エヴァリーナのロディニア追憶の旅⑬
淫乱闇精霊ルーナの出現と言動で全員疲れが見え始めたが、魔法陣はまだひとつ残っている。「もういいよ」と断ったフェーリスだったが、張り切るエドモンズ三世に促され、仕方なく最後の魔法陣に乗り、残った全ての魔力を通した。マトモな従魔が出てくることを願いながら。しかし、その願いは間もなく裏切られる。
魔法陣全体から真っ白な光の柱が伸びる。今までとは違うエフェクト(前3つは魔法陣の中央部のみ)に、凄い何かが現れるのかと、周囲の期待は否が応にも高まる。しかし、その期待はやっぱり裏切られる。
「あ、何かが出てきた!」
「きゃあ、なにあれ!」
「なんだぁ!」
光の柱からぬうっと現れ出たのは全長3m(さらに尻尾1m)、全高1.7mの巨大なホワイトタイガーだった。ホワイトタイガーは魔法陣から出て周囲を見回すと、一瞬ビクッとした反応を見せたが気付いたものはいない。
『わ、我は「白虎」、天界西方の守護神、霊獣「白虎」なり』
ホワイトタイガーは自身を霊獣白虎と名乗った。その場にいた者たちは、神話や物語の中の存在である霊獣が出現したことに驚き、神々しく威風堂々とした姿に感動している。それは、精霊ルーナや妖精リルルも同様であったらしく、ビックリ顔でまじまじとその姿を眺めていた(アリスは無表情)。
「すげぇ…。こんな堂々とした獣、見たことねぇ。アースガルドの遺跡で出会ったマンティコアやデルピュネーより威厳と迫力があるぜ」(レオンハルト)
「白虎。天の四方の方角を司る4体の霊獣のひとつと古い文献で読んだことがある。まさか実在したとは」(レウルス)
「アークデーモンのメイメイも凄いですけど、この白虎も負けてないですわね」(エヴァ)
「どっちが強いかしら」(ユーリカ)
『我は何故ここにいるのだ。よ、用が無ければ帰りたいんだけど…。帰っていい?』
立派な体格と勇猛そうな顔に似合わず、何となくおどおどする白虎にエドモンズ三世が近づいて、従魔として呼び出されたこと、送還は出来ない事を教えた。
『お主は従魔として呼び出されたのじゃ。これからは召喚者に誠心誠意仕えるがよい。ちなみに送還術は分らんので、帰還は無理じゃぞ』
『なんだと。帰れないというのか!? そうか…帰れないのか。そうか…』
何故かほっとしたような雰囲気に、その場の全員が「?」となった。
『で、我を呼び出した者は誰だ。武闘派霊獣たる我を使役しようというのだ。相応の者でなければ我は認めぬ!』
ガォオオーッ!と大声で吼え、周囲を睥睨する白虎は迫力満点。「おおー」という感嘆の声が室内に木霊する。その中から豪華なドレスを着た一人の美女とおっぱいバインバインのどエロい美女が進み出てきた。
「なんか、急に強気になったわね。呼び出したのは私、フェーリスよ。よろしく白虎さん」
『わたしはぁ、ルーナ♡ さっき、フェーちゃんの従魔になったばっかりよん♡』
『が…がぉ…。お、女…?』
「そうだけど」
『や、やだ。このおっきなネコ、もっふもふよ♡』
『ぎゃああああぉ! さ、触るな近づくな! 女は苦手なんだよ。女怖い!』
ルーナが白虎のお腹に手を伸ばしてなでくり始めた。その直後、悲鳴を上げて全身の毛を逆立てながら伏せの姿勢になり、ガタガタ震え出した。面白がるルーナはそのモフモフの体に「えい!」と抱きついた。
『ぎゃああああああっ!』
白虎は絶叫と共に「ぼふん!」と白煙を上げて人型モードに変身した。身長2mほど。半分白、半分黒の短髪に精悍なイケメン顔。筋骨隆々のムキムキボディ。腕も足も筋肉ではち切れんばかりだ。ちなみに服はタイガー模様のブリーフ型パンツ一丁。傍から見ればマッチョの変態だ。その人型白虎はブルブルと震え、めそめそとべそをかきながら、床に座り込んでいる。その様子に、エヴァリーナを始め、その場にいる全員が呆気にとられた。
「なんですか? 何が起ったの?」(エヴァ)
「女が怖いって言ってたぞ」(レオンハルト)
「霊獣なのですよね。なんて情けない姿」(フィーア)
「やだぁ、ゴツイ筋肉だるまがビビり顔で泣いてるわよ」(ユーリカ)
「クソザコナメクジ…」(ニーナ)
「フェーリス様にはこういう系じゃないと」(リース)
「こういう系…か。ルーナも白虎もエドモンズ様たちと同じ臭いがするな…」(レウルス)
ざわ…ざわざわ…ざわと騒めくその場の全員が微妙な感想を述べる中、エドモンズ三世とヴォルフが白虎に近づき目線を合わせて話しかけた。
