エピソード② 終わりの見えない混乱怒涛の送別会!
狂乱のBBQパーティは時を追う毎に賑やかに、そして訳が分からなくなって行く。後日人々は言った。あれは本物の混沌だったと。
「ワーハハハハ! お前らも飲め、仕事は終了! 今日はおしまい!!」
「ミュラー様、ありがとうございます!」
「一生ついて行きます!!」
ミュラーは勤務中の警備兵を集めて仕事を止めさせ、がっぱがっぱと酒を飲む。警備兵たちも焼き肉のいい匂いに我慢できず、仕事を放り出して肉を食い、酒を飲み始めた。
「う~っ、ごくごくごく、ぷっはーっ! でもなんですね、ミュラー様は幸せ者ですね」
「ごっきゅ、ごっきゅ、ごっきゅ! うぇ~い、何だよ唐突に」
「だってですよ、あんなに美人でナイスバディなお方をお嫁さんにしたんですから。羨ましくて呪いをかけたくなる位ですよ。リア充死すべし!」
「わーははは! 羨め羨め、しかも、ユウキちゃんはなぁ~、オレにぞっこんなんだぞ。彼女がどうしても、オレが好きで結婚したいって告白してきたんだぞ」
「流石ミュラー様! 流れ石です。りゅーせきです!!」
「んな訳ねーだろ」
「誰だ!って、テメェはレオンハルト!」
「こいつはなぁ、ユウキちゃんにセクハラかましてめっちゃ嫌われてたんだぞ。それにストーカー紛いの行動でケツを追いかまわして嫌がられてたんだ。しかもだぞ、ガルガの件でロディニアに向かった時、リーズリットの町でユウキちゃんをほっぽって、おっぱいパブとノーパン喫茶で遊んだ事がバレて軽蔑され、三跪九叩頭の末にやっと許してもらったんだ。ユウキちゃんに頭が上がらないのはこいつの方だぜ」
「ウルセェ! テメェだってエヴァが入っている風呂に全裸突撃して、勃起した金玉蹴られたあげく、ケツ穴丸出しで土下座して許しを乞うてたじゃねーか! エヴァのでけぇケツに敷かれているのはテメェの方だろが!」
ミュラーと一緒に酒を飲んでいた警備兵たちがどっと笑った。ミュラーとレオンハルトは「ぐぬぬ…」と顔を近づけて睨み合う。
「勝負だ、レオンハルト!」
「よっしゃ、受けて立つ!」
2人は酒が入った大樽を使用人に命じて運ばせると、ジョッキで直接汲み上げて、ごっごっごっ!と飲み始めた。周りで警備兵たちが「イッキ!イッキ!!」と囃し立てる。遠巻きにその様子を見ていたユウキとエヴァリーナはアルムダートの悲劇を思い出し、その場から逃げ出した。置いてけぼりになったフィーアとユーリカは少々呆れ気味に言葉を交わす。
「くっそサイテーですわ、あの人たち」
「一瞬でもミュラー様を尊敬した自分を殴りたい」
「でも、帝国の人たちは幸せですわね。ミュラー様のように人として優れ、真から国民に慕われている方が次の皇帝になられるのですから」
「本当です。うちの国王様に爪の垢でも飲ませてやりたいです」
フィーアとユーリカは、大勢の人に囲まれ、楽しそうに酒を飲んで騒ぐミュラーを見て帝国が羨ましくなった。また、あの戦争後、失意のまま行方をくらませていたレオンハルトがこの国で幸せになっていたことも嬉しかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「フェーリス様、お久しぶり。随分と背が伸びたわね。それにとても可愛らしくなった」
リースと2人で串焼きを堪能していたフェーリスに、背後から声が掛けられた。振り向いたフェーリスは相手を見て驚くとともに懐かしさを感じて胸がいっぱいになる。
「カロリーナ様!?」
「胸の大きさも幼児の様に可愛らしいですけどね」
「リースちゃんは黙ってて! スミマセン、カロリーナ様。カロリーナ様もお変わりなく」
「そういえば、フェーリス様って私を見て驚かなかったわね」
「実は私、ユウキ様が生きておられたことを知っていたんです。だから、カロリーナ様も生きていても不思議ではないというか、絶対に生きていると思ってました」
