邂逅⑥ 思い込んだら試練の道を
「お願いです! 皇太子妃様との面談をお願いします!」
「うぐぐ…、苦しい…」
「会わせろ、今すぐ会わせろ!」
「ま、待って…、い、息が…」
痺れを切らしたユーリカが警備兵の胸倉を掴みぐいと持ち上げ、フェーリスとリースがビシバシとパンチとキックを入れる。地面から10cmほど持ち上げられている警備兵は窒息して死にそうだ。
「このままでは死にますわよ。早く皇太子妃に会わせる手はずを整えてくださいまし」
なんだ、何事だと詰所から警備兵がどやどやと集まって来て状況に驚くとともに、仲間を助けようとするが、フェーリスとリースが「がるる!」と威嚇するため近づけない。衛兵も集まって来たが、女性に手を出して良いものか、手を拱いて傍観しているだけだ。そこに現れた偉丈夫が一喝するとサーッと警備兵と衛兵が左右に分かれて敬礼をした。
「何の騒ぎだ、静まれ!」
「皇太子様! ハハーッ!!」
「皇太子?(この方がユウキさんの夫で、ミュラー・カルディア様!?)」
現れた男性は身長180cm程。がっしりした体躯に肩章が飾られた白の軍服が似合っている。また、見事な銀髪をした中々のイケメンだ。その背後から騒ぎを聞きつけたアルフィーネという名のアルラウネが不安そうに見ている。改めて見ると、こちらもかなりの美少女で、しかもユーリカ級のビッグバスト。フェーリスが「チッ!」と周りに響くほどの舌打ちをする。
「アンタらがロディニアから来て、オレの嫁に会いたいって騒いでいる4人組か?」
「アンタとは失礼ですね。私はこれでもロディニア王国王女の(ぺちゃぱい)フェーリスです!って誰がぺちゃぱいじゃ!誰が!!」
「フェーリス様。12歳のわたしより小さいですし」
「貴様、許さん!!」
ぼかすかリースを殴るフェーリスにどっと周囲が笑い声を上げる。見ればミュラーもアルフィーネも笑っている。魔物にまで笑われてしまい「ぐぬぬ…」と唸って、目を吊り上げて睨むが素がカワイイので全然ビビってくれないのが悲しい。
「わはは! 面白いなアンタら。さて、オレの妻に会いたいって言うなら、相当の覚悟があって来たんだろうな。もし、傷つけるようなら、わかるよな」
「勿論ですわ。私とユーリカさんは、あの戦いでユウキさんと敵味方に分かれて戦うことになってしまいました。ユウキさんに最後の攻撃魔法を放ったのは私です。その時の彼女の悲しみに満ちた顔は忘れる事が出来ません。私はあの時の想いと後悔を伝えて謝りたいのです」
「なるほどな…。わかった。妻に会わせよう」
「本当ですか!?」
「ああ。ただし、条件がある」
「条件? ユーリカさんの爆乳を揉ませろとか?」
「あらヤダ。私の胸は夫だけのモノよ」
「ちげーよ! 確かにオレは大きなおっぱいは好きだ。だがしかし、ユウキちゃんの友人に一言でもそんなこと言ってみろ、間違いなく殺されるわ!」
「サイテーね、この皇太子は。女の尺度は乳の大きさじゃなくてよ」
「でもまあ、無いよりあった方がいいですけどね」
じろりとリースを睨むフェーリス。フィーアはそんな2人を無視してミュラーに条件とは何かを聞いた。
「なに、簡単な事だ。妻のユウキは屋敷の3階にいる。アンタらはオレが各階に用意した試練を受けてもらう。見事突破すればユウキちゃんに会えるって寸法だ。どうだ?」
「イヤだと言ったら?」
「お引き取り願うだけだ」
フィーアと愉快な仲間たちは「がっし」と肩を組んでヒソヒソと話し合い、「オー!」と歓声を上げて膝を曲げて伸びあがって拳を上げた。そして、「よっしゃ!」と気合を入れ、キッと鋭い視線でミュラーを睨みつける。
「その試練、お受けいたしますわ!」
「お、おう…」
「さあ、今直ぐ案内なさい!」
「いきなり上から目線で来たな…」
頭をポリポリ掻きながら、フィーアと愉快な仲間たちを引き連れて屋敷に案内するミュラーと人型モードに変身し、楽しそうに後をついて行くアルフィーネ。それを見送る警備兵と衛兵たち。
「一体何だったんだ…」
