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第59話 国王との会談②

「ボ…、私の事…ですか」

 ユウキは胸に手を当てて身構える。


「そうだ。お前は以前スラムで事件に巻き込まれたな。その時の憲兵隊の記録を調べさせてもらった。ギルバート、説明してくれ」


「はい、ユウキ・タカシナ14歳。女。今年の1月初め、王都に向かう連絡馬車に乗るために、王国最北に位置するイソマルト村に突然現れる。村の住人や村の周辺に住んでいる者で該当する人物の記録なし。出自不明となっております」


「と言うことだが、ユウキ、お前はどこから来たのだ。14歳の少女の身でゴブリンキングをも倒すその強さ。ただモノではあるまい」


「…………」


「先ほども言ったが、ここは我々しかいない。ギルバートは私の腹心だ。秘密を他に漏らすことはない。話してくれないか」


「国王様。国王様は私の髪を見てどう思います」

「髪? うむ、そうだな、この国、いや大陸でも珍しい黒髪だな。南の大陸の辺境に黒い髪の少数民族がいると聞いたことがあるが…、その民族から流れて来たのか」

「違います。私は、私はこの国の…、いや、この世界の人間ではありません」


「何!」

「なんと申せられます!」


「私は、日本と言う国に住んでいました」

「二ホン? 聞いたことがない」


「日本はこの世界とは別の世界。そう、異世界と言ったら良いでしょうか。異世界にある国なのです。その国には私と同じような黒い髪や瞳をした人々が大勢住んでいます。私はある出来事がきっかけで、偶然、この世界に姉と一緒に迷い込んできました。5年前の事です」


「姉と私が現れたのは、北方の「黒の大森林」の中でした。そこを彷徨ううちに、ゴブリンに襲われ、姉は私を庇って亡くなりました。先ほどの話の大切な人とは姉の事です」


「私もゴブリンによって大けがを負いましたが、ある人物が助けてくれ、私を保護してくれました。そこでこの世界の事や剣術を学び、保護者からの「広い世界を見て色々と経験してこい」という助言に従って、王都に出てきたのです。ですから、記録がないのも当然です」


 ユウキの話に、マグナスもギルバートも驚きのあまり声も出せない。


「異世界から転移してきただと…。まさか、そんな事が…。黒の大森林だって? 人跡未踏の危険地帯ではないか。そこに5年もいただと? とても信じられん」


「でも事実です」


「お前を育ててくれた保護者とは一体誰なのだ」

「すみません。それを言うことはできません。保護者との約束なんです。ただ、悪意を持った方ではありません。本当です」

「我々だけに言うことはできないのか」

「すみません…」


「そうか、わかった。いや、話してくれて感謝する。宴の席に戻って楽しんでくれ」


 マグナスと、ギルバートはユウキが退出した後も、俄かには信じられない話に頭の整理が追い付かない。


「驚いたな、異世界なんて信じられるか?」

「いや、全くもって信じられません。ただ、ユウキ様は嘘はついていないように見えます」

「そうだな。ただ、彼女には十分注意を払っておいてくれ。それから、このことは他言無用だぞ」

「わかっております」



「はあ、緊張した。今の事、後でバルコムおじさんにも話しておこう」

 ユウキがホッとした様子で晩餐会場に戻ると、カロリーナが近寄ってきた。


「ユウキ! どこ行ってたの? 姿が見えなくて心配したよ。もしかして…」

 ユウキはドキッと心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じる。


「おトイレ? 大きい方? 難産だったの?」

「ち、違うよ! 違うから! 大きい声で言わないで! 恥ずかしいでしょ!」


「そう? じゃあ、どこ行ってたの」

「う、うん。ちょっと食べすぎちゃって…。少し休んでたの」

「大丈夫なの? あ、もうすぐダンスが始まるよ」


 晩餐会場では楽団による音楽が奏でられ、貴族の男性が女性たちをエスコートし始めた。カロリーナもフレッドと一緒に行ってしまった。1人になったユウキは、壁に寄り添ってみんなが躍るのを眺めていたが、そこにマクシミリアンが近づいてきた。


「やあ、ユウキ君」

「マ、マクシミリアン様!」


 ユウキは先ほどの国王の「嫁にどうだ」という話を思い出し、思わず顔が赤くなる。


(うう、まともに顔が見られない…。落ち着け、落ち着け…。そうだ! 円周率を数えよう。えと、3.14159…。うん、落ち着いてきた)


「ん、ユウキ君。どうしたんだい」

「え、あ、いや、ははは。なんでもありませんです…。はい」


「よかったら私と踊ってくれないか」

「え、あの、ボク、ダンスなんてしたことなくって、踊れないんです」

「大丈夫。私がリードするから。だめかい」

「わ、わかりました。よろしくお願いします」


 2人は手に手を取って、音楽に合わせて踊りだした。しかし、ユウキは素人。マクシミリアンの動きに付いて行くのが精一杯で足元もおぼつかない。だが、マクシミリアンはそんなユウキをリードしていく。


 2人のダンスを見ていた、会場内の女性たちから「なにあれ」とか「ふふふっ」というユウキをバカにした発言が聞こえ、ユウキは恥ずかしくなって俯いてしまう。そんなユウキを見てマクシミリアンは「気にすることはないよ」と優しく言葉をかけるのであった。


「ユウキ! お疲れ」

 ダンスが終わって、ユウキが解放されるとカロリーナが話しかけてきた。


「いや~、さすが美男美女、絵になるね~。でも、ユウキのダンスったら、プププ」

「もおー、やめてよ。恥ずかしいな~、もう…」


「あ、音楽も終わったね。晩餐会も終了か、ちょっと寂しいね」

「うん、王様との謁見は緊張したけど、フェーリス様とも知り合いになれたし、楽しかった。カロリーナ、フィーアやフレッド君が待ってるよ。着替えて帰ろう!」

「うん!」


 2人は豪華な晩餐会の余韻に浸りつつ、皆が待つ家へ帰る準備をするのであった。

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