第55話 心肺蘇生の話
ダスティンの家のリビングにユウキ、カロリーナ、ユーリカ、ダスティンの4人にマクシミリアンと護衛騎士がテーブルを囲んで座っている。マヤはアンデッドということがマクシミリアン達にバレるとまずいので、2階の部屋に戻ってもらっている。
「ユウキ、教えて。なんでリタちゃん生き返ったの?」
「うん。リタちゃんはまだ完全に死んでなかったんだ。人は呼吸や心臓が止まっても短い時間は生きてる。その間に呼吸や心臓の動きを取り戻してやれば、生き返る可能性があるんだ。だから、試してみたの」
「何故、ユウキ君はそんなことを知っていたんだ。そんな知識、聞いたことがない」
「ごめんなさい。それは言えないんです。ただ、この方法は、やり方さえ知ってれば誰でもできるんです。ボクはその方法を知っていただけです」
「わかったよ、これ以上は聞かない。ただ、火消しはしないといけないな。あれは多くの人が見過ぎている。まあ、息が止まったのはもう一人の女の子の勘違いと言うことにして、ユウキ君は気を失った女の子を気づかせるために体を叩いていたという事にしておこう。単純な話程、人は信じやすいからな。お前たち、街の噂にしておくんだ」
「ハッ! 承知しました」
マクシミリアンは護衛騎士に指示を出す。
「それから、あの教団、あのタイミングで出てきたのは何故だ。少し調べてみる必要があるな。ユウキ君達も気をつけるんだよ」
マクシミリアンは話を纏めると、護衛騎士を連れて帰って行った。
「はああ~、ユウキと一緒だと色々あるね~、毎日がスリリング」
「カロリーナ、私も同感です。今日は何が起こるかハラハラドキドキです」
「カロリーナ、ユーリカ。ゴメンね。ボクのせいで変なことに巻き込んでしまって…。あの、ボクのことキライにならない? キライになったら、はっきり言ってほしい…かな」
「このバカチン! 何言ってんのよ。ユウキは私の命の恩人! 大切な大切なお友達よ。嫌いになるわけないじゃない! 今度そんな事言ったら張り倒すわよ!」
「そして、ユウキは1人の女の子を救ったの! 胸を張りなさ…、いや張らなくていいわ」
「私もカロリーナさんと同じ思いですよ。ユウキさんは私の大切なお友達です。これからも、何があっても一緒です。それに…」
「それに?」
「私たち、巨乳美少女じゃないですか。巨乳同士仲良くしなきゃです! あら、カロリーナさん。何ですかその目は」
「ありがとう2人とも。でも、あの…、カロリーナとユーリカって友達だよね?」
夏祭りの騒動から何日か経って、フィーアが屋敷から戻ってきた。
「ああ~、やっと帰って来れましたわ。やっぱりみんなのいるここが最高です。お屋敷は退屈で退屈で…」
「お帰り、フィーア。貴族のお嬢様のセリフじゃないね」
「それよりも皆さん、夏休みエンジョイしてたらしいじゃないですか。聞きましたよ「メイド喫茶」の話。凄かったらしいですね」
「おお、あれね。楽しかったよ。バイト料もいっぱいもらえたし」
「噂では、ツンデレ、巨乳、ボクっ子ドジっ子と属性てんこ盛りで、大盛況だったらしいじゃないですか。貴族の男子連中の中にはすっかりハマった方もいたみたいです」
「ユウキなんかね、お客さんで来たマクシミリアン様にお水こぼして、濡れたとこ拭くふりしておちんちん触るし、護衛の騎士さんにおっぱい押し付けるし、凄かったんだよ」
「まあ! ぜひ見たかったですわ! ああ、私もアルバイトしたかったな…」
「カ、カロリーナ! 誤解を招くこと言わないで! わざと触ったんじゃないし、押し付けたのは仕方なくだから!思い出したら恥ずかしくなってきた…。」
「フィーアさんが参加してたら、お嬢様属性が追加されましたね。見たかったです」
「あと、ユウキさんが女の子を助けた話も聞きましたよ。何でもビックリして倒れて気を失った子を一生懸命介抱したとか。流石ですね」
(よかった、マクシミリアン様うまくやってくれたんだ…)
3人は顔を見合わせてホッとするのだった。
「ただ、ユウキさんたちを囲んだ宗教教団。あれ、最近、国の方でも問題になっているんですよね。過激な思想で人心を惑わすみたいで。でも、この国では信教の自由が認められているから中々手を出せないみたいです」
「そうなんだ。急に出て来たからボクびっくりしたよ」
「まあ、変なのには近づかないことだよね。特にユウキは可愛いから目を付けられやすいし」
「カロリーナ…。うん、気をつけるよ。みんなもね」
夏休みも残り1日となり、明日は始業式という日、ユウキは文具を買いに、商店街に来ていた。メイド喫茶やリタの一件ですっかり有名人になってしまったユウキは、道行く人や商店のおじさんおばさんから声をかけられることが多くなった。
雑貨屋で買い物を済ませたユウキは、「こんにちは」と背後から声をかけられ、振り向くと、マクシミリアンの護衛をしていた騎士の1人が立っていた。
「あ、護衛騎士さん。あの節はお世話になりました」
「私は王国騎士団のモーガン。よろしく」
「ユウキです。あの、何でしょう。もうおっぱいは触らせませんよ」
「違うよ! メイド喫茶の件覚えてたんだ。わざとじゃないからね」
「実は、王子から色々君の話を聞いててね。機会があったら少し話をしたいなと思ってたんだ。そこのベンチに座ろう」
2人は、歩道に設置してあるベンチに並んで腰かけると、モーガンが話し始めた。
「君、結構剣の腕が立つんだってね。スラムでの戦闘、ゴブリンキングとの一騎打ちを王子から聞いてね。まさか、君みたいな可愛い女の子だとは思わなかったよ」
「どんな子だと思ってたんですか?」
「筋肉隆々の大灰色熊みたいな女」
「ひどい!」
「ははは、冗談だよ。ところで、どこで剣を習ったんだい」
「…王都に来る前までに住んでいた家の近所の方に教えてもらったんです」
「実は、私も剣の腕には自信があってね。機会があったら手合わせしてみたいな。その時は頼むよ」
「え、ええ、機会があったら。でも騎士団の方と戦ってもボクじゃ相手にならないと思いますよ。じゃ、ボク行きますから。お話してくれてありがとうございます」
家に戻るユウキの後姿を見て、モーガンは、「相手にならないか…、さて、どうかな」と呟くのであった。