フェーリスはリーズリットの海岸でユウキと出会っていた事を話した。2人の間の雰囲気を察したリースはそっとその場から離れる。
「私、フェーリス様にずっと謝りたいと思ってたの」
「謝りたい? 私にですか?」
「うん。アクーラ要塞でフェーリス様を突き飛ばして暴言吐いちゃったでしょう。実は、ずっと心のしこりとして残ってたのよね。あの時は本当にごめんなさい」
「ううん、アレは怒られても仕方ないと思います。私の方こそカロリーナ様の気持ちも考えずに申し訳ありませんでした」
2人同時に頭を下げ合い、同時に顔を上げた。それが何だかおかしくて、ぷっと噴き出した。
「折角再会したのだし、今日は楽しみましょう!」
「はい! お肉をたくさん食べて、お胸に栄養を回さなくちゃ!」
焼き網上の串焼きに手を伸ばそうとしたフェーリスの目の前に、お皿がすっと差し出された。びっくりしたフェーリスが横を見ると皿を持ったリースがニコッと笑っている。
「ありがとう、リースちゃ…」
礼を言おうとしたフェーリスだったが、皿の上に肉と野菜を並べて作られた文字を見て激高した。そこには「waste(無駄)」と書かれてあったのだ。
「何がwasteじゃ! 何よその優越感に浸った目は! もう怒った。リース許さん、怒りの鉄拳思い知れ!!」
「わあっ! マジギレして殴りかかってきた! これは予想外の反応!?」
怒涛の勢いでリースに掴みかかったフェーリスは、ごろごろと地面を転がり、カストルを巡って未だキャットファイトしているアンゼリッテ集団と激突した。
『なっ、何こいつら!? 痛っ、痛いってば!』(パール&アリエル)
「うがぁああああっ!!」(フェーリス)
「こいつらも、あたしとカストル君の仲を裂こうっていうの!? いいでしょう、纏めて叩きのめす! ビッグバスト・プレッシャー!!」(クリスタ)
『ヒャッハー! 巨乳は消毒だぁー!!』(アンゼリッテ)
「あ~あ…、もう滅茶苦茶。でも、フェーリス様、元気そうでよかったわ」(カロリーナ)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ええ~っ、ヴォルフさん、エドモンズさんとロディニアに行くんですかぁ~。アルフィーネも行きたいです!』
『いいな~、あたしも行きたいよ~』
『メリーベルもです。いつもお姉さまばかり旅をしてずるい!』
『とは言ってもな、別に遊びに行く訳でもないんだぞ』
『ずるいです、ずるいです。ヴォルフさんだけずるいです! ヴォルフさんのドスケベ、変態、振られ魔、おっぱい星人、不能!』
『不能って酷い! アルフィーネたちに言われると、流石の吾輩も傷つくぞ!』
「なになに、どうしたの? そんなに騒いで」
『あっ、御主人様。どうしてド変態の双璧ばっかりなんですか!? アルフィーネもロディニアに行ってみたいです』
『あたしも行ってみたい』
『メリーベルも旅と冒険したいです』
騒ぎを聞きつけたユウキが声をかけると、ヴォルフからロディニアに行くと聞きつけたアルラウネ3姉妹が自分も行きたいと駄々をこねているところだった。
「う~ん。そうねぇ…。流石に3人は無理だから1人ならいいわよ。誰が行くかは話し合って決めてね」
『なら話は早いです』
3姉妹は頷き合うと、ボンと音を立てて人形モードに変身した。しかも、3人ともトライアングルビキニ&ハイレグヒモパンの際どい水着姿。ぶるんと揺れるビッグバストに、なんだなんだと漢たちが寄って来る。
『これは、リリアンナ様特製ぬるぬるローション。従来の1.5倍増しのぬるぬるさです。ルピナス、メリーベル。これを全身にかけて「ぬるぬるバトル」で勝負です!』
『望むところよ』
ウォオオオーッ!とギャラリー(主に宮の警備兵さん)が気勢を上げる。魔物とはいえ超絶美少女との呼び声高いアルラウネ3姉妹による肉体の宴に気分は最高潮。3姉妹はローションを体にかけ、戦いの準備は整った。今、ロディニア行きを掛けた熱き女の戦いが始まった!
