エヴァリーナのロディニア追憶の旅②
「まずは、エヴァとレオンハルトさんのお世話をお願いするメイドさん2名。どうぞ、お入りください」
ユウキの合図で入り口からメイド服の美少女が入ってきた。ユウキはニコニコと笑顔を浮かべながら二人を手招きして自分の前に立たせる。
「はい、自己紹介して」
「クライス家の皆様、お初にお目にかかります。私はスピカと申します。年齢は20歳で、ご覧の通り狐族の亜人です。精一杯勤めさせていただきます。よろしくお願いします」
「あ、あの…。あたしはミラと申します。年齢は18歳、狼族の亜人です。メイド経験は6か月の未熟者ですが、誠心誠意働きます。頑張ります。よろしくお願いします」
「この子たちは皇太子宮のメイドなの。よく気が利くし、何事もソツなくこなす凄く優秀な子たちだよ。エヴァのお役に立つ事間違いなし! ぜひ連れてってね」
「ええ。とても有難いですわ。スピカさん、ミラさん。よろしくお願いしますね」
エヴァリーナがにこっと笑って挨拶すると、メイドの二人は頬をポッと赤く染めて深々とお辞儀をするのであった。エヴァリーナの隣で観察していたレオンハルトとヴァルターはスピカとミラの胸に着目し、メイド服ではわかりにくいが、二人とも中々の巨乳であることを見抜くと、小さく頷き合った。一方、ミュラーは背後からスピカの巨乳の谷間を覗き見ており、気づいたユウキに足を踏まれ、くぐもった呻き声を上げた。
ミュラーに「あとでオシオキ!」と小声で言った後、ユウキは軽く咳払いをすると何故二人を選んだか理由を説明することにした。
「えー、オホン! 何で彼女らを選んだか理由をお教えします」
「あら、優秀だからではないのですか?」
「それもあるけど、理由はほかにもあるの」
「それは?」
「ラミディア大陸では人種差別がほとんどないよね。人も亜人も獣人も基本的には平等に生活している。でも、ロディニア大陸は違うの。人間至上主義というか、エルフやドワーフさん以外の亜人は人間に危害を及ぼす劣等民族として差別の対象になるの」
「ええ!? まさか。本当ですか、レオンハルト」
「ああ。残念ながら本当だ」
エヴァリーナの問い掛けにレオンハルトが肯定の言葉を返す。
「もちろん、ロディニア王家やわたしの友人たちは違うよ。でも、残念なことに多くの人はそうなんだ。だけど、今後の帝国との交流を考えた場合、人種差別は障害になるだけ。きっとフェーリス様やレウルス様もその点を何とかしたいと考えていると思うの。だから、世界最強のカルディア帝国の使者がスピカやミラを平等に扱う様子を見せれば、あの大陸の人々の空気が変わるきっかけになると思うのよ」
「なるほど…」
「それにスピカもミラもかなりの美少女でしょ。ロディニアの王都でも注目されると思うんだ。いい意味でね」
「確かに注目されそうですわね。お二人ともモデルさんみたいな美少女ですし、胸もかなり大きい…。我が夫や兄がガン見し続けてますもの。まったく…。レオンハルトには折檻が必要ですわね。お兄様はフランさんに告げ口します。覚えておくように」
「ゲッ…。バレてた」
「エヴァ、頼む。それだけはやめてくれ。あのBBQの後、1か月も口を聞いてくれなくて大変だったんだよ」
「でも、その間もカグヤの家に通ってたのを、オレは知ってるぜ。風のうわさじゃ、お前が泊まった日はカグヤの嬌声がうるさいらしいじゃねーか。このドスケベ!」
「レオンハルト! お前は余計なことを言うな!」
「お兄様、サイテーです!」
「バカだな。こいつら」
