第53話 パレードでの出来事(夏祭り3日目①)
メイド喫茶3日目。準備を整えた3人は出撃(開店)の合図を待つ。
「ユウキさん。大丈夫ですか?」
ユーリカがユウキに聞いてきた。
「…ボクはもう死んでいる」
「ユウキさん立ち直ってませんね」
「さあ、開店だよ。ああ、でも、今日はランチタイムまでだよ。午後は片付けに入るからね。せっかくだし、午後大通りで行われるパレードでも見たらいい。いや、本当にありがとう。おかげさまで大盛況だったからね。じゃもう少し頑張ってもらおうかな」
夏祭りの終わりの思い出に、最終日も開店と同時に大勢の客が殺到する。
「ほら! ケーキセット持って来たわよ。ちゃんと味わって食べなさいよ! そのハートマーク、私の気持ちだから、ね…」
「はぁい、注文承りましたぁ、少し待っててねぇ。それ!(胸を振る仕草)」
「ユーリカくんは相変わらず完全に店の方向を取り違えているね」
ホフマンは、胸を揺らして接客するユーリカを見て、ニコニコして言う。
「あ、あわわわ、ご主人様! テーブルをお拭きしますね。あせあせ」
「メイドさん、そこ股間」
「わああああ! ボクったら、もうめんどくさい。握っちゃえ!」
「うぉう!」
「ユウキさん、開き直りましたね…。お見事です」
ユーリカが感心してユウキを見る。
「お、終わったあ。ボク、この2日半で受けた精神的ダメージで立ち直れない。もう二度とこういうアルバイトはごめんだよ」
「私は結構楽しかったなー」
「カロリーナさんはすっかりツンデレ属性をものにしましたね。使う殿方がいないのが残念ですけど」
「あのね…、そういうユーリカだって、最後はおっぱい振ってただけじゃん」
「む…、私のおっぱい属性にケチをつけると」
「まあまあ、もうやめよう。ボクはもう悪夢だけだよ。それよりもパレード見に行こう」
「そうだね、ボクっ子ドジっ子おさわりっ子おっぱい属性のユウキさん」
「ひ、ひどい!」
大通りに来ると、パレードを見ようと大勢の人が出てきていた。
「わあ、凄い人だね」
「ユウキさん、こんにちは!」
ユウキは突然声をかけられ、振り向くとリースが立っていた。
「あ、リースちゃん。こんにちは。一人で来たの? お兄さんは?」
「はい! 今日はお友達と来ました。こちらがお友達のリタちゃん」
「こ、こんにちは…」
リタはリースと同い年位の、腰までの髪を三つ編みにした可愛い子だ。2人ともユウキが小さいころ着ていた服を着ており、とても可愛いらしく、よく似合っている。
「リースちゃん、その服、ボクのお古。うん、2人ともよく似合っているよ」
「へへ、ありがとうございます。リタちゃんにも好きなの着てもらったの」
ユウキはカロリーナとユーリカに、リースを紹介する。
「へー、リースちゃんてフレッド君の妹さんなんだ。フレッド君にこんなかわいい妹がいるなんて知らなかったな」
「ホントですね。それにしても、2人ともとても可愛い服を着てますね」
「へへーん、ボクの小さいころ着ていた服をあげたんだ。可愛い服でしょ」
ユウキたちはリースとリタと一緒にパレードの通過を待っている。
「もうそろそろかな…」
「夏祭りの最後を飾るパレードは煌びやかで、それは凄いものらしいです。私たちも初めてなので楽しみです。あら、来たようですよ」
噂通り、パレードは荘厳そのものだった。煌びやかな馬飾りを装着した馬や、花々で飾られた馬車に乗っている女性たちが美しいドレスを着て、沿道の人々に手を振っている。
「はあ~、キレイだねえ」
「リースちゃん、リタちゃん。どう、楽しんでいる?」
「はい、感動しています!」「わ、わたしも…」
ユウキが2人に聞くと、とても楽しんでいるという返事が返ってきた。
「あれ、あの馬、何だか興奮しているように見えない? あっ、向かってきた!」
沿道の人々の完成に興奮した馬が1頭暴れだし、沿道の方に走り出した。
「わあ!」「危ない!」「避けろ!」といった怒号が響き、人々がパニックになって、ばらばらに逃げ始める。
「リースちゃん! リタちゃん!」
ユウキが叫ぶが、混乱した中で2人とはぐれてしまった。
直ぐに暴れた馬は取り押さえられ、人々が落ち着いた頃、ユウキはリースとリタを探し、リースを見つけることができたが、どうも様子がおかしい。
「リースちゃん、大丈夫?どうしたの?」
「ユ、ユウキさん…。リタちゃんが、リタちゃんが、死んじゃったああ!」
ユウキがリースの足元を見ると、リタが倒れていた。
「う、馬の脚がリタちゃんの胸に当たっちゃって…。さっきまで息をしていたのに、急に止まっちゃったの」といって、泣き出してしまった。
「ユーリカ、リースちゃんをお願い」
ユウキはリースをユーリカに任せ、リタを確認する。
(外傷はない。骨も折れてないし、内臓も大丈夫のようだ。馬とぶつかった時のショックかも。これはボクの魔法でも何ともならないし、どうする、どうしたらいいんだろう? そうだ! 学校の震災教育で見たビデオにあった、人工呼吸と心臓マッサージ! えと、やり方は…)
ユウキはリタの頭を下げて、顎を持ち上げて口を開け、鼻を塞いで口移しで空気を肺に送り込んだ。
「フーッ、フーッ」
そして口を離すと、胸の中ほどに重ねた手のひらを置き、力いっぱい押す。
「フッ、フッ、フッ、フッ、フッ」
そして何度も同じことを繰り返す。
ユウキの突然の行動に、カロリーナやユーリカ、まわりの人々が驚いたように見ている。
「ユ、ユウキ一体どうしたの、何をしているの?」
カロリーナの問いに、ユウキは答えず、人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。暫くすると…。
「う、んむ…。げほ、げほっ…」という声とともに、リタの呼吸が戻ってきた。




