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エヴァリーナのロディニア追憶の旅⑨

 エヴァリーナとレオンハルトは、自然の洞穴を利用した地下迷宮の中を歩いていた。先に進むは迷宮の主、「リッチー」のバルコム。迷宮の通路は所々にろうそくが灯されているため薄明るい。ちなみに、カロリーナはスピカとミラを連れてイソマルト村に食料の買い出しに出掛けている(バルコムに転送してもらった)。


 どの位歩いているのだろうか、暗い単調な世界では時間の感覚が失われてしまう。しかし、足の疲労がピークに達していることから、少なくても2時間程度は歩いているものと思われた。まだ歩くのかな…とエヴァリーナが思い始めた時、不意にバルコムの歩みが止まった。


『ここだ』

「ここは?」

『ユウキがこの世界に来た当初、幼き頃使っていた部屋だ』


 バルコムは洞穴に拵えてある古びた板張りの戸を押し開けて中に入るように促した。部屋は6畳ほど(約18㎡)の広さで、中にはベッドがひとつのほか、木製の机と椅子が壁に向かって置かれているだけの部屋だった。当然地下深くにあるため、窓ひとつなく、明かりは小さなロウソクがひとつだけの薄暗くて小さな部屋。貴族の大きなお屋敷の、豪華な調度品で飾られた明るい部屋に慣れているエヴァリーナには酷く殺風景に見えた。


「寂しいお部屋ですわね…」


 エヴァリーナは机の上に何冊かの絵本があるのに気付いた。手に取った瞬間、埃が舞い上がり、長年使われていなかった事がわかる。パラパラとページをめくると、色々な動物の家族が楽しそうに食卓を囲んだり、様々な場所で遊んだりしていて、見ているだけで楽しくなるような内容だった。


『その本は、この世界に来たばかりのユウキが、文字や言葉を覚えるために読んでいたものだ。その頃のユウキは禁呪の影響でほとんどベッドに寝たきりだったからな。儂が与える本だけが唯一の楽しみだった』


(この部屋で一人寝たきり…。日の光も差さない、時間の感覚さえ分からないこの部屋で…。どんなに寂しかったのでしょうか。私だったら絶対に耐えられないと思います…)


『姉を失い、頼る者がいなくなったユウキを不憫に思った儂は、3体のアンデッドを召喚して世話をさせることにした。ユウキはアンデッドにマヤ、助さん、格さんと名付けてな、話し相手ができたと、それはもう喜んだものだ』


「その頃からマヤちゃんは、ユウキちゃんを妹のように可愛がっていたのか?」

『いや、儂が呼び出した当初は言葉も話せず、命令されたことを実行するだけの人形のような存在だった』

「でも、ロディニアで紹介されたマヤちゃんは、全く人間と変わりない喜怒哀楽があって、思いやりがあり、ユウキちゃんだけじゃなく、その友人たちもとても可愛がっていたけど」

『それは、ユウキがアンデッドたちを家族のように大切に思って接してきたからだ。ユウキの思いがアンデッドに心を与えた。儂ですら出来ないことを、あの子はやってのけた。あの子は不思議な子だ。あの差別区別無く、万人に等しく向けられる優しさは、きっと天性のものなのだろうな』


(エドモンズ様やヴォルフ様に対しても家族のように接するのは、幼いころの下地があったからなのですね。アンデッドは忌み嫌われる存在。ユウキさんだけが彼らを受け入れ、信頼を寄せた。その結果、彼らも人の世界で生きる楽しさを覚えた。不思議な気がします)


「あの…、よかったら、その頃のユウキさんのお話を、もっとたくさん聞かせていただけないでしょうか」

『よかろう。その代わりとは言っては何だが、今のユウキについて教えて貰えたら有難い』


 バルコムは二人をテーブルと椅子のある別室に案内した。召使のメイドゾンビ(美少女)がテーブルに紅茶を置いた。バルコムはメイドゾンビを下がらせると、ユウキとノゾミの異世界転移、体を移し替える禁呪の行使、迷宮を出てからの台地の家での生活など、14歳を前にして王都へ送り出す前の事を話すのだった。


(ユウキさんの幼い頃の話は誰も知らない、本人も語らない完全なブラックボックスです。それを知ることができたのは僥倖でした。ですが、ユウキさんの人生は何て過酷なんでしょう。だからこそ、今の幸せが一層輝くのでしょうね…)


