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第496話 ザ・ラストバトル⑩

 カレー平原中央部ではドラゴン部隊と帝国第1軍団が死闘を繰り広げていた。ミュラーもその中で護衛騎士と共に最前線で戦っていた。1頭の火竜の脳天をグラディウスで貫き倒したところに、伝令兵が大慌てで駆け込んできた。


「ミュラー様、大変です!」

「どうした!?」

「総司令部に竜牙兵が現れ、警備兵と戦闘中とのこと。さらに、ウルの本隊の一部が迫っているとのことです!」

「なんだと!? ヤバい、親父が危ねぇ!」

「ミュラー様、上!」


 護衛騎士の声にミュラーが上を向くと、魔竜リンドブルムが凶悪な口を開いて襲い掛かろうとしているところだった。口の中には鮫のように鋭い牙が何列も並んでいる。


(くそ、油断した!)


 目前に迫ったドラゴンの攻撃。迎撃はもう間に合わない。噛み砕かれる…そう思った時、


「オーラ・ブレード!」


 女の声と同時にリンドブルムの首に光が一閃した。次の瞬間、ずるりと首が落ち、胴体が地響きを立てて地面に倒れ伏した。ミュラーたちが驚いて見ていると、ミュラーの乗る馬に1人の人物がシュタッと降り立った。


「ユウキちゃん!」

「ミュラー、無事!?」


「ああ、オレは大丈夫だ。ありがとうユウキちゃん。ユウキちゃんこそ無事だったんだな!? ガルガのクソ野郎をぶっ殺したんだな!?」

「うん。倒したよ」

「よっしゃーっ! みんな聞いたか!? ユウキちゃんがガルガを倒したってぞ。オレたちも負けてらんねぇ。トカゲ共の残りは少ねぇ。一気呵成に叩きのめせ!」


 ミュラーは周囲の兵にそう叫ぶと、馬の手綱を引いて戦場とは反対側に駈け出そうとした。ユウキはミュラーの手を抑えて馬を止める。


「ミュラー、何処に行こうというの?」

「総司令部に敵が迫ってる。親父が危ねぇんだ!」

「そっちは大丈夫。メイメイやパールが向かってる。司令部の守りは彼らに任せましょう。ミュラーはミュラーの役割があるでしょう。わたしは、その手助けに来た」

「オレの役割…」

「そう。ミュラーの役割。思い出して」

「そう…。そうだな、オレの役割はこいつらをぶっ潰し、帝国の…世界の平和を守るんだった。すまんユウキちゃん。少々動揺しちまったぜ!」

「良かった、分かってくれて。あと一息だよ、頑張ろうね。チュッ♡」

「ユ、ユウキちゃん!?」

「えへっ。おまじない♡」


 真っ赤になったユウキは舌をペロッと出して飛び上がるとアース君に声をかけた。アース君は群がっていたドラゴンを電撃で蹴散らすと、グオオッと体の3分の2程を持ち上げた。ユウキはアース君の頭の上に降り立って周囲を見る。ドラゴンは砲撃と帝国軍の反撃によって、大分数を減らしたとはいえ、まだ2~3万尾程残っているようだ。ユウキは魔力を最大限に高め、爆裂魔法を放った。


「メガフレア!」


 超高温高圧の暗黒の球がユウキの周りに数十発も生み出され、高速でドラゴンの集団に向けて打ち出されて行き、着弾と同時に大爆発を起こした。爆発の威力は絶大で、硬い表皮を纏い、高い防御力を持つドラゴンといえど爆炎に焼かれ、爆風に吹き飛ばされて千切れ飛んでいく。ユウキは何度もメガフレアを唱え、一度に数百単位でドラゴンを屠っていく。その凄まじく圧倒的な破壊力にミュラーを始め、帝国兵は驚きをもって眺めているしか出来なかった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「お…お兄ちゃん、どうしよう」

「アルヘナ、弱気になるな。ボクたちが頑張らなくてどうするんだ」

「う…うん。でも…わあっ、きゃああっ!」

「アルヘナ!」


 突然現れた竜牙兵に襲われている総司令部では、カストルとアルヘナの兄妹や警備兵に混じってクリスタが必死に防戦していた。そこに斜面を登り切ったウルの獣人兵が雪崩れ込んできた。攻撃手段を持たないアルヘナも標的にされ、獣人兵は恐ろしい表情で武器を振り下ろしてきた。やられる! そう覚悟したアルヘナはぎゅっと目を瞑った。その時…、