「ミュラーだって人の事言えないでしょ。スピカとミラのおっぱいの谷間ばっかりガン見しちゃってさ。言っとくけど、わたしの妊娠中に浮気したらマーガレット様にお願いして皇太子宮の正門前に逆さ磔にするから。そんで、アース君の5万ボルトの電撃攻撃とわさわさ側脚攻めにするんだからね!」
「すみませんでしたーッ!!」
ズザザッと速攻で土下座する帝国皇太子。その姿を見て皇太子のプライドはないのかとスピカとミラはドン引きした。そしてこう思った。
「だ、大丈夫なのかしら。私たち…」
絶対に大丈夫ではない。その予感は的中する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「次に、旅行期間中の護衛として、彼らを呼びました。どうぞ入って」
ユウキの許可を受け、屈強そうな帝国兵が8名、手足を揃え、一糸乱れぬ動きで行進しながら入室してきた。8名は1列に並んでビシッと敬礼する。エヴァリーナはどこかで見覚えがある顔だなと思った。そして気が付いた。
「ああーっ! あなた方はスクルドで私の護衛の任務をほっぽり投げた、ユウキさん親衛隊の皆さん!?」
「お久しぶりです、エヴァリーナ様! ハイデルン大尉であります!!」
『お久しぶりです!!』
「ど、どうしてあなたたちが…」
「我々、元帝国第11師団第7歩兵連隊第5大隊第1中隊第3小隊所属宰相家派遣部隊、通称「ユウキ様親衛隊」は、エヴァリーナ様の情け容赦ない告げ口によって宰相閣下の怒りを買い、年に10名も来ないような超絶僻地の国境守備に配置されておりましたが、この度、お優しくて超絶にエロいユウキ様のご厚意により、帝都に呼び戻され、名誉回復のためこの任に就くように仰せつかりました! 我々としては性悪根性曲がりで巨乳を妬むド貧乳はどーでもいいと思うのですが、敬愛するユウキ様のご命令でありますので、任務に精励したいと思っております! 全員、エヴァリーナ様に仕方なく敬礼!!」
「この野郎…。あなたたち、全然反省してないでしょう! 誰が性悪根性曲がりで巨乳を妬むド貧乳ですか、誰が。ぶっ飛ばしますわよ!!」
ビシッとあまりやる気のない敬礼をするハイデルン大尉たちと彼らに怒鳴りつけるエヴァリーナの様子に、スピカとミラの胸中は不安がどんどん渦巻くのだった。
「スピカさん、この任務辞退した方が良くないですか?」
「う~ん…。でも、基本給に追加される特別手当は魅力的だしねぇ。それに、憧れのユウキ様からのお願いだし。ま、何とかなるでしょ。ガンバロウよ」
「そうですかねぇ…。ああ、天国のおかあさん。ミラを見守っていてください」
「ミラのお母さん、まだ生きてるじゃない」
「そうでしたっけ?」
「そうでしたっけって…。昨日「お仕事頑張ってね」と差し入れ持ってきたじゃない。ユウキ様と私と3人で一緒に食べたでしょーが」
「そうでした」
「あなたねぇ…」
「これに似た光景、以前も見たような…。レオンハルト、大丈夫か? 顔が青いぞ」
「あ…ああ。大丈夫だ…」
「とてもそうは見えんがな。まあ、頑張ってくれ」
「ヴァルター、あのな…」
「分かっている。こいつらとは別に身の回りの世話をする優秀な使用人を数名同行させるつもりだ。何かあれば使用人を頼ってくれ」
「助かる。恩に着るよ」
絶対に安心できないメンバーを見て絶望感満載のレオンハルトとヴァルター。しかし、せっかくユウキが準備してくれたのだ。この行為を無下には出来ないし、メンバー的にもあのレアシル山脈攻略時に比べたら随分とマトモな方だ。レオンハルトは自分にそう言い聞かせ、無理やり自分を納得させたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「では、次にご紹介するのはこの方でーす。どうぞー」