『お主、何故女が怖いのじゃ? 女という存在、至高ではないか。輝く笑顔、溢れんばかりの母性。それを象徴する巨乳、爆乳、撫でまわしたくなるような美尻、しゃぶりつきたくなるような太もも、乳頭! 儂ならユーリカとルーナの爆乳に埋もれて死にたいくらいだわ。そう思わんか、ヴォルフ!』
『そうよ。見よ、あそこに佇み、お前を蔑んだ目で熱く見つめるリースとニーナを! 気の強そうなツンデレロリ系巨乳美少女を! あのジト目でしばかれながら巨乳とツルツルのアソコを貪る。考えただけで首筋からケツ穴までゾクゾク来るではないか! それを嫌いだと!? 貴様、それでも漢か、情けない!!」
「いや、真に情けないのはあなた方です」(エヴァ)
「さすがユウキさんの眷属。変態レベルは半端ない」(ユーリカ)
「ド変態の双璧とは、よく言ったものですわ」(フィーア)
エドモンズ三世とヴォルフは畳みかける。もう誰にも止められない。
『それともお主「やらないか」系なんか!? なら、フェーリスちゃんこそお主の主人に相応しいではないか。なにも怖がることはないぞよ』
『吾輩も激しく同意する。良く見ろお前の主人を! 18歳にしてもなお色気マイナス1.0の寸胴幼児体型。男顔負けの究極のフラットボディ。性格も乱暴! ついたあだ名が「狂乱のまな板女王」どうだ、安心安全だろ…があっ!』
「だまらっしゃい、クソアンデッド」
フェーリスはヴォルフの背中を蹴り飛ばした。白虎に目線を合わせるため屈んでいたため、ヴォルフはひとたまりもなく床にべしゃんと這いつくばり、兜が腕から離れて転がった。その兜をガシッと踏みつけながら、フェーリスは白虎に何故女が苦手なのか聞いてみた。
「白虎、何で女が苦手なの?」
『だって…。女は小さい頃からすぐ派閥をつくり徒党を組んで、気に入らない男を徹底的に虐めるじゃないか。我も散々虐められて、物は隠され捨てられて、大勢の前でパンツを下ろされチンチンを引っ張られたんだぞ! 好きだった幼馴染の女の子の前でだぞ! 酷いと思わないか!?』
『オマケに自己中心的で人の言うこと聞かないし、感情の起伏は激しいからいつも顔色見ないといけないし、機嫌が悪いと口を利かなくなるし、意地悪も陰湿で心にグッとくるし、人の悪口をあちこちで言いふらすんだ。こんな生き物のどこがいいって言うんだ! 女なんて…女なんてキライだあーッ!』
『東南北の守護神の玄武も青龍も朱雀も雌(女)だから、よってたかって我を仲間外れにして、クソザコナメクジの短小チンポって言ってイジメてくるんだぞ。それも毎日!』
「壮絶ね。でも、ちょっと偏見が過ぎるんじゃない? 確かにそういう性格の悪い子もいるけど、少なくてもここにいる女性はそんな人はいないわよ」
「………(わかるぞ。確かに機嫌が悪くなると大変なんだよなぁ~)」(レウルス&レオンハルト)
「何を考えてますの」(エヴァ)
「な、何も考えてねぇぜ。ホント、マジで」(レオンハルト)
ジトーッとした目で見つめられ、冷や汗をかくレオンハルトを見て、レウルスは余計な事を言うまいと口を固く閉ざした。
『おまけに、女って無駄に起伏の多い体をしているではないか。あれがどうにも…』
「その点なら、フェーリス様は問題ないのでは? 起伏が皆無ですし」(リース)
「黙らっしゃい!」
『まあ、女の子がキライだなんて、失礼しちゃうわね。みんな!』
ルーナが大きく腕を振って合図すると、リルル、アリスの従魔女子がやってきて3人で輪になって白虎をとり囲んだ。さらにその輪にリース、ニーナ、ユーリカが加わった。6人の美少女&爆乳女子に囲まれ、白虎は身を捩りながら悶絶し、膝立ちになって腕を天に上げて絶叫した。
『女、女怖いよぉーーーっ!』
「ほら、ほーら♡ どお、柔らかいでしょう♡」
リルル、アリスを除く巨乳・爆乳女子が胸を白虎に押し付ける。レウルスとレオンハルトは羨ましい、自分たちもあのおっぱい山脈に埋もれたいと思いつつ、務めて平静にして表情を変えない。なぜなら、強力な得物を持った妻たちの冷たい視線が夫の表情の僅かな変化も見逃すまいとしていたからだ。
この訳の分からん状況にフェーリスの嘆く声が響き、魔法陣を描いた混乱の張本人を攻め立てる。しかし、いつもなら混乱に一層拍車をかけるはずのエドモンズ三世が大人しい。それもそのはず、エドモンズ三世とヴォルフはフェーリスの呼び出した「濃い奴ら」の狂態に置いていかれていたのだ。
「乳だけ淫獣精霊に役立たずのヘタレ霊獣…。なんで私の従魔は変なのばかりなのよ!」
『儂に言われても…。魔法陣は魔獣などの系統を示すだけで、何が出てくるかはその時の運じゃからのう。フェーちゃんの願望が具現化したのではないか?』
『なるほど。ルーナの超爆乳はフェーちゃんがどれほど望んでも得られないもの。願望が彼女を呼んだというのか。正に奇跡というしかないな』
