廃嫡姫の夢④
プルメリアが村に来て約2か月が経過した。スバルの手伝いやナナミとその友人たちの勉強を見てあげた事を通じて、村の人々と交流することが増え、すっかり村の一員として受け入れられていた。そして、夏のある暑い日…。
「えっ、川遊び?」
「そう。村の中に川が流れているだろ、下流の方に広い河川敷と浅瀬があって、せせらぎ公園として整備されているんだ。村の子供達でそこに泳ぎに行くっていうから、村長から付き添って行ってくれって言われてさ、せっかくだからプリムも行かねぇか?」
「うん! 一緒に行こうよプリムちゃん!」
「でも…」
「まあ、無理にとは言わねえけどさ」
「………」
「ねえ、行こうよぉ~。行くでしょプリムお姉ちゃん」
「くっ…、わ、わかったわよ」
「やったー!」
ナナミのキラキラした瞳で懇願されると弱いプルメリアであった。ちなみに「やったー」と叫んだのはスバル。プルメリアのビッグバストを拝めるとあって気分は最高潮だった。
「そうだ、わたし水着持ってない…」
「大丈夫だよ、雑貨屋のお婆ちゃんに相談したら、いいのがあるって渡してくれたから。でも、あの時のお婆さんの目、凄く怪しかったなあ」
「そ、そう? なんか不安になるわね…」
急いでお弁当を作り、準備を整えて集合場所の村の広場に行くと既に参加者が集まっていた。小学校低学年から中学生くらいの子までが来ていて、数えると22人もいた。人数の多さにプルメリアが臆していると、スバルの友達が集まって来て挨拶してきた。
「よお、スバル。遅かったな」
「おはよう。スバル君、ナナミちゃん」
「お、プリムも来たのか」
声をかけて来たのは村の若者たち男性2人に女性1人。プルメリアは名前を思い出す。確か男性はミッキーとウォーレン。女性はシトリという名だったはずだ。3人もどうやらスバルと同じように付き添いを頼まれたらしい。プルメリアはおずおずと挨拶した。
「お、おはよう」
「おはようプリムちゃん!」
シトリがプルメリアの手を取ってにっこり笑う。この村の人々は本当に純粋で優しく良い人たちばかりだ。皇女だった頃は辺境の平民なんて、その日を生きるのに精いっぱいの、薄汚い最下層のクズとばかり思っていた。自分自身そのような身分に落ち、ぼろ雑巾のようになっても、その思想はなかなか変えられなかった。だが、スバルに拾われ、この村に住んでみて人々と触れ合って良くわかった。
(本当のクズはわたし…。こんな人達を滅ぼそうとしていたなんて…。世の中が見えていなかったのはわたしだった。今ならミュラー兄様やセラフィーナの気持ちがよくわかる)
「さあ、しゅっぱーつ!」
「おー!」
ナナミを始めとした小学生たちがワイワイと移動し始め、中学生たちも後に続き、ミッキーとウォーレンが逸れないよう声を掛ける。スバルも行こうとしたが、プルメリアは何故か俯いて動こうとしない。シトリも気が付いたのか戻って来た。
スバルは表情を曇らせたプルメリアの肩をポンと叩いて声を掛け、シトリはプルメリアの手を取った。
「プリムちゃん。何を思い詰めているのか分からないけど、今は今だよ。楽しい事だけを考えようよ」
「……うん。ありがとう」
「ん、笑顔になったな。みんな先に行ったぞ。オレたちも行こうぜ」
プルメリアはスバルとシトリの優しさと心遣いがとても有難かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
せせらぎ公園に到着した一行。プルメリアは風景の美しさに感動した。小石が敷き詰められた広い河川敷に優しくせせらぐ川。浅瀬は幅約20m、長さ100mもあって、日の光を反射してキラキラ輝いている。河川敷の対岸は少し小高い丘になっていて木々の緑が目に優しい。
「わあ…、綺麗な景色。ステキ…」
「ね、いい所でしょう。さあ着替えに行こう」
「うん!」
シトリはプルメリアの手を引くと、河川敷に据え付けられた仮設の更衣室(木造の囲みをされただけのもの)に連れて行った。
