リサの婚活物語⑤
「はあ、はあ、はあ…。〇〇号倉庫…ここだ」
全速で走り続けたリサの肺は悲鳴を上げた。しかし、妹たちの事を思うと自分の体なんてどうなってもいい。リサは倉庫の大扉の持ち手を持って力いっぱい引いた。
(ハル、リン、どうか酷い事されてませんように…)
妹の無事を祈って引き戸を引くと、ガラ…ガラガラ…と音を立てて扉が人1人が入れるくらい開いた。リサは倉庫の中に入るが、急に明るい所から暗いとこに入ったため、周囲が見えない。しかし、徐々に暗さに慣れてくると、ぼんやりと中の様子が見えて来た。
倉庫の奥に大きな椅子に小太りの醜い男、シュヴァルツがゆったりと腰かけ、ニヤニヤしてリサを見ている。椅子の周囲には約十数人のガラの悪いチンピラたちが控えていた。そして…。
「ハル! リン!」
「お、お姉!」
「助けて、お姉ちゃーん!」
下着姿にされたハルとリンがチンピラに捕えられていた。下着姿にされているものの、酷い事はされていないようでリサは安堵したが、危機的状況なのは変わらない。リサはキッとシュヴァルツを睨みつけた。
「どうしてこんな事をするの!? 妹たちを解放なさい!」
「クククッ…。オレたちは狙った獲物は逃がさねェ。オレはオメェの妹が気に入ったのよ。上の方は仲間で姦し、ヤク漬けにして娼館に売って金にする。下はそうだな、オレの性奴にするのもいいな。それによォ、プールではオレ様のメンツを潰してくれたじゃねェか。その恨みも晴らさんとなァ」
「ひいっ…」
ハルとリサが怯えたような声を出す。リサは頭に血が上るような感覚に襲われる。
「な、なに言ってんの!? 絶対にそんな事はさせない!」
「ククッ…。お前はそうだな…。歳食ってるが、まだ使えるだろ。こいつらの奴隷にでもするか」
リサの背後から近づいたチンピラがリサの腕を取って肩を押さえた。痛みで顔を顰めながらも全力を振り絞って抵抗する。
「な、なにするの!? 放しなさい、このー!!」
体を斜めにして、1人を振り払って床に転がすことに成功した。もう1人も何とか振り払うと、ハイヒールで腹を蹴り飛ばした。「ぐふっ!」とくぐもった声を出して床に転がる。体を押さえていた男から解放されたリサは、妹たちを助けようとハルとリンを捕まえているチンピラに手を伸ばした。
「お姉!」
「ハル、リン! 待ってて!!」
焦るリサの前にチンピラが立ちはだかり、腹にボディを入れた。完全に他のチンピラが目に入っていなかったリサは、躱すことができずまともに鳩尾付近に受けてしまい、息が詰まって床に膝まづいてしまった。
「がっ…げほっ、げほっ…」
「キャアアアーーッ、お姉ちゃーん!!」
「チッ、面倒かけさせやがって。オラァ!」
チンピラは四つん這いのリサの腹を蹴り上げ。床に仰向けに倒した。
「……っ! あぐぅ…がはっ」
「いやーっ! 止めてー! リサねぇええっ!」
「ハ…、ハル…。リン…、待ってて…。いま、たすける…か、ら…」
リサは、痛みで痺れる体を奮い立たせ、うつ伏せに体勢を変え、妹たちに手を伸ばそうとするが力が入らず、プルプルと震えて伸ばせない。自分の力の無さに絶望し、涙が零れ、視界がぼやけてくる。
(ハル…、リン…。ゴメンね…。お姉ちゃん助けられな…かったよ…。ゴメン…ね)
「オラァ、立ちやがれ!」
チンピラは襟首をつかんでリサを立たせると、バンバンと平手で頬を打った。リサはもう痛みも感じない程に弱っている。ただ、その目からはとめどなく涙が流れる。
「おい、もういい。さっさと犯しちまえ。妹の目の前でよがり声を聞かせてやれや」
「ヘイ、ボス!」
チンピラたちはナイフを使って、リサの制服をビリビリと切り裂いた。下着姿にさせられたリサを見て、ハルとリンも大きな声で泣いている。リサはその声にずっと謝り続けていた。チンピラのナイフがリサのブラに当てられた。ケダモノどもに犯され、辱めを受けるくらいなら死んだほうがましだ。ただ、最後にアランの顔が見たかった。それだけが心残りだった。
バチンとブラの紐が斬られる音がした。チンピラたちの下品な笑い声と妹たちの鳴き声が聞こえる。リサは心の中でアランに「サヨナラ…」というと、自分の舌を上下の歯の間に差し込んだ。
リサが舌を噛む覚悟を決めたその時、倉庫の引き戸がガラッと開けられ、外の光が中を照らした。リサは涙で潤む目を見開くと、逆光に照らされた1人の男性が立っていた。リサが最後に会いたいと願った最愛の人。リサは小さくその男性の名を呼んだ。
「ア…、ア…ラ…、ンさ…ん」
「リサさん! 貴様らぁ、リサさんに何をしたぁ!!」
アランは帯剣していたロングソードを抜いて両手に握ると、リサを押さえていたチンピラを袈裟懸けに斬り付けた。ロングソードの鋭い刃と重量はチンピラの体を肩口から腰まで切り裂きいた。内臓をぶちまけながら倒れた仲間を見てリサの下着を切り裂こうとしていたチンピラは怯んでリサから離れた。アランはその隙を逃さず左胸目掛けてロングソードを突きだした。