「どこが奇跡なのよ!? どうしてリースちゃんやニーナさんは当たりで、私だけがハズレなのよ! ルミエルさんだってカトレアちゃんという特A級の従魔を手に入れたし。どうして私だけ地獄級なの!? ふぇええん! 悲しいよー」
『泣くな泣くな。ルーナは見た目アレだが、精霊としては最上位じゃぞ。魔力も高いし、精霊魔法は四元魔法とは異なる系統。役に立つと思うがのう。白虎はまあ、あれじゃ。面白要員で可愛がってやれ。タイガーモードなら、ちょっと大きいペットみたいなもんじゃろ』
「イヤだぁ~! ルピナスちゃんと交換してぇ~。あんな変態イヤァ~!」
白虎の出現で混乱に拍車をかける王宮の大会議室。絶叫する白虎におっぱいを押し付けて迫るルーナとユーリカ。傍観していたアリスが小さく笑みを浮かべ、大笑いしながら飛び回るリルル。騒ぎを聞きつけて使用人やメイド、親衛隊の兵士が集まって来て、状況を見て騒然となった。
フィーアは、ふと隣に並ぶ夫を見た。レウルスはその光景を見て声を上げて笑っていた。フィーアは驚いた。レウルスが声を上げて笑っている。確かに夫は普通に笑うことはある。しかし、大声を上げることなど一度も見たことはない。そのレウルスがお腹を抱えて笑っている。その姿にフィーアは嬉しくなった。
(これが、この人が願っていた光景なのですね。閉塞した空気を吹き飛ばし、新たな時代へと動き出す。だから、エドモンズ様やヴォルフ様を自由にさせて、城内だけでなく、王都の人々の気持ちも変えて行こうとしたのですね。本当に凄い人ですわ)
また、エヴァリーナもこの光景は帝都での日常に近いと感じていた。きっとこの国も大きく変わるだろう。
「なんだかんだ言って、皆楽しそうですわ。エドモンズ様たちの影響も大きいと思いますけど、フェーリス様の気質がそうさせるのでしょうね」
「ああ。さすが「女版ミュラー」だけの事はあるな」
「うふふっ。帰ったらユウキさんにたくさん聞かせてあげなくては」
「そうだな。さて、そろそろ行こうか。オレたちも」
「はい、あなた♡」
エヴァリーナとレオンハルトは、レウルスとフィーアに挨拶をすると、賑やかな声が収まらない王宮を後にした。正門を出て振り返ると夕暮れの茜空に白亜の城壁が輝いてとても美しい。その輝きはこれからのロディニア王国の明るい未来を予感させるのであった。
そして、エヴァリーナはロディニア王国でユウキの足跡を辿り、多くの人たちと知己を得、彼らの想いを知った。それは彼女の一生の財産となり、ユウキへの友情を一層厚くするものであった。
(とてもきれいな空。ユウキさんが私をこの国に派遣してくれたこと、感謝しなければなりませんわね。ああ、早くユウキさんに会いたいなあ。たくさんお話を聞かせるのが待ち遠しいです)
真っ赤に染まった空を見上げ、エヴァリーナはユウキの笑顔を思い浮かべるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2週間後の帝都、皇太子宮の一室…。
「あはははは! エヴァったら随分と楽しい経験をしてきたわね。でも、本当にありがとう。わたしの代役を全うしてくれて。うふふ、やっぱり大好きよ。エヴァ」
「いえいえ、私としてもロディニア訪問は真に実りのある旅でした」
エヴァリーナとレオンハルトは帝都到着後、皇帝陛下と宰相ヴィルヘルムにロディニア訪問を復命した後、その足で皇太子宮を訪れてユウキに会って、旅の話を聞かせていた。少し離れた場所ではミュラーがレオンハルトとエドモンズ三世、ヴォルフからロディニアの美少女の素晴らしさをレクチャーされては馬鹿笑いしている。
エヴァリーナは紅茶を一口飲むと、旅の感想を話した。
「ユウキさんのご友人と話をして、彼らのユウキさんへの想いを知る事が出来ました。それにバルコム様との知己も得ました。この旅で得たものは私の一生の宝です」
「よかった。それでバルコムおじさん、元気だった?」
「それはもう。ユウキさんの事を大変気にかけておられました。それに、ご懐妊されたことをお教えしましたら、それはもう大喜びで。赤ちゃんが生まれたら是非会いに来たいとおっしゃってましたわ」
「うふふ。わたしもおじさんに会いたいな」
その日、ユウキとエヴァリーナは夜遅くまで、ロディニアでの経験を話して聞かせた。話の折々に楽しそうに笑うユウキの笑顔を見て、エヴァリーナもまた満たされた気持ちになったのであった。
(ただ、あそこでルーナの爆乳写真を見て目じりを下げてる夫! ちゃんとみてますからね。折檻確定!)