さっさと着替えを終えた全男子と小学生組の女子が河川敷に集まって来た。もうみんな速く泳ぎたくてうずうずしている。しかし、中学生女子とシトリ、プルメリアはなかなか出てこない。
「女の着替えは時間がかかるなあ~」
「しょうがねえ、先に準備体操するか」
「しかし、プリムちゃんはどんな水着なのかな、楽しみだな」
「それな」
「お前らな、プリムをイヤらしい目で見るんじゃねえぞ。ったく…」
「おやおや、ヤキモチですか。独占欲が強いこって…」
「そんなんじゃねえよ!」
スバル、ミッキー、ウォーレンの短パン水着3人組は一頻りふざけ合うと、準備体操をするため子供を集めていたら、女子更衣室から「キャー!」と大きな悲鳴が上がった。驚いたスバルたちが更衣室を見ると、ワンピース水着に着替えた中学生女子とシトリがどよーんと暗い顔をして出て来た。
「ど、どうしたシトリ。みんなも…」
「一体何があったんだ?」
「女のプライドを打ち砕かれたっていうか、完全敗北を喫したわ…。自信喪失よ…」
「あんなの反則だよぉ…」
「あたしのお母さんより大きい。世の中は広いね…」
しょぼんと胸を押さえるシトリを始めとする女の子たち。全員女子更衣室を見ると、真っ赤な顔でもじもじしながらプルメリアが出て来た。スバルたちはプルメリアの恰好を見て度肝を抜かれ大きな歓声を上げる。また、中学生以上の男子はパンツを破らんばかりに強直した股間を押さえて前屈みになった。
これ以上ない位真っ赤な顔をしたプルメリアが身に着けている水着は、レモンイエローの生地に濃いブルーの縁が入ったかわいいトライアングルビキニ。プルメリアのたわわな胸の半分ほどしか隠しきれてない。さらに、歩くたびにぶるんぶるん揺れる巨乳に男たちの目は釘付けになる。また、パンツも布の部分がやや少なめ。脇の部分を紐で結ぶタイプで、とてもセクシーだ。
「…は、恥ずかしい…。恥ずかしすぎるわ…」
「雑貨屋のババア…。何て水着を用意したんだ。ナイスだぜ!」
「くっ…。静まれ、静まるんだ俺の充血した黒龍よ…」
「すげえ。なんだ、あのビッグマウンテ~ンは。しかも股も激エロじゃねーか…」
中学生以上男子全員、内股になって股間を押さえながらプルプル震える。既に股間の暴れ龍は限界に達し、天に向かって吠えようとしている。
「だ…ダメだ。みんな、プリムを見るな、シトリだ、シトリを見るんだぁーっ!」
スバルの絶叫に男子全員一斉にシトリと中学生女子を見た、ささやかボディで色気の乏しい女子たちを眺めると体内で暴れまわるリビドーが急速に萎んでいき、冷静になれるのであった。
「ふう…、落ち着いた」(スバル)
「ああ、一時はどうなるかと思ったぜ」(ミッキー)
「ありがとう、シトリ、女子中学生たち」(ウォーレン)
「どーゆー意味よ! どーせあたしら全員、無いんマウンテンですよーだ。悪かったわね、このドスケベ野郎ども! 絶対に許さぬ。みんな、やっちゃえ!!」
『おー!!』
心を落ち着かせる道具に使われ、頭にきたシトリと女子中学生は、猛然とスバルたちに襲い掛かった。蹲るスバルたちにポカポカと殴りつける。叩かれる度に色気と起伏に乏しいけれど女性特有の柔らかい体、特に胸や尻が密着するごとに、だらしない笑顔を浮かべる男たちなのであった。
「スバルって、むっつりだったんだ。ちょっと幻滅」
「ほらほら、お顔が怖いですぞ。おっぱいお姉さん」
「誰がおっぱいお姉さんよ、まったく…。ナナミとお婆さんに嵌められたわ…。どうしてわたしだけ、こんなエッチな水着着なきゃいけないのよ」
「にしし…。いいじゃん、お兄ちゃん凄く喜んでたでしょ。さあ、スケベ兄は放っておいて、みんなと水遊びしようよ。ほら、早く!」
「あっ、ナナミ!?」
ナナミに手を引かれて、子供たちが遊ぶ川のせせらぎにじゃぶじゃぶと入った。水の冷たさがとても気持ちよく、足元を小さな魚が泳いで行く。水を掛け合ったり、ナナミと魚を追いかけて遊んでいるうちに、スバルたちに抱いたイライラ気分は晴れてくるのであった。ちなみに、お約束のポロリもあり、バインと露わになったビッグバストを目の前にしたスバルたちを歓喜させた。