 ユウキの生き様に思いを馳せていたエヴァリーナにバルコムは、ユウキは今なにをしているのか聞いてきた。


「邪龍戦争の後、帝国皇太子のミュラー様とご結婚なされたのは御存じですか?」

『ああ。カロリーナから聞いて知っておる』


「ユウキ様は日々楽しく幸せ一杯に過ごされておられますわ。帝国を世界を救ったヒロインとして、皇室や帝国貴族のみならず、全ての国民に愛されてますわ。皇太子ミュラー様もユウキ様をとても大切にしておられます。時々アホな真似をして怒られてますが。それに、とても喜ばしい事があるのですよ」


『喜ばしい事?』

「ええ。ユウキ様はご懐妊なされております。ええと、私が帝国を出るときが6か月だったから、今は7か月目に入りました。今からどんな可愛らしいお子が生まれるか、皆で楽しみにしているんですのよ」


『……………』

「ん? どうかされました?」

『…ううっ』

「バルコム様?」


『うぉおおおおおッ! ユウキが、ユウキが懐妊しただと! ユウキに、あの小さかったユウキに赤子が…。儂はユウキを生かすため、ノゾミの願いだからと禁呪でユウキの体を女子にした。だが、本当にそれで良かったのか、あの子は幸せになれるのだろうかとずっと悩んでおった』

『暗黒の魔女と化したと聞いて後悔し、あの子が苦しんでいるときに手を差し伸べてあげられなんだ事を恥じた。ミュラー殿と想いを通じ合った時でさえ、不安は消えなかった…』


「バルコム様…」


『だが、エヴァリーナ殿。お主の話を聞いて、ようやく儂の心の枷が外れた様な気がする。ユウキは真の幸せを掴んだのだな。お主もようユウキを支えてくれた。感謝するぞ。そうだ、こうしてはおれん。ユウキの元に馳せ参じなければ。赤子の顔を見なくてはいかん! 儂にとって初孫だからな。初孫…なんと甘美な響きよ!!』


「ちょっとちょっと、落ち着いて下さいまし!」

「究極のアンデッド、リッチーが慌てふためいている姿。一生の思い出になるな」


『これが落ち着いて居られるか! ユウキにおめでとうを伝えねば、死んでも死に切れぬわ!』

「バルコム様は、もう死んでおられます! 赤ちゃんがお生まれになるのは、まだ2か月以上先ですわ。それに、いきなり帝都にリッチーが現れたらパニックになります。エドモンズ様の比じゃありません!」


『そうか…。そうだな、儂としたことが…』


 しょぼんとするバルコムが不憫に感じたエヴァリーナは、思案の末ひとつの提案をした。それは、何らかの連絡手段を教えていただければ、赤ちゃんが生まれたことを知らせること。混乱が生じないよう段取りをするので、その上でユウキを訪問してほしいと話した。


『うむ…年甲斐もなく、狼狽してしまった。恥ずかしい姿を見せてしまったな。この指輪を渡そう。魔力を通して話しかければ、儂と通話ができる。エヴァリーナ殿、万事よろしく頼む』

「はい。確かにお預かりしましたわ。あの、バルコム様は年甲斐もなくとおっしゃいましたが、年齢を教えていただけますか? すみません、興味がありまして」

「エドモンズさんとヴォルフさんは、それぞれ300歳と言ってたな。それよりは上か?」


『ふむ…。儂の事を知りたいか。よかろう』


 バルコムは、元々ロディニア大陸にあった街の教会に所属する大司教であったが、教会の仕事より魔法の研究に興味があり、研究をしているうちに古代魔法文明が生み出した魔術は自然の理さえ大きく変え、気候や大地を自在に操り、物に命を与え、生きとし生けるもの全ての畏怖を集めるものであった事を知った。しかし、文明が滅ぶと同時に魔法の知識、技術は失われ、魔法は生活に利用できるだけの小さな現象を発現させるだけのものになっていた。


『儂は魔法の研究に没頭したが、如何せん人の体では寿命という限界が訪れる。しかしある時、儂は教会の奥深くに封印された部屋を見つけた。封印を解除しその中に踏み込むと一冊の本を見つけた。それは様々な禁忌が記された、決して人の目に触れさせてはいけない禁書であった。儂は躊躇なく本を開いた。そこには様々な恐ろしい秘術が記されていたが、その中に自らを不死化するものもあったのだ。儂は歓喜し、不死化の魔法を使い、アンデッド「リッチー」となったのだ。そして、この体になって1,000年以上になる』