『させるかよ!』

「ぐがぁあっ!」


 聞きなれた声と共に獣人兵の悲鳴が上がり、地面に体を打ち付けたような音が聞こえた。アルヘナは恐る恐る目を開けると、目の前に恐ろしげな姿に似合わない優しげで頼もしい笑みを浮かべた上級悪魔アークデーモンのメイメイが立っていた。


「メイメイちゃん!」

『わたしもいるわよ』

「パールちゃん!」


『オレ様たちが来たからにはもう大丈夫だ。マイ・スモールバスト・エンジェル。安心して後ろに下がっていてくれ』

「来てくれて嬉しい。陛下たちが危険なの。助けて!」


『任せろ。アリエル、お前は骸骨どもを殺れ。パール、お前はオレ様と一緒に獣人兵を殺るぞ。オレ様の天使を傷つけようとするなんざ、絶対に許せん。1人残らず皆殺しにしてやる!』

『了解よ。わたしの大切な旦那様に剣を向けた罪、死で償ってもらうわ』

『アンデッドは天使の敵。ヘブンズ・レイ!』


 メイメイは悪魔の翼を広げて空に飛び立ち、下を眺める。視界には大勢の獣人兵が斜面を登っているのが見えている。ざっと見たところ、向かってくる兵全体の3分の2は居るだろう。メイメイはニヤッと笑うと魔力を最大限に高める。


『チンカス野郎どもが…。アークデーモンの恐ろしさ、思い知らせてやる。なぜ、オレ様たちが殲滅者と言われるか、その身をもって知れ! アース・シェイカー!!』


 獣人兵が取り付いていた丘の斜面が突然激しい揺れに襲われ、地面が崩れながら割れていき、獣人兵は恐怖に顔を歪ませながら次々に地面に埋もれていった。魔法発動から数分経過し、揺れが完全に収まった後には、あれだけ居た獣人兵の姿は無くなり、完全に破壊された地面以外に見えるものはなかった。


「い…一体、何が…」


 一足早く丘の上に辿り着いていたバルドゥス将軍は、背後の斜面を見て驚愕し、言葉も出せなかった。斜面を登っていた獣人兵は300名はいたはず。それが僅かな間に地中に飲み込まれてしまった。将軍はぎりっと歯を食い縛ると前を向いた。一緒に突入した仲間はまだ100名程はいる。仲間たちは全員自分を見て命令を待っている。その誰もが決死の覚悟を決めた目をしており、迷いなどはない。将軍もまた覚悟を決めた。目の前には倒すべき帝国皇帝を始め、各国首脳がいる。ハルワタートの為にも目的は果たさなければならない。将軍は剣を持った右手を大きく前方に突き出した。


「ウルの精兵たちよ、全員突撃! 帝国皇帝の首を取れ!」

「うぉおおおおっ!」


 獣人兵たちは雄叫びを上げて突進した。しかし、その前に立ちはだかるのは上級悪魔、アークデーモンのメイメイと羅刹パールヴァティ。2人もまた愛する主人を守るため戦いに身を投じる。


『来い、カスども! 超貧乳剣スーパーアルヘナソード、貧乳爆裂破!!』

「あのネーミング、いい加減やめてくんないかな~」(アルヘナ)

『ブラッドソード! 血風桜散の舞!!』


 メイメイの爆裂魔法で十数人が吹き飛び、剣の一振りで数人纏めて体が切り裂かれる。また、パールの縦横自在な体捌きによる攻撃で、獣人兵は有効な反撃もできずにブラッドソードの餌食になっていく。上級悪魔という存在と圧倒的な戦いぶり、悪魔が人間を守って戦うという常識外れな行為に、皇帝フリードリヒやグレイス女王、聖女スバルなど、各国の首脳たちは信じられないといった風に見ているだけだった。


 短時間のうちに2個中隊400名の獣人兵のほとんどが討ち取られてしまい、バルドゥス将軍を含め僅か数名の兵を残すのみになってしまった。先行して出現していた竜牙兵は天使と名乗った翼を持った少女の攻撃であっという間に駆逐され、1体も残っていない。


