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エヴァリーナのロディニア追憶の旅①

 邪龍戦争終了後、世の中が落ち着いて平和な日常が戻った頃のお話です。ユウキとミュラーは結婚済。ユウキのお腹では赤ちゃんがすくすくと育っています。主人公はユウキに負けず劣らずの比類なきトラブルメーカー、エヴァリーナ様です。

 ある日の昼下がり、ユウキはメイドのミウを伴ってヴィルヘルム家の私邸を訪れていた。親友のエヴァリーナ、第1夫人のイレーネや第2夫人のフォルトゥーナとソファテーブルにゆったりと座って、美味しいケーキと紅茶をいただきながら、楽しい時間を過ごしていた。


「ユウキさん、お腹、大分大きくなったわね」

「はい、もう6か月目ですから」

「順調なの?」

「もう順調すぎて。お腹の中で元気いっぱい動き回るし、わたしはお腹は空くし大変なんですよぉ~。侍医の先生からはあまり食べすぎるなって注意されますし」

「うふふ。元気な子みたいね。生まれてくるのが楽しみね」

「そうなんですよ~」


 イレーネとユウキが楽しそうに子供の話をしている。ヴァルターへの恋心が破れた際、ヴィルヘルム家と一時疎遠となっていたが、ミュラーと婚約・結婚してから以降、以前のように家族のような関係に戻っていた。


「イレーネ、楽しそうねぇ~。彼女、ユウキちゃんを実の娘のように思ってるからねぇ~。ところで、エヴァの方は赤ちゃんまだなの?」

「えっ!? ま、まだ…ですわ」

「私も早く孫の顔がみたいなあ」

「お、お母様…。に、日夜励んでおります。もう少しお待ちください…」


 恥ずかしさで真っ赤になるエヴァリーナを見て、くすくすと笑うユウキとイレーネだった。一頻り笑い終えると、ユウキはイレーネに向き合い、少し照れた顔で口を開いた。


「イレーネ様。わたし、初めての赤ちゃんなので、色々と分からない…というか、不安になるところもあるんです。色々と御相談に乗ってくれると嬉しいです」

「まあ!? とっても嬉しいわ。どんどん頼って下さって良いのよ。フランさんはヴァルターさんと一緒に暮らしていてお忙しいらしく、中々会いに来てくれ無いし、エヴァリーナさんにはフォルティが付いてるし、少し寂しいと思ってたの。でも…」


「えっと、何か問題でも?」

「ユウキさんには、シャーロット様がおります。皇妃様を差し置いて私がユウキさんの相談に乗っても良いのかしら」

「実は義母上にも何度かご相談に伺ったんですけど、最近ずっと公務がお忙しくて時間が取れないという事で、誰か別の方に相談して欲しいとおっしゃって…。なら、イレーネ様しかいないって思ったんです」

「そういう訳なら喜んで。うふふ、嬉しいわ。ユウキさんに頼られるのが凄く嬉しい」

「えへへ…。イレーネ様って、お優しくて、お母さんみたいで…、大好きです!」


 甘えるような笑顔で隣のイレーネに寄りかかるユウキ。二人の様子を眺めていたエヴァリーナとフォルトゥーナは思った。イレーネのその優しさの半分でもフランに与えたらいいのにと。


「フランさんがこの家に寄り付かないのは、イレーネお義母様が厳しすぎるからだと思うんです。ユウキさんとの対応に差があり過ぎます」

「そおねぇ~。イレーネ、ユウキちゃんの事が大好きだからヴァルター君がユウキちゃんを選ばなかった事が残念だったのね。未だにため息をつく時もあるもの。だから見て、あの嬉しそうな顔」


 ちょっとだけ複雑な表情でイチャイチャする二人を眺めていると、トントンと部屋のドアがノックされた。「どうぞ」とエヴァリーナが答えるとユウキ付きのメイド、猫耳美少女のミウが恭しく礼をして部屋に入り、ユウキの側に来た。


