表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

560/620

騎士の矜持①

 ガルガ出現阻止のためユウキたちに協力し、活躍したラファール国アルテルフ侯爵家騎士のエドワードとレドモンドが主人公です。スミマセン、話が長いです…。

 ウルとの戦争が終り、国を、愛する者たちを守るため散った戦士たちの喪も明け、人々の活動も普段通りとなり、帝都シュロス・アードラー市の夜の繁華街にも人通りが戻ってきて多くの娯楽施設や飲食店、風俗店から賑やかな声が聞こえてくるようになった。その繁華街の外れにある古びた居酒屋で2人の騎士がしょぼくれた雰囲気を出しながら酒を飲んでいた。


 騎士の名はレドモンドにエドワード。年齢は共に26歳。魔族国ラファールの有力貴族であるアルテルフ侯爵家のお抱え騎士だ。とはいっても二人は魔族ではなく人間である。ちなみに、二人はビフレスト国の小さな村出身で、家も近所の幼馴染。小さい頃から一緒に遊び、お互いを競い合ってきた親友でもあった。


「どうしたエドワード。酒が進んでないようだが」

「…ん? ああ…」

「なんだ。またあの子を思い出していたのか?」

「そういう訳じゃないんだが…」

「隠すなよ。俺は全てお見通しだ。エウリアだっけ?」

「………」


 エドワードはジョッキを呷って空にすると、給仕の女の子にビールのお代わりを頼んだ。


「はいどうぞ」

「ありがとう」


 ビールが入ったジョッキが運ばれてきた。ガラスに映る自分の顔が地下迷宮で戦ったゴルゴーン三姉妹の次女、エウリアの顔に見えてきた。


 エウリア。心ならずも吸血鬼に眷属にされた可哀そうな女。自分を闇から連れ出しほしいと願いながらも叶わず、呪縛から解き放ってくれるようエドワードに懇願してきた。最後に見せた悲し気な笑顔と涙、そして死の間際に言った「ありがとう」という言葉が頭からずっと離れないでいた。


 複雑な表情でビールを口にする友の横顔を見ながらレドモンドは話を続けた。


「オレが戦ったのは、顔だけは可愛かったが全身蛇の蛇女だったぞ。「シャー!」とか言って攻撃してきやがってよ、反則だってーの。危うく死ぬところだったぜ。アレに比べりゃタマモが呼び出した怪物の方がよっぽどマトモで楽だったぜ」

「ああ…、確かメディっていったか。あの蛇女」

「オレは爬虫類は嫌いなんだっての。猫耳美少女または美女以外受付ん!」

「おまえは全然ブレね~なぁ。ある意味尊敬するぜ」

「わはは、猫耳ちゃんを愛する。それがオレの揺ぎ無きポリシーだからな」


 レドモンドの屈託のない笑い顔を見て、心が軽くなったエドワードは美味いつまみを食べながら酒を飲む。楽しそうに酒を飲む相棒のさり気無い心遣いが有難かった。


(やっぱり、コイツにゃ敵わねーわ。ありがとよ、親友…)


 かなり酒が進んで酔いも回って来た頃、レドモンドが思い出したように口を開いた。


「なあ」

「ん? なんだ?」


「今更だがオレら、レグルス様の命でガルガ阻止任務のダンジョン探索やハルワタート討伐作戦に参加してさ、その功績でアルテルフ様から表彰状もらったし、ボーナスも出たし、特別休暇も貰ったろ?」

「ああ、休暇期間は1ヶ月。好きな時に取っていいって言ってたな」

「その休暇、そろそろ使わねぇか?」 

「休暇か…」


「そうそう。帝国に来てから休む間もなく働き詰めだったじゃねぇか。体も疲れてるし、温泉にでも行って、美味いもん食って、のんびりしようぜ。カワイイ猫耳ちゃんとの出会いもあるかも知んねぇしな」

「猫耳ちゃんはともかくとして、温泉か…。何年も行ってないしな、いいな。行くか!」

「おう! そう来なくちゃ!」


「で、行く場所の当てはあるのか?」

「任せとけって。ユウキ様からいい場所を教えてもらったんだ」

「ユウキ様!? お前、いつの間に…」

「わはは、オレ様の凄さを思い知ったか! わはは…ゲフッ、ゴフッ!? ガハァ!」

「何やってんだよ」


 笑いながら酒を飲み、咽て死にそうになっている相棒を見て、エドワードは大笑いしながら、温泉にでも浸かれば気分も晴れるかも知れないなと思うのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ぜーはー、ぜーはー。レッ、レドモンド。ホントにこの道で合ってるのか?」

