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第498話 夢見果てたり②

 ガキィイイン!


 ヘルゲストの巨大な剣とレオンハルトのハルバードがぶつかり合い、激しい剣劇の音が響き渡る。袈裟懸けに斬り上げ、薙ぎ斬りに正中突きなどお互いの持てる技を繰り出す。技量は互角、瞬発力と速度はレオンハルトが上、しかし、体格差によってパワーと持久力はヘルゲストが上回っている。何度も武器を合わせるが双方決定打がなく、疲労だけが積み重なっていく。レオンハルトは段々腕が痺れ、重く上がらなくなってきた。苦痛で視界が歪む。


(くそ…何て奴だ。バケモンめ…)


 レオンハルトは、力任せに相手の剣を押し返し、作った僅かな隙目掛けてハルバードの横薙ぎを放った。決まった!と思ったが、ヘルゲストは剣を引いて一撃を受けると力任せに跳ね返した。


「うわっ!」

「滅せよ!」


 ハルバードごと両腕を跳ね上げられ、胴体ががら空きになった。ヘルゲストはにやりと笑みを浮かべ、鋼の剛剣を豪快にスイングしてきた。レオンハルトは防御しようとしたが、攻撃を返されたダメージで腕に力が入らない。このままでは胴体が分断されてしまう!


(ヤベェ、負ける! エヴァリーナさん、ゴメン!)


 レオンハルトは心の中で恋人に謝ると目を閉じた。


 ドスッ!!


 確かに剣による衝撃音が聞こえた。しかし、自分が死んだような様子がない。不思議に思って目を開けると、ヘルゲストが剣を押込もうとして、鬼の形相でギリギリと腕に力を込めていた。見ると剣はレオンハルトの胴体数センチ手前で不可視の壁にぶち当たったように止まっていて、背後で栗毛色の髪の毛をした巨乳美少女が両手を突き出し、レオンハルトに向かって念を込めている。レオンハルトと目が合った美少女はニコーッといい笑顔を浮かべた。


『させませんよー。防御はお任せのラーメラちゃんだよ!』

「ラーメラ! 助かったぜ!」

『はいはーい。さあ、レオちゃん反撃ですよー』


「ぐぬぬ…貴様、何者だ女ぁ!」


 完璧に決まったと思われた攻撃を防がれたことで、一瞬レオンハルトからの気が削がれた。レオンハルトはその隙を見逃さなかった。頭上に掲げたままのハルバードを握る手に力を込めると、ヘルゲスト目掛けて一気に振り下ろした!


「ウォオオオーーッ!」

「!!」


 ラーメラに気を取られたヘルゲストはレオンハルトの声に気づいた時には、ハルバードの鋭い刃が左肩から右胸にかけて袈裟懸けに切り裂いていた。ズシャァアという肉が斬られる嫌な音とともに、ヘルゲストの口から大量の血が溢れ出す。


「グ…フッ…」


 膝を着いたヘルゲストがレオンハルトに手を伸ばしたが、ズルッと上半身がずり落ち落ちた。膝立ちのまま血を噴き出している下半身では、切断面の下で心臓が鼓動し激しく血を噴き出している。レオンハルトは鼓動している心臓目掛けてハルバードを振り下ろし、粉々に打ち砕いた。


「あばよ、ヘルゲスト。地獄で仲間が待ってるぜ」


 全身に返り血を浴び、疲労で倒れそうになった体をラーメラに支えられたレオンハルトは、驚愕の瞳のまま息絶えたヘルゲスト別れを告げた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 草原に一陣の風が吹いた。と同時にふたつの影が交錯する。ひとつはラファールの女拳士サラ、もうひとつは前髪ロン毛の狼のような目をしたゾンビ拳士「ジョー」。鋭いパンチの応酬でお互いの顔はパンパンに腫れ、体力はとうに限界を迎えている。しかし、お互いの目は死んでない。


 サラは勝負を決めるため、ジョーに向かってダッキングして突っ込んだ。ジョーは迎撃するため左ジャブから渾身の右ストレートをカウンターで放ってきた。サラはカウンターのパンチを跳ねあげてさらにカウンターを打ち込む!


(ここだっ! クロスカウンター!)


 その時ジョーの死んだ目がギラリと光り、カウンターのパンチを跳ねあげてさらにカウンターを打ち込んできた!


(くっ! ダ、ダブルクロスだとっ!)