「く…くそっ。ここまで来て…」


 余裕を持った表情でアークデーモンと女悪魔、天使が剣を構えて立ち塞がる。上級悪魔の恐ろしさは噂で聞いたことがあるものの、ここまで凄まじいとは思ってもみなかった。しかも、悪魔のくせに人間を守る行動を見せるとは実際に目の前で見ても、とても信じられなかった。


「将軍、我々が悪魔を押さえます。その隙に皇帝を倒してください」

「しかし…、お前たちだけでは…」

「我々の悲願のためには、命など惜しくはありません!」

「将軍!」


「わかった。お前らの命、俺がもらい受ける!」

「よっしゃ! 将軍のために道を開くんだ!」

「行くぞ1億玉砕火の玉だ! うおおっ!!」

「スマン…」


 生き残った数名のウル兵が武器を手にしてメイメイたちに向かった。命を賭した突撃にメイメイとパールは思わぬ防戦を強いられ、アリエルは押し倒されてしまった。


『おっ! くそ、この野郎』

『ちっ…、やるじゃないの』

『あわわわ…』


 それでも、遥かに地力に勝るメイメイとパールはウル兵を圧倒し始め、1人2人と斃して行く。ただ、アリエルだけはごろごろと地面を転がってウル兵の攻撃を避けていた。ウル兵の決死の思いはバルドゥスが突撃するための時間を稼ぐことができた。バルドゥスは兵たちが倒されて行くのを横目で見ながら、目標である帝国皇帝フリードリヒ目掛けて一直線に走る。


「俺はウル国将軍バルドゥス! 皇帝覚悟!!」

『危ない!』


 フリードリヒが目前に迫る。バルドゥスはロングソードを両手に持ち上段に構えた。フリードリヒは完全に虚をつかれ、防御姿勢を取るのが一瞬遅れた。しかし、バルドゥスの特攻に気づいていたアルフィーネたちアルラウネ3姉妹が、バルドゥスとフリードリヒの間に割って入った。


 咄嗟のことでバルドゥスは攻撃を止めることができない。アルフィーネが通せんぼして、ルピナスとメリーベルはフリードリヒをしっかりと抱きしめた。怖くて目をぎゅっと閉じたアルフィーネにロングソードの鋭い刃が迫る。


 カキィイン!


 鋭い金属音がしてバルドゥスの剣が弾かれ砕けた。間一髪アルフィーネを救ったのはクリスタだった。魔法剣アブソリュート・ゼロが絶対零度の凍気でロングソードを砕いたのだった。


「アルフィーネちゃんは殺させないわよ!」

『クリスタさん!』


「…ちっ」


 武器を失ったバルドゥスはクリスタの剣を押し返すと、一旦その場から離れようと振り向き、そこで動きを止めた。バルドゥスの目の前に突き出された剣とベイツ中佐が立っていたのだった。


「そこまでだ。降伏しろ、ウルの将軍」

「……………断る。と言ったら」

「切って捨てる。皇帝陛下を狙ったんだ。その覚悟はしているのだろう」

「くくく…、わーははははっ!」

「何がおかしい」

「負けだ…。俺の…いや、ウルの負けだ。だがな、ウルは死なん! どれだけ時間がかかろうが、俺たちの想いは受け継がれていく。そして、俺たちが理想とした世界が構築される日が必ず来る。楽しみにしておけ、さらばだ!!」


 バルドゥス将軍はベイツ中佐の腰ベルトに帯剣していたダガーを奪い取ると、自らの心臓を貫いた!


「がはっ…」


 フリードリヒを始めとした各国の要人や帝国軍の司令部要員、警備兵、カストルとアルヘナ姉妹たちが見守る中、バルドゥス将軍は満足げに笑みを浮かべると、地面に倒れ、こと切れた。優しいアルラウネ3姉妹はバルドゥス将軍の亡骸に手を合わせる。その頬に一筋の涙が流れた。ベイツ中佐は小さくため息をつくと、司令部の情報参謀に声をかけた。


「ウルの本国軍はどうなった?」

「全滅しました…。第6軍からの報告によると、最後の一兵まで戦い、玉砕したと…」

「そうか…。全滅したか…」


「この戦いも終わりだな…」


 静まり返った臨時総司令部に、ベイツ中佐の小さな呟きだけが響いた。

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