リサの婚活物語⑥
シュヴァルツの命を受けたチンピラが剣を逆手に持ってアランと、彼に覆いかぶさるリサ目掛けて剣を振り下ろした。ハルとリンは目をぎゅっと閉じて顔を背ける。
バキィインン!
ロングソードが2人を貫く寸前、漆黒の障壁が剣を弾き返した。反動でチンピラが仰け反り、しりもちをついた。突然の事にシュヴァルツは驚き、椅子から腰を上げた。
「なっ、何だ? 何が起こった!?」
「間一髪、間に合ったようね」
「だっ、誰だ!」
シュヴァルツとチンピラたちは倉庫の出入口を見た。逆光を背に纏い現れたのは、2人の騎士に守られた、純白のドレスに身を包んだ女性(妊婦)。
「何モンだ。テメェ…」
「あらら、この超絶美人さんを知らないなんて、とんだ情薄さんね。でも、知らないなら教えてあげるわ。騎士さん、こいつらに教えて差し上げなさい」
「貴様ら頭が高い! このお方をどなたと心得る!」
「先の皇太子妃、ユウキ・カルディア様にあらせられるぞ! 控え、控えーい!!」
「ユ…ユウキ、ちゃん…」
「遅くなってゴメンね、リサさん。もう大丈夫だから」
「なんだと…。貴様が、あの「暗黒の魔女」のユウキだと…」
「あら、久しぶりに聞いたわね。その二つ名」
「すかした顔しやがって…。そんなデカい腹抱えて何しに来やがった!」
「何しにって、当然、リサさんたちを助けに来たからに決まってるじゃない。ライヒ男爵家次男のシュヴァルツって言ったわよね。わたしの大切な友人を傷つけた事、絶対に許さないからね」
「フン…、こっちにゃ人質がいるのが見えねェのか。皇太子妃だろうが関係ねェ。邪魔するならそのデカい腹ぶっ裂いてブチ殺すぞ!」
「よーし、よく言った! 聞いたわねみんな。この男は皇太子妃弑逆を宣言した。この発言は国家反逆罪と認めます!」
「………。くくっ、ワーハハハハハ。ヒャーハハハッ!」
「お? なにが可笑しいの。自分の顔?」
「顔じゃねェ! まあいい。くくっ…、余裕ぶっこいてんのも今のうちだけだぜ」
シュヴァルツはパチンと指を鳴らすと、その合図を受けた手下のチンピラが倉庫奥にあった天井から下がる引き縄を引いた。すると、どこからかゴゴゴ…と何か重いものが動く音がして、壁が横にスライドし始めた。
「へえ…。隠し扉か。味な真似するわね。騎士さんたち、リサさんとアレンさんを外に連れて行って」
ユウキの命を受けた護衛騎士は、床に倒れ、気を失っている2人の元に素早く駆け寄って抱きかかえると外に運び出した。その間にも壁は3mほど横スライドし、完全に開いた。そして奥からぞろぞろと現れ出てきたのは…。
「ハイオーク…?」
身長2m以上。黒い肌に赤い目をし、身長ほどもある巨大な斧を携えた人間型の醜い魔物が十数体現れた。初めて見る魔物にハルとリンは悲鳴を上げて気を失った。
「シュヴァルツ、あなた魔物を飼ってたの?」
「ハハハ、そうだ! 裏世界の魔導士から魔物使役の秘薬を購入して、オークどもを飼い馴らしたのさ。こいつらはオレ様の命令しか聞かん。さて、どうする?」
「そうねぇ、あなたが魔物を使うなら、わたしも呼ぶわ。どうせわたし、このお腹じゃ暴れられないし」
「なに?」
「闇の世界に封じられし、死の戦士たちよ。今ここにその封印を解く。我、暗黒の魔女の求めに応じ、その力を行使せよ」
「出でよ、高位強化死霊兵!」
ユウキが召還魔法を唱えると、倉庫の床に魔法陣が広がり、その中から凶悪な姿をした死霊兵が現れた。巨大な戦斧を持った骸骨大戦士、巨大な両手剣ツヴァイヘンダーを持った暗黒骸骨騎士が合わせて十数体。死霊兵たちはユウキを中心とした半円陣を組む。
