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第54話 異端者(夏祭り3日目②)

「リ、リタ! 生き返ったの! うわあああん、よかった~」

 リースがリタに抱きついて、泣き始めた。


「リ、リースちゃん…、わ、わたし、どうなったの?」


「はあ~、よかった。リタちゃん戻ってきた」

 ユウキが、ホッとして立ち上がり、スカートの汚れをパンパンと払っていると、周囲の様子がおかしいことに気づいた。


(あ、あれ? カロリーナもユーリカも周りの人たちも、どうして黙ってボクを見てるの? あれ、ボク、何かやっちゃいましたか?)


「ユ、ユウキ、なんで、どうして死んだ子が…、え、生き返る? 何をしたの…」

 カロリーナが、驚愕の眼差しでユウキを見る。


「悪魔だ!」


 突然、槍で武装し、白いローブを着た男女がユウキを取り囲む。


「この娘は悪魔だ! 死人を生き返らせた。これは悪魔のなせる業!」


「な、なに言ってるの。あなたたちは誰、どこから湧いて出たの!」

 謎の人物たちの出現に驚いたユウキだったが、悪魔と言われた事に腹を立てて言い返す。


「悪魔でなければ、その力を持った異端者だ! でなければ死人を生き返えさせられる訳がない。この異端者め、この場で成敗されるがよい!」


 武装したローブの男女が、口々にユウキに向けて「異端者!」と叫び、槍を向けてくる。


「ボクは、悪魔でも異端者でもない! 変なこと言うな!」

「黙れ、異端者! ただの娘が死人を生き返させられるものか! 神でもできないことをお前はやった。人のなせる業ではない!」

 ローブの男女は口々にユウキを責める。


 この世界には心肺蘇生と言う概念がない。概念がないから知識がない。呼吸が停止しても体内に残る酸素で、短時間は生きている。その間に適切な処置を行えば生き返ることができる。しかし、この世界では呼吸の停止イコール死なのだ。


 ユウキは何とか逃げられないか考えるが、白いローブの男女に周囲を囲まれている。戦えば周囲の人々やカロリーナ、ユーリカ、リース、リタを巻き込んでしまう。そこに、ローブを着た恰幅の良い中年男が、なめるような目つきでユウキの前にやってきた。


「この娘が異端者か」

「司教様!」


「違う、ボクは異端者なんかじゃない!」


「そうか、それならここで裸になれ。悪魔や異端者は体の一部に紋章がある。異端者でなければ、裸になって証明しろ」

「ここで裸になるのが嫌なら、教団に来てもらおう。そこで確認してやる。ぐふふふふ」


「く…。誰がお前たちの前で裸になるもんか」


「いい加減にして! ユウキは悪魔でも異端者でもない、ただのドジな女の子だよ。リタちゃんを助けたのが悪魔の仕業? 良かったじゃない。1人の女の子が助かったんだから!」


「カロリーナ…」


「そうです! ユウキさんはとても純粋な子です。そんな子を異端者と言って難癖をつけるのは止めてください。帰ってください!」


「ユーリカ…」


 カロリーナとユーリカは、ユウキを庇うように前に立つ。


「異端者でなければ、何故その小娘が生き返ったのだ。何故生き返らせる方法を知っていたのだ? 言ってみろ」


「……。(言えない。言ったら異世界から来たことがバレてしまう。正真正銘、異端者になってしまう。どうしたら…)」


「ユウキ? どうして黙ってるの。知っていたら話して」

 カロリーナとユーリカが不安そうにユウキを見つめてくる。ユウキは黙ったままだ。


「ふん。その異端者を庇うということは、お前らも仲間だな。信者たちよ、こいつらを捕らえよ!」

 ユウキ、カロリーナ、ユーリカの3人は包囲を狭めてくる信者たちを睨みつける。


「お前たち、何をしている!」


 その場にいた全員が声がした方を見ると、そこにはマクシミリアンが2人の護衛騎士を連れて、ユウキ達を取り囲んでいる者達を睨みつけている。


「その子達は私の友人だ、危害を加えようとするなら容赦しないぞ。さっさと離れろ!」

 その言葉に、護衛騎士は剣を抜いて構える。


「ぐっ、お前は、マクシミリアン王子…。何でここに」

「お前たち、最近、我が王国で活動をしている宗教団体だな。この子達に何の用があってこのようなマネをする」


「ふん、この娘は死人を生き返らせたのだ。大勢の者達が見ている前でな! これが悪魔の仕業でなくて何とする!」

「死人を? 本当か、ユウキ君」


「はい、呼吸が止まった女の子を助けました。でも、体を確かめたら、まだ死んでないと思ったから助けたんです。ボクだって、死んだ人は助けられない。本当です。信じてください!」


「わかってる、私は君を信じるよ。前にも言ったろ、君たちは私の大切な友人だと。そして、ユウキ君、どんな時でも君を助けると約束しただろ」


「マクシミリアン様…」


「そういう訳だ。ユウキ君は自分の知識を生かして1人の女の子を助けた。素晴らしいことではないか、助かった子も王国の大切な臣民だ。私は嬉しい。むしろ、人々を惑わすお前たちの方が害悪だ。さあ、さっさと去れ。それとも、私の護衛騎士と戦うか?」


 護衛騎士がマクシミリアンの前に出てくる。それを見て司教と呼ばれた男は「チッ」と舌打ちすると信者を下がらせ、引き上げて行った。


「大丈夫かい3人とも、あっユウキ君!」

 ユウキは、助かった安心感からへなへなと倒れ込みそうになり、マクシミリアンが慌てて抱きかかえた。


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