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リサの婚活物語④

 涙目になりながら、体を低くして何とか男から逃れようとするハルとリン。しかし、普通の女の子では男の力に贖えるはずも無い。ジョンやアリサの小学生コンビもぽかぽかと男の腕を叩きまくるが、逆に打ち払われて床に転がされてしまった。


「ガキが、邪魔すんな!」

「お、お姉ちゃんを返せぇ~。うわぁあああん!」

「ウルセェ、ガキ! ブッ殺すぞ!」


「あんたら! 妹たちに何すんのよ! その手を放せ!!」

「べぎゃひっ!」


 突然、ハルの腕を握んでいた男の腹に強烈なキックが炸裂し、男が吹っ飛んだ。


「うおりゃぁああっ! 死ねぇーっ!!」


 続いてリンを捕えていた男の顔面にストレートパンチを叩き込み、拳をめり込ませながら床に叩きつけた。男は「ひでぶ!」と叫んで鼻血を噴き出しながら床を何度もバウンドして転がった。


「リ、リサ姉…」

「ハル、リン。みんな大丈夫。お姉が来たからにはもう安心だからね」

「お、お姉ちゃん。うわあああん!」


 妹、弟たちがほっとした顔でリサの周りに集まって来た。


「失礼ですけど、誰ですかあなたたち。私の妹と弟が何か?」

「テメェ、何モンだ!」


 小太りニキビ面が怒りを含んだ顔でリサを睨んできた。リサは大切な妹、弟を守るため、強気に言い返す。


「私は、この子たちの姉ですけど?」

「へえ…。こいつらはオレの仲間にワザとぶつかって怪我をさせたんだ。だからよォ、責任を取ってもらうんだよ。なあ、お前ら」

「そうだそうだと言いましたー」


「違うよ。ボクとお姉ちゃんが歩いていたら、この人たちがぶつかって来たんだよ。ボク、転んでひざを痛めちゃった…」

「そうなの! このオッサンたちがワザとぶつかったんだよ!」


 ミックとアリサも必死にリサに訴える。その瞳を見たリサは確信した。この子たちは真実を言っている…。


「そうですか…。ですが、この子たちの話を信じます。ですから、あなた方に謝罪を要求します。もし、謝罪が出来ないのなら、このまま去ってください」

「……………」


 リサが厳しい視線で男たちを睨む。蹴られた男も殴り倒された男も立ち上がり、小太りの男の背後に並んだ。他の男たちはずいっと前に出てくる。


「そりゃあ出来ねぇ相談だな。散々コケにしてくれやがって。オレらにもメンツってものがあるんだよ。おい、この女どもを捕まえろ!」

「やめなさい。私は冒険者ギルド「荒鷲」の職員よ。手を出すとギルドが黙っていないわよ」

「そんなん知ったことか。その前にお前らを犯し死にさせてやるぜ」

「くっ…。ハルたちには手を出させないんだから!」

「お、お姉…」


 何とか妹たちを守らねば…。リサは男たちに背を向けて5人の妹弟を集めて抱きかかえた。周囲には大勢の人が不安そうな顔をして事の成り行きを見守っている。何とか助けたいと思うのだろうが、男たちの正体を知っていて手を出せないようだ。男たちがニヤニヤと卑下た笑みを浮かべてリサに手を伸ばして来た。その時…、


「そこまでです。シュヴァルツ殿」

「なんだ、テメェは!?」


 リサと男たちの前に1人の男性が割って入った。その男性を見たリサの目に安堵の色が浮かぶ。


「私はアラン・ベイツ。あなたも貴族の端くれならご存じだと思いますが」

「ベイツだと…。なんでテメェがこんな場所に」

「休暇で来たのです。それよりも、この女性は私の連れで大事な方です。これ以上の手出しは無用に願います。お引き取り下さい。でないと軍を敵に回すことになりますが、よろしいですか」


「チッ…。陸軍の中佐風情が…」

「アニキ、どうします?」

「…引くぞ」

「アニキ!?」

「おい、女。リサと言ったな。このままでは済まさんからな。覚えておけ。アラン、貴様もだ! いくぞ!!」


 どたどたと仲間を引き連れ、ガニ股で去っていくシュヴァルツたち。その姿が見えなくなると、アランは「ふう…」と息を吐いた。そして、妹と弟を抱きかかえているリサに声をかけた。


「リサさん。もう大丈夫ですよ」

「う…、うう…ぐすっ…。ふぇええ…」


 涙をぽろぽろ流し、アランの顔を見上げたリサは、アランの胸の中に飛び込んで泣き出してしまった。連れてハルやリンたちも泣き出してアランの体や足にしがみ付く。


「怖かったですね。もう大丈夫。リサさんも泣き止んで…」

「うう…、はい」

「さあ、プールは終わりにして帰りましょう。そうだ、みんなで少し高級なレストランで食事しませんか。僕が奢りますよ」


 全員がうんと頷いた。アランは少しほっとして更衣室に移動するよう声をかけた。泣き止んだリサはアランから離れようとしない。気が付くとハルとリンもアランと手を繋いでいる。マリアは2人の弟たちと手を繋いで歩き出した。親兄妹もなく育ったアランはこのシチュエーションに戸惑ったが、嫌ではなかった。きっと、自分に妹や弟がいたら、こんな感じなんだろうなと思ったのだった。しかし…、


(このままでは終わらないかも知れないな。シュヴァルツは色々と黒い噂のある人物だ。逆恨みして狙ってくることも考えられる。暫くリサさんたちの周囲に気を付けておく必要があるな…)


