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騎士の矜持③

 レドモンドとエドワードがサヴォアコロネ村に来てから数日が経過した。その間、毎日リーナに学校の送り迎えを頼まれ、学校では子供たちの遊び相手という名のオモチャになり、おまけに身体能力の高さを買われ、小中学生の体育の授業の手伝いまでさせられた。結果、観光や散策する暇もなくへとへとになって、ぼやきながら飯を食べ、風呂に入って寝るという、生きるのに疲れ果てたオヤジのような生活を送っていた。しかし、今日は週末で学校は休みである。2人はここぞとばかりに朝寝坊を楽しむ事にした。外から聞こえる小鳥たちの声が耳に心地よく、眠気を誘って来る。2人は久しぶりにゆっくりとした気分で微睡んでいた。だが、時は2人の安寧を許さなかった。


 時計は9時を回った頃、どたどたと階段を駆け上がって来る足音がして、バーン!と部屋の戸が豪快に開け放たれた。当然入って来たのは宿の娘リーナ14歳。リーナは2人の毛布をガバッと剥ぎ取り、甲高い声で起こしにかかった。


「いつまで寝てるの!? いい天気だよ起きて、起きろってば、起きなさーい!」

「うう…、今日は学校休みだろ、寝かせろよ」

「毎日お前たちの相手で疲れてるんだよ。勘弁してくれ」

「ダメダメ! 今日はみんなで川に泳ぎに行くんだから! 一緒に来てよ。ねぇ!」

「嫌だよ…。お前たちだけで行けよ」

「毛布、毛布返してちょうだい」

「もう、起きてよぉー!!」


「リーナ! お二人はお客様でしょ。御迷惑です。お止めなさい!」

「お母さん…」


 騒ぎを聞きつけたルシアが部屋まで来て、レドモンドとエドワードの毛布を剥ぎ取って騒いでいるリーナを叱りつけた。救世主の出現に2人は心底ほっとする。


「リーナ、お二人はここに来てから、あなたのワガママにずっと付き合っているでしょう? 疲れているのよ。お休みさせてあげなさいな」

「でも、一緒に川に泳ぎに生きたい…」

「リーナ、ワガママを言うんじゃありません!」

「はい…。わかった。ゴメンね、レドモンドさん、エドワードさん」


 レドモンドがちらと薄目を開けてリーナを見ると、半分べそをかきそうな顔で俯いている。あまりにも悲し気な顔に罪悪感が心の中に沸き上がって来た。横目で隣のベッドを見ると相棒もバツの悪そうな顔をしている。


「せっかく、キャティさんやエマ先生たちも参加するのにな…」

『なに!?』


 漢ふたりの声が見事にハモった!! そして、素早くリーナの前に進み出ると膝まづいて恭しく頭を下げた。その様子を見たルシアはこの後の展開を察し、フッと皮肉な笑みを浮かべると何も言わず1階に下がって行った。


「リ、リーナ様。今なんと…」

「何とおっしゃられたであらせられるか? 願わくばもう一度お聞かせ願いたく…」

「き、急にどうしたの?」

「さ、早くお聞かせください」


「う、うん…。今日お天気がいいし、暑くなりそうだから学校のみんなと川に泳ぎに行こうってなって。でも、子供たちだけだと危ないから、村長さんが警備隊のキャティさんと役場のアリシアさん。あと学校のエマ先生に声をかけてくれたの。でも、参加するお友達が多くなったから、大人の人がもっといた方がいいと思ってレドモンドさんとエドワードさんにも来てほしかったんだ。でもそうだよね、あたしが毎日引っ張り回したせいで2人とも疲れてるもん。無理言ってゴメンなさい。付き添いは誰か別の人に頼むからゆっくり休んでて」


 レドモンドとエドワードはリーナの前でさらに頭を下げる。少し戸惑う表情のリーナ。


「私らの使命はリーナ様の護衛。その任、誠心誠意努めさせていただきたく存じますれば」

「どうか拙者らのご同行をお許しくださるようお願い申し上げ候」

「え…? いいの?」

『わが身をもって任務を果たす所存!』

「わーい、嬉しいっ! ありがとう2人とも」


 邪な下心など露知らず。純真なリーナは一緒に行けると喜び一杯。満面の笑みを浮かべ、「えいっ!」とレドモンドに抱き着いてきた。泣きべそから一気に笑顔になった彼女を抱き止めたレドモンドは少女特有の体の柔らかさに心臓が早鳴った。


(なに子供にドキッとしてるんだよ。オレはロリコンじゃねぇっての)


