第493話 ザ・ラストバトル⑦
「星々の終焉の力、全てを破壊せよ。スーパー・ノヴァ!」
元素の崩壊限界まで圧縮された光の球がガルガの体内に向けて打ち出された。ユウキはゲイボルグを手に取ると、転移魔法を唱えてアース君の背中の上に着地した。
『ガァア…、アアッ!?』
ガルガの体が膨張して急速に膨れ上がった。体内の圧力が高まり、内臓が圧迫され苦悶の声を上げる。しかし、それも一瞬の事。ビシッ、ビシッとガルガの体にひびが入り裂け目からスーパー・ノヴァのエネルギーが噴き出した直後、メガフレアとは比較にならない規模の大爆発が起こった。ガルガは断末魔の叫びを上げるが爆発音にかき消された。
『ギャアアアアーーッ!』
原子崩壊により巨大な火球が発生、火球は急激に膨張して衝撃波を発生させ、爆風となって拡散した。火球の熱エネルギーは凄まじい上昇気流を生み出し、きのこ雲を生成する。
ガルガから1km程離れた場所にいたユウキとアース君にも高熱爆風が襲い掛かるが、アース君はマグネティック・フィールドを展開してユウキと自身を守った。
フレアを遥かに上回る威力を持つスーパー・ノヴァの爆発、しかも体内で起こった爆発にさしものガルガも耐えられず、木っ端微塵に吹き飛んだ。首から引き千切られた頭は、爆圧によって目や脳、舌などの軟体部が飛び散り、皮膚が焼け落ちて骨だけになって地面に落ちて転がった。さらに、細かい肉や骨の破片、バラバラに剥がれた鱗がユウキとアース君の上に降り注いだ。
爆風が収まり、視界がクリアになった。ユウキとアース君が爆心地にゆっくりと進んできた。
『さすがのガルガも耐えられなかったようだな。跡形もない…』
「強敵だった。一歩間違えば負けていた。勝てたのはアース君のお陰だ」
『そう言ってくれれば嬉しい』
「これは…、ガルガの頭骨?」
目の前にユウキの身長の何倍もありそうな巨大な頭骨が転がっていた。ユウキは討伐の証明とするためマジックポーチに収容した。改めて周囲を見回すと、所々に肉や骨片が落ちているだけで、ほとんどはスーパー・ノヴァの超高温の火球に飲み込まれて燃え尽き、強烈な爆風で吹き飛ばされたようだった。
アース君がユウキの側に来て尋ねた。
『主、これからどうするのだ』
「………戦場に戻る。愛する人が戦っているから」
『わかった。背に乗ってくれ』
「ガルガは倒しても、ヤツが呼び出した魔物の数は膨大だ。わたしの力で殲滅する」
ユウキを背の乗せたアース君は戦場に向けて走り出した。ユウキは今一度戦いの後を振り向くと、ガルガに向けて別れを言ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ガルガの野郎、戦場から離れてドコに行きやがったんだ?」
「情報によると暗黒の魔女を追って行ったそうですが」
「……………。むっ!?」
「どうした? ババア」
「起動システムが…」
タマモは手にしていたガルガの起動システムをハルワタートたちに見せた。全員が注視していると3つの宝珠にビシッビシッとひびが入り、パリーンと音を立てて砕け散り、細かな破片がタマモの足元にパラパラと落ちた。
「まさか…」
「邪龍ガルガが倒されたというのか? ウソだろ」
「じゃが、それしか考えられん」
「暗黒の魔女に殺られたってのか!? くそっ、化け物め!」
「マズいな…。ハル坊、どうする? 引くか?」
「………。いや、引かねえ。もう引き返す訳にはいかねえんだ」
「ハル坊…」
「引き返したところで何が残る? 帝国の奴らはウルに攻め込んでくるだろう。そうなればウルは蹂躙され、国土は荒れて二度と再起はできねぇ。そして、オレらを待つのは破滅だけだ」
「そうです、ハルワタート様。幸い魔物の軍勢は帝国を圧倒している。オルソン殿の召喚魔法もある。我々は圧倒的に有利です。進軍すべきです」
「ミハイルの言う通りだ。バルドゥス将軍!」
「ハッ!」
「魔物の軍勢が敵本隊を引き付けている間に、我々の本隊を率いて一気に敵の本陣を襲撃するんだ。本陣には帝国皇帝を始め各国の王族閣僚が詰めている。おまけに守備兵は僅かだ。本陣を落とせば軍の抵抗も終わる。俺たちの勝ちだ」
「分りました。ウルの精強なる兵を持って敵陣を突破、必ずや任務を遂行します」
「ミハイル、魔物の采配は任せるぞ」
「はっ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、カレー地域の中央中央軍第1軍第1師団ではミュラーが先頭に立って兵を鼓舞しながらドラゴンの群れと激闘を繰り広げていた。
「だりゃあっ! 死ね、クソとかげ野郎が!」
騎馬を操り、火竜ザラマンダーの顎下から神槍グラディウスを突き刺し、脳天をぶち抜いたミュラーはすぐさま馬を後退させた。ズズンと地響きを立ててザラマンダーは倒れる。
「いいか、ドラゴンの鱗は硬い。だが、下腹は柔らかい。そこを狙え! 恐れるな、俺たち帝国兵は世界一強いんだ! 爬虫類なんぞに負けやしねぇ。俺たちの戦いぶりを国の女の子たちが見てるぞ! 無様な戦いぶりを見せるんじゃねえ! 大隊長、銃砲隊の再編は終わったか!?」
「いつでも行けます!」