「まだまだいるわよ。こっちが本命」
驚くシュヴァルツと手下のチンピラを余所に、ユウキは黒真珠のイヤリング、胸に輝くペンダントに手を触れて魔力を通した。ユウキの前に漆黒の霧が現れて渦を巻き、やがてひとつの空間となった。そして、その中から現れたのは…。
『ウワーハハハハハ! ハーハハハハハハ! 呼ばれて飛び出て只今惨状。いや、参上。史上最凶最悪のアンデッド。世界の思春期&巨乳美少女の守護者、ワイトキング「エドモンズ三世」じゃーい。読者のみんな、元気だったー!』
『続けて現れし吾輩は、ツンデレ系ロリ巨乳美少女こそが至高と崇める者。その名もラファール国第十三代国王ヴォルフ! 常勝無敗のラファールの獅子と呼ばれた漢よ! ちなみにラピスちゃんには振られましたーっ!』
『最後は私、ぬるぬるバトルチャンピオン。笑顔が可愛く、おっぱいが大きいアルラウネのアルフィーネでーす。私は戦えないので、後ろで応援してますねー。えーい、頑張れ、頑張れーっ!!』
ワイトキング「エドモンズ三世」、デュラハン「ヴォルフ」(&黒大丸)、キャピキャピアルラウネ「アルフィーネ」だった。
「ば…ばかな…。骸骨兵だけじゃない。ワイトキングにデュラハンだと…」
「ボ…ボス。こいつはダメだ。ハイオーク共もビビっちまってる。逃げやしょう」
「う、ウルセェ。ここまで来て逃げられるか。こっちには、人質がいるんだ。人質ある限り、奴らには手が出せねェ。おい、人質をオレ様のところに連れてこい!」
顔を青ざめさせながらも、シュヴァルツは強気だった。手下にハルとリンを連れてくるように怒鳴る。しかし、手下の返事がない。苛立ったシュヴァルツはもう一度叫んだ。
「何してやがる! 早くつれてこい! そいつはオレ様の盾、生きた盾にするんだ!」
「ボ…ボス…」
手下のチンピラが震える手で指をさす。シュヴァルツはその方向を見て驚愕した。いつの間に動いたのか、巨大な首無し馬に跨ったデュラハンが気を失っているハルとリンを馬に乗せていたのだった。しかも、2人を捕まえていた手下の首が無くなっている。
『美少女2人は返してもらった。うほ、このロリ巨乳ちゃん、可愛いな~』
「さすが疾風変態ヴォルフ。よし、これで憂いは無くなったね。後はエロモンに任せるよ。さすがにこいつらは生かしておいてはいけない存在。処分して」
『ほう…。珍しいな、ユウキがそこまで言うとは。じゃが、ユウキの意見には儂も賛成じゃ。こやつらは悪意が強すぎる。散々思春期美少女を食い物にしてもきただろう。生かしてはおけぬ』
『やっちゃえ、ドスケベモンさん!』
『アルフィーネは酷いぞ!』
アルフィーネの応援を受けたエドモンズ三世は暗黒騎士と骸骨大戦士にシュヴァルツたちを半包囲するよう命じた。ハイオークはレベルの差を敏感に感じ、抵抗する気力を失っている。手下のチンピラ程度では相手にもならないだろう。
ユウキはメイドのミウと人間モードになったアルフィーネに手を引かれ、ハルとリンを救出したヴォルフを連れて倉庫を出た。すかさず護衛騎士が倉庫の扉を閉める。
(バカな男。リサさんに手を出したこと、地獄の底で後悔しなさい。まあ、エロモンが簡単に地獄送りにするとは思えないけどね)
倉庫の外、馬車の近くにシート代わりに赤絨毯を敷いてリサとアレンが寝かされている。明るい場所で見ると2人とも相当痛めつけられたようで、顔はぼこぼこに腫れ、体中に傷と内出血ができていて骨も折れているだろう。ユウキは護衛騎士にハルとリンは馬車に乗せるように命じると、リサとアランの手を取って治癒魔法を発動させるのであった。
