エピソード③ 双璧、ロディニアの大地に立つ!!
「ああ~、もう帝都があんな遠くに…」
「たった10日程でしたけど、本当に楽しかったです」
「まあ。最後のBBQは地獄でしたけどね」
「あれは滅茶苦茶でした。流石に10時間ぶっ続けは異常です」
「でも、最後はみんな笑ってました。あんなの、今のロディニア王家では無理ですね…」
シュロス・アードラー港からマッサリアを経てリーズリット港に向かう高速旅客船の甲板上で、遠ざかるラミディア大陸を感慨深げに眺めるフィーアとユーリカ。目的であったユウキと邂逅でき、さらにはカロリーナとも再会した。そこで、お互いの想いをぶつけ合い、和解を遂げたことは本当に嬉しい出来事だった。できれば今度はロディニアにユウキを招きたいと思うが、それは無理な話だろうと諦める。
「フィーア」
「あ、あなた」
レウルスが声をかけて来たことで、気を利かせたユーリカが船室に戻り、2人きりになったフィーアとレウルスは船縁に並んで穏やかな海面を眺める。
「どうしたんだい、寂しそうにして」
「ええ。帝国の旅行は楽しかったなあって。ユウキさんとも会えましたし、色々な方と知己を結ぶことが出来ました。それに、ロディニアと違って明るくて雰囲気が良くて人々がとても幸せそうでした。これも皇族の方々のお人柄なのでしょうね。悔しいくらいに羨ましかったですわ」
「そうだね。私にとっても今回の旅行は得るものが大きかった。やはり、帝国と友好を結び交易を活発化させないといけないと思ったよ。先進技術だけでなく、人としての生き方も学ばなければと考えさせられた」
「でも、今の状況では難しいのではなくて?」
「そうだな。マクシミリアンの意識が変わらないと無理かも知れない」
「残念ですわね。せっかくミュラー様とも知己を得たのに」
「…………。フィーア、聞いてくれるかい」
「はい?」
「私は、マクシミリアンを退位させ、フェーリスを王位につかせようと思う」
「え、ええっ!?」
「幸い、ユウキ様が自身の眷属をフェーリスに貸し与えてくれた。彼らの協力を得れば可能だと考えている。実は、もう彼らに話を付けているんだ」
「あなた…。わかりました。私も王国宰相の妻です。最後まであなたについて行きますわ」
「ありがとう、フィーア。でもまあ、その前にフェーリスは果し合いとやらに決着を付けねばならないけどね」
「ふふっ、そうでした」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………」
「いい加減元気出してください。フェーリス様」
「…元気なんて出ないわよ。なんで、帝国まで来て乱闘騒ぎを起こさにゃならんのよ。しかも皇帝陛下やユウキさんに滅茶苦茶笑われ、皇妃様には「王女様が何してるんですか!」ってお説教されたし。おまけにリースちゃんはさっさと離脱してるんだもん。死にたい」
「しかし、あの乱闘凄かったですね」
「パールって悪魔とアリエルって天使、滅茶苦茶強いんだもの。あと、アンゼリッテっていう女の子、アンデッドなんですってよ」
「最後、貧乳対巨乳みたいな感じになってましたね。数合わせに入れられたメルティっていう巨乳エルフさんが可哀そうでした。パールさんとクリスタさんの盾にされて、泣いてましたよ」
「…いいのよ、巨乳は死するべき存在だから」
「だめだこりゃ」
フェーリスが船室のベッドに腰かけてどよーんと暗いオーラを漂わせていると、ガチャリと音がして船室のドアが開いた。どやどやと入ってきたのは、シルクハットに白ワイシャツと黒のスーツ上下に革靴、そして、目の部分だけ空いた怪しい仮面をかぶったエドモンズ三世に、髪をオールバックにして口髭を生やしたちょいエロオヤジの人型モードのヴォルフにめちゃ可愛い花柄ワンピースを着た超絶巨乳美少女、アルラウネ3姉妹の次女ルピナスだった。
『なんじゃなんじゃ、辛気臭い顔をしているのう。あ、元からか』
「ぷふっ…」(リース)
『お姫様、あんまり気にしない方がいいわよ。外に出てみなさいよ。風がとっても気持ちいいわよ』
