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邂逅① フェーリスとリース

 ロディニア王国首都ロディニア市。人口約70万のこの都市は2年前の魔女戦争で大きな被害を受け、復興の途上にあった。だが、人々が受けた傷は今だ癒えず、家を失い、国が用意した仮設住宅に住む人々も多い。それでも、人々は新たな生活に向けて前向きに歩みを進めているのだった。


 市内中心部の中央広場、ここは王国軍と暗黒の魔女が激戦を繰り広げた場所だ。しかし、既に当時の面影はなく、広い通りと公園が整備され、新たな商店街が立ち並び、大勢の市民が買い物を楽しんだり、公園の噴水で涼んだりしている。その人込みの中に王国高等学園の制服を着た女生徒がいた。


「フェーリス様、私たちはここで失礼します。良い冬休みを」

「ごきげんよう、フェーリス様。新学期にお会いできるのを楽しみにしていますわ」

「ありがとう、皆さん。皆さんも冬休みを楽しんでくださいね。ごきげんよう」


 クラスの友人たちに手を振って別れを告げたのは、フェーリス王女。ロディニア王国のお姫様だ。金髪さらっさらのロングヘアに深い碧色の瞳を持ち、整った顔立ちをした、男ならだれもが振り返る美少女だ。友人たちと別れたフェーリスは大きくため息をついた。


「はあ…、何か毎日がつまんないな。ユウキさんたちと遊んでいた頃が懐かしい。真っ直ぐ王宮に帰るのもな~。なんか、お兄様(マクシミリアン)の顔見るのもイヤだし」


 以前のフェーリスは、お兄様好き好き大好きだったが、ユウキが暗黒の魔女になった原因のひとつにマクシミリアンが関わっていた事を知ると、なんとなく、好きといった思いが薄れてしまい、どちらかというと嫌いというか、苦手になってしまって、今では必要な時以外は顔を合わせるのを避けていたのであった。


(お兄様のバカたれ! おたんこなす!)


 思い出し怒りでプンプンしながら、カバンでシッシッと人込みをかき分けながら歩いていると、背後から知った声がかけられた。


「フェーリス様!」

「へっ…? あ、リースちゃん!」


 声をかけてきたのは、フレッドの妹のリースだった。当時小学生だったリースも今や中学生になり、王国高等学園中等部に通学している。身長も148cmに伸び、B84W56H83と一気に女の子らしい体つきになっていた。リースの膨らんできた胸を見て、心の中で自分のペタンコ(B78)に涙する。しかし、心の中で動揺を押さえつつ、にこやかに返事をしたところは自分でも偉いと思ったのであった。


「フェーリス様、今帰りですか?」

「そーなの。リースちゃんも?」


「はい!」と元気よく返事をしたリースもまた、物凄い美少女に成長している。聞けばユウキとマヤに教わった美容術とバストアップ体操を毎朝毎夜欠かさずに行っているらしい。また、最近では王国騎士団に所属しているユーリカの下に通って剣術も習っているとのこと。


(私も同じ美容術とバストアップ体操はやってるんだけどな…。どーして成長しないの?)


 ふっと影を落としたフェーリスにリースが心配そうに尋ねてきた。


「どうかしましたか?」

「え? いや、今日は終業式だけだったから、まだ時間が早いじゃない? だから、このまま王宮まで帰るのもつまんないなって思ってたの」

「王女様がそんなんでいいんですか? でも、そんなに暇だったら私の家でお茶でも飲んでいきませんか?」

「いいの!? わあ、嬉しい。是非お邪魔したいわ」


 話は決まったとばかりに、2人は小走りになってリースの家に駆けだして行った。中央広場に面した大通りから途中で住宅に囲まれた脇道に入り、ここからお互いの近況を話しながら歩く。


「そういえばリースちゃん、聞いた話によるとほぼ毎日のようにもラブレター貰っているんだって? 高等部でも中等部に超絶美少女がいるって噂になってるよ。玉砕した男子も多数だし凄いよね。中学になってから何通貰ったの?」

「えーと、30通までは数えましたけど、分らないです。多分、50は超えてるかと」

「リース、恐ろしい子…。ラブ・モンスターって感じ」

「嫌な言い方しでください。フェーリス様だって美人だしモテるじゃないですか。この間イケメン男子からお手紙貰ったって聞きましたよ」

「確かに貰ったわね。「果たし状」って書かれたヤツだったけど…」

「ぷっ…あはははっ! 何ですかそれ、フェーリス様って面白い!」

「面白くもなんともないわよ…」


 話をしながら歩いていると、あっという間に1軒の2階建て住居兼店舗の前に到着した。ここは以前、ダスティンという名のドワーフが経営していた武器店で、魔女戦争で主を失った後、放置されていたのを侯爵家令嬢のフィーアが買い取り、戦争で家を失った友人のフレッド一家が安い値段で賃借し、魔道具と日用品を販売する店を経営しながら住んでいるのだった。つまり、リースの家である。


