エヴァリーナのロディニア追憶の旅⑪
「中庭での騒ぎは、そう言う事だったのですね」
「ルミエル様、それはもう大喜びでしたわ」
王宮の貴賓室に通されたエヴァリーナたちは貴賓室に通され、新女王となったフェーリスと会談という名のお茶会をしていた。フェーリス以外の出席者は宰相で兄のレウルスとその妻フィーアの外、ユーリカ、リースとニーナの変人コンビの計6人だ。一方のエヴァリーナ側は、夫のレオンハルトにユウキの眷属たち計5人。ちなみに、エドモンズ三世らが帰ると聞いて、城のメイドや女性兵らは大喜びし、男性職員や兵士は残念がった。
『ルミエルとカトレアは、儂の力で従魔契約を結んだからの。フェーちゃんから奪い取っていた真理のペンデレートを渡して、その中に収容することも可能なようにしておいた。ただ、お礼におっぱい揉ませてとお願いしたのじゃが、断られたのは残念だったな。ワッハッハ!』
「最低です。このエロ骸骨」
『おおう、リースちゃんの蔑んだ視線…甘露甘露。尾てい骨がぶるっと震えるのじゃ』
「ちょっといい?」
ニーナはエドモンズ三世に質問してきた。
「不良骸骨は簡単に従魔にしてやったなんて言っているけど、かなり力のある魔術師だって、従魔に出来るのはせいぜい小動物や鳥程度で、魔物にしたって知能の低いコボルトくらいよ。神聖国にだって従魔持ちはほとんどいないわ。私だって何回か従魔召喚をしたけど無理だったもの。帝国では従魔召喚技術が発展してるの?」
『帝国だって似たようなもんじゃ。ルミエルとカトレアはお互いの信頼関係によって従魔契約が成立した。儂とルピナスはその手助けをしたに過ぎん』
「そうなんだ。じゃあ、ルミエル様とカトレアは特別なのね。羨ましいな」
ニーナは羨ましそうに語った。フェーリスは皇太子宮で行われたBBQで見た光景を思い出してエドモンズ三世に聞いてみた。
「そういえば、以前BBQ大会でアークデーモンや女悪魔、天使がいたわね。アレも誰かの従魔なの?」
『メイメイたちの事か? あれはじゃな…』
エドモンズ三世はラファール魔族国での体験を話して聞かせた。カストルとアルヘナ兄妹との出会い、兄弟の従魔契約に至った経緯、さらに従魔同士の戦いの話を聞かせた。その内容にフェーリスたちは驚いた。
「アークデーモンと高位不死体を従魔にするって凄い。でも、女悪魔と天使は?」
『パールとアリエルか。あ奴らはダンジョンで出会ったらしいのじゃが、カストルに惚れてくっついて来たんだそうじゃ。そういう意味ではアイツらは従魔ではない』
「そういえば、彼女たちBBQで美少年を取り合って乱闘してたわね。それにフェーリス様も乱入して混沌だったわ」(フィーア)
「その後、全員皇妃様に土下座させられながらお説教されていたのも壮観でした」(ユーリカ)
「そ、その話は無しにしましょう。私の黒歴史です」(フェーリス)
「女王の黒歴史がまた1ページ…」(リース)
『ワハハハハ! そうそう、もっと凄いのがおるぞ。エヴァリーナも知っておるヤツじゃ』
「あー、ラーメラさんですか。彼女には大変な目に会わされました」
「ラーメラさん?」
『そうじゃ。伝説の魔物スフィンクスのラーメラ。帝国皇帝側妃マーガレットの従魔じゃ。そして、エヴァリーナとレオンハルトが愛を確かめ合うきっかけを作った「キューピッド」でもある』
「スフィンクス!? もはや幻獣の類ではないか。信じられない…」(レウルス)
「帝国の人たちって、凄すぎますわ…」(フィーア)
「愛のキューピッドの話聞きたいです!」(フェーリス)
『そうかそうか、聞きたいか』
「ダメです! ぜーったい言っちゃダメです!」
「おい、オッサン! この話はしなくてもいいだろ!」
エドモンズ三世は必死で止めるエヴァリーナとレオンハルトを無視してカラカラと笑いながら話し始めた。邪龍ガルガの起動システムを求めてダンジョン探索をしたこと。火山地帯を通る際、エヴァリーナの風魔法で全員を守ったが魔力切れで魔力回復薬を使ったが、副作用でお腹を下してしまったこと。ここまではいい。エヴァリーナの許容範囲。しかし、ついに禁断の部分に触れてしまう。
『そこにラーメラが現れて、儂らにナゾナゾ問答を仕掛けて来たのじゃ。あれは中々楽しかったぞ。ただ、問答に時間をかけ過ぎたお陰で、下痢便を長時間我慢していたエヴァリーナの肛門が限界に達し、レオンハルト目掛けて下痢便を轟音と共にぶっかけたのじゃ! 噴水のように肛門から飛び出す激臭い下痢便で糞塗れになったレオンハルトの驚いた顔。プークスクスクス、思い出したら笑える』
「いやぁ~~~ん!!」
「おい、オッサン! 言うなって言っただろう!」
エヴァリーナは顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏し、ぷるぷると震えている。レオンハルトは手を額に当てて「ああ~」と唸っている。二人を結びつけたのが下痢便噴出行為と聞いて、その場の全員が大爆笑し始め、笑いが中々止まらない。フィーアとユーリカはヒィヒィ笑いながら話した。
