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エピソード⑥ フェーリスvsマクシミリアン

 果し合いはフェーリスの代理人であるデュラハン「ヴォルフ」とワイトキング「エドモンズ三世」の圧勝(?)という形で幕を閉じた。流石にリオンは王子だけあって潔く、ニーナの裸体鑑賞もできて満足したとあって素直に負けを認めたが、ルミエルは諦め悪く負けを認めていなかった。

 ちなみに、クロードはエドモンズ三世の治癒魔法で全回復して感謝の言葉を述べ、ニーナはルミエルの護衛の任を辞退した。


「まだ、まだ勝負は終わってないわよ」

「諦めが悪いわよ、ルミエル」

「うるさい! 私は簡単に負けを認めたくないの!」

「面倒臭い性格をしてるわねぇ」

「メンドクサイ言うな! えーと、えーと、そうだ! どっちが美しいか美貌で勝負よ!」


 ルミエルはビシッとフェーリスに指差しするが、何故かフェーリスやリースの反応が悪い。こういうものに乗ってきそうなアンデッドたちも微妙な感じで佇んでいる。


「あ、あれ?」


 困惑するルミエルにフェーリスがため息をつきつき話しかけた。


「はぁ~。あのね、美少女2人が美貌勝負して意味があるの? 男子の好みは人それぞれで、簡単には決められないのよ。それに、あなたも中々の美人さんだけど、私だって負けてないと思うし」

『胸の大きさは圧倒的に負けてるがな』(byヴォルフ)

「う、うるさいやい!」


 気を取り直して、コホンとひとつ咳払いしたフェーリスちゃん。それでもやるかと相手に確認を取るのは優しさゆえか、勝負にならないと判断したゆえか。


「それでもやる? やるなら私は代理人を出すわよ」

「代理人ですって?」

「そう。代理人。そこにいるド変態の双璧とは違う完璧美少女よ」

「ふ、ふん。そんながいたら連れてきなさいよ。わ、私の方がカワイイに決まってるんだから」

「仕方ないわね。腰を抜かさないでよ」


 フェーリスは胸のペンダント(真理のペンデレート)に触れて魔力を通した。ペンダントが眩しく輝き、ルミエルは腕で光を遮る。その光の中から何かが飛び出してきた。その正体を見てルミエルは心臓が飛び出るほど驚いた。いや、ルミエルだけではない。ニーナもリオンも、あのクロードでさえ声も出せないほど驚いている。


『やっほ、ルピナスだよ♡』


 そう。光の中から出てきたのは、美しい虹色の八重咲の花が咲いた大きな緑色をした球形の植物体と、花の中心から超絶に美しい女性の上半身が出ている魔物。その女性はやや癖のある緑色の髪、きりっとした大きな目にバランスが整った鼻と笑みを浮かべたピンクの唇がとっても可愛い超絶美少女。何より目立つのは、茶色い植物質の布で覆われた形の良いビッグなバストだった。


「こ、これって。まさか、アルラウネなの? 信じられない」

「この娘は正真正銘アルラウネです。しかも、アルラウネの中でも特に希少な種族のハイ・アルラウネなんだそうよ」

「アルラウネ…。本当に存在してただなんて。なんて、なんて美しいの…」

「ルピナスちゃん、フォームチェーンジ!」


『ハーイッ』


 ボボン!という音とともに白い煙が立ち上がってルピナスを包み込んだ。ルミエルが固唾を飲んで見守っていると煙が晴れ、中から人間体に変身したルピナスが現れた。上半身の美しさはそのままに、下半身も形の良いお尻と、そこから伸びたスラリとした美脚。美しい肢体を包む黒系のワンピースドレスもエナメルのパンプスも似合ってて、ルピナスの美しさを際立たせている。


「どう? ルピナスと勝負する?」

『得意な勝負はぁ、ぬるぬるバトルよっ♡』

「いえ…、私の負け。ううん、勝負なんてどーでもいい」


 ルミエルはよろよろとルピナスに近づくと「キャーッ!」と叫んで抱き着き、豊かなバストに顔を埋めた。突然の事にルピナスもフェーリスもびっくり驚いた。


「ステキ、なんて素敵なの! あの幻のアルラウネに会えるなんて。私、小さな頃「お花畑のアルラウネ」って絵本を読んでから、アルラウネが大好きになってずっと会いたいって思ってたの。でも、幻の中の幻って言われる魔物だから無理だって諦めてた。でも、今私の目の前にアルラウネちゃんが、ルピナスちゃんが現れたーっ! キャーッ! 最高よ、もう最高すぎて勝負なんてどうでもいいのーっ!」