「どうぞ、フェーリス様」

「お邪魔しまーす」


 カランカランとベルを鳴らしながら入り口を開けて中に入ると、店番をしていた女性が気付いて声をかけてきた。


「お帰り、リースちゃん。んん? フェーリス様じゃないですか!?」

「ただいまー。シャル姉さん」

「シャルロット様、ごきげんよう」


 出迎えたのはシャルロットだった。ユウキと同級生&友人だった彼女は、魔女戦争後にリースの兄のフレッドと恋仲になり、1年前に結婚したばかりだった。フェーリスは19歳になった彼女を改めて見た。高等学園在学中は可愛い顔立ちであったものの、背は小さくて癖っ毛、肌は日焼けして浅黒く、フェーリスに負けず劣らず平坦胸のド貧乳女子であり、決して男子にモテるタイプではなかった。しかし、今の彼女は恋が化けさせたのか、とんでもない美人になっていて、彼女目当てに買い物に来る客も多いとのこと。


(以前のシャルロット様を知っていたら絶対に信じられないわ。滅茶苦茶美人だし、癖のある毛も伸ばしてポニテしてて凄く似合ってる。背も伸びてスタイルいいし、何よりむ、胸がバインバインに…。確かおっぱいって男の人に揉まれると大きくなると良く言うけど、まさか、フレッド様に揉まれまくって大きくなったとか!? ヤダ、いやらしいっ!)


 巨乳をガン見するフェーリスの視線に気づいたシャルロットは、照れながら腕で胸を隠した。


「あ、あのフェーリス様? これは自然に育ったんです。決してフェーリス様が想像しているような事ではありませんからね」

「これは失礼しました。巨乳を見るとどうしても負の感情が抑えられなくて。オホホホ…」


 眉間に皺を寄せてお嬢様笑いをするフェーリスを早くこの場から連れ去らないと。そう思ったリースはフェーリスの腕を取って、さっさと2階の自室に連れて行くことにした。


「(カロリーナさんに似てきた…)あはは、フェーリス様、私の部屋に行きましょう」

「うむ。良きに計らえ」

「どこのお殿さまですか!?」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ああ~、ユウキさんの部屋は落ち着きますね~」

「今は私の部屋ですけどね」

「そういえば、フレッド夫妻の部屋は?」

「一番奥のユーリカさんが使ってた部屋です。でも…」

「おや、なにか問題でも?」


「2人の夜の営みの声が…。シャル姉さんの声が大きくて、その…気になっちゃって」

「まあ! でも意外ですね。あのシャルロット様からは想像出来ないです」

「この前なんか、余りに煩くて頭に来ちゃって、二人の部屋の前で大声で軍歌「徹底抗戦突き進め!」を1番から12番まで歌ってやりました!」

「最悪ね。何なの、その軍歌。聞いたことないんだけど」

「私の自作です!」

「ぷーっ。あはははは! リースちゃんも大概変だよね」


 一頻り笑った後、フェーリスはベッドの上にバタンと寝ころんだ。制服が皺になるとリースに注意されたものの、そんなことはお構いなしの自由人のフェーリスだった。


「懐かしいなぁ~。私、年末年始をこの家で過ごした事があるんですよ。楽しかったなぁ。ユウキさんやララさんとゲームして遊んだり、ダスティンさんのお仕事を手伝ったり、マヤさんと着せ替えを楽しんだり…。思い起こせば、あの頃が一番楽しかったな~」

「わたしもそう思います。でも、わたしの場合、どちらかと言うと、この家ではマヤさんと遊んだ方が多かったかな。マヤさん、わたしのお姉さんみたいで大好きだったな…」

「そうですね。私は上に兄だけだったので、ユウキさんと一緒にいると、お姉さんが出来たみたいで嬉しかったんですよ。ユウキさん、お茶目で優しくてドジっ子で、一緒にいて本当に面白かった」


「フェーリス様、これ、誰にも言ったことないんですけど、実はわたし3年ほど前、死病と呼ばれる肺病に罹って死ぬ寸前だったんです。それをユウキさんが魔法で助けてくれて…。今、わたしがここにあるのはユウキさんのおかげなんです。ユウキさんが治癒魔法を使えることを知ったのは、彼女が亡くなった後でしたけど…」