『ユウキに姉の体を移した魔法も「生物融合」という禁書に記された禁呪法なのだ』


「凄いお話でした。驚きすぎて声も出ません…。正に人に歴史あり、ですわ」

「オレたちには想像もつかないような長い時間を過ごしてきたのか…。でも、そんな人を超越したお方が、初孫と慌てる姿は人間臭くて面白かったな」

『そう言わんでくれ』


 バルコムの照れる姿が意外で面白く、迷宮の奥に久しぶりに人の笑い声が響いたのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「暇だわね」

「そうですね」


 イソマルト村での買い出しを終え、転移の巻物を使ってユウキの家に帰ってきたカロリーナたちは、何をするともなく、エヴァリーナたちが戻るのを待っていた。テーブルに置かれた茶菓子に手を伸ばしたカロリーナはもう何度も暇を口にしては、退屈そうにしていた。


『なんじゃ、退屈そうじゃの』


 少し離れた場所でヴォルフと何か作業をしていたエドモンズ三世が声をかけてきた。


「ちょっとね。エヴァたち早く戻ってこないかな」

「散策も飽きました。景色以外見るところないですし。ルピナスちゃんは裏の花畑で楽しそうに遊んでますけど」

「5年もここに住んでいたユウキ様、凄いです。あたしなら3日で飽きちゃう」


『なら、儂が楽しくしてやろうではないか』

「いらない。絶対に碌でもないに違いないもん」


『ウワハハハハ! 絶対に楽しくなるって。この亜人の巨乳ビッグバストちゃんに、我が秘奥義ワイト・サーチの真髄、お見せしようぞ!』


「ダメよ! 止めなさい!」

「えっ? なに、なにが起ころうとしてるの?」


「エドモンズさん、止めないと酷い目に会わすわよ!」

『酷い目ってなんじゃらほーい。バーカバーカ、残念貧乳のカロちゃんには、こうじゃ! お尻ぺんぺーん!』

「きゃあ! なにすんのよ! もう怒った。極光オーロラこのド変態を成敗して!」


 きょとんとするスピカとミラを守るため、必死に抵抗するカロリーナだったが、多勢に無勢、ド変態の双璧に成す術なく翻弄され、最近肉付きがよくなった尻をぺんぺん叩かれた。本気で怒ったカロリーナは持参していた神剣「極光オーロラ」を呼ぶが…。


「…………。あれ? 極光オーロラ? おーい」


 何度呼んでも来ない。


『くすくすくすっ。どーしたのかなぁ♡』

極光オーロラ、どうして来ないの!」

『無駄だ。これを見よ、貧乳娘カロリーナ

「あっ!?」

『ウワーッハハハハハハ! 百戦錬磨の吾輩たちに抜かりなし!』


 ヴォルフが見せてきたのは、鎖でガチガチに縛られた極光オーロラだった。いかな極光でもこれでは鞘から抜け出せない。勝ち誇ったように高笑いするド変態の双璧が憎たらしい。


「くっ! スピカ、ミラ、逃げて!」

「えっと…。よくわからないけど、はい!」

『遅いわ! 光れ、全てを見透かす聖なる視線、ワイト・サーチッ!!』


 エドモンズ三世がスピカとミラの前に立ちふさがり、ワイト・サーチを発動させた。眼窩の奥が眩しく光り、二人は手で顔を覆った。


「きゃあ! 何が起こったの!?」(スピカ&ミラ)

『フハハハハハハ! 見える、見えるぞお主らの露わな姿が。うっひょー、これは中々…。さて、お前からじゃ』


「わたし?」(スピカ)


『うむ。スピカ・パース、20歳。B90W62H86。中々のナイスバディじゃ。乳輪色は薄茶。陰毛は濃いめだがお手入れは欠かさずに手入れが行き届いておる。合格じゃ』

『おおっ、お主男性経験18人か! 中々の強者つわものじゃの。性感帯は乳頭と両のわき腹。そこを責められると、あっという間にアソコが線状降水帯っと。お股のラインだけに』


「きゃああっ! な、なぜそれを~」(スピカ)

「やだ。スピカさん、えっち!」(ミラ)

「そう言っていられるのも今のうちよ。ミラさん…」(カロリーナ)