 ジョーのパンチが目前に迫る! 当たったら終わる。終わったらもうラインハルトに会えなくなる。そんなに嫌だ! サラの体は無意識に反応した。ジョーのカウンターにさらにクロスカウンターを合わせた。


トリプルクロスカウンター! 幻の必殺技が炸裂する。高速カウンターパンチがサラの頬を掠めた。そしてサラのカウンターは…。


『グ…ボォ…』


 ぐしゃぁ…と鈍い音がしてサラのパンチがジョーの顔面に深々と食い込み、肉も骨も完全に砕いていた。サラの拳を受けたジョーはずるり…と顔面から滑り落ち、地面に倒れ伏した。直後、青白い炎に包まれ白い灰だけになった。


「真っ白に燃え尽きたか…。手ごわい相手だった。顔も腫れてパンパンになっちゃった…って、およ!?」

『あらら、大丈夫ですか』


 拳闘のダメージで思わずよろけたサラを受け止めたのはアンゼリッテだった。


「あ、ありがとう、アンゼリッテ。ってか、あんたドコにいたの?」

『失敬ですね。ずっとあなた方といましたよ。決して(作者に)忘れられてた訳じゃありません!』


「(完全に忘れられてたわね)何にせよ助かったわ。申し訳ないけど、治療をお願い。この顔じゃラインハルト様の前に出られないわ」

『陸に上がった死にかけのフグみたいですね。はいはい、治療しますよ』

「ひどい言われようね…。でも、ありがとう」


 アンゼリッテはシートを敷いてサラを座らせると、自分も対面に座って治癒魔法をかけ始めた。淡い緑色の光にサラは身を委ねるのであった…が、


『全然腫れが引かない…。治るかな?』


 アンゼリッテはぼそりと恐ろしいことを呟いた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ぜいぜい…、せあっ!」

『……………』


 アンデッド王オルソンとラインハルトは、激しく剣と剣との戦いを続けていた。周囲に金属がぶつかり合う音が響き、両者の間に火花が散る。


 バキィイン! ガキィイイン!


 左右両方から連続して上段攻撃を浴びせるが、オルソンの剣技はラインハルトを上回っており、難なく捌かれ、隙を見てカウンターの一撃を加えてくる。


『滅セヨ。ワタシトアメリアノ1000年王国ヲジャマスルモノハ、全テ排除スル』

「オルソン! あなたはこの世に存在してはいけない。天に帰るべきだ。我がラファールの始祖として敬意されるべき存在でなければならないんだ! 始祖が魔物と化しては国民が悲しむ!」


『ソノヨウナ事、ワタシトアメリアニハ関係ナイ! ガァアアッ!!』


 オルソンは咆哮を上げ、力押しに押し返してきた。バランスを崩したラインハルトに向かって、ロングソードを振りかぶって、大きく横に払い斬りしてきた。


「うわぁっ!」


 エビのようにおしりを引いて後方に向かって地面を蹴り、何とか一撃を躱したラインハルトだったが、体勢を立て直すことができず、しりもちをついてしまった。オルソンは一気に間合いを詰め、ロングソードを上段に構えて力任せに振り下ろした。地面に座り込んでしまっているラインハルトは横っ飛びに転がって避けた。オルソンの剣は地面を斬り裂いたが、すぐさま横に払い斬りを放つ。


「くそっ!」


 地面に伏せて横の攻撃も躱したラインハルトが仰向けになると、オルソンがロングソードを逆手に持ち刺突の姿勢で狙っているのが見えた。


『終ワリダ…』

「…!!」


 避けられない! ラインハルトは目を閉じたが、いつまで待っても体を貫かれた感触がない。そっと目を開けて驚いた。目の前では白いドレスを着た女性がオルソンの剣で貫かれていたのだった。


『ア…アメリア…。ナ…ナゼ…』

『……………。あなた…、いけません…よ…』


 魂が浄化され人形のようだったアメリア王妃は最後の最後で何故意識を持ったのかはわからない。オルソンの愛の成せる技だったのかも知れない。ただ、オルソンを見つめるアメリアの顔は、生前同様慈愛に満ち、花のように美しい笑顔であった。


『アメリア、アメリアァーーッ!!』

「あなた、あなたはここに居ては…いけない…わ。わたし…とともに…て、てん…に…」


 オルソンの腕の中で満足そうな笑顔を浮かべながら、ぼろぼろと崩れていくアメリア王妃の体。やがて、すべての肉が崩れ骸骨だけになり、その骨もさらさらと細砂のようになって風の中に舞って行った。


『ウォオオオーーッ! オオオォーーーッ!!』


 立ち上がったラインハルトは自身のロングソードを拾い上げると、ゆっくりと天に向かって慟哭するオルソンに向かって歩みを進めた。そして大きく振りかぶると脳天から真っ二つにオルソンを切り裂いた!


 ふたつに両断され、地面に倒れたオルソンは最後の力でラインハルトを見た。そして、堪えきれず溢れ出る涙を拭いもせず、悲しいような憐れんでいるような複雑な表情で自分を見下ろしているラインハルトの顔が、何故かアメリアの最後の笑顔と重なった。その瞬間、哀しみに縛られていたオルソンの魂は解き放たれたのだった。


『…ありがとう。子孫よ』


 ラインハルトに向かって小さく礼を言った直後、青白い炎に包まれ、あっという間に燃え尽きたオルソンの遺灰を手に取ったラインハルトは、その灰を大空に向かって散いた。


「天国で奥様と幸せに…。それが本来の姿です。始祖オルソン…」

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