『ほほう。良かったの、ルピナス』

『うん! ねえ、お友達になってくれる?』

「なるなる! なりますって言うか、三跪九叩頭でお願いしちゃう!」


「うーん。ルミエル様も大概変な奴でしたね」(リース)

「ニーナちゃんとは別なベクトルで変だった。まあ、夢が叶って良かったねって感じ?」(フェーリス)

「リオン様は変態ヴォルフと気が合ったようですね。果し合いそっちのけでロリ巨乳談義してますよ。クッソ最低です」(リース)


「まあ、とにかく終わって良かったわ。ホントに疲れたなぁもう…」

「そうだ!? 学校ではこの果し合いの噂で持ち切りでした。どうやって広めようかな」

「リースちゃんは楽しそうでいいわね」

「はい! フェーリス様の周りにどんどんド変態や変な奴ばかり集まって、一緒にいると全く退屈しません!」

「全然嬉しくもなんともないわ。あと、リースちゃんもその変な奴の一員だからね」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 果たし合い(?)を終えて、タスカローザの丘でお互いを認め合い、今度はみんなで遊ぶ約束をして笑顔で解散した。フェーリスはあれだけ自分を嫌っていたリオンやルミエルと親交を得た事で満足だったし、ニーナにはすっかり懐かれてしまった。

 王都の大通りでみんなと別れ、王宮に戻ってきた。既に日も沈みかかり、空も茜空から薄明と変化し、昼間は賑やかな王宮前広場も静かな夕暮れを迎えている。

 エドモンズ三世とヴォルフ、ルピナスはペンダントに戻している。3人とも興奮冷めやらぬ風で、ペンダントから楽しそうな波動が伝わって来る。しかし、王宮を目の前にしたフェーリスの心は少しずつ沈んでいくのだった。


「ただいま…」


 王宮の正面扉を開けてロビーに入る。静かな城内は休日ともあって明かりが落とされ、少し薄暗い。ただ、無人という訳ではなく、城内の警備をする警備兵や国王家族の世話をする使用人が働いている姿が散見される。フェーリスの姿を見つけたメイドの1人が走り寄って来た。


「お帰りなさいませ、フェーリス様。お食事はどういたしますか?」

「お兄様たちは?」

「既に終えられて、自室にお戻りです」

「なら、私は部屋で食べるわ。1時間くらいしたら食事を運んでくださる?」

「承知しました」


 調理場に向かうメイドを見送り、再び人気が少ない廊下を自室に向かって歩いていると、不意に声が掛けられた。


「フェーリス」

「あ、お兄…さま」

「出かけていたのか?」

「ええ、まあ…」

「そうか」


 マクシミリアンは、じっ…とフェーリスの顔を見つめた後、興味を失ったように執務室に入って行った。ぱたんと小さな音を立てて閉じた扉を眺めていたフェーリスは、兄と話をするいい機会かもしれないと思い、執務室の扉をノックすると、返事も待たずに中に入った。中は明かりも無く薄暗い。月の光だけが室内に差し込んでいる。マクシミリアンは部屋の中央窓際に置かれた机の椅子に腰かけて外を眺めていた。


「お兄様、少しお話しませんか?」

「なんだ、藪から棒に。私は話す事なんかない。出て行きなさい」

「いいえ。お兄様には無くても、私にはあります」

「…………。勝手にしろ」


 フェーリスは部屋の隅に置かれていた椅子を持って、執務机の前に置いて座り、窓の外を眺めるマクシミリアンの横顔を見た。精悍な顔つきは昔と変わらないものの、表情に影が差し、やや疲れているようにも感じられる。


(お兄様、疲れているな…)


 兄の横顔を見て国政を担うという事の大変さに思いを馳せていると、マクシミリアンの方から声をかけてきた。


「…まさか、休暇を取ったレウルス兄さんが帝国に行くとは思わなかった。それに、お前やフィーアやユーリカも付いて行ったとはな…」

「レウルス兄様は、この国の発展にはどうしてもカルディア帝国との文化・技術交流が必要とお思いなのです」

「そんなことは、俺にだってわかっている…」


「でしたら、何で帝国との交流を妨げるような真似をするのです。それに、皇太子妃を引き渡せとか、正気の沙汰じゃありません。帝国逗留中、偶然ですが宰相閣下のご子息であるヴァルター様とお会いすることができました。その時に聞いたのです。帝国ではこの国に宣戦布告する一歩手前だったと言っておられました!」


「…お前は会って来たのか? あの女に…」

「はい」

「どんな様子だった?」

「えっ!?」

「どんな様子だったと聞いているのだ。幸せそうだったか?」


「はい。とても幸せそうでした。よい伴侶に恵まれ、大勢の友人に囲まれ、周りの方々からも大切にされておられました。ただ、幸せに至るまではこの国の事で相当苦しい思いをされたと周りの方がおっしゃっていましたが…」