「猫耳だけじゃなく、ロリコンでもあったか。とことん変態だな、相棒」

「ちげぇよ! てか、オレの心を読むなよ。お前は超能力者か!?」

「何言ってるの? 早く行こうよ」


「リーナ、そういえばオレたち水着持ってねぇ。どうしよ…」

「裸で泳ぐ?」

「エマ先生たちもいるのに、出来るわけねえだろ!」

「いなかったら裸でもいいんだ…。水着は雑貨屋さんで売ってるよ」


 宿の階段を下りて1階のロビーに行くと、ルシアが申し訳なさそうに、それでも笑顔でリーナをお願いしますと言って3人分のお弁当を渡してきた。レドモンドとエドワードは任せるように言うと、ルシアはお礼を言って2人に気付かれないようにリーナに向かってウィンクし、リーナの耳元で「良かったわね。頑張ってね」と囁いたのだった。


(お、お母さん~)


 真っ赤になったリーナはバタバタと走って宿を出て行った。訳も分からず置いてけぼりになったレドモンドとエドワードは慌てて後を追いかけた。3人の後姿にルシアは心底楽しそうに笑うのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 途中、雑貨屋に寄って水着を買った。ただ、雑貨屋のオヤジがサイズを聞いただけで、奥の棚からニヤニヤ笑いながら袋を取り出し、手渡してきたのが少し気になったが、リーナが急かすので中身を確認しないでそのまま受け取った。この未確認行為を2人はこの後、思い切り後悔することになる。


「2人ともここだよ!」

「へえ~。いいところじゃないか」

「広い河川敷だなぁ」


 3人が到着したのは村の集落から少し離れた場所で、川が大きく緩いカーブを描いており、向かい側は岩肌の山となっている。川幅は20mほどで瀬々らいでおり、全体的に水深はあまりなさそうだ。また、白い川砂の河川敷の周囲は緑豊かな低木で囲まれており、危険な動物などの侵入を防いでいる。


「あーっ! リーナ、遅いよー!!」

「ごめんごめん。今行くねーっ! 2人とも早く行こう」

「お、おお」


 川の側で準備体操をしていたメアリがリーナたちを見つけ、手を振って声をかけてきた。見ると小学生から中学生までの男女が約20人ほど集まっている。その中に大人の女性が3人、歳の頃17、8位の男女が5~6人ほど確認できる。

 リーナが駆け出して行ったので、2人も慌てて後を追った。そして、皆の集まっている場所に到着して思わず息を飲んだ。


 子供たちに混じってあれこれ注意している大人の女性、警備隊のキャティと役場職員のアリシアに中学校教諭のエマ。3人の水着美女の悩殺的エロスにレドモンドとエドワードは股間の暴れ竜を抑えるのに集中する。


 猫系亜人のキャティは鍛えられた体のスレンダー美女だ。ささやかに主張する胸の小山を黄色のラインで縁どられたライトブルーのトライアングルビキニで覆い、キュッと締まったウェスト、トップと同色のビキニパンツから伸びる長い美脚が美しい。また、お尻の割れ目の上から伸びて左右に揺れる茶虎のネコ尻尾もカワイイ。


 キャティの隣にいるのはアリシアという名の人間の女性。年齢は20代前半くらいか。こちらはキャティとは対照的なボッキュンボンのナイスバディ。胸は90以上のFクラス。その豊満な肉体を包む黒のホルターネックハイウェストビキニがまた良く似合っている。ちなみに、髪はブラウン系のセミロング。やや垂れ気味の目が可愛らしく、さらに左目の下に小さな泣きボクロがある中々の美人だ。


 キャティとアリシアの後から頬を赤らめ、恥ずかしそうに現れ出たのはエマ先生。トゥルーズ出身の25歳独身彼氏無し(リーナ情報)。美しい金髪をお団子にした優し気な笑顔の美人さん。B86W60H86(メアリ情報)のスタイル良い体をコットンピンクとホワイトのチェック柄の肩出しハイウェストワンピースで包んでいる。清楚な姿と水着から除く胸の谷間がアンバランスなエロさを醸し出し、漢たちの熱い視線が集中する。


「おいおい、女神かよ。キャティちゃんもいいがアリシアちゃんのおっぱいの凄さはどうだ。ありゃ反則だぜ」(レドモンド)

「うむ! 脱衣ジャン拳で見せたユウキ様の裸もエロかったが、アリシアさんのわがままボディもエマ先生の清楚なエロさもまた至高。どちらをオレの嫁にするか悩む」(エドワード)