「アハハハハ! 二人を、結びつけたのが、下痢便って! ないない、ないですわ~」
「キャハハハッ、笑いすぎてお腹痛い…。どういうシチュエーションなの!?」
「運命の赤い糸ならぬ、運命の臭い汁ってとこですか?」
「アハハハハハ! リースちゃん上手い。座布団1枚!」
『じゃが、その後はいい話じゃぞ』
好きな人に対して醜態をさらし、落ち込んで泣きじゃくるエヴァリーナにレオンハルトは仲間を守るために無理をさせ過ぎたと謝罪し、個性的なメンバーをまとめ、健気に頑張る姿に、いつしか自分も好きになっていたと告白し、エヴァリーナの心を救って相思相愛になったのだと話して聞かせた。後半はとても良い話なハズなのに、そこに至る経緯(下痢便)のインパクトが強烈すぎて、誰の頭にも入らないのであった。
「ふぇええ~ん! もうやめてぇ~」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやー、清楚な美人女性の代表みたいなエヴァリーナ様にも色々な過去がおありだったんですね。レオンハルトさんとどうして結婚したのか不思議だったのですけど、これで納得しました」
「そうそう。しかし、熊殺しとか、ミセス下痢便とか、常人じゃ得られない称号です」
「うう…、もう許して…」
「エドモンズのオッサン。帝都に帰ったらユウキちゃんとマーガレット様に報告させてもらうからな!」
『ゲッ…。わ、儂、ロディニアに永住しようかな…』
「帰ってください(笑)」(フェーリス&フィーア&ユーリカ)
エヴァリーナの恥ずかしい思い出話というイベントがあったものの、フェーリスたちとの会話は盛り上がっていた。室内に響く明るい笑いがこれからのロディニア王国とカルディア帝国の関係を示唆させ、明るい未来を予感させる。
そんな中、何やら二人で話をしていたリースとニーナがエドモンズ三世に話しかけてきた。
「エドモンズさん」
『なんじゃな、巨乳っ娘ちゃん』
「あの…私たちも従魔が欲しいです。BBQで出会った、アルヘナちゃんやカストル君、とても楽しそうで羨ましかったなぁって。凄く深い関係で結ばれていたみたいですし。それに、ルミエルさんを見ていたら羨ましくなっちゃって」(リース)
「わたしも…。魔術師として従魔契約は一度は成功させてみたい高難易度の魔法だし、何より、もっとお友達が欲しい(切実)」(ニーナ)
『ふーむ。そうじゃのう…』
『エドちゃん、リースちゃんは吾輩と一緒にデート(黒大丸で遠乗り)してくれたり、たくさん話し相手になってくれた。ロリ巨乳美少女とデートするという吾輩の夢を叶えてくれた優しい娘だ。吾輩からもお願いする、リースちゃんの願いを叶えてはくれまいか』
『ヴォルフがそこまで言うのも珍しいのう。ニーナも我が暗黒魔法で全裸にして巨乳を拝ませて貰ったからお詫びも必要か。わかった、従魔召喚してみよう!』
「やったー!」(リース&ニーナ)
「あの、エドモンズ様。大丈夫なんですの?」(エヴァリーナ)
『大丈夫大丈夫。万事、儂に任せるがよい。なんせ、儂はアークデーモンを召喚してアルヘナちゃんの従魔にした実績があるからの』
「アルヘナさんは可愛い女の子の精霊を希望したのに、出て来たのがアークデーモンだったと聞きましたけど…」
『細かいことは気にしなーい! そうじゃ、折角じゃからフェーちゃんにも従魔をプレゼントしようかの。最高に頼りになるヤツを』
「えー。私はいいです」
『そう言わんと。この国では大分お世話になったし、儂らからの感謝の気持ちとして受け取ってくれると有難い』
「ド変態の双璧は迷惑しかかけてなかったじゃない。でも…、う~ん…。そこまで言うのならいただこうかな。私も女王だし、従魔がいた方が箔が付くかも。それに、メンドクサイ仕事を押し付けるのこともできるか…。うん! エドモンズさん、私にも従魔をください!」
「どうなっても知りませんわよ」(エヴァリーナ)
「絶対ろくな結果にならないと思う」(フィーア&ユーリカ)
「フェーリス、嬉しそうだ(ああは言ってるが、エドモンズ様たちが帰ると知って、寂しくなって部屋で泣いてたのは知ってるぞ。まったく、素直じゃないな)」(レウルス)
『よーし! 今から従魔召喚大会の始まりじゃあ!!』
エドモンズ三世は1冊の本をチュニックのポケットから取り出した。その本は非常に古びており、表紙は古代文字でタイトルが書かれている。しかし、未知の文字で書かれており、誰も何の本かわからなかったが、エヴァリーナとレオンハルトは気づいた。あれは間違いなく、アースガルドのプレートに記された文字と同じもの。だとすれば、絶対にマトモな物ではない。
「本当に大丈夫なのかしら」
「オレはどうなっても知らないからな」
ヴォルフとルピナスの拍手に送られて、エドモンズ三世はウキウキと準備を始めた。その様子を眺めながらエヴァリーナは不安だけが高まってきた。そして、その懸念は現実のものとなる。だが、今の彼女にはその事を知る由もなかった。




