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エピソード⑨ 魔王フェーリス 爆・誕!!

 翌朝、王国高等学校の正門から校舎に続く通路にはいつも通り、通学してきた大勢の生徒が友人と挨拶やお喋りしたり、眠そうに欠伸をしたりして歩いている。中には陸上部の生徒だろうか、ユニフォームを着てランニングしている姿もある。いつも通りの平和な日常の風景だ。空は晴れ上がり雲ひとつなく、気温も適度で爽やかな風が街路樹の葉を揺らしている。


「おはよー!」

「おはよう、いい天気だね」

「うん! そう言えばさ、今日からフェーリス様登校なさるんだよね」

「そうそう。お姫様から国王様かぁ。ステキ!」


 女生徒たちが集まってフェーリスの国王就任について噂話をしていると、急に冷たい風が吹きつけて来た。


「キャッ、寒い! ねえ、なんか様子おかしくない?」


 女生徒が不思議そうな顔で空を見る。先ほどまで綺麗な青空だったのに、いつの間にか霧が空を覆っていて、段々濃くなってきた。しかも今度は、風がピタリとなくなり、先程までうるさいほど聞こえていた鳥の囀りも止んでいる。通路を歩いていた生徒たちは、急に訪れた不気味な雰囲気に周囲を見回し、ざわざわと騒ぎ始めた。


「おい、何か聞こえないか?」

「何も聞こえねーぞ、脅かすなよ」

「ううん、聞こえるわ。門の方よ」


 その場にいる生徒が一斉に門の方を見る。やがて…、


『下ーにぃ、下に…』


「なっ、なんだ!?」

『下ーにぃ、下に…』


 地獄の底から響き渡るような声で、土下座を強要する掛け声が聞こえてくる。しかも、その声は徐々に近づいてくる。男子生徒は「ごくり」と唾を飲み込み、女子生徒は集まってガタガタ震え始めた。


『下ーにぃ、下に…』

「みっ、見ろ!」


 1人の男子生徒が叫び声を上げ、門の方を指差した。全員が門を注視する。霧の中からアイアン〇ング…ではなく、薄暗い影が現れ出、やがてそれは人の形になって来た。その姿がはっきりした時、生徒達全員驚愕し、悲鳴を上げた!


『下ーにぃ、下に…。ククッ、ワーハハハハッ! 見よ、リースちゃんよ! あの制服美少女たちの恐れ慄く顔を! クククッ、帝国では味わえないこの感動。おおう、股間が疼いて止まらん!!』


 現れ出たのは、薄汚れてボロボロになった着物を着た骸骨の魔物、ワイトキング「エドモンズ三世」。その両脇には、見事な巨乳のナイスバディを黒いトライアングルビキニと同色の紐パンで包み、黒マントに魔女の三角帽子を被った美少女リース&ニーナ。


 その背後にバインと爆乳を揺らせた植物魔物のアルラウネ「ルピナス」。魔物なのに、あまりの美少女度に男子生徒は見惚れてため息を漏らす。


 なお、ルピナスの背後にはアルラウネ親衛隊長のルミエルが嫌がるリオンとクロードを連れて、完全武装で睨みを利かせている。さらに恐ろしいのは、彼らの両脇を古びた槍を持ったスケルトンが、カタカタと骨を軋ませる音を立てながら、長い列を作って続いているのだった。その恐怖の光景に女生徒たちがガクブルしている。


「な、なになに、なんなのあの骸骨。こ、怖いよう」

「魔物が何故学校に…。それにあれ、リースちゃんとニーナさんじゃない?」

「冥界の魔女みたい。それにしても凄いエッチな恰好。これ見よがしな巨乳が妬ましい…」


「お、おれリースちゃんの胸の谷間の匂い嗅ぎたい…」

「死ね、ロリコン外道!」

「アンデッドの高笑いが不気味ぃ~」

「見ろ、アレ!」


 生徒達が騒めいていると、今度はガシャンガシャンと金属板が擦れあう音がして、鎧を纏った巨大な首無し馬(黒大丸)と、それに跨った首無しの黒騎士が現れた。右手に手綱、左腕に黒兜を抱えている。兜の奥に光る赤い不気味な目が生徒達を睥睨する。


「キャアアアーーッ!!」

「デュ、デュラハンだ…」


『ブワッハハハハ! 恐れ慄け小童ども、我が名はヴォルフ、数々の戦で無敗を誇った漢! ツンデレとロリ巨乳を自称する美少女よ、吾輩の前に来るがよい! ワーハハハハッ!』


