表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

575/620

エヴァリーナのロディニア追憶の旅⑥

「カロリーナ君ではないか!?」

「ユウキの結婚式以来ですね。伯爵もお元気そうで何よりです」

「一体誰かと思えば…。いや、驚いた」

「ふふっ。スミマセン」


 フォンス伯爵はカロリーナたちにソファに座るよう促し、対面に自分も座った。そして、改めてカロリーナの両隣に座った人物を見た。


「そちらの方々は…もしかして、最近王宮に出入りして、フェーリス様の評判を変な方向に捻じ曲げていると噂の…」

「ぷふっ。はい、ユウキの眷属さんたちです」


『お初にお目にかかるフォンス伯爵殿。儂はワイトキングのエドモンズ三世。今を遡ること300年前、イザヴェル王国の基礎を築いた賢王とは儂の事よ。今は思春期巨乳美少女の守護者と自負し、この世に君臨しておる』


 ちなみに、エドモンズ三世の衣装は魔法少女のままだ。最悪最凶の死霊の王と呼ばれるワイトキングのコスプレに、常に冷静沈着なフォンス伯爵もどう反応したらよいのか戸惑っている。


 次に自己紹介を始めたのはド変態の双璧の片割れヴォルフ。デュラハンスタイルから、短髪白髪頭でやや痩せ気味で口髭を生やした精悍な顔つき。左の眉上から頬にかけて目立つ刀傷を持った、歴戦の戦士風ちょい悪スケベ親父系人間形態に変化して偉そうに座っている。


『吾輩は、エドちゃん…。いや、エドモンズ殿と同時期に生きていた者。ラファール魔族国第十三代国王であったヴォルフと申す。吾輩はアンデッド・デュラハンとして活動しているのだが、真の姿はこのような高位不死体なのだ。縁あってユウキと知り合い眷属として従っている。ちなみに、好みはツンデレ系ロリ巨乳美少女一択なり! それ以外は吾輩の嫁として認めぬわ!!』


「すみません、伯爵様。こいつらは本当にどうしようもなくて…。ユウキも苦労しているんです。でも、こんな感じなので帝国では観光名物と化して、凄い人気者なんですよ」

「ああ、うむ。わかる気がするな。で、そちらのお嬢さんは?」

「ルピナスちゃんです。本当の姿を見てもらえば早いかな」


 ルピナスはソファから立ち上がると応接室のテーブルから離れて変身した。現れたのは幻の中の幻と言われる植物系魔物のアルラウネ。その中でも特に希少なハイ・アルラウネだった。フォンス伯爵は、間近で見るルピナスのあまりの美しさに驚いた。


『こんにちは、伯爵様。ルピナスだよ。見てのとおりアルラウネなの。仲良くしてね♡』

「こちらこそ。城に登城した時、庭園にいたのを遠目では見ていたが、改めて側で見ると神々しいまでに美しいな。ルピナスさんか…。見ているだけで心が癒されるようだ」

『えへっ。いっぱい褒めてもらって嬉しいな』


 カロリーナは、フェーリス新国王の戴冠式に帝国皇太子夫妻の代理としてこの国に来た帝国宰相令嬢夫妻に同行してきたこと。ユウキから伯爵宛に手紙を預かってきたこと。この国に来ていたユウキの眷属を伯爵に会わせたかったことを話すと、託された手紙を渡した。伯爵は手紙をゆっくり時間をかけて読むと、感慨深く頷いた。


「そうか…。ユウキ君はお子が授かったのだな。手紙の中から幸せな日々を送っていることが、ひしひしと感じられる。本当に良かった。ちなみに、カロリーナ君は結婚はまだなのか?」

「えっ!? はい、まだです。ですが、恋人がハウメアーにいますので、一緒に帝国に行って結婚式をあげようと考えてます」

「それなら良かった。ユウキ君もだが、君にも幸せになってもらいたいと私は思っているからね。招待状が来るのを待っているよ」

「ありがとうございます。伯爵様」


 一通りカロリーナと伯爵の話が終わったところで、エドモンズ三世がユウキと伯爵の関係について聞いてきた。


『伯爵、ユウキはお主を深く信頼していると聞いておる。お主とはどのような関係だったのじゃ? 話していただければ有難いのじゃが…』

「そうですな…。あまり良い話ではないのですが、ユウキ君の眷属たるあなた方には知る権利がある。少々長くなりますが、お話ししましょう」


 フォンス伯爵は静かに語りだした。自分には一人息子がいたが、早くに妻を亡くしたこともあって、不自由なく自由気儘に育てた結果、悪党と化してしまったこと。息子は美少女として有名だったユウキをモノにしようと画策し、手に入らないと知って最後は命を狙って失敗したこと。幽閉されてもなお復讐に執念を燃やす息子に、ロディニア王家の内部闘争を利用してユウキと決着をつけさせようとしたこと。そして、ユウキに息子を殺し、魂を解放してくれるよう頭を下げて頼んだことを話した。