「ギャアアアアアッ!」
胸を突かれたチンピラは心臓を切り裂かれ、絶叫を上げ、全身を痙攣させて床に倒れた。
「大丈夫ですか、リサさん」
「ア…、アランさん。来て、くれたのね。夢、じゃないよね。う、嬉しい…」
「リサさん…。すみません。私がもっと早く来れば…」
アランは上着を脱ぐとリサに着せ、邪魔にならない場所に移動させて座らせた。そして、シュヴァルツをギロリと睨みつけ、ゆっくりと近づいて行った。
「シュヴァルツ…。貴様、よくもリサさんを傷つけてくれたな。それにハルちゃんとリンちゃんまで怖い思いをさせて…。2人を直ぐに解放しろ!」
「ウルセェ、ただの軍人風情が粋がるんじゃねぇよ。いいのか、オレ様は男爵家の次男だ。軍人とはいえ平民が貴族を傷つけりゃただでは済まねぇぞ」
「…構わん」
「なに?」
「構わんと言ったのだ! 愛する人を守れずして何が帝国軍人か! ここで愛する人を見捨てたら人として終わってる。リサさんを愛する資格を失う。そんな事になる位なら貴様を殺して死刑になった方がマシだ!!」
「ア…アランさん…」
「さあ、どうする…。ここで死ぬか? 死にたくなければハルちゃんとリンちゃんを放せ」
「ク…ククッ。アハハハハ!」
「何が可笑しい!」
「帝国参謀本部屈指の切れ者が聞いて呆れるぜ。お前らの生殺与奪はオレ様が握ってるのがわかんねェのか」
「何だと。うっ…」
「た…助けて…」
「アランさん、助けて…」
ハルとリンを捕えていたチンピラがいつの間にかダガーを取り出し、2人の喉元に当てられていた。刃渡り30cmにもなるダガーの鋭い刃がハルとリンの首の皮を切り、血が滲んでいる。気丈なハルも心優しいリンも恐怖でガタガタと震え、ぼろぼろと涙を流す。
「くっ…。卑怯者…」
「卑怯者結構。最高の誉め言葉だぜ」
「さて、この2人を死なせたくなければ剣を捨てろ」
「……………」
「オレ様は気が短いんだ。10数えるうちに捨てなければ2人を殺す」
「10…9…8…」
残り3になった所でアランはロングソードを床に投げ捨てた。チンピラの1人が剣を拾い上げ、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ククク…。いいザマだぜ。仲間を殺してくれた礼はたっぷりしなければな。お前ら、少し遊んでやれ!」
「わかりやしたぜ、ボス」
チンピラが数人、拳の指をポキポキと鳴らしながらアランの周囲に集まって来た。ニヤニヤ笑いを浮かべた1人がいきなり殴りかかって来る。アランは左腕で相手のパンチを跳ね上げ、右を殴り掛かって来たチンピラの顔に叩き込んだ。チンピラは「ぎゃっ!」と悲鳴を上げて仰向けに床に叩きつけられた。
「まだわかんねぇのか、アラン。アレを見ろ」
シュヴァルツが指差した方を見るとハルとリンの頸動脈にダガーが当てられている。チンピラが少しでも手を動かせば、2人は2m以上も血を吹き上げて即死するだろう。これでは手を出せない。
「く…わかった。手出しはしない(ここは殴られながら、チャンスを伺うしかないか…。そのチャンスがあればいいが)」
「わかりゃいいんだよ。やれ!」
「ヒャッハァーッ!!」
チンピラは同時に殴り掛かって来た。顔にパンチを入れられ、鳩尾にケリを入れられる。アレンは軍人と言っても作戦畑の人間。実戦部隊の兵ほど鍛えているわけではないため、耐久力がそれほどあるわけではない。
鳩尾に入れられたケリはかなり効いた。息が詰まって苦しく、体が言う事を聞かない。チンピラたちはここぞとばかりにリンチよろしく、殴る蹴るの暴力の嵐をアランに叩きつけた。数分後、チンピラたちは満足したのかアランから離れた。
ぼろ雑巾の様になって蹲り、言葉も発せなくなったアランを見てリサはぼろぼろと涙を零した。
「ア…アランさん…。ダメ…」
リサは痛む体を引きずり、アランの許に辿り着くと、愛しい人の腫れあがった顔を手で包み、傷だらけの額に自分の額を当て、何度も何度も名前を呼んだ。その声に気が付いたアランは間近にリサの顔を見て、逃げるように言う。
「リ…リサさん。に、逃げるん…だ」
「イヤ。イヤです。あなたを置いて逃げられない。死ぬなら一緒…」
「ギャハハハハ! 腹イテェぜ。望み通り2人一緒に殺してやる。その後に、お前らの死体を見ながら妹たちと輪姦パーティを盛大に開くとするかぁ。ハーハハハハハ!」
「おい、このウジ虫どもを殺せ」
シュヴァルツはスッと目を細めて配下のチンピラに命じた。アランのロングソードを持ったチンピラが剣を逆手に持ってアランと、彼に覆いかぶさるリサ目掛けて剣を振り下ろした!