「もう…。スバルのエッチ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夏の終わり、日が少しずつ短くなって秋が近づいて来たある日の夕方、村役場の会議室に出かけていたスバルが戻って来た。
「何の打ち合わせだったの、お兄ちゃん」
「ああ、徴税の時期が近いから、村の麦畑の刈り取りをすることになったんだ。今日はその打ち合わせだ」
「徴税?」
プルメリアが夕食をテーブルに置きながら尋ねて来た。最近は農作業でスバルが忙しいため、プルメリアが食事を作ることが多い。プルメリアは帝国貴族の子女の勤めとして料理は一通り学んでいる。スバルも料理上手だが、2人ともプルメリアの料理を美味しいと言ってくれる。2人に褒められると自分が認められているようで嬉しかった。
「ああ、この村の小麦畑は全て村の共同財産なのは知ってるだろ? この麦を刈って小麦粉に加工して国に税として納めるんだ」
「いつ作業があるの?」
「明後日から2週間。刈り取り、水車小屋での粉挽き、袋詰めと倉庫への搬入が主な作業かな。村の男がそれぞれ分担して作業するんだ」
「女は何をするの?」
「人手の足りないところに入ったり、昼食の準備かな」
「わたしは何をすればいいの?」
「手伝ってくれるのか?」
「…う、うん。わたしも…、村の一員だし…」
「そうだよな! じゃあ作業員の昼食準備がいいかな。リーダーは食料品店のおかみさんだ。おかみさんの指示に従ってくれ」
「うん、わかったわ」
「しかし、プリムは料理が上手だなー。色んな料理を知ってるし、もしかして、いいとこの生まれだったりしてな」
「…ち、違うわ。そんな事あるわけないじゃない」
「だよなー、あはははは!」
「……………」
「プリムちゃんはいい人だよねー。料理は美味しいし、家事も万能だし、おっぱいも大きいし。お兄ちゃん、人助けして良かったね。プリムちゃんがお兄ちゃんのお嫁さんになってくれたらいいのになー」
「ぶふぉ! げほっげほっ!!」
「キャッ! 汚いなあ、お兄ちゃんは。もう…」
「ナ、ナナミが変な事いうからだろ。ったく、風呂沸かして来る」
「あはは、照れちゃって。ウブだねー、ねープリムちゃん」
「……………」
「プリムちゃん?」
「…え? ああ、うん…そうね」
(プリムちゃん…。どうしたんだろう。急に顔が曇っちゃった…)
スバルが台所から出て行った後、プルメリアは食器洗いをするために皿や椀を下げ始めた。急に元気がなくなったプルメリアが気になって、そっと顔を見てドキッとした。
(プリムちゃん、泣いているの…? なんで?)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「じゃあ、オレは麦刈りに行って来る」
「うん…。気を付けてね」
「ああ、プリムもな」
「お兄ちゃん、頑張ってねー」
「おう、行ってきます!」
スバルを見送ったプルメリアとナナミも手伝いをするために家を出た。集合場所の役場前に通じる村道をナナミと手を繋いで歩く。頬を撫でる風は少しずつ冷たくなり、影が長くなる。秋の様相が深まりつつあるのを感じる。
プルメリアは歩きながら空を見上げた。空はどこまでも高く青く、真っ白なうろこ雲がゆっくりと流れている。
(美しいなあ…。ここはいい所だ…。居れば居るほど好きになる…。わたし、ずっとここに住みたい。でも、本当のわたしを知ったら皆は、スバルはどう思うだろうか…。きっとわたしを軽蔑するに決まってる。わたしはそれが怖い)
(スバル…、スバルはわたしのことをどう思っているのかな…。わたし、スバルに嫌われたくない。それだけなのに、どうしてこんなに心が痛むの…)
「プリムちゃん…」
空を見上げるプルメリアの目尻に光る物を見つけたナナミは、プルメリアには人に言えない何か秘密があるのではないかと感じた。最近は笑顔も少なくなっている。大人なら何か相談にも乗ってあげられるのに、幼い自分では何の役にも立たないだろう。それがナナミには悔しかった。




