第57話 謁見と晩餐会
ユウキは立ち上がって国王を見る。ユウキは事前に聞いていた王家一家との名前と、目の前にいる全員を一致させてみた。国王マグナスは40後半から50前半の豊かな銀髪と口髭を蓄えた偉丈夫。王妃マルガリータは国王より10歳ほど年下であろうか、柔らかそうな笑顔の美人。王妃の隣から王子レウルス、第2王子マクシミリアン、第3王子マルムトと並んでいる。一番端が第1王女フェーリスだろう。
「ユウキさん、自己紹介! ユウキさんの番ですよ」フィーアが小声で言ってきた。
「あっ、おはちゅ…、お初にお目にかかります。ユウキ・タカシナです。王国高等学園の1年生です(かんじゃった…)」
見ると、マクシミリアンとフェーリスが笑っている。ユウキは恥ずかしくて死にそうだった。
「さてお前たち、体験学習中にゴブリンの群れに遭うとは大変だったな。しかし、お前たちが討伐してくれたおかげで、ゴブリンの大規模発生を防ぐことができた。キングを含むゴブリンをどうやって退治したのだ? 聞かせてくれ」
国王の頼みに、5人は顔を見合わせ、フィーアが代表して話を始めた。
「そうか…、死闘だったのだな」
「はい。ゴブリンキングと配下のゴブリンが多数現れた時にはもう絶体絶命かと思いました。しかし、マクシミリアン様の声が、私たちに不思議な力を与えてくれました。力が蘇ったのです。そこから、ここにいるユウキさんが指揮を執って、ヘラクリッド様とフレッド君がゴブリンチャンピオンを、マクシミリアン様と私がホブゴブリンの群れを、ユウキさんがカロリーナさんの支援を受けてキングを倒したのですわ」
「父上、私はあの戦いでこの5人に醜態を晒しました。私は逃げたのです。恐ろしくなって逃げてしまいました。しかし、カロリーナやフィーアから王家の人間としての責任を問われ、仲間を守るため、自らを鼓舞して戦うヘラクリッドとフレッド、そしてユウキの姿を見て、悟ったのです。このままではいけないと。この者たちは私に本当に大切なものは何かということを教えてくれました」
「うむ。私はお前の成長も嬉しく思う。これもこの者たちのお陰なのだな」
国王の満足そうな声に、王妃やレウルス、フェーリスがにこやかに頷く中、ユウキは1人厳しい視線をマクシミリアンにぶつけるマルムトに気づいた。
(あれは第3王子。マクシミリアン様を見てるの? それにしても、なんて厳しい目なの…)
謁見が終わり、控室でユウキとカロリーナが休憩していると、メイドが来て「こちらでお召し替えをしていただきます」と衣裳部屋に案内された。
部屋に入るとユウキとカロリーナそれぞれに、3人のメイドが寄ってきて1人が衣装合わせを始め、もう2人が化粧と髪を整え始めた。
「ユウキさんは髪の色が黒だからドレスは青系がいいかもしれませんね。うらやましいくらい胸が大きいので両肩と胸元が開いた方がいいですね。アクセサリーはと…」
「お肌もすべすべしてお化粧のノリもいいわ。どんな手入れをしているの? あとで教えて。口紅はピンク系がいいわね。いや~美少女は化粧が映えるわ」
「黒髪って珍しいです。つやつやしてキレイ。アップにしてカチューシャとバレッタ付けますね」
「カロリーナさんは黄色のドレスが似合いそう。胸は…控えめなのでパッドで少し盛りますね。胸の所に青いリボンをつけると可愛いらしさが引き立ちます」
「顔は幼めの可愛い系なので、化粧は軽めにしますね。髪の毛はセミショートなので、後ろに赤いリボンを付けて、前に花の髪飾りを付けましょう」
「ねね、ユウキ! なんか私たち、ちょっとイケてるんじゃない。こんなに綺麗に着飾ったの初めて。ユウキ、凄く綺麗だよ」
「ありがとう。カロリーナも凄く可愛いよ」
2人は顔を見合わせて「ふふっ」と笑い合うのだった。
ユウキとカロリーナがメイドに案内されて晩餐会場に入ると、たくさんのテーブルに美味しそうな料理が並び、大勢の貴族が集まっていて、2人は少し気遅れしてしまった。
「ユウキさん、カロリーナさん」
「フレッド君。わあ、タキシード姿のフレッド君かっこいいね」
「あ、ありがとう。2人も凄く綺麗だよ」
3人が周囲を見回していると、フィーアが侯爵家の所に立っているのが見えた。そのうち「国王様が御入室になられます」との声とともに扉が開いて、国王一家が入ってきた。
「さあ、今宵は勇者によるゴブリン討伐と我が息子が人として成長した祝だ。皆の者。楽しんでくれ!」と国王が声を上げ、宴が始まった。
「ね、ユウキ。この鳥の料理、美味しいよ。食べてみて」
「わ、ホントだ美味しい。カロリーナ、こっちの揚げ物も美味しいよ」
ユウキがモグモグと料理をほおばりながら、上座を見ると、国王一家や侯爵家が多くの貴族の挨拶を受けているところであった。
(貴族って大変だな~、フィーアも大変そう。若い男の人がいっぱい集まってるよ)
ユウキが、のんびりそう考えていると、不意に「あの…」と声をかけられた。
「ん?」
ユウキが振り向くと1人の女の子が立っていた。
「え、フェーリス王女様?」
「はい! フェーリスです。ユウキ様とお話ししたくて。あの、よろしいですか?」
「ええ、いいですよ。ボ、私でよければ…」
「うふふ、お兄様から聞いていた通りですね。この国じゃ珍しい黒髪に黒い瞳、神秘的です。それにお胸も大きくてうらやましいです。フェーリス、ペッタンコなんで」
「ああ、いや…ははは。実はちょっと自慢なんですよ、胸は。(何の話!)」
「うふふ、面白い人ですね。ユウキ様はホントにゴブリンキングを倒されたんですか。私、強い女性って、憧れなんです!」
「フェーリス様、結果的に私がキングを倒しましたが、みんなが他のゴブリンを押さえ、あそこにいるカロリーナが私を助けてくれたことで倒すことができたんです。みんなで協力して倒したんです。私一人では倒すことはできなかったでしょう」
「そうですか、皆の力…。お友達を信頼なさっているのですね。羨ましいです」
「ね、ユウキ様、私のお友達になってくれませんか? 実は私、同年代の友人が少なくて、ユウキ様とたくさんお話してみたいです」
「え、ええ。私でよければ」
「うふふ、嬉しい。ユウキ様、また後でお話ししましょうね!」
上座の方へ戻って行くフェーリスを見送りながら、ユウキは(友人が少ない…か。王族だと色々あるんだろうな)と思ってしまうのだった。