『そうそう。気分転換も必要ぞ。しかし、あの乱闘は凄かったな。パールと互角に殴り合うとは、フェーちゃんは中々の逸材。どうだ、吾輩が剣術を教授しようか?』
「…お断りします。私はお淑やかが売りなので」
「………。(もうボロが出てますけどね)」
エドモンズ三世たちは、椅子を持ってきて座るとフェーリスに訊ねてきた。
『ところで、儂らはユウキからフェーリスちゃんの手伝いをお願いされたが、詳しい内容は聞いておらなんだ。一体、儂らは何をすればよいのじゃ?』
「あー、そうだったわね。実は私、決闘を申し込まれていて、変態の双璧さんに私の代理人として戦って欲しいのよ」
『なんだ、そんな事か。吾輩らに任せとけば秒で終わらせたるわい』
『あたしは戦えないから、精一杯応援するわね』
『で、相手は誰じゃ?』
「うん、それがね…」
フェーリスはアルスター公国王子のリオンとコナハト神聖国聖女のルミエルという貴族の子女と確執があり、敵視されていることについて説明した。また、彼らの代理人となる人物についても、知り得る情報を話した。
「とにかく、剣士クロードと魔術師ニーノもそうだけど、ルミエルっていうクソ女も自分の美貌をひけらかしてうざったいのよね。確かに美人ではあるんだけど。胸も大きいし…」
『ふむ…。で、あればクロードとやらはヴォルフに任せよう。ニーノは儂が片付ける。ルミエルとやら出張ってくればルピナスが対応すればよい。上には上がいることを知ったら、どんな顔をするのか…、ククッ、思春期美少女のぐぬぬ顔。想像しただけで恥骨がカタカタ踊るわい』
『ルミエルとニーノという女。巨乳との事だが、ロりではないのか…つまらんな』
「サイテーだね、このクソ変態。あのね、巨乳だけが女の魅力じゃないんだからね」
『誰が変態じゃ!? 吾輩はロり巨乳大好きという信念を持って生きる漢よ。フェーちゃんこそいちいち反応するとは、負け犬の遠吠えにしか聞こえんぞ!』
「貴様…、何が信念に生きるってのよ。とっくに死んでるくせに!」
『あ、そうだった』
『2人とも落ち着け。ここはひとつ作戦を考えようではないか』
「作戦?」
『そうじゃ。せっかく我々が揃ったのじゃ。お主の相手とやらの度肝を抜いてやろうではないか。いいかフェーリスちゃん。勝負は既に始まっていると思え』
「はあ…。とんでもない事にならなきゃいいけど…」
「ワクワクしますね!」
「しないわよ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
航海は順調に進み、6日程でリーズリットの港に到着した。港に足を下ろしたフェーリスは「う~ん」と背伸びをして北の大地の空気を目いっぱい肺に吸い込んだ。
「う~ん…。この空気の匂いは、やっぱり故郷って感じよね~」
「同じ空気なのに、場所によって感じ方が違うって不思議ですよね」
「リースちゃんも、そう思う?」
「やっぱり、生まれ故郷だからですかね」
「何を言ってるんだか。たかだか20日程離れてただけでしょう?」
「フィーアさんは情緒が無いですねぇ」
「フェーリス様は乳がありませんけどね」
「やかましいわ!」
『ふーん、ここがロディニアかぁ。やっぱり、ラミディアとは草花の雰囲気が違うね』
「さすがアルラウネ。分かります?」
『うん、わかるよ。でも、全然嫌じゃない。だって、道端のお花さんたち、みんなルピナスに挨拶してくれるんだ。嬉しいよね』
「うふふ、ルピナスさんカワイイ。とってもいい笑顔ですわ」
『えへへ♡』
『ヴォルフよ』
『なんだい、エドちゃん』
『これがロディニアの大地。よき感触ではないか! ウワーッハハハ!!』
『前回はペンダントに入れられたままだったからな。だが、今回は違う!』
『そうじゃ。儂らは今この地に立っておる。いざ出陣! 思春期巨乳美少女狩りじゃあ!!』
『ヒャッハー! ここにはユウキもおらぬ。吾輩らの戦を阻む者はナッシンィーング! ツンデレ系ロリっ子巨乳美少女はどこじゃあーっ!』