(可哀そう。痛かったでしょうに…。直ぐに治してあげるからね。もう少し辛抱してて…)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お…、オレ様たちをどうするつもりだ…」
「助けて…」
「お願いです。助けてくださぁ~い」
『ハァアアア~。聞こえんなァ~』
『リサはな、ユウキのロディニア時代からの大切な友人じゃ。当然、儂やヴォルフ、アルフィーネとも仲良しなのじゃ。そのリサをあんな目に遭わせおって…。絶対に許さん! 命乞いなぞ無駄じゃ!』
「ひい…」
『貴様らには死すら生ぬるい。儂の怒り思い知れ!』
「ぎゃああああっ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「う…、うう…む」
アランは目を覚ました。横を見ると地面に敷かれた赤い絨毯のような敷布に寝かされている。自分はなぜこんな所で寝ているんだろう…。意識が少し混濁している。霞みがかった頭の中が段々クリアになって来た。リサに会いにギルドに行き、妹が誘拐されたと出て行ったリサを追い…。それから…、シュヴァルツが…。ケガをしたリサがいて…。そこですべて思い出した! がばっと起き上がって周囲を見た。
「リ、リサさん。リサさんは!?」
リサを探すアランの胸に何かが飛び込んできた。どしんという衝撃を受けてよろめくアランだったが、なんとか耐えて正体を見ると…。
「リサさん!」
「アランさん。うう…、うわあああん! アランさんアランさんアランさぁん!」
「リサさん。良かった…」
2人はしっかりと抱き合い、温もりを確かめ合う。しかし、そこでアランは何故自分たちは無事なのか疑問に思い、リサに尋ねた。
「リサさん。確か君も私もあいつらにやられて怪我を負ったはずだったと思ったが怪我の跡がない…。それに、あいつらはどうなったんだ? どうして私たちは助かったんだ? そうだ! ハルちゃんとリンちゃんは!?」
「あたしたちも無事ですよー」
「あの…、助けに来てくれてありがとう」
ぽすんとアランの体に抱き着いてきた小さな体。ハルとリンが顔を赤く染めてにこっと笑い、感謝の言葉を送る。下着姿で抱き着いてきたため、美少女の柔らかい体が直に触れてアランは少し慌ててしまう。そういえばリサも自分の上着を羽織っているとはいえ、上半身は裸だ。アランはリサを直視しないように顔を上げて背けると、馬車内で大きなお腹を抱えて休んでいるユウキと目が合った。
「ユ、ユウキ様。どうしてここへ…」
「アランさん、私たちを助けてくれたのはユウキ様なの。ユウキ様がシュヴァルツをやっつけてくれ、治癒魔法で怪我まで治してくださったのよ」
「うふふっ、そういう訳。間に合ってよかったわ。でもぉ、2人の傷が思ったより深くて、思ったより魔力を使ったから疲れちゃった」
「申し訳ありません…」
「いいのよ。それに、戦ってくれたのはそこのドヘンタイーズだから」
ユウキが指差した方をアランが見ると、エドモンズ三世とデュラハン・ヴォルフが照れくさそうにもじもじしながら立っていて、その後ろでアルフィーネがGOGO!と踊ってる。アランは納得して頷くとエドモンズ三世たちにお礼を言った。また、敢えてシュヴァルツたちの事は聞かなかった。
「エドモンズ殿、ヴォルフ殿。助けてくださり感謝いたします」
『なんの。気にするでない。リサは儂らの友でもあるからの。友を助けるのは当然のこと』
「ありがとうございます」
アランは頭を下げて感謝の意を表す。そして、自分の胸に顔を埋めているリサを見た。リサは潤んだ瞳でじっと見つめ返して来た。