「はあはあはあ。ま、間違いないはずだ…。ユウキ様から貰った地図が間違ってなければ」

「ホントかよ。凄い山道だぞ。登りもキツイし、道は先細りしているし、周囲は鬱蒼とした原生林だぞ。この先に村なんてあるのかよ。くそ、腿が痙攣して辛れぇ…」

「泣きごと言うな。道があれば何かある。もう少し頑張ろうぜ」

「お、おお…」


 途中の水場で喉を潤し、小鳥の囀りをBGMに、なわばりを守るために2人の周囲を飛び回るでかいハチをお供にキツイ山道を歩く。麓の町を出て半日以上歩き続け、ついに峠の頂上に到着した。そして、その風景に息を飲んだ。

 眼下に見えるは谷あいに沿って広がる家々と畑。牧草地らしい場所には放牧されている家畜の姿も見える。日も大分傾いてきているとあって、家々の煙突から煙が立ち上っている。きっと夕飯の準備をしているのだろう。斜光に照らされた山間の景色は幻想的で美しい。2人は自分の故郷の光景を思い出し、懐かしい気持ちになった。


「…なかなかいいな。こんな美しい風景、久しぶりだ」

「ああ。なんというか、懐かしい気分になるな」

「サヴォアコロネ村か…。いいじゃないか」

「だな。何もなさそうなのがいいな。頭を空にしてのんびりできそうだ」


 レドモンドとエドワードは美しい風景と雰囲気の良さに感動したお陰か、今まで感じていた疲れも吹き飛んで足取りも軽く、つづら折りになった峠道を下るのであった。


 さらに1時間以上歩き、2人はようやく村の入口に到着した。見れば見るほど何の変哲もない村だったが、不思議と心に安らぎを与えてくれる。小さな川沿いに沿って集落に向かう道を歩いていると、道脇にちょっとした広場があり、広場の中心に建つ巨大な像が鎮座しているのが目についた。2人が興味本位で像に近づいてみると、それは横たわる巨大な熊の頭を片足で踏みつけ、右腕を天に伸ばして吼えている少女の像であった。


「これが噂のアレか…。想像以上にデカいな」

「G・グリズリー殺し、エヴァリーナ様を称える像…か。この精巧さには狂気を感じるな。こりゃ、本人が嫌がるわけだよ」


 2人がまじまじと像を見上げながら感想を言い合っていると、学校帰りなのか制服姿で鞄を背負った子供たちがわらわらと集まってきて、声をかけてきた。


「こんにちわ~。おじちゃんたち、見ない顔だね。旅行者?」

「こんにちは。村の子か? 確かにオレたちは旅行者だが、おじちゃんじゃねぇ。お兄様と呼べ。お兄様と!」

「激しく同意だな。オレたちはまだ若い。結婚もしてないし、彼女もいない! だからまだお兄さんだ!」


「へぇ~。よくわかんないけど、おじちゃんたち独身なの? いい年して寂しくないの?」

「さっ、寂しくなんかないんだモン!」

「…生意気なガキだな。成敗するぞ」

「ボクねぇ、大きくなったらユイちゃんと結婚するんだ! ねっ、ユイちゃん!」

「うん! あたし、ポプラン君と結婚する!」


「こ、コイツら、思いっきりマセてやがる…」

「山奥のド田舎だと思って侮っていたぜ…」


 ポプランとユイだけでなく、集まっている子供たちは誰もが男女ペアになって、手をつないでいる。この光景にレドモンドとエドワードは完膚に打ちのめされた。子供たちは2人の気持ちもお構いなくに像を指さしてニコニコ顔で説明を始めた。


「おじさんたち、この像凄いでしょ。「熊殺し天に吼える!」っていう名前なんだよ。この村を襲った巨大熊を斃した英雄の像なんだよ!」

「お、おお。凄ぇと思うぞ。あのドヤ顔が何とも…」

「エヴァリーナ様って、あんな感じの顔だったっけかなあ?」


 子供たちが熊殺しの英雄譚を色々と話して聞かせてくれた。エヴァリーナ様本人から聞いた話から大分誇張されていたが、子供たちの話の方が面白くて大笑いして聞き入ってしまい、気付けば日が大分傾いて山々の稜線に沈みかかり、空が真っ赤に染まっていた。


「もうこんな時間か。君たちもう遅いぞ。はよ家に帰れ。母ちゃんに怒られるぞ」

「わあ! ヤバいよヤバい! おじちゃんたちバイバーイ!」


「だから、お兄様だっての」

「いいって、いいって。オレたちも行こうぜ」

「ったく…」


 レドモントとエドワードは道ですれ違った村人に宿の場所を聞きながら歩き、目的の宿に着いた頃にはすっかり日も暮れていた。2人は入口の戸を明けて中に入る。入り口脇の食堂では宿泊客らしい人が数人食事を摂っていた。カウンターの呼び鈴を鳴らすと奥から年の頃30代半ば位の女性がパタパタと出てきた。


