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第52話 メイド喫茶は大繁盛(夏祭り2日目)

 メイド喫茶2日目。準備を整えた3人は出撃(開店)の合図を待つ。


「ユウキ、立ち直った?」

 カロリーナが聞いて来るが、ユウキは下を向いて何やらぶつぶつ言っている。


「ボクは、女の子、女の子……。ボクっ子、ドジっ子、おっぱいちゃん…」

「ユウキが壊れちゃった!」


「さあ、開店だよ」

 ホフマンの合図で、メイド喫茶の2日目が始まった。昨日の噂が人を呼び、開店と同時に大勢の客が殺到する。


「ちょっと待ってて、べ、別にあなたが嫌いになった訳じゃないんだからね!」

「ああ~ん、ユーリカをお呼びなの~。いや~ん、待ってて~」


「ユーリカくんは完全に店の方向を取り違えているね」

 ホフマンがユーリカを見て、「ちょっと違うな」というような顔をして言う。


「あ、あわわわ、ご主人様! テーブルをお拭きしますね。あせあせ」

「メイドさん、そこ股間」

「わああああ! ボクったら、またやっちゃった~!」


 3人が戦争のように客を捌いていると、新しいお客がやってきた。


「たのもうー」

「こめんください」

 カランカランという扉が開く音とともに、カロリーナがちょっと膨れた顔をして、


「いらしゃいませ! ご主人様。2人ね、丁度テーブルが開いたわ。こっちよ」

 そう言いながら振り向くと、そこには見知った2人。


「ゲッ! ヘラクリッドとフレッド。なんであんたたちが…」

「いや、商店街で「メイド喫茶」というのが人気らしくて、ヘラクリッド君を誘って来てみたんだ。まさか、カロリーナさんがメイドだったなんて、びっくりだよ」


「ま、まあ、あんたたちだってお客だもんね。案内するわ、こっちよ」


「カロリーナさん、その衣装結構似合うね。かわいいよ」

「当然でしょ。私はね、ユウキやユーリカと違って清純派なの。今頃私の魅力に気づいても遅いのよ。貧乳は正義なのよ、ステータスなの。ほら、メニューよ。早く選びなさい」


「これがツンデレってやつか…。コーヒーセット2つね」

「もうちょっと高いの頼みなさいよね。まあいいわ、待ってて」


「しかし、カロリン殿。お子ちゃまが無理して着飾っているようで、痛々しいですな」

「この筋肉野郎! 貴様なんぞに言われたくないわ! 面白い、表出ろ!」


「か、カロリーナさん、落ち着いて。可愛いから、似合っているから。ホラ、早くコーヒーセット頼むよ」


「むぐぐ…、ま、待ってなさい。今持ってくるから」


「ヘラクリッド君、余計な事言っちゃだめだよ。全く」

「うむ、すまぬ。つい心の声が表に、な」


「はい、お待たせ。熱いから気をつけて飲むのよ。べ、別に心配しているわけではないんだからね」

「メイド殿、このコーヒー、ぐつぐつ煮立っているように見えるのだが」

「あらそう?気のせいよ。早く飲みなさい」

(ああ、もう、この二人は…)

 フレッドは一人呆れるのであった。


 再びカランカランという扉が開く音がした。


「いらしゃいませ~、ご主人様ぁ。ユーリカお待ちしてました~。うふ」

「あれ、ユーリカじゃん。メイドさんてあなただったの?」

「ララさんとアル君…」

「すっかりキャラ変わっているね、しかもその胸元…。アル見ちゃダメ!」


「案内してくれないの?」

「え、あ、ああ、こちらのテーブルにどうぞ…」


「ユーリカ、素に戻っているよ」

「え、あ、あら、いや~ん。ユーリカったら、お水とメニューお持ちしますね~」

「はい、どうぞ。ふふ、アル君。いっぱい食べて、ね。うふふ」


 ユーリカはわざとアルの前に立ち、胸の谷間を見せつけると、アルは顔を赤くして目を逸らす。


「もう、アルったら! ユウキだけじゃなくてユーリカのおっぱいにも興味があるの! 全くイヤらしいったら。仮にも女の子とデート中だよ。ここは全部アルの驕りね」


「ユーリカ!この店の一番高い食事とデザートを1人前。アルにはコーヒーセット」

 ララの怒りモードはマックスだ。


「はぁい、注文承りましたぁ。少し待っててねぇ、えい!」

ユーリカがアルに向かって胸を揺らして見せた。アルの目が釘付けになる。


(もう…。乳の魔力には勝てないっていうの?でも、私は負けない!)