「よっしゃ、一斉に仕掛けろ! 騎馬隊は銃砲隊の攻撃後、オレに続け!」
「ミュラー様」
ミュラーの騎馬の横に護衛の騎士が馬を並べ、話しかけてきた。
「どうした?」
「ドラゴンたちの動きが変です。急に統率が取れなくなったように感じませんか?」
「なに?」
護衛騎士の言葉に周囲を見ると、確かにドラゴン同志の連携がとれておらず、動揺し動きが悪いように見える。帝国兵の攻撃にも有効な反撃ができていないようだ。
「もしかしたら、ガルガに何かあったのかも知んねえな」
「何かとは?」
「決まってるじゃねえか。オレの愛する妻(予定で未定)がガルガをぶっ潰したって事だろ」
「まさか…」
「まさかじゃねえよ、ユウキちゃんがガルガに勝ったってことだ。さすが我が嫁、ナイスバスト!」
そのうち、ミュラーたちの頭上をヒュルヒュルと砲弾が空気を斬り裂く音をいくつも立てながら飛び、ドラゴンの群れの後方に着弾して多数の爆発が起こった。爆風で何体ものドラゴンが体を引き千切られ、吹き飛ばされるのが見える。
「砲兵師団から連絡! 飛竜の撃退完了、支援砲撃を再開す。以上!」
伝令兵が砲撃開始を伝える。ミュラーを始め全員が歓声を上げた。各部隊の小隊長から大隊長まで配下の兵に命令を伝える。
「敵は混乱している。一気に畳み込むぞ、帝国兵の力を思い知らせてやれ! 銃砲隊一斉射撃だ。撃てえーっ!!」
「よっしゃ、敵が崩れたぞ、続けーっ!」
支援砲撃と銃砲隊の射撃で一層混乱し、統一した動きが出来なくなったドラゴンの群れ目掛け、ミュラーは神槍グラディウスを振り回しながら護衛騎士を連れてまっしぐらに突っ込んでいった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
右翼に展開している第7軍団第20師団、通称アレクサンダー師団は、繞回運動を阻害しようと進んできた魔物の群れを前に迎撃戦を展開していた。
「師団長、砲兵師団の支援砲撃が始まりました!」
「やっとか! 聞こえるぞ爆発音が。これで優位に立てる。首席参謀!」
「分ってますって。報告によりますと、各師団の攻撃と砲撃とで魔物軍の兵数は約半数10万にまで減少し、一方我が師団はまだ4分の3の戦力を保持しています。現在、戦列の再編が完了したところで、負傷兵は後送してます。現在は第21、22師団と第8軍団の第23師団が迎撃戦を展開中。まもなく戦力再編のため引くところです。全体的に見て我々は有利に戦闘を展開しています」
「よし、21、22が引いたら前に出るぞ。第2、第3連隊は前進して奴らの攻撃を受け止めろ、第1大隊は側面に移動し、攻撃を仕掛けるんだ。敵の陣形を崩したら第4連隊が突撃、一気に殲滅するぞ」
「オヤジの命令が出たぞ! 各大隊に命令!」
通信参謀が通信兵に命令を伝えるのを見ながら、アレクサンダー少将は背の小さい美少女姫を思い浮かべた。
「ラピス様、無理をしなさんなよ…」
「隊長、第2、第3連隊と魔物共が戦闘開始しました」
「よし、銃砲隊と魔法隊の配置は済んでるな」
「ハッ。いつでも行動可能です。ラピス様も魔法隊に加わって攻撃に参加するとのこと」
「さすがマーガレット様のお子だな。いい度胸してるわ」
「本当ですね。でも、かわいいからヨシです」
「意外と、いいおっぱいしてるしな」
「お、隊長もそう思いますか!」
「このドスケベども…、いい加減にしなさい!」
大隊付のやや胸の膨らみが寂しい女性兵に叱られて緊張感を失った銃砲隊長は、やらしい笑みを浮かべながら双眼鏡で魔物の群れを見た。
「距離…300。くくっ、魔物の単純頭め。第2、第3連隊に夢中になってこっちに気付いていやがらねぇ。おい、ぺったん娘、射撃準備の合図だ」
「誰がぺったん娘じゃ、ぶん殴るぞ! 銃砲隊射撃開始、1匹たりとも生かして返すな。皆殺しじゃ、皆殺しにしろ!」
怒りの女性兵士の合図で銃砲隊が射撃を開始した。装薬の爆発音と火薬の臭い、白煙が周囲に充満する。予測していない横合いからの射撃に体や頭を撃ち抜かれ、バタバタと斃れる魔物達。銃砲隊の連続射撃が終了し、銃兵が後方に下がって、代わりに魔法隊が前進した。魔法隊を指揮する中隊長が手を上げて魔法を打つタイミングを計る。
「わたくしの出番ね。最強最大の魔法をぶっ放すわ。水の女神アクアよ、万物を氷結させる風雪の嵐を我に…」
ラピスだけではなく、一列に並んだ魔法兵が一斉に魔法を発射する準備を整えた。兵たちを確認した魔法隊中隊長の手が振り下ろされる。
「ブリザード!」
ラピスは斜に構えて右腕を前方に突き出した。腕の先からー50℃にもなる超低温の猛吹雪が吹き出され、銃に撃たれて右往左往するゴブリンやオークをあっという間に凍らせ、氷柱に変えていく。また、魔法隊の兵が放った魔法も命中し始め、ラピスのブリザードから逃れた魔物を切り刻み、打ち砕いて行く。
「今だ、大隊突撃!」
大隊長の命で歩兵が一斉に魔物の群れに向かって突撃した。ラピスもミスリルソードを抜いて走り出す。その後ろを面倒くさそうな顔のアメリアと、汗臭い兵士に色目を使うスズネが追いかけて行く。血生臭い戦場だが、ラピスは愛する大地を守るため、勇気を振って剣をゴブリンの胴体に叩きつけた。