 セイレンウォーターパークを出てレストランに向かう途中、アランは言いようもない不安を感じた。そして、それは後日的中するのだった。一方、リサはと言うと、


(さ、さっき、私の事「大事な人」って行ったわよね。それって…ううん。過度な期待をしちゃダメ。でも、もしかしたら…)


 あの時、アランが言った言葉の意味と自分の気持ちをずっと考えていた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 セイレンウォーターパークでの出来事から10日ほど経過した。その間、特に何か起きることも無く、リサはギルドの業務に精励していた。ちなみにアランとお付き合いを始めてから、リサの精神状態は安定し、ヒスを起こすことも無く、他の事務員も心安らかに仕事が出来ていた。その日の朝もギルド内で事務仕事をしていると、後輩職員が話しかけて来た。


「リサ事務長、お客さんですよ」

「お客? 誰かしら」

「妹さんが通ってる学校の先生だそうです」

「先生? なんだろう…」


 リサが受付カウンターに行くと、慌てた様子の中年女性が待っていて、リサの顔を見ると、ハルが学校に来ていないと話して来た。


「えっ!? ハルが学校に来ていない?」

「そうなんです」

「おかしいです。今朝、一緒に家を出たはずなんですけど…」

「それと、通学途中で不審な若い男たちがハルさんを尾行つけていたという話もあって…。それで、もしかしたらと思って…」


 誘拐された? リサの顔からサーッと血の気が引く。さらに悪い話は続くもので、事務員の女の子がバタバタと走ってきて叫んだ。


「リサさん! 妹さん…リンちゃんの学校から魔道電話があって、リンちゃんが学校に来てないそうです。ご両親に聞いても学校には行ったって。リサさんの方で何か知らないか聞いて来てます」

「何ですって!?」


 リサは魔道電話機でリンの学校の先生と話すと、やはり通学途中で姿が見えなくなったことが分かった。不安になったリサはジョンやアリサが通う学校に連絡したがジョン以下はちゃんと学校に来ているという。


「ハルとリンが…。どうしよう…」


 リサたちがおろおろしていると「烈火の剣」に所属する冒険者のレブがリサの所に寄ってきて、困惑した表情で言ってきた。


「リサちゃん、多分ハルちゃんだと思うんだが、ガラの悪いチンピラと港湾の倉庫街に向かうの見たぜ。女子高生が学校さぼって不良と遊ぶなんて、非行の第一歩だぞ」

「レブさん、ちょっと…」

「ん? なんだよ。そういえば雰囲気悪いな、何かあったのか?」


 レブが女子職員に部屋の隅に引っ張られて行くと、入れ違いに別の女子職員がリサの所に来て、1通の封書を差し出した。受け取って見ると、あて先はリサだが差出人が書いてない。封を開け、便箋を取り出して読んだリサの顔が驚愕の表情になり、便箋を投げ捨て、バタバタとギルドから出て行った。


 突然の事に唖然とした職員たちだったが、女子職員の1人が便箋を拾って読んで驚いた。そこには、ハルとリサを返してもらいたければ1人で〇〇号倉庫に来るようにと書かれてあった。


「た、たたた、大変だぁーっ!」

「ど、どどど、どうしよう。リサさんが危ない! そうだ、マスターは!? オーウェンのオヤジに話さないと!」

「ぎっくり腰で休んでる!」

「えーい、この大事な時に。クソの役に立たないわね!」


 女子職員たちと先生が右往左往していると、軍服姿のアランがギルドに入って来た。


「こんにちは。丁度用務でこの近くを通ったものだから寄ってみました。リサさんはおられますか? 少し話をしたいのですが…。ん? どうされました。皆さん顔色が悪いようですが…」


 女子職員たちは顔を見合わせると、便箋をアランに渡した。訝し気に便箋を読んだアランの顔が怒りで歪む。


「クソッ、なんてことだ。こうなることは予測できていたはずなのに! 誰か、国家憲兵隊に連絡してください。僕はリサさんを追います!!」


 アランは踵を返すと、大股で駆け出し、風の様にギルドから出て行った。再び取り残される女子職員たち。気を取り直したハルのことを伝えに来た先生が国家憲兵隊に連絡すると言ってギルドを出て行った。


 残された女子職員が「これからどうしよう…」と話していると、玄関の扉が開いて赤絨毯がサーッと転がって通路ができた。そして屈強そうなフル装備の護衛騎士を先頭に、メイドのミウに手を引かれ、一段と大きなお腹になった皇太子妃のユウキが入って来た。


「ヤッホー、皆さん拝啓前略コンニチワー…って、なんか不穏な雰囲気ね。何かあったの? リサさんいる?」


「あーっ! ユウキ様!?」

「ああ、いい所に…。神はわたしたちを見放さなかった!」


「なになに? なにがあったの?」

「実は…」


 職員の1人が便箋を差し出した。護衛騎士が受け取り、ユウキに渡す。内容を読んだユウキの瞳がギラリと光った。そして、護衛騎士とミウに命じる。


「わたしの大切な友人になんてことを…。騎士さん、ミウ、現場に行くわよ!」

「しかし、皇太子妃様、その身重の御身では…」

「だまらっしゃい。わたしなら大丈夫。だってほら…」


 ユウキはツンツンと耳に飾られている黒真珠のイヤリングをつついた。


「そうでした! 彼らがいるんでしたな」

「ミウ、御者に出発の準備をするように伝えろ」

「わかりましたですの!」


 ユウキは護衛騎士に手を引かれながらギルドを出て馬車に乗り込んだ。騎士は御者に命じて直ぐに馬車を出発させる。女子職員たちは「頼みましたー」とハンカチを振って見送るのであった。

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