『いざ、勝負!!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おーい、ユウキー」
「あ、ラピス!」
「お招きありがとう」
「うん、来てくれて嬉しいわ」
「皇太子妃様、お初にお目にかかります」
「ラピス、この方は…」
「あはっ。わたくしの婚約者」
「レオルド・アレクサンダーと申します」
ラピスと一緒に現れたのは高身長で細マッチョっぽい体つきの超イケメン男性だった。あまりの美形にユウキもポ~ッとなってしまう。
「あなたがアレクサンダー将軍のご子息の!? あっと、ごめんなさい。来てくださって嬉しいわ。ラピス、レオルドさんて凄いハンサムじゃないの! 羨ましいわね」
「えへへ。あげないわよ」
「わかってるって。うふふっ」
「ところで、ユウキの旦那様である、わが兄上は?」
「…………あそこ」
顔を曇らせたユウキが指差した先を見てラピスは呆れ、レオルドは苦笑いする。そこにはというと。
「わーははははっはぁ! やるぞエロンハルトォーッ! 大暴露大会-ッ!!」
「オーケェーイ! 最初の獲物はエヴァの兄ちゃん、ヴァルタァーッ!」
「なにっ、オレか!?」
「フラン、よく聞け。ヴァルターは実は「隠れ巨乳好き」でぇ、よくお前に隠れておっぱいパブに行って、巨乳娘のおっぱいをだらしない顔してモミモミしてるんだぞぉ! ママのおっぱい飲みたぁ~いって言ってな! ギャハハハハ!」
「おまけに、オーガの里のカグヤっていう未亡人の巨乳オーグリスといい感じなんだぜぇってゆーか、里に行くと必ずカグヤの家に泊ってるからな。里では2人はできてるって噂で持ちきりなんだぞ。このドスケベ絶倫マン!」
「おっ、お前ら出まかせ言うな! フラン、今の話は全部出鱈目だからな!!」
泥酔したバカの暴露に周囲の警備兵や客たちがどっと笑い声を上げるが、暴露された方はたまったもんじゃない。純真なフランは直ぐに信じてしまった。
「やっぱり。ヴァルター様、おっぱいの大きい女好きなんだ。フランよりずっと好きなんでしょ。最近夜遅いのも、何度もオーガの里に行くのも仕事じゃなかったんだ…。フランはちっぱいだし、もう飽きられちゃったんだ…。わぁああん(大泣き)」
「ち、違う、違うんだフラン。話を聞いてくれ。くそ、ミュラー、レオンハルト、貴様ら覚えてろよ!」
「うん。いつも通り最低だわ。放っておきましょう。ところで、ロディニアの人たちは?」
「あそこで呆然としているよ」
「ホントだ、あらあら可哀そうに魂飛ばしちゃってるわね。わたくし、挨拶してくるわ。レオルド、行きましょう」
「では、皇太子妃様、また後で」
ミュラーとレオンハルトの暴露大会を呆然と見つめるフィーアとユーリカの許に行くラピスとレオルドを見て、ユウキは呟いた。
「うーん、ラピスには勿体ない男性だわ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ユウキさん」
「はい? あ、お義母様」
ユウキに声をかけて来たのは皇妃シャーロットだった。
「うふふ、楽しんでいらっしゃる?」
「はい! あの、お義母様はおひとりですか? 陛下は?」
「実は陛下と一緒に来たのですが、いつの間にか消えてしまったのです。何処に行ってしまわれたのかしら。護衛のローベルトもいなくなって…」
「(きっと、2人ともアルフィーネたちのところね。ったく、エッチなんだから)丁度わたしもひとりなんです、一緒に食べませんか?」
ユウキは串焼きを1本取って、串を抜いて皿にあけ、シャーロットに手渡した。ユウキも肉を焼いている使用人さんから、肉山盛りの皿を受け取った。ミハイルの件で確執のあった2人だが、戦後の表彰式で和解を遂げてからは、実の親子の様に仲が良くなった。
シャーロットとユウキは美味しい食事を食べ、普段の生活などを話しながら心安らぐ時間を過ごすのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『フィーア、ユーリカ。楽しんでいるかの』
ラピスと談笑し終えたフィーアとユーリカに声が掛けられた。振り向くといつもより立派なチュニックとズボン、マントを着衣したワイトキング、エドモンズ三世が赤色のドレスを着た金髪碧眼の大柄な女性を伴って、カラカラと笑いながら近づいてきた。
「エドモンズ様!? え、ええ。楽しむというよりは驚愕していると言った風ですが…」
「本当に、自然に皆に溶け込んでますね。私の中のアンデッドのイメージがガラガラ音を立てて崩れ去ってます。メイドさんが自然に挨拶してて、ドン引きです」