「ユウキ様、間もなくお帰りになる時間ですの。護衛騎士と馬車が待機していますの」

「えっ、もうそんな時間!?」

「はいですの」

「しまった。あまりにも楽しくて本来の話をするのを忘れてた! ミウ、申し訳ないけど騎士さんたちにあと30分待っててくれるように言ってくれないかな。お願い!」

「分かりましたですの。30分後に迎えに来ますですの」


 ミウは了解したと答えると、護衛騎士たちに話をするため、ユウキたちに礼をして部屋を出て行った。


「ユウキさん、本来の話ってなんですの?」

「うん。実はね…」


 ユウキは小さなポーチから1通の封書を取り出した。エヴァリーナたちが見ると、差出人はロディニア王室となっている。ユウキは中から手紙を取り出して皆の前に置いた。


「これは…、ロディニア王国新国王即位戴冠式のご招待状ですか?」

「そう。あの国で何があったかわからないけど、フェーリス様が新国王になられたようなの。その戴冠式に帝国皇太子夫妻をご招待するという案内状が届いたのよ」

「フェーリス様って、以前開催されたBBQの時、パールちゃんたちと大乱闘した子よね。覚えているわぁ~。あの後、シャーロット様に大目玉喰らって土下座していたっけ」

「ああ、あの子ですね。私も見ていましたよ」


 あの光景を思い出して、アハハと笑うフォルトゥーナとイレーネ。ユウキもくすっと笑ってから、本題を切り出した。


「招待状について皇帝陛下にご相談した結果、これからのロディニアとの関係を考えた場合、招待に応じて交流を深め、関係者間との意見交換を行った方が良いだろうと言うことになったんだけど…」

「何か問題でも?」

「大ありよ。見て、わたしのお腹。これでは長い距離の旅は無理だよ」

「確かにそうですわね。では、どうなさるの?」

「うん。ミュラーと話し合って、代理人を出そうって事になったのよ」

「代理人ですか? どなたを派遣するんです?」


「エヴァリーナとレオンハルト夫妻に代理人としてロディニアに行ってもらいたいと思うの。実は、既に皇帝陛下とヴィルヘルム様には了解を貰ってます」

「えっ!? 私がですか?」

「まあステキ! 私も一緒に行きたいわぁ~」


 ビックリ顔のエヴァリーナにワクワク顔のフォルトゥーナの対比が面白くてユウキは笑ってしまった。しかし、突然振られた方は笑うどころではない。驚きすぎて絶句してしまった。それでも意識を立て直すとユウキに何故私がと問いかける。


「ど、どどどど、どうして私なんですの!? 代理人ならセラフィーナ様とかラピス様とか皇族の方が相応しいのではないですか?」

「そんなことないよ。エヴァは帝国貴族界筆頭で、帝国宰相のクライス家の御令嬢だもの。身分的に問題はないよ。それに、セラフィはまだ独身だし、ラピスはご結婚の準備で忙しいもの。エヴァにお願いしたいのよ」

「でも…」


「実はもうひとつ理由があるの」

「それは?」

「ロディニアにエロモンとヴォルフとルピナスが居るままなの。もう半年も放置しちゃってるから相当迷惑をかけているに違いないよ。奴らを回収してきて欲しいの」

「まあっ!?」

「ええっ!?」


 再びフォルトゥーナが歓喜の笑みを見せ、エヴァリーナは驚いた。ド変態の双璧と呼ばれ、帝国の名物と化したアンデッドであるエドモンズ三世とヴォルフを回収する…。エヴァリーナはカラカラと高笑いするワイトキングとデュラハンを想像して頭が痛くなった。


「無理無理、無理ですよぉ~。私じゃあのふたりを抑えられませんよぉ~」

「そこを何とか。アイツらを封じる真理のペンデレートは、ある程度力のある魔力を持つ者が使わないと効果がないのよ。それに、エロモンもヴォルフもエヴァを気に入ってるし、言うことを聞くよ。多分…」

「最後の多分が凄く気になるんですけど…」


「でもエヴァ、これは滅多にないチャンスよぉ。ロディニアはユウキちゃんの故郷でもある。この機会にユウキちゃんの足跡を巡ってみるのも面白いんじゃない?」

「…なるほど。それはアリですね。お母様もたまには良い事を言います」

「失礼ね。私はいつもいい事を言ってるわよ!」

「プフッ…」


 ふたりのやり取りが面白くてユウキとイレーネは吹き出してしまった。しかし、フォルトゥーナの発言には少々考えるものがあった。足跡を巡る旅…。確かに日本から転移し、異世界で生活を、青春の日々を過ごしてきたのはロディニアであり、故郷と言ってもいい場所である。ユウキはそうだ!と閃いた。


「エヴァ、ロディニアは良い意味でも悪い意味でもわたしの思い出の地なの。エヴァにはわたしの歩んできた軌跡を見てきて欲しい。そして彼の地にはわたしを救ってくれた恩人もいる。その方々に、わたしは「元気で幸せだよ」と伝えてきてもらいたいの。どうかな、お願いできるかな」

「…そう、ですね。私も常々ユウキさんの過ごしたロディニアの地をこの目で見たいとは思ってました。わかりました。戴冠式の代理、責任をもって努めさせていただきます」

「ありがとう、エヴァ!」


 ユウキとエヴァリーナはしっかりと握手し合った。改めて招待状を見る。戴冠式は2か月後、会場はロディニア王宮謁見の間とある。日程を鑑みた場合、帝都を1か月後には出発する必要がある。その間に旅行の準備、宿泊先や乗船券の手配、随行者等決めなければならない事がたくさんある。エヴァリーナは少々頭が痛くなってきた。