「アランさん。あの…、私を助けに来てくれた時に聞こえたのですけど、私の事を「大切な人」って言ってくれましたよね」
「はい、言いました」
「あの…、それって…。その…」
「リサさん」
「はい」
「私、アラン・ベイツはリサ・フランジュさんを愛しています。もう、貴女無しでは生きていられない。私と結婚してくださいませんか」
「…えっ!?」
「リサさん、私と結婚していただきたい。ダメでしょうか」
「え…えっと、だっ、ダメじゃありません! けっ、結婚したいです! 私もアランさんが大好きです。こんなに男の人を好きになったことはありません。好き、大好きです!」
「リサさん。ありがとう」
「アランさん。嬉しい…」
しっかりと抱き合い、熱いキスを交わす2人。
「よかったね、お姉!」
「うん、おめでとうお姉ちゃん! と言う事はアランさんはお兄さんだね!」
想いを遂げ合った2人を見てユウキは心から良かったと思う。リサには幸せなってもらいたい。アランは最高のパートナーになる。自分の見立てには間違いはなかった。
幸せそうに笑うリサとアランの周りをたくさんの美しい花々が舞った。ハルとリサは嬉しそうに花の中をくるくると回る。下着姿で。
『お二人の門出にアルフィーネからのプレゼントでーす! それー、植物魔法フラワー・ハリケーン! お花さん出て来てくださーい♡』
妹たちと一緒にアルフィーネも舞い始めた。キラキラ光る花々がリサとアランを包み込み、次いでぶわっとはじけ飛んだ。
「わあ!」
「リサさん、綺麗だ」
色彩々の花で出来たドレスに身を包んだリサ。その姿は妖精の様に美しい。リサから軍服の上着を受け取り、着直したアランはリサをお姫様抱っこした。「キャッ」と小さく恥ずかし気に悲鳴を上げたリサの頬にキスをしたアラン。最高の幸せを掴んだ2人の笑顔はこれ以上無いくらいに輝いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『それ、お前らも前途ある2人に向かって万歳百回じゃ!』
エドモンズ三世の号令で倉庫から出て来た暗黒騎士と骸骨大戦士が万歳を始めた。ガチャガチャと鎧と骨が擦り合う音を立てながら無言で万歳を繰り返す骸骨は不気味の一言。送還し忘れたユウキは「しまった」と思ったが後の祭り。いい雰囲気が台無しになった。しかも、暗黒騎士たちの後ろに十数体のスケルトンがいて、ぎこちない動きで万歳をしている。
「ねえねえエロモン、あれって、まさか…」
『察しが良いなユウキ。そうじゃ、あ奴ら全員、下級スケルトンにしてやったわ。何か芸でも覚えさせて見世物にでもするかの』
「好きにして。もう、いい雰囲気が台無しだよ」
花々が舞う中で幸せそうに抱擁し合う2人と、祝福の舞を踊るアルラウネと下着姿の女子高生と中学生。その周りで無言で万歳を続ける暗黒騎士とスケルトン。異様な光景にドン引きの護衛騎士とメイドのミウ。
「もう滅茶苦茶。ま、幸せそうだからいいか。これにてリサさんの婚活活動は終了です!」
パチンとウィンクしたユウキ。馬車のソファに深々と身を沈め、早くこの狂乱が終わらないかなと思うのであった。
おしまい
さて、これでリサさんの婚活物語は終了です。最終回はもっとエピソード(例えば、ヴォルフがリンに求愛するとか、ユウキとミュラーがリサについて語り合うとか…)を入れたかったのですが、あまりにも長くなりそうだったので断念しました。
さてさて、次はいつになるか分かりませんが、番外編が掲載されたら読みに来てください。ユウキの子供たちのエピソードも書いてみたいですね。ではまた!