「そうか、幸せそうだったか…」

「お兄様?」

「なら、尚更俺はあの女が許せん!」


 マクシミリアンは急に怒気を孕んだ表情になり、拳で机を叩いた。兄の豹変にフェーリスは驚いて青ざめた。


「き、急にどうされたのです!?」

「あの女が、この国を国民を傷つけた魔女がのうのうと生き、幸せに暮らしているとは、許し難く認められる訳無いと言っているのだ! 俺は…、俺はあの女が絶対に許せない!」

「お、お兄様…。何故? 何故なのですか? 高等学校時代、お兄様とユウキ様はあれほど仲が良かったではありませんか。愛し合っていたのではなかったのですか!?」


「確かに俺自身の勇気を呼び起こし、生きる意味に気付かせてくれたあの女は好きだった。ただ、それは一時の出来事。第4騎士団の任務に就いた後に起こった魔物戦争で、魔物との戦いの中で死ぬ直前の極限状態に置かれた俺をずっと側にいて健気に支えてくれたのは、副官のイングリッドだった。ユウキとかいう女ではない。俺はイングリッドという女性に助けられ、彼女を愛してしまったんだ!」


「お兄様…」


「そのイングリッドを魔女と化したあの女の眷属が殺したんだ! 俺との結婚を夢見ていつも笑顔で側にいてくれたイングリッドをあの女は殺した。国を破壊したことも、大勢の国民を傷つけたことも許し難いが、俺の大切なイングリッドを殺したことが何より許せん! 宣戦布告? 大いに結構、その時こそ、自らこの手であの女を殺してくれる!」


「なんてことを…。ユウキ様の魔女化にはお兄様も関わっているんです。ご存じですか?」


「なに?」


「お兄様がイングリッド様を愛されたのは仕方ないと思います。感情は人それぞれですから。でも、ユウキ様もまた、お兄様を愛されていた。それはお兄様もご存じだったはず。ですから、お兄様はその事に向き合い、ユウキ様としっかりとお話し合いをして、お互いに納得の上で別れるべきでした。それを怠ったからこそ、純粋なユウキ様は裏切られたと深く傷ついたのです」


「なんだと…」


「まだあります。あの処刑台の上でユウキ様はお兄様の姿を見つけていた。ユウキ様は自分を助けてくれると信じていた。しかし、お兄様は私が「助けて」と懇願するにも関わらず、ユウキ様を見殺しにしようとした。その結果、ユウキ様の大切なご友人であったララ様が命を落とす結果になり、全てに絶望されたのです!」


「…それがどうした」

「えっ!?」

「それがどうしたと言うんだ。ユウキが傷ついたのは自分の思い込みのせいで、俺の知った事ではない。また、処刑台の件は、お前を含め大勢の命を助けるためには必要な判断だった。俺はその判断を間違っていたとは思わん。よって、何故俺のせいだとなるのか理解できん!」


「お兄様!?」

「もう、お前と話すことはない。不愉快だ。出ていけ!」


「嫌です! お話はまだあります!」

「俺にはない!」

「私にはあります! 王国の公式記録では魔女は死んだことになっています。それでいいではありませんか。いつまでも引きずっては、亡くなった方々も浮かばれません。ユウキ様にこだわるのは、もうお止めください。そして、レウルス兄様の言う通りカルディア帝国に謝罪し、友好親善を図られてください。なんなら謝罪の役は私が仰せつかりますから!」


「…………」

「お願いです、お兄様」

「…お前は何かにつけ、レウルス、レウルスと言いやがる。いいか、この国の王は俺だ。確かにあいつのいう事も分かる。だが、謝罪はせん。身柄引き渡し要求は続ける。いいか、この国の最終決定権者は俺だ。忘れるな!」


「この…、わからず屋のクソバカ男!」

「なんだと、兄に向かってバカとはなんだバカとは! このド貧乳ブス!」

「貧乳言ったな、ショボチン野郎!」

「おお、言ったとも。この短足寸胴色気無し!」

「な、なんですとー!」


 執務室内は兄妹同士による罵詈雑言飛び交う修羅場となった。騒ぎを聞きつけて親衛隊長のラブマンや執事長のギリアム、メイド達が部屋に入って、ギャーギャー喚きながら取っ組み合いを始めた2人を引きはがしにかかる。余りに煩いので王妃のルイーズも何事かと自室から出てきて兄妹喧嘩に驚き、慌てて止めに入った。


 王宮内が喧騒に包まれる中、人目につかない場所で様子を伺っていたレウルスは、腕組みをして何かを考えた後、そっとその場を離れたのだった。

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