「ええ話や…。ぐすん」

「なんか、フェーリス様って、以前に比べて性格が変わりましたね」

「そ、そうですか? 例えば?」

「以前は本物のお嬢様って感じだったのに、今はなんというか、お笑い芸人というか、変なおじさん的な面白さを身に着けた?」

「なんでやねん!」

「ふふっ、それですよ、それ♡ でも、以前と違って肝が据わったっていうか、逞しくなりましたね」


 リースの言葉にフェーリスはふとあることを思い出し、起き上がってベッドに座り直した。先ほどまでの崩れた顔付きから真面目になっていて、リースは「おや?」と思った。


「リースちゃん、聞いてくれる?」

「え? は、はい」

「あの戦争の最中、私は1度だけユウキさんと会った事があるんです」

「ええっ!?」


 フェーリスは、アクーラ要塞にユウキが現れた時のことを話した。何とかユウキの正気を取り戻そうと話しかけたが、逆に「敵だ」と言われ、殺されそうになり、ユウキの憎しみを買っただけだったことを。


「結局、私の言葉はユウキさんに届かなかった。彼女を救うことはできず、自分の不甲斐なさと弱さを思い知っただけだった。絶望した私はリーズリットの別荘にずっと引きこもってしまったの」

「………(そんな事があったなんて)」


「戦争が終わり、ユウキさんとカロリーナさんが死んだと聞かされて絶望した。この世界に絶望した。しかも、ユウキさんの魔女化にマクシミリアン兄様が関わってたと知って、余計に絶望したの」

「もう生きてても仕方ないと思って、ある日、入水自殺しようとリーズリットの海岸に行った。そこで、旅の女性「ミナト」と言う人に出会った」

「そ、それで…?」

「彼女に自分の思いを全て話したら、その方は優しく私を抱いて…」

「ま、まさかエッチな事を!?」

「そう、彼女の手が優しく私の乳房から股間に…って、ちがーう! なに言わせるのよ!」

「ノリがいいですねぇ~」


「いい話が台無しじゃない。あのね、そのミナトさんに励まされて、私は立ち直ったの!」

「一気に内容を端折りましたね」

「リースちゃんが変な茶々を入れるからでしょうーが!」

「どうどう。おちけつ」


「わたしゃ馬じゃないわよ。なによケツって、全く…。この話には続きがあるのよ」

「はあ…」

「どーでもいいって感じの顔ね。でも、これを聞いたら驚くわよ、いい?」


「…その時、ミナトの手がフェーリスの小さな乳房に触れた。その瞬間フェーリスの全身に痺れるような快感が走る。ミナトは上気する彼女の唇に優しくキスをしてきた。潤んだ瞳でミナトを見つめるフェーリス。甘美な衝撃が首筋から尻の割れ目まで貫き、男にモテない彼女の心に百合の花が妖しく咲き乱れる!」

「ああ…お姉様…。フェーリスの禁断の扉を開いてぇ~ん。その大きなおっぱいに埋もれたいのぉ~ッ!」


「って、何言わせんじゃボケ! 小さな乳房&男にモテなくて悪かったな! なによ、首筋から尻の割れ目まで貫くって。あたしゃ変態かっての!」

「ノリますねぇ~」

「もう、全然話が進まないじゃない! リースちゃんがこんなおませな子だと思わなかったよ!

「実はこの家に来た頃、ユーリカさんの部屋でドエロ官能小説を何冊か見つけてまして」

「まあ!? やっぱりあの体だから持て余してたのね。リースちゃん、後で貸してね」

「了解です。サー!」


「あれ? 何の話だっけ?」

「何か驚くような話があるって言ってましたが…」

「あっ、そうそう。えーとね…。もう! 雰囲気とタイミングを逸した感じだよ!」

「どうどう、お嬢様の威厳がナッシングですよ」

「ロースちゃんって、こんな感じ子だったっけ?」

「うふふっ、すみません。フェーリス様と話していると楽しくなっちゃって。でも、ロースは酷いですよ。私は肩のブロック肉じゃありませんって」

「コホン。じゃあ話しますね。これは、私しか知らない事でリースちゃんにだけ話します」


 そう言ってフェーリスは2度、3度と深呼吸してリースに真剣な眼差しを向けた。急に真面目な雰囲気になり、リースも緊張する。


「その「ミナト」と名乗った女性は、間違いなくユウキさんです」

「ええっ!?」

「しーっ! 声が大きい。そう、ユウキさんは生きているんです。そして、恐らくカルディア帝国にいます」


 フェーリスは鞄から新聞を取り出すとリースの前に置いた。赤鉛筆で囲まれた小さな囲み記事がある。そこにはカルディア帝国皇太子の結婚について書かれていた。

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