「死ぬかと思った。もう今日は早退するよ。俺は」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
屋敷の1階、ある部屋の前に案内したミュラー。
「まず、ここに入ってもらおう」
「何があるのです?」
「中で、ある人物が待っている。その人物はユウキちゃんの眷属だが、深い信頼関係で結ばれた彼女の父親代わりの人物(?)だ。その人と面談してもらう」
「なーんだ。そんな事かぁ」
「余裕ですね」
何の変哲もない部屋の扉をミュラー自ら開けて、フィーアたちと中に入った。部屋の窓にはレースのカーテンが引かれ薄暗く、中ほどに1脚の椅子がポツンと置かれているだけで人気が全くない。ただ、何と無く不気味な感じがして、背筋がぞわぞわするのだった。
「あの…、誰もおりませんが…」
「まあ見てろって。ほら、来たようだぞ」
フィーアたちが椅子の方を見ていると、空間が歪み始め黒い霧の渦が湧き出した。そして、その中から現れたのは…。
『皆さん、こんにちは』
「ひっ…」
「きゃあっ!」
「あ、あわわ」
「ウソでしょ」
古びた王冠を被り、豪華なチュニックと緋色のマントを着て、蒼い宝玉の付いた王杖を手にした骸骨だった。予想もしていなかったアンデッドの出現に思わず小さな悲鳴を上げるフィーアたち。さすがのユーリカも顔が青ざめている。
『ククッ…。フハハッ…。ワーハハハハハッ! ウワーッハハハハハ! そうよ、その顔よ! 美しい女子の恐怖に怯えた顔。クハハッ、これこそが儂を見た人間の本来の姿なのよ。何せ帝都の奴ら、最近すっかり儂に慣れきってしまってのう。この前なんかこの姿で帝都に出かけたのにもかかわらず、買い物帰りの奥さん方に「あら、エドモンズさん、こんにちは」なんて声を掛けられて、思わず儂も「今日はいい天気ですね」って素で返してしまったわい』
「すっかり馴染んでるじゃねえか…」(ミュラー)
『その後、井戸端会議までしてました!』(アルフィーネ)
呆けたように見つめているフィーアたちを置き去りにしていたことに気づいたエドモンズ三世は「えへん」と咳払いをして自己紹介を始めた。
『フフフ、さぞ驚いたろう』
「いや、別に…」
『遠慮することはない。儂はエドモンズ三世。フルネームはアベル・イシューカ・エドモンズ三世。今を遡る事300年前、イザヴェル王国の賢王と呼ばれたナイスガイ。それが儂! そして今は誰もが恐れおののく死霊の王の中の王「ワイトキング」エドモンズ三世よ! ウワーッハハハハ、ワイトキングの恐ろしさに怯え、尿を漏らすのじゃーっ!! ハーハハハ…。あれ? 反応が薄くない?』
「…………」
「オッサン、誰もビビってねぇみたいだぞ」
『なぬ、なんでじゃ!?』
「バカじゃないの、この骸骨。世界広しと言えど、昼間に堂々と出歩いて、主婦と井戸端会議するアンデッドはアンタだけよ。全然恐ろしくもなんともないわ!」
「この国の人たちも、ちょっと変ですわね…。ワイトキングに慣れるって、アリですの?」
「早く面談とやらをしてくださいよ。私たち急いでるんです」
『ショボン玉…。久方ぶりに思春期美少女の尿漏れパンツを堪能できると思ったのに。仕方ない、徹底的にこやつらの秘密を暴いてやるわ』
「ド変態でクズすぎる。大丈夫なの? こいつ」(フェーリス)
『美少女にこいつ呼ばわり。クククッ、恥骨がゾクッと来るわ。ミュラーよ、メモの準備は良いか?』
「いつでもOKだぜ」
『小娘ども。余裕ぶるのも今のうちよ。ワイトキングの恐ろしさ、とくと知るがいい!』
エドモンズ三世の全身から強大な魔力のオーラが立ち上る。圧倒的プレッシャーにフィーアは身構え、ユーリカはフェーリスとリースを背中側に庇った。一体なのが起こるのか、相手は変態でもワイトキング。油断はならない。
『ワイト・サーチ!』
掛け声とともにエドモンズ三世の眼窩が一瞬ピカッと光った。しかし、フィーアたちの体には何も起こらない。女子たちはきょとんとしている。
『クククッ。ワイト・サーチとは儂固有のスキル。女子限定で心の奥底の秘め事から性癖。3サイズまで全て見通すことが出来るのだ!』