「…極めて自分勝手な思いから彼女には無理難題を押し付けてしまった。しかし、ユウキ君は私の願いを叶えてくれた。息子は最後の最後で人の愛というものを知り、満足して死んだ。その死に様を聞かされた時、私は深く感銘を受けた。バカで愚かな息子でも私には大切な息子だった。ユウキ君は息子だけでない、私の魂も救ってくれたのだ。それ以来だ。ユウキ君を気にかけるようになったのは…」


『そんな経緯いきさつがあったのか…』(ヴォルフ)

『ユウキのロディニア時代は断片的にしかわからないからな。フェーちゃんやフィーアたちも知らないことが多くある。それが分かっただけで、ここに来た甲斐があったというものじゃ』(エド)


「伯爵様は迫害され、王国の敵となり、人々の憎しみを買った私たちを、この国で唯一信じてくださったお方なの。王国軍や友人たちの追撃から命からがら逃げ延び、さ迷っていた私たちを見つけて匿って下さった。それだけじゃない、ユウキが南の大陸に行くための手助けをしてくれたし、大怪我をした私の治療をずっと支援して下さった。ユウキも私も伯爵様には頭が上がらないのよ」


『いい人なんだね。ルピナス、感動しちゃった』

「…私はいい人なんかでは無い。だが、ありがとうルピナスさん。少し救われた気がする」

『えへへ♡』


「今度はこちらから伺ってもよろしいか?」

『なんなりと』

「貴殿らとユウキ君が知り合った経緯をお聞かせ願いたい」


 エドモンズ三世らは順番にユウキとの出会いと、今まで経験してきた冒険の数々を伯爵に話して聞かせた。伯爵家の応接室は夜が更け月が天頂まで動いてもなお、眷属たちの話声が収まる気配は無かった。


『もう夜が遅い。儂らは失敬するとしようぞ』

『伯爵殿。貴殿との話は楽しかった。機会があれば、また語り合おうではないか』

『お庭のお花たちもカワイイね。今度遊びに来てもいい?』


「いつでもお待ちしています。では、お気をつけて…とは、余計なお世話でしたかな」

「私はしばらく伯爵様のお屋敷に泊めてもらうわ。戴冠式の会場で会いましょう。あと、もう夜更けなのだから、道行く人を脅かしちゃダメだからね! ただでさえ不気味なアンデッドなんだから。それから、ちゃんとルピナスちゃんを守りなさいよ!」


『へいへい。わかりましたよーだ』

「ホントにわかっているの?」


 ルピナスを真ん中に挟んで魔法少女ドレス姿のワイトキングとデュラハン(ちょい悪からモードチェンジ)が闇の中に消えて行った。早くも人の悲鳴がいくつか聞こえたような気がしたが、カロリーナは気にしないことにした。


「さて、話の続きは明日にして、我々も休むとしよう」

「はい、伯爵様」


 残された二人も屋敷の中に入った。明日はゆっくりと伯爵とユウキの話をしよう。カロリーナは宛がわれた部屋のベッドに入り、そんな事を思いながら眠りにつくのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 エヴァリーナたちがロディニア市に来て3日目が過ぎた。その間、市内観光も済ませ、戴冠式出席に向けた準備も整えた。そして、いよいよ戴冠式の当日が来た。天気は雲ひとつない晴れの日で幸先が良い。朝からポンポンと花火が打ち上がり、大通りの商店街では新国王就任を祝ってお祭りが盛大に開催されており、大勢の市民や戴冠式に併せて訪れた観光客で賑わっている。


 エヴァリーナは朝早くにホテルに併設されている美容院で髪を整えてもらい、自室でスピカとミラによって、メイクを丁寧に施された後、最上級の帝国産シルクで作られたドレスに着替えた。今は大きな姿見で自分の姿をチェックしている。


 鏡で自分の姿を見ていると、スピカとミラが近づいて来て、アップにした髪に希少な白金細工(赤と青色の宝石付き)の髪飾りと、金のチェーンに大きな金剛石ダイアモンドが付いたネックレスを装着した。さらに、美しいエメラルドとサファイアで飾られた腕輪、ダイアモンドの指輪と帝国貴族として恥ずかしくない、それでいて主賓のフェーリス女王より控えめにした装飾品で飾った。


(よっしゃ! 私だって帝国貴族界随一の美女と言われた女。ユウキさんとはいかないまでも中々に素敵ではないですか! パッドで盛った胸もバランス良いです)