「いらっしゃませ。「新緑亭」にようこそ。私は女将のルシアです」

「レドモンド・アルジェリーとエドワード・ノートンだ。宿泊の連絡が入っていると思うが…」

「ああ! はい、ご予約のお手紙をいただいておりました。2週間のご予定と賜っております。えっと、おひとり様1泊2食で大銅貨7枚(約7千円)ですから、2週間で銀貨9枚と大銅貨8枚になりますね。前金で銀貨4枚いただきますが、よろしいですか?」

「いいぜ」


 2人はそれぞれ財布から銀貨4枚を取り出して支払い、宿帳に名前を記入した。ルシアは部屋の鍵を渡す。


「お部屋は2階の朝日の間です。お食事は出来立てをお出しする都合上、1時間後位になります。お風呂は1階の奥、男女別ですので間違えないようにしてくださいね。では、ごゆっくり。あ、リーナ、お客様をご案内してくれる?」

「はーい! いらっしゃいませー。あたしはこの宿の娘でリーナっていいます。どうぞ、こちらに!」


 奥から髪をポニーテールにして花柄エプロンを着た中学生くらいの美少女がトテテ…とやってきて、凄くいい営業スマイルでレドモンドの手を取った。美人女将の笑顔に見送られて、2階の部屋に案内された2人は旅装を解いていると、リーナがお茶を運んできた。そこでエドワードが気になったことを聞いてみた。


「なあ、リーナちゃん。言っちゃ悪いがこの村、近くの町から遠いし特に観光地って訳でもないただの山間地みたいだが、結構お客さん来てるんだな」


「あははっ! 悪いも何も、普段はたまに温泉目当ての湯治客が来るくらいで、閑散としてる日が多いよ。実は、2年ほど前、この村に旦那さんがオーガ、奥さんが人の家族が移住したんだけど、そこの娘さん、ステラさんって言うんだけど、イザヴェル王国の王子様と婚約したんだって。その子が婚約者を連れて里帰りするってんで、お世話する人たちが準備のためイザヴェルから大勢来てるの。本宿はこことは別の「紅花亭」という宿だけど、部屋が足りなくてウチやもう1軒の宿にも泊っているんだ。そんで、村役場も大騒ぎなのよ。あたしの通ってる中学校でも歓迎のダンスするとかで練習が大変なの」


「へえ…ってか、オーガと人が結婚!? その子供が貴族様!?」

「そうよ」

「そうよって…。いやあ、驚きだなあ」

「うふふ。この村じゃ滅多にイベントなんかないから、お客さんも楽しんだらいいわよ」


「ところで、食事の準備まで時間があるから温泉に入ってきたら? ウチの温泉は源泉かけ流しで凄く評判いいんだよ」

「ほう。それは楽しみだな。何の効能があるんだ?」

「お肌の美容にすごくいいのよ~」


「美肌か、男のオレたちには意味がないような…。だが、もしかしたらもっとイケメンになるかもしんねえな!」

「ならんと思うぞ」

「即答かよ!」


「あははっ! お兄ちゃんたちおもしろーい。ねぇ、ところでひとつ聞いていい?」


 リーナは瞳をキラキラさせ、頬を紅潮させて2人を見つめてきた。レドモンドとエドワードはキラキラ目線に少し引き気味だ。


「お兄ちゃんたち、恋人同士なの?」

「な…、はあ!?」

「だって、男2人でこんな山奥の温泉に来るなんて、BLしか考えられないじゃない? お母さんも怪しいって言ってたもん。で、どっちが攻めでどっちが受けなの? キャッ♡ ヤッダァーッ♡」


「全然違う! BLじゃねぇ!!」

「あのな、リーナちゃん。期待に沿えず申し訳ないがオレたちは友人ではあるが恋人同士ではないよ。任務の功績で長期休暇をもらったんで田舎の温泉に行こうって話になって、サヴォアコロネに来たんだ」

「えー、なんだ。つまんないの」


「全然つまんなくねぇよ…」

「まあ、オレはそれでもいいと思ってるがね」

「えっ♡」

「エドワード、冗談でもそんな事いうんじゃねぇ! リーナちゃんが本気にするだろ!?」

「冗談だよ」

「もう! からかわないでよね。じゃあ、お風呂楽しんでね」


 ちょっとがっかりした風のリーナが部屋から出て行った。2人は苦笑いをすると、温泉に入り、お互いの体を批評しながら久しぶりの熱いお湯を楽しんだのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