの。おまけに考えが究極の自己中で、人の間違いや失敗が許せなくて、相手を泣かせるまで徹底的に糾弾しちゃうのよ。小学校ではそれで学級崩壊し、クラスメイトから総スカンを食らったにもかかわらず、全然反省しないし、ますます頑固で攻撃的になっちゃって…。付いたあだ名がスクール・デストロイヤー」


「凄いあだ名だな」


「人は間違いを犯す生き物だから、物事の判断は自分が見聞きしたものの中でしかできない。だから、間違いに気づいたら優しく諭してあげること。攻撃するのはもってのほかと、神学校の先生や私、大聖堂の大司教様が何度諭しても聞かなくて」


「あー、いるな。そんな奴」

「昨日も大通りで冒険者や旅行者とトラブったって報告がきてるのよ。もう、ため息しか出ないわ」


「ねえジェス。ボク、なんか嫌な予感がしてるんだけど」

「奇遇ですね。オレもです」

「あたし、なんかムカムカしてきましたよー。なんでかな」


 スバルは盛大にため息をついた。そして、瞳をウルウルさせて上目遣いにリシャール達を見つめて来た。


「ねえ、どうしたらいいと思う?」

「どうしたらって…。そんなめんどくさい子、オレらだって手に負えんぞ」

「そう言わないでさ~。私達戦友でしょう、助けてよ~」


 スバルがめそめそし始めた。皆が困っていると、廊下からシスターと誰かが言い争う声が聞こえてきた。何事かとその場の全員が廊下側を見る。


「来客中です! いけません!!」

「お姉様の客ならわたしの客でもあるでしょう。イザヴェル王国からだなんて珍しいわ。なおさらご挨拶しなければ。あなた邪魔、退いて!」

「あーっ! ダメですよー」


 ノックも無く、いきなり応接室の扉が開いて1人の女の子が入ってきた。その姿を見てジャンは「悪い予感的中!」と心の中で叫んだのであった。

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