 だらしない顔で3人の美女の肢体を堪能するレドモンドとエドワードだったが、突然尻を蹴とばされ、衝撃でつんのめった。


「も~、先生たちばっかり見て! エッチなんだから。早く着替えてきなさいよ!」

『いってぇ~!?』


 2人の尻を蹴ったのは、水着に着替えてきたリーナだった。彼女の後ろではメアリがおろおろしている。ちなみに、リーナの水着は白地に青の縁取りがされたトライアングルビキニで、ブラの真ん中に同色の大きなリボンが結びつけられていてリーナの可愛らしさを一層引き出している。

 なお、リーナは以外にも胸がくっきり出ていて、2人の漢の見立てでは84のCくらい。また、メアリも同じくらいあり、歳のわりに育ちの良さ(胸)に少々驚く。


「いっってぇーッ!? 何すんだよリーナちゃん!」

「ふん、知らないっ!」


 リーナは頬を膨らませてツンと2人を一瞥すると、すたすたと友人たちの方に歩いて行った。残された漢どもは何が何だか分からない。そこにメアリが寄って来て、ちょいちょいと手招きしてきた。レドモンドが体を屈めるとメアリは耳元で小さな声で囁いた。


「あのね、リーナは水着姿を褒めてもらいたかったの。それなのにお兄ちゃんたちったら…。少しは女心を勉強しないと」


 そう言うとくるりと背を向けてリーナたちの方に歩いて行った。残されたレドモンドとエドワードは顔を見合わせるとため息をついた。


「なんなんだよ」

「着替えるか…」


 河川敷には更衣室代わりの掘建小屋が1棟あった。レドモンドとエドワードは着替えのため小屋に入ろうとしたが、女子連中の下着や着替えを置いているとのことで、鍵をかけられ(鍵はキャティが持っている)、男子は利用不可とのこと。2人は仕方なく低木の茂みの陰で着替えることにしたのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「メアリちゃん、レドモンドさんたちは?」

「そういえば、着替えに行ったまま戻ってこないね」

「俺、向こうの草むらで見かけたぞ」

「わたしも見かけたわ」

「ソル君、マリーちゃん。ほんと?」

「ああ」


 ソルとマリーが指差した方を見ると、低木の茂みから上半身を覗かせてもじもじしている2人がいた。


「なにあれ、大の男がもじもじしてキモイ。もしかして恥ずかしいの?」(リーナ)

「容赦ないね。まだ機嫌治んないの?」(メアリ)

「そんなことないもん! あたし、あの2人連れてくる!」 

「あっ、リーナ!?」


 リーナはダッと駆け出し、2人が潜む茂みに近づくと大きな声で来るように言った。


「なにしてるの!? 着替え終わったなら早く来なさいよ!」

「い、いや~。その…、何だな…」

「恥ずかしいっていうか…、雑貨屋のオヤジにやられたというか…」

「なに訳の分からないこと言ってるの? 一緒に泳ぎましょうよ…。うぷっ、きゃはははは! なにそれ!? あはははははっ!!」


 レドモンドとエドワードの手を取って茂みから引っ張り出したリーナは、2人の恰好を見て爆笑し始めた。あまりにも大きな声で笑うものだから、河川敷に散らばっていた子供たちやキャティ、アリシア、エマも何事かと集まってきて、2人の姿を見た子供たちは大爆笑し、キャティたちは頬を赤らめて笑いを堪えるのに必死な表情をしている。それもそのはず、2人の水着姿はというと…。


 レドモンドは白地に大小様々な七色の薔薇が描かれたカラフルふんどし。もっこりを隠す前垂れの部分にイケてる短髪男の顔が描かれており、荒々しい文字で「やらないか」と書かれている。

 一方、エドワードは極めて危険なBLAKビキニパンツ。布が少ない分、股間のもっこりが際立って目立ち、大人女性の視線を釘付けにする…が、もっこり膨らんだ部分にうっとり顔の美少女の絵が描かれており、エロさより狂気を感じさせる。マトモな神経の持ち主なら絶対に穿こうとは思わないシロモノだ。

 訓練で鍛えられている細身筋肉マッチョの漢2人に似つかわない変態チックな痛々しい水着のアンバランスさが滑稽で、とうとうキャティだけでなく、アリシアやエマも吹き出してしまった。


「謀ったな! オヤジィーッ!!」(レドモンド)

「してやられたわ~!」(エドワード)

『こっぱずかし~ッ!』(レド&エド)


「あはははははっ! おかしい~ッ!! もう、笑いすぎてもやもや気分も吹き飛んじゃったじゃない。さ、泳ごうよ2人とも!」


 変態チックな2人の姿にそれまでの鬱屈した気分が消え去ったリーナは、レドモンドとエドワードの手を引いて、仲間たちと一緒に川のせせらぎに向かって走り出すのであった。

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