 カランカランという音がして扉が開く。ユウキはその音を聞いて、


(昨日からずっとドジばっかり。すっかりお客さんから「ドジっ子ユウキ」なんて呼ばれちゃってるし、今度こそ完璧に接客して見せる! もうドジっ子なんて呼ばせないぞ。ボクはできる子だ。いざ出陣!)


 ユウキは、よし!と気合を入れると、ありったけのスマイルと大きな声で、


「いらっしゃませ!ご主人様! もう、待ってたんだからね!」

「あれ、ユウキ君じゃないか」

(そ、その声は…。まさか…。ウソでしょ。ウソだと言って!)

 ユウキは恐る恐る目を開けて、相手の顔を見る。


「きゃあああああああ!マ、マクシミリアン様ぁ。どうしてここにぃ!」


 ユウキの目の前には、にこやかに笑うマクシミリアンと護衛と思われる騎士が2人立っていた。


「いやあ、祭りを巡回しながら見回っていたらね。「メイド喫茶」というものが大人気と言うじゃないか。だから、ちょっと寄ってみたんだ。まさかユウキ君がメイドさんだとは思わなかったな。いや、来てよかったよ」


「あうあうあう…」


「ん、どうしたんだい。案内してくれないのかい」

「はっ!はいぃ、ごっ、ご主人様…、こちらのテーブルにどうぞ」


「いやあ、ユウキ君にご主人様と言われると照れるね。その衣装もユウキ君の魅力を引き出している。中々いいね」といって、マクシミリアンは騎士とともにテーブルに座る。


「ええと、この店は何がおすすめなんだい」

「え、えと、ケーキセットです。男性女性問わず人気があります…」

「じゃ、それ3つ」

「は、はい。承りました。今、お水をお持ちしますね」


「マクシミリアン様、あの方がユウキ様ですか」

「ああ、ゴブリンキングを1人で倒したユウキ君だよ」

「とても信じられませんね。あんな可愛らしい女の子が…」


(な、なんでマクシミリアン様が~。もう恥ずかしいよ~。ダメ、緊張してきた)


 ユウキがマクシミリアンの座るテーブルに水を運んできた。恥ずかしさと緊張で足元がおぼつかない。案の定、足がもつれてマクシミリアンにコップの水を零してしまった。


「わああああ!ごめんなさい、ごめんなさい。いま拭きます。だから許してぇ。ふ、不敬罪で、し、死刑にならないですよね。スミマセンスミマセン!」


大慌てで、通路側に座る騎士の向こうにいるマクシミリアンのズボンを布巾で拭く。


「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて。それに、そこは股間だ。恥ずかしいな」

「お嬢さん。私に覆いかぶさると、胸が押し付けられてしまいます」


「きゃあああああああ! またやった! 王子様の股間を触っちゃった。騎士さんにおっぱい触られた!もうイヤ~!」


 ユウキは顔を真っ赤にして、涙目になって店の奥に引っ込んでしまった。周りのお客はその様子を見て「最強のドジっ子爆誕だあ!」と盛り上がる。

 一方、騎士は「さ、触っていませんよ」とマクシミリアンに弁明するのであった。


「いや、今日も凄い売れ行きだったよ。これで、間違いなく商店街の売り上げ1位は私の店になりそうだ。明日は最終日、よろしく頼むよ。はい、今日のバイト料」

 といって、ホフマンから銀貨を渡された。何故かユウキは2人より1枚多かった。


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