「最低のクズですわね。本当にユウキさんの眷属なのかしら」
『まずはお主! フィーアと申すか。年齢20歳、身長164cm、体重56kg、B84W61H85 ふむ、ウェスト回りに少々お肉がついているようだの。最近腰回りが太くなってお悩み中か…。ぷぷっ、おっかしぃ~』
「な…な…なんでそれを。私の秘密の悩みが…」
「ワイトキングの女の子笑い…。キモイ」
『趣味は読書で愛読書は「男女の営み四十八手大全集」に「男性への愛撫すべきポイント大解説」か。むほほ、中々良い本を読んどるな、このエッチ、ドスケベっ娘!』
「きゃああっ! 誰も知らない知られちゃいけない秘密がなぜぇ~」
「やだ、フィーアさんのエッチ!」(リース)
「清楚なイメージが一気に崩れ落ちましたね。実態は性に貪欲な女ときたか…」(フェーリス)
「後で貸してもらおうっと」(ユーリカ)
『初めての相手は夫。でも、最近は少々マンネリ気味で不満か…。スケスケ股割れ下着でも反応が薄い? そりゃそうじゃろう。フィーアよ、お主の旦那の性癖は「こすぷれ』でM系じゃ。ハード女王様か看護師、ミニスカ女学生風の衣装でオシオキしてみよ。あっという間にアソコがギンギン。お主も大満足じゃ』
「ぐすっ…。ほ、本当に?」
「最低最悪だね。お兄様も義姉様も」(フェーリス)
「レウルス様にそんな性癖が…。意外だわ」(ユーリカ)
「ちょっと軽蔑」(リース)
『次は、そこの全てにデカい女、お前じゃ!』
「えっ? 私も?」
『当り前じゃのクラッカー。名はユーリカ・ウェイン。年齢20歳、ユウキと同級生じゃな。身長175cm、体重60kg、B100W60H86のぼっきゅんぼん。全体に筋肉質じゃが乳と尻は最高に柔らかそうじゃ。むほほほ、巨乳女子はよかよかのう…』
「これ、全員の3サイズを暴露されちゃうの?」
「フェーリス様が可哀そう」(リース)
「やかましい!」(フェーリス)
『趣味は筋トレ。なになに、学生の頃にはその豊満な体を持て余して、1人エッチに勤しんで絶頂を極めたとな! おぬし、相当な猛者じゃな。いや、むしろ、えっろエリートと呼ぶべきか』
「なっ…!?」
『最近の密かなトレンドはアブノーマル。昨晩も旦那におむつを穿かせた「赤ちゃんプレイ」を楽しんだ。大きなおっぱいにむしゃぶりつく旦那のナニを恍惚の表情で可愛がったのじゃろう? どうじゃ、言うてみい』
「いっ、いいじゃない。夫婦なんだし、夫が好きなんだモン! はっ!?」
じ~っとジト目で見つめるフィーアたち。見ればミュラーまで口に手を当てて「プププ」と笑っている。ユーリカは恥ずかしさで真っ赤になった顔を手で覆って、しくしく泣きだした。
「ユーリカさんがそんな性癖持ちとは。ちょっと距離を置こう」(フィーア)
「マニアックプレイのフィーアさんに言われたくないと思います」(フェーリス)
「あの官能小説は伊達ではなかった」(リース)
ミュラーはしくしく泣くユーリカの肩をポンと叩いて優しく声をかけた。
「ユーリカと言ったな。泣くんじゃねえ。性癖は人それぞれなんだ。かくゆうオレも昨夜は妻と赤ちゃんプレイを楽しんだぞ。なにも恥じることはねえんだ。堂々としろ。そして、胸を張れ。ちなみにオレの一昨日は緊縛&蝋燭プレイだったぞ。勿論オレが縛られる方だ。熱々の蝋が乳首に垂れ落ちた刺激で何度もイッちまった。ユーリカは旦那と何をした?」
「ぬるぬるローション全身性感帯プレイ…」
「イケてるじゃねえか!」
「ほんと!? ミュラー様、ありがとう。自信出たわ!」
グッと親指を立ててニカッと笑うミュラーに、涙を拭いて満面の笑みのユーリカ。端から見ればいいシーンだが、内容が内容だけにフィーアたちは残念な気分になる。
「黙って聞いてりゃ、こいつらは…。帝国皇太子もド変態だったのですわ」
「この国の行く末が心配になるわね」
「エッチだ」
『あの~。次に行っていいかの』
試練は続く。果たして一行は無事ユウキに会えるのだろうか。