「ごきげんよう、エヴァ、レオンハルトさん!」
入ってきたのはやや癖のあるセミロングの金髪を後ろで結び、白のレースで縁取られたマリンブルーのワンピースで着飾ったカロリーナだった。
「カロリーナさん!?」
「ええ。ユウキに頼まれたの。エヴァに同行してロディニアの案内をしてほしいって」
「エヴァはロディニアは始めてで不案内でしょう。わたしの知人に会うには、あの地に詳しい人が必要だろうと思ってカロリーナにお願いしたのよ」
「なるほど、確かにロディニアに詳しい方がおられると心強いですわ。よろしくお願いします、カロリーナさん」
「こちらこそよろしくね♡」
エヴァリーナとカロリーナはしっかりと握手した。そこにミュラーが「プププ」と手を口に当てながら笑って近づいた。
「良かったな、エヴァ。ド貧乳仲間がいて。巨乳メイドに挟まれたら惨めになるだけだもんな。プークスクス!」
『やかましいわ!!』
同時に二人の平手打ちがミュラーの頬を直撃した。「ばっちーん!」と肉を叩く衝撃音と共に両頬を圧迫され、プルプ(たこ)のような顔になる。皇太子の変顔がどうにも可笑しくて、スピカとミラは笑ってはいけないと思いつつも、笑いが抑えきれない。ミウはユウキの手前必死に笑いを堪えている。
頬を腫らしてリスのような顔になったミュラーに、妻をバカにされたレオンハルトが文句を言い始めた。脇でヴァルターが「バカかお前は」とか言っている。次期皇帝たる夫のアホらしさにユウキは心底情けなくなった。ユウキはため息をつくとキリっと顔を引き締めて、エヴァリーナにある恥ずかしい出来事を伝えた。
「あのねエヴァ、わたしも良く知らないんだけど、どうやらフォルトゥーナ様もロディニアに行きたいって駄々をこねたって話だよ。何でも宰相府の執務室でヴィルへルム様とイレーネ様の前で床に寝転んで泣き喚いたとか何とか…。それでも許可は下りなかったみたい。ただ、今後ロディニアと正式に交流が図られれば、政府関係者の派遣が行われる事になるだろうから、その時の派遣団長にすることでヴィルヘルム様も譲歩したらしいよ」
「ワハハハハハハ!!」
「くすくすくす…」
ミュラーとハイデルン大尉たちユウキ親衛隊が大爆笑し、巨乳メイドとカロリーナは俯いて声を殺して笑っている。しかし、エヴァリーナは母親の醜態に怒りを通り越して呆れていた。
「お母様ったら一体何をしてるんです? いい年こいて…。デパートのお菓子売り場で駄駄をこねる幼児でじゃあるまいし。全く恥ずかしい…。えっと、こんな時どう表現するんでしたっけ?」
「穴があったら入りたい」(ユウキ)
「そう、それです。私の今の心境は」(エヴァリーナ)
「オレは穴があったら挿れたいな」(ミュラー)
「やだぁ~、えっち!」(スピカ&ミラ)
「む? ミュラー。あなたもしかして浮気とか後ろめたい事してるんじゃないでしょうね」
「えっ!? ま、ままま、まさか浮気なんてして無いぜ。マジだから、ホントだから。オレは世界一清廉で真面目な漢だぜ。今のは冗談。インペリアル・ジョークってやつ(汗)」
「そう…。じゃあ、アルフィーネに頼んで帝都中の木や草花に、ミュラーの行動を聞いて貰っても大丈夫だね」
「げっ…」
「大丈夫だね」
「…………」
「どうして答えられないの? 何も無いなら堂々としてりゃいいじゃない」
ミュラーはだらだらと脂汗を流し、ズザザーッ!っとユウキの前に平伏した。