 女生徒たちの悲鳴と、男子生徒の恐れを帯びた呟きが交差する。しかも驚いたのは、デュラハンの前に制服姿の美少女が困惑した表情でちょこんと乗っていた事だった。


「フェッ、フェーリス様!?」

「みなさん。ごっ、ご機嫌よう。えへ、えへへ…」


『皆の者。頭が、頭が高ぁーいッ!!』(エドモンズ三世)

「このお方をどなたと心得る! 先のペチャパイ王女、フェーリス様であらせられるぞ! 控え、控えおろう!」(リース)


「誰がペチャパイじゃ! ヴォルフ、あの生意気な小娘を叩き潰せ!」

『無理言うなって』


『皆の者、よく聞け。新国王フェーリス様18歳は凄いのじゃ!』

「エドモンズ様!?」(フェーリス)


『フェーリス様のバストサイズは78cm! 中学生並みかやや負け! そしてこれ以上大きくならんのじゃ。つまり、永遠の若さ(バストサイズだけ)を持つ、ある意味奇跡の女! さあ、皆の者崇めよ! この国に新たに誕生した若き貧乳女王に忠誠を誓うのじゃ! 称えよーっ貧乳! ジーク、スモール・バスト!!』

「スモール・バストォー!」(リース&ニーナ)


『貧乳女王。ブワッハハハハ…、ギャアアアアーーッ!!』

『どうしたヴォルフ! ガハアッ!?』


 ド変態の双璧の悲鳴にリースは笑いを止め、何事かと振り向いた。その瞳に映ったのは、怒りに燃える目をして「フーッ、フーッ」と鼻息荒く、黒大丸から降りて大名行列の先頭に仁王立ちするフェーリス。しかも恐ろしい事に、左手はヴォルフの兜。目の部分に目潰しをかけて持ち、右手にはエドモンズ三世の髑髏の眼窩に指を突っ込んで高々と持ち上げている。エドモンズ三世はプラーンとぶら下がってピクリとも動かず、ヴォルフの胴体は黒大丸から落ちてケツを持ち上げたうつ伏せになって、こちらも完全に動きを止めている。


「ウリィイイイーッ!!」


 フェーリスが天に向かって吠えた。


 死霊の王ワイトキングと死の案内人デュラハンを瞬殺した狂気にリース達だけでなく、その場にいた全生徒が畏怖し、恐怖した。さらに、女生徒の何人かは失禁して気絶し、多くの生徒は絶叫して校舎に逃げ去った。しかも、エドモンズ三世を倒した事で、大勢のスケルトンがフェーリスを主と認め、膝を地についてかしずいている。


「や、ヤバいです。私たちも逃げましょう、ニーナさん」

「わ、わかった。でもリースちゃん、この行列とあたしたちの格好って何か意味があったの?」

「私の知り合い(ユウキ)が王様の行列はこれが正式だからって言ってまして」

「一体どこの国の人なの? 絶対騙されたんだよ!」

「衣装は着てみたかったからですかね。可愛いでしょう」

「確かにエロ可愛いくて、いいかなと思うけど…。リースちゃんも、大概変な子だね!」

「ニーナさんには言われたくないなぁ」

「どーいう意味よ!」


「うわっ! フェーリス様がこっち見てる。早く逃げましょう!」


 リースとニーナはすたこらさっさと逃げ出した。ルピナスやルミエルたちもあわあわと慌ててリース達の後に続く。残されたのは2体のアンデッドの頭部を手にしたフェーリスと、周囲にかしずくスケルトンだけになった。


 最後までこの光景を見ていた生徒たちは言った。「魔王」が降臨したと…。以降しばらく、フェーリスは学生たちの間で「貧乳大魔王」「ロディニアの狂気」「アンデッドを狩る女」等の異名を奉られたのだった。



「一体、何をやってるのかしら」

「心配して来てみれば案の定…。でも、この国も楽しくなりそう」

「ふふっ、本当ですわね」

「おめでとう、フェーリス様」


 門の陰から様子を伺っていたフィーアとユーリカは、顔を見合わせて「ふふっ」と笑い合った。そして、これからの王国と新国王に幸あらんことを願わずにいられなかった。


 お・し・ま・い。

 少し間が開いてしまいましたが、番外編10を掲載しました。お話はどうだったでしょうか。今回は全編を通じてフェーリス、後半はマクシミリアンとレウルスを中心とした内容となっています。ユウキにはユウキの想いがあったように、マクシミリアンにも悲しい想いがありました。本編ではユウキを裏切った卑怯な奴として書かれた彼の想いも知って評価していただければと思います。これから、フェーリスによってロディニア王国は大きく羽ばたくでしょう。どのような国になっていくのか楽しみですね。エドモンズ三世もヴォルフもルピナスもすっかり馴染んでいるようですし。


 ではまた、番外編でお会いしましょう。(最後の話は少しふざけ過ぎましたね。反省…)

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