「旅行の準備はともかく、宿泊先や馬車、乗船券の手配はお兄様にご協力を仰ぎましょう。あと、随行者はどうしようかな…」


 ちょいちょいと自分で自分を指差すフォルトゥーナを無視して考え込んだエヴァリーナにユウキが声をかけた。


「随行者はわたしの方で手配するから。帝国宰相の御令嬢夫妻が行くのだし、使用人も護衛も必要でしょう? 任せてちょうだいよ」

「よろしいんですか? では、随行者の選定はユウキさんにお願いしますわ」

「にひひ、任せて任せて」

「なんですか、その笑い…。不安になりますわね」


 ユウキはエヴァリーナがロディニアに向かった後、寂しくなるだろうから、暫くヴィルヘルム家に滞在するとイレーネに約束して皇太子宮に帰った。


 ユウキが帰った後、エヴァリーナは早速宰相府に赴き、ヴィルヘルム、ヴァルターと話し合い、向こうでの政府要人との会談の段取りについては、王国宰相のレウルスに協力をお願いすることとし、ヴィルヘルムが直接手紙を送ることとした。また、旅行に関する一切については、ヴァルターの方で手配してくれることになった。


 その日の晩、仕事(功績によってミュラー皇太子の警護隊長に任じられた。階級は帝国陸軍中佐)から帰ったレオンハルトはロディニア行きを聞かされて驚いたが、ユウキの頼みでもあることから、明日にでもミュラーの了解を貰うと話してくれた。


 ◇  ◇  ◇  ◇


 慌ただしい日々が過ぎ、帝都を出発する日が間近に迫った頃、準備に忙殺されていたエヴァリーナの元に、ユウキが随行者を選抜したから皇太子宮に来てほしいと連絡してきた。準備を使用人に任せ、レオンハルトとヴァルターを伴って皇太子宮を訪れると、すぐに大広間に通された。


「ユウキちゃんが選んでくれた随行者はどんなかな。気になるな」

「私はあの時見せた笑みが凄く気になりますわ」

「まあ、大丈夫だろう。気にしたら負けだ」

「お兄様、それは既にヤバい人物じゃないかと言ってるようなものですわ」

「お、来たようだぞ」


 3人が注目して見ていると、大広間のドアが開けられ、ミュラーとミウに手を引かれたユウキが入ってきた。


「よお、忙しいところありがとな」

「ごめんね、呼び出しちゃって。何せこのお腹なもんで」

「いいえ、大丈夫ですわ。むしろ、人選をお任せして申し訳ありません」


「そんな、気にしなくていいのよ」

「なあ、ユウキちゃん。オレなんかがロディニア王家に顔出してもいいのか?」

「いいに決まってるじゃない。レオンハルトさんはエヴァの夫で、今じゃ帝国貴族の一員だよ。おまけにこの世界を救った英雄の一人だもの。堂々としてればいいよ」

「でもなー」

「大丈夫だって。アレだって身バレはしてないんでしょう?」

「そりゃそうだが…」


「ん? ユウキちゃん。身バレってなんだ?」

「私も知りませんわ。なんですか?」

「ああ、それはね…」


 ユウキはロディニアでの魔女戦争直後、レオンハルトはユウキが魔女になった経緯を知り、その原因のひとつであった前ロディニア国王の命を狙ったが失敗し、ラミディア大陸に流れて来たことを話して聞かせた。思ってもみない内容にミュラーもエヴァリーナも大変驚いた。


「ふむ。レオンハルト、お前…漢だな! 女のために命を懸ける。オレは嫌いじゃないぞ」

「レオンハルトさんにそんな過去が…。でも、ユウキさんのために行った行為です。ノープロブレムですわ。私だってその場にいたら、そんな男ぶっ飛ばしてやったでしょうから!」

「大丈夫だろう。レオンハルトは既にクライス家の一員だ。それが何を意味しているか分からんハズがない。特にレウルス殿は十分に理解していると思うぞ」

「みんな…。ありがとう、胸を張って乗り込むとするぜ」


 レオンハルトの過去の一端に触れたエヴァリーナは感慨深いものがあった。以前挨拶を交わしたフィーアやユーリカもそうだったが、ユウキに関わった人たちは様々な思いを抱いている。ユウキの第一親友を自負するエヴァリーナは、彼女を知る人たちと交流を深めたいと思う気持ちが強くなったのであった。


「それでは、随行者の方々を紹介します!」

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