『アルフィーネが言ってた通りだわ。とてつもない変態よねコイツら。ここにたくさん美人が揃ってるじゃないの。一体あたしらの何が不満なのよ?』
『ワハハハハ! 確かにお主らは美人で巨乳揃い(フェーリスを除く)。だが、それだけの事よ。見知らぬ美少女との邂逅、それこそが儂らの心を動かす原動力なり!』
『どこだ、どこにいる! 背は小さく、ちょっと小悪魔っぽい系の顔立ちをしたロリ顔巨乳のアソコがツルツルの美少女は!! 吾輩の理想の美少女よ、カッモォーン!!』
「ク、クズ過ぎる…。これ、本当にユウキさんの眷属ですの?」
「フィーアさん、このド変態の双璧、本当にロディニアに連れて来て良かったんですか? 私たちじゃ止められませんよ」
ウッキウキのエドモンズ三世とヴォルフの変態コンビはリーズリットの街中に突撃しようとしている。頭を抱えるフィーアとユーリカの前にむっつり顔のフェーリスが進み出て来て、胸のペンダントに魔力を通した。途端にペンダントの中に吸い込まれそうになり、必死に足を踏ん張って抵抗するド変態ーズ。
『むぐぐ…、ぬぉおおおっ…フェ、フェーリス…か』
『や、やめろ。吾輩らを縛らないでくれぇ~っ』
「いやよ。アンタらは決闘の日までペンダントに入ってなさい」
『フェッ、フェーちゃんのいけずぅう~っ』
『にょほほほ~っ』
「何がフェーリスを除く…よ。失礼しちゃうわね」
流石のド変態ズも使役者には逆らえず、悲鳴を上げながらペンダントに吸い込まれていった。
『いやぁああああん!』
「バカめと言ってやるわ。バカめ」
一連の流れを傍観していたリースにレウルスとモーガンが声をかけた。
「終わったか? 迎えの馬車が来たから行くぞ」
「アッハイ。皆に声をかけますね」
迎えの馬車に乗り込んだフィーアとユーリカは、座席に着くなり深くため息をついた。
「到着早々これでは、先が思いやられますわ」
「あんなの(エドモンズ三世とヴォルフ)を使いこなすんですから、ユウキさんて、ホント凄いです」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日が暮れて薄暗くなった頃、一行は王都ロディニアに戻って来た。大通りでリースを下ろした後、お城に寄ってもらって馬車から降りた(降りる直前にルピナスもペンダントに収容済み)。
御者が荷台からキャリーケースを下ろしてフェーリスに渡した。御者にお礼を言ってバッグを受け取ると、馬車内のレウルスやフィーアに挨拶をした。
「お兄様、お義姉様、お世話になりました。帝国への旅は大変有意義であり、楽しくありました。お兄様、旅行に誘ってくださってありがとうございました」
「フェーリスの想いが叶って良かったよ。さあ、明日からまたいつもの日常が始まる。今夜はゆっくりお休み」
「はい。では失礼します」
御者は馬車のドアを閉めると馬車を出発させた。フェーリスは馬車が見えなくなるまで見送った後、キャリーケースを引っ張りながら正門脇の通用口から中に入った。王宮の中を見回したフェーリスはため息をついた。まだ宵の口だと言うのに城の中は人気が無く、静まり返ってまるで活気が無い。
(帝国のお城や皇太子宮はこの時間でも多くの人で賑わっていたよね。そしてみんな笑顔で仕事してた。全然違うわね。何とかできないもんかな…)
長い廊下をキャリーケースを引きながら、とぼとぼと歩いていると通用口の警備兵から連絡があったのか、執事長と担当メイドが汗をかきかき、走り寄って来た。
「お、お帰りなさいませ、王女様」
「ただいま、ギリアム」
メイドの女性がキャリーケースを受け取って部屋に運ぶ。執事のギリアムと並んで歩いたフェーリスは、気になった事を聞いてみた。
「国王様は?」
「お部屋でお休みになられております」
「そう…。じゃあ、ご報告は明日でいいわね」
「は、それでよろしいかと。王妃様が旅の様子を聞きたがっておりました。あと、明後日から学校が始まりますので、ご準備もなさりませんと」
旅の報告をしてマクシミリアンがどう反応するか、きっといい顔はしないんだろうなと思うと気分が沈むフェーリスだった。