『ワハハハ! 儂の人気に嫉妬しちゃうってか? ロディニアの奴らもまだまだじゃのう』
「いや、この国が異常なだけかと…」
「うふふ、驚いちゃってるみたいね。エドモンズ様は我が国だけでなく、イザヴェル王国でも人気者なのよ」
「そーなんですか!? あの、貴女は?」
「あら、挨拶が遅れてごめんなさい。私はラピスの母で、皇帝陛下の側妃のマーガレットと申します。ユウキさんとはお茶飲み友達なの」
皇帝陛下の側妃と聞いて驚いたフィーアとユーリカは慌てて挨拶をし、礼をした。そして自己紹介がてらロディニアでのユウキとの関係を話した。マーガレットは黙って話を聞くと満足そうに頷いた。
「ユウキさんは、ずっとあなた方の事を気に病んでたのよ。でもこうして、お互いが和解し合えた事は良かったわ。これからもずっとユウキさんと仲良くしてあげてね」
マーガレットの優しい言葉にフィーアとユーリカは頷き、潤む目をハンカチでそっと拭くのであった。しかし、この良い雰囲気をこの男(?)はぶち壊す。
『ユーリカよ、マーガレットは皇室に入る前は帝国地下闘技場の無敗のチャンピオンで、「金色の死神」と呼ばれた女傑じゃぞ。帝国第一海兵隊出身で「カルディアの女豹」と呼ばれたメイド長と合わせ、「帝国の歩く破壊衝動」と呼ばれておる。瞬殺の女王と言われるお主の事じゃ、戦ってみたいとは思わんか?』
マーガレットのこめかみがぴくっと動いたのを見て、ユーリカはビビる。
「い、いやぁ~遠慮しておきます。勝てそうな気がしません」
「歩く破壊衝動って、どんだけですの…。(帝国って何なんです? 変な人が多過ぎます!)」
『そうか? だが安心せよ。おっぱいの柔らかさでは、お主の圧倒的勝利じゃ。何せユーリカのぽよぽよ柔らかおっぱいに対し、マーガレットのはガチガチのバリ固筋肉おっぱいじゃからな。お、でも筋肉なら垂れる心配はないってか!? ぷーくすくすくす…』
「誰の胸がバリ固筋肉ですって? 触ったこともないくせに…」
『ヒッ…』
こめかみに青筋を浮きだたせた笑顔のマーガレットはがっしとエドモンズ三世の頭(頭蓋骨)を掴み、ぎりぎりと強大な握力で締め上げる。メキッ、ビシッと骨にヒビが入る音にユーリカとフィーアの背筋に冷たいものが走る。
『ひいッ! マ、マーガレット様、お許しを! 助けて、誰か儂を助けろーッ!』
マーガレットはエドモンズ三世の左右のこめかみ部に拳を当ててぐりぐりと圧迫回転させる。ミシミッと頭蓋骨が軋む音がする度にエドモンズ三世の顔は歪み、ついには圧力に耐えられずバキン!という音とともに、横ずれ断層のごとく顔の真ん中から上下にズレた。
『うわらば!!』
眼窩の奥の光が消えたエドモンズ三世は、ばったりと地面に倒れ、ピクリとも動かなくなった。死霊の王と呼ばれ、最強のアンデッドであるワイトキングを素手で倒す人間がいることにフィーアとユーリカは恐怖した。しかも当のマーガレットは「やりすぎちゃったかしら」などと言って、照れ笑いしている。
「さすが、帝国の破壊衝動…」
「エドモンズ様、大丈夫かしら。アンデッドの心配をするのも変ですけど」
フィーアとユーリカがBBQの串で地面に横たわるエドモンズ三世を突いていると、突然大歓声が上がった。驚いてそちらの方を見る。そこにはローションで体をテカらせた超絶美少女が右手人差し指を高々と上げて「ウリィイイーッ!」と叫んでいるのが見えた。しかもブラは取れておっぱい丸出し、パンツも下がって半ケツ状態になっていて、周囲のギャラリーも大歓声。
「ルピナスちゃん、最高ーッ!」
「ルピナスちゃん、カッワイイーッ!」
『キャーッ! ロディニア行き、ルピナスがゲットしたよー!』
「い、一体何事?」
「ちょっと、フィーアさん。あれ見てあれ!?」
「まあっ!」
ユーリカの指示した方を見たフィーアの顔が真っ赤になって、頭から湯気が上がる。何せ、いつの間にか2人から離れた夫たちが大勢のギャラリーに混じって、ほぼ全裸状態のルピナスとバインバイン揺れる巨乳をだらしない顔で見ていたからであった。
「ゆ、許せん! 私という妻がありながら、他の女(魔物)にうつつを抜かすとは!」
怒髪天を突く勢いのフィーアとユーリカの肩をポンと叩く者がいた。振り向くと諦めと呆れの感情が入り混じった表情をしたユウキとエヴァリーナとシャーロット。彼女らの指さす方を見ると、ギャラリーに混じって、これまた、だらしない顔でアルラウネ三姉妹の肢体を眺め、万歳をするミュラーとレオンハルト、それに皇帝陛下がいた。
「だ、大丈夫なんですの? この国…」
心の本音が出たフィーアだった。