『現在彼氏無し。好きな男のタイプは細マッチョ。筋肉質の体に抱かれると、それだけでお腹の奥が熱くなって濡れてきちゃう真正のエロっ娘。SEXスタイルはハードプレイ系。顔に似合わず、激しく責められるのが好みっと。好みの男が現れた場合、まず体の相性を確かめるタイプ。なるほど、それで経験人数が多めなのじゃな。中々に見どころあるぞお主。さしずめ性戦士エロバインってとこじゃな』


「ふぇええん。やめてぇ~。いいじゃない、プレイスタイルと体の相性は大切なのよぉ~」(スピカ)

「線状降水帯とかエロバインとか、よくもまあ色々なワードを思いつくわね。そういえば、私もユウキの事、超乳力者とか学園サッキュバスとか言ってたっけ。人の事言えないか…。ってか、もう止めたげなさいよ!」(カロリーナ)


『ほう、趣味は体と精神のエロさに反比例してフラワーアレジメントか。ユウキの部屋が華やかなのはお主のお陰なのだな。アルフィーネたちともお花繋がりで仲が良い。エロと清楚のギャップが中々良いぞ。儂の新たな性癖が励起しそうじゃ。清楚系ハードエロ巨乳美少女。うむ、よい、よいぞ。ウワーッハハハハ!』


『ワハハハハ! スピカよ、お主がロリ成分を持っていたら吾輩、即求婚するところだ!』

『いやいや堪能させてもらったぞ、スピカ。ユウキがいたらとてもここまで女子の深層心理を暴けなかったところじゃ。あやつは肝心な所で邪魔をするからの。さて次は…』


「えっ、もしかして、あたしも!?」

『ウワーッハハハハハ! ミラ・ケートス、年齢18歳。B88W60H85。こりゃまたむしゃぶりつきたくなるような、ワガママボディちゃんよのう。そう思わんか、カロリーナ』


「思わないわよ! 私はスレンダーボディに誇りを持ってるの!」

『まあまあ、悔しいのは判るが落ち着くのだ、カロリーメイト』(ヴォルフ)

「カロリーメイト違う、カロリーナ! それに全然悔しくないし!」


『マイペースで、周囲とズレた言動をしちゃったりする「不思議ちゃん」。巨乳美少女で不思議系という、その手の性癖がぶっ刺さる皇太子宮の男性職員や警備隊員から秘かな人気を得ている。家で秘密ペット「げじげじ」を5匹飼っており、全てに名前を付けて可愛がっているが、餌(虫)の採取や飼育箱の管理は全て弟に丸投げ…。ちょっと、酷いんじゃない?』


『他人(男)にあまり関心を持たず、無頓着を装っているが、エッチな事には人一倍興味津々。でも、純情系不思議ちゃんだから、男女の実践までには至れないってか! ワーハハハハ!』

『スピカよ、こやつのベッド下には大量のエロ画、それもお主好みのマニアック・ハードプレイ系が多量に隠されておる! また、部屋に置かれた秘密宝箱には、ユウキから譲り受けた超絶ボンテージ超エロファッションが何着も保管されており、それを着用してはイケナイ妄想に耽って、自らの秘裂を刺激しては快感に打ち震えておるのじゃ!』


「きゃあああーっ! エロ画なんて持ってないし、一人エッチなんてしてないからぁ!」 

「もう、いい加減にしなさい!」(カロリーナ)

『ミラよ、帝都に戻ったら、吾輩にこっそり見せてはくれまいか』


『あと、げじげじに気になる男性の名前を付けておるの。ご披露しちゃおうかなーっと』

「ちょちょちょーっと待ったぁ! ダメダメ、言わないで。ふぇえええん!!」


 ミラはエドモンズ三世に飛び掛かって口を塞ごうとするが、変態ヴォルフが疾風のごとく動き、背後から羽交い絞めにして止めた。ペット(げじげじ)に付けた名前が知れたら社会的に終わってしまう。ミラは必死に抵抗するがデュラハンのパワーに抗えるハズもない。その間にカロリーナは神剣「極光」に巻かれた鎖を外そうとするが、ガチガチに巻かれていて外すのが一苦労。


「いやぁああああっ!!」

『ぐへへへへ…』


 ミラが絶叫してエドモンズ三世が不気味な笑いを発した時、家の入口扉がバタンと音を立てて開いて、中に鋭い声が響き渡った。


「一体、何をしているんですか!!」

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