 準備が終わって少し待っていると、レオンハルトが同行者を連れてやってきた。


「準備できたか?」

「はい。できましたわ」


 レオンハルトは帝国軍親衛隊の肩章付き礼服を着用している。軍服姿の夫がものすごく格好良く、思わず惚れ直すエヴァリーナだった。

 同行者はメイドのスピカとミラ。2人とも普段用ではなく、濃い紫色を基調とした皇太子宮専用上級メイド服を着用している。膝上ミニスカから伸びる健康的な足は美しく、大きく開いた胸元から覗く巨乳の谷間が男たち(特にレオンハルト)の視線を釘付けにする。また、頭に乗せたレースのメイドカチューシャとケモ耳が超ラブリー。

 その他は燕尾服に蝶ネクタイ姿のセバスチャン、帝国陸軍服姿のロウ上等兵とガイ一等兵といった布陣だ。


 ホテルのロビーでは既にイザヴェル王国のジョゼット王女が迎えの馬車を待っていた。ジョゼットもまた随所に宝石を散りばめた美しいドレス、銀のティアラにスクルド産大粒真珠のネックレスを身に着け、さすが一国の王女に相応しい身なりをしている。

 エヴァリーナとジョゼットは、挨拶を交わしてお互いの衣装を褒め合っていると、ホテルの従業員が馬車の到着を知らせて来た。エヴァリーナは一瞬、またあのリースデザインの地獄馬車が来たかと恐怖したが、さすがに送迎用は普通の馬車で安堵した。


「では、お先に行きますね」

「はい。また王宮で」


 先にジョゼット王女が随行の執事やメイドを連れて馬車に乗り込み出発した。続いてすぐにエヴァリーナたちの乗る馬車が到着する。セバスチャンが恭しく馬車の扉を開け、レオンハルトが先に乗り込むと、エヴァリーナの手を取って馬車に乗せた。続いて荷物鞄を持ったスピカとミラ、2人の護衛、最後にセバスチャンが乗り、御者に出発の合図をした。


 ホテルを出て約20分ほどでロディニア王宮に到着した。帝国の宮殿に比べると規模は小さいが、それでもロディニア大陸では随一の規模だという。城壁の王宮の美しさと、城壁を排したオープンさがエヴァリーナの興味を引いた。


「戦争前は高い城壁で囲まれていたんだがな。随分と変わっちまったぜ」

「そうなのですか? きっと、レウルス様のご配慮なのでしょうね。あの方は王室と国民の交流に随分と力を入れられていましたから」

「その最終形態がフェーリス王女を国のトップに据えることだったんだな」

「ふふっ。北の「女ミュラー」の誕生ですわ」

「ははっ。違いねぇ」


 馬車は門を通って敷地に入った。王宮に続く広い舗装された通路を馬車はゆっくりと進む。通路の両側には色とりどりの花が咲いた花壇が広がっている。レオンハルトはその花壇の中に異質なものを発見した。


「おい、アレ見てみろよ!」

「え? なんです…かって、ぶふっ…、あははははっ!」


 エヴァリーナは窓の外を見て吹き出してしまった。スピカとミラも下を向いて笑いを堪えている。彼らが見たものは…。


『みなさん、いらっしゃぁ~い♡』


「歓迎♡」と書かれた横断幕を掲げた超エロ極小ビキニ姿のルピナス(人間形態)と同じくビキニ姿のエドモンズ三世がにこやかに手を振っている。不気味骸骨のスカスカボディにビキニ姿は非常に滑稽で、時折見せるセクシーポーズが来場者の笑いを誘う。

 さらに、その隣ではピッチピチの女子小学生用体操着とブルマを履いたヴォルフ(ちょい悪オヤジ形態)を真ん中にして、同じく小さめの体操着を着て、お胸を強調させたリース、ニーナ、ルミエルと無理やり連れてこられた感全開のリオンが、組み体操の扇を形づくっていた。しかも、全員の胸に1~2文字ずつに分けて「welcome!」と書かれてる。


「わははは! やるなぁ、あいつら。よく城の警備が許可したなぁ」

「本当に。あの方々は自由ですわね~。リースさんもすっかりエドモンズ様たちに馴染んでしまわれて。彼女の将来が不安なりますわ。でも、とても楽しそうです」

「そうだな。だが、オッサンたちのお陰なのか、この国も明るくなった気がする」

「ふふっ。そうなっていたら良いですわね」


 エヴァリーナはレオンハルトと顔を見合わせて笑い合った。レウルスやフィーアが懸念していた、この国を覆っている閉塞感が解放されて帝国のような明るい国になってくれることが、そう遠くない未来であることを感じ取るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