「奥方様! 平に、平にご容赦をっ! ついムラムラが我慢できず、レオンハルトとヴァルターの甘言に乗って、3人揃っておっぱいパブ「爆乳専科♡バインパイン」に赴き、発散してしまったのはひとえに私の失態にて御座います。しかしながら、ケモ耳美女の魔性の爆乳に贖えなかったのも事実。これに関しては申し開きなぞ致しませぬ。拙者、いかなる罰も甘んじて受ける所存。ただひたすらに謝罪を行うのみ!」
「で? 何回行ったの?」
「某は1度のみ。アルフィーネ殿にお聞きいただいても構いませぬ。ただ、レオンハルトとヴァルターは何度も行っているようで、会員カードのスタンプが一杯になっている由に御座います!」
「ミュラー! 裏切ったな、このデビルマン! 俺たちを道連れにすんじゃねぇ!!」
「ウルセェ! 帝国皇太子たる者、一人では死なん! いや、死ねぬのだ!」
「意味わかんねーよ!」
ミュラーを裏切り者呼ばわりし、怒号を飛ばすレオンハルトの背後に、顔に影を落としたエヴァリーナがスッと近づいた。
「レオンハルト、あなた…」
「えっ、エヴァ!? こっ、これはだな、あれだ、ヴァルター義兄様がどうしてもと…」
「ウソおっしゃい!!」
「大変申し訳ありませんでしたーッ!」
「貧乳が好きって言ってくれたのはウソだったのですか?」
「いや、その…」
「言えないのですか?」
「好きです! ド貧乳が大好きですーっ!!」
「では、何故「爆乳専科」なるお店に行ったのですか? 会員カードをお見せなさい!」
「は、はい…」
レオンハルトは観念したように財布の中から会員証を取り出し、エヴァリーナに手渡した。会員証裏面を見ると、マスいっぱいにスタンプが押してある。エヴァリーナの顔がみるみる険しくなって行く。怒る妻を前にしては、歴戦の雄であるレオンハルトも蛇に睨まれたカエルさん。ごくりとつばを飲み込んだ。
一方、隠れ巨乳好きのヴァルターの前に、予想もしていなかった人物が現れた。
「やっぱり。いつも帰りが遅いと思ったら、またそんな所に行って…。最近は全然フランを抱いてくれないし。ヴァルター様、本当は大きいおっぱいが好きなんだ…グスッ」
「フッ、フラン~ッ! どうしてここに!? いや、今はそんなことはどーでもいい。違うんだ、話を聞いてくれ!」
「グスッ…。何が違うの? 何回話を聞けばいいの? このスタンプ一杯の会員カードは何? マリィちゃんて誰? カグヤっていうオーグリスとも切れてないし」
「いや、それは…っていうか、ど、どこからそれ(会員カード)を…」
「秘書のイーリスさんが渡してくれたの。グスグスッ…」
「あの女狐…」
ロディニア王国新国王戴冠式の同行者紹介の場はミュラーの何気ない一言で一気に阿鼻叫喚の修羅場と化した。三人の怒れる鬼姫の前で世界最強たる帝国の次期皇帝、帝国宰相家の後継者、邪龍戦争の英雄の一人であり帝国親衛師団の中佐殿が揃いも揃って土下座して許しを請うており、情けない姿を曝け出している。この醜態に流石の「ロディニアの面白娘」の異名を持つカロリーナもドン引きし、派遣メイドのスピカとミラは軽蔑の眼差しで妻から怒鳴られている漢どもを見つめ、乾いた笑みを浮かべて首を振った。
「さーて、この場はまだ収まりそうもないし、皆で顔合わせも兼ねたお茶会でもしない? スピカさんとミラさんにロディニアの話をしてあげるわ」
「わあ、嬉しいです。たっぷりお話を聞かせてくださいね!」
「私たちお茶の準備を致します!」
カロリーナの提案で、スピカたちはお茶会をすることにして広間を出た。一方、残された漢たちは果てしなく続く妻たちの叱責に耐え続けていたのであった。




