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第492話 ザ・ラストバトル⑥

 ガルガの顔の高さまで飛び上がったユウキは、顔の真ん中目掛けて爆裂魔法を放った。威力を絞ったため全くダメージは無かったが、目の間で発生した閃光に一瞬目が眩む。その隙をついてガルガの顔に降り立ったユウキは全身の力を込めてゲイボルグを眉間に突き刺した。


 キィイイン!


 金属的な音がして火花が飛び散る。しかし、ゲイボルグの刃をもっても1ミリも通らず、ダメージを与えることは出来ない。


「もう! 何なのよ!?」


 ユウキは頭にきてゲシゲシとゲイボルグを何度も叩きつけるが、ガルガの鱗は固く、全く歯が立たない。うっとおしくなったガルガは頭を左右に振ってユウキを振り落とそうとする。


「わっ、きゃあーっ!」


 遠心力で体が持っていかれる。ユウキは振り落とされまいと角に摑まって必死にこらえる。しかし、徐々に腕が痺れ力が入らなくなってきた。


(うう…ゲイボルグが通れば、魔力で体内にダメージを入れられるのに…。どこか、どこかないの? ウィークポイントが…)


 振り回されながらもユウキは弱点が無いかガルガを観察する。そして気付いた。


「あった! よ、よし…っ」


 ユウキはガルガの角を片手で掴み直すともう片方の手でゲイボルグを振りかぶったが、体を押さえる力が半減したため、一層体が振り回されてしまい、狙いがつけられない。


「く、くそ…、振り回されて気持ち悪い…。それに狙いが…」

『ガァアアアッ!』


 前屈みになったガルガは前足でユウキを引き裂こうとした。鋭い爪がユウキに迫るが体を捻って何とか躱す。しかし、爪を避けるために捻ったことが幸いしてガルガの左目側にユウキの体が振られた。


「やった! ガルガ、覚悟!」


 ユウキはガルガの下瞼付近に両足を揃えて屈み思いっきり蹴って空中に飛び出し、一回転して態勢を整えるとガルガの左目目掛けてゲイボルグを投擲した。真一文字に飛んだゲイボルグは狙いたがわず瞳のど真ん中に突き刺さった!

 ユウキはガルガから少し離れた場所に魔法で転移した。ガルガは片目を潰された上、ゲイボルグの魔力で体の中をずたずたに切り刻まれる痛みで狂ったように暴れまわり、熱線砲を吐きまくる。


『ギャオオオオオーーン! ガァアアアアーーッ!!』


「よしっ! いかにガルガの外皮が硬くても目だけは軟組織だからね。ダメージは与えられたはず。あとは、どうやって止めを刺すかだけど…、わあっ!」


 痛みに耐え、翼を羽ばたかせて上空に飛び上がったガルガは、無差別に地上を熱線砲で薙ぎ払った。地上が連続して大爆発を起こし爆炎と土煙の狂演が巻き起こる。ユウキは地面に出来た窪みを見つけ、そこに飛び込んで身を潜めた。ユウキの上にパラパラと小石が降りかかる。


「くそ、無差別に攻撃してきやがって。何とか動きを止めないと」


 窪みからそっと頭を出して空を見上げるとガルガはユウキを探すように上空を旋回していた。ユウキはガルガが自分に背を向けたタイミングで転移魔法を唱えた。


 転移した先はガルガの背中の上。両者には大きさに差があり過ぎるのでガルガはユウキを背に乗せていることに気付かない。ユウキは鱗に手をかけて、風圧で吹き飛ばされないように少しずつ翼の付け根付近に移動し、帯剣していた振動波コアブレードを抜いて魔力を通した。


「くらえーっ!」


 ユウキは振動波コアブレードを翼と胴体の付け根に叩きつけた。魔力によって発生した高周波を纏った刃が、鱗に守られた外皮ほどの強度を持たない翼の骨と皮を切り裂いた。


『ギャオオオゥーッ!』

「うわぁああっ!」


 切られた痛みでガルガが吠える。ユウキはコアブレードを翼の付け根に当てたまま、ガルガの背中を駆け抜け、コアブレードを振り抜いた! その反動で空中に投げ出されたユウキはガルガを見る。


 空中に浮かぶユウキに熱線砲を浴びせるため、方向転換して口を開けたガルガ。熱線砲を発射する寸前、片方の翼が根元から剥がれた。片翼になってバランスを崩したガルガは虚空に向かって熱線砲を放ちながら地面に落下した。衝撃による地震動でかろうじて残っていた建物が土煙を上げて崩れ落ち、瓦礫と化していく。


 高度数百mから落下したため、さすがのガルガもダメージを受けて蹲り、痙攣したように震えている。離れた場所に着地したユウキはチャンスとばかりに魔法による攻撃を仕掛けた。


「今だ、畳みかける! メガフレア!!」


 ユウキの周囲に超高温高圧の暗黒の球がいくつも浮かび上がった。ユウキがガルガに向けて手を振り下ろすと暗黒の球は一斉にガルガに向かって飛び、全弾が命中した。命中と同時に大爆発が起こり、超高熱の爆炎と爆圧がガルガを包み込む。


「…今度こそやったか!?」


 ガルガを包み込んでいた爆煙が収まる。しかし、現れたガルガの姿を見てユウキは仰天驚いた。余りの驚きに声を失う。


「どうして…」


 やっとの思いで声を出したユウキの目の前には、悠然と立ち、冷たい目で見下ろしているガルガの姿があった。


『ギャオオオオオーーン!!』


 ガルガが上空に向かって吠える。すると、切られた翼が根元から再生し、元通りになった。また、片眼に突き刺さっていたゲイボルグが抜け落ち、カランカランと地面でバウンドして乾いた音を立てる。見れば目の傷も塞がり、元の爬虫類のような目に戻っていた。


「…っ!」

『人間の小娘と侮っていたが…。我をここまで追い詰めるとはな。誉めてやろう』

「……………」

『…我と対等に戦うその力。前文明でもそんな者はいなかった。貴様、ただの人間ではあるまい。どうだ、あの魔法生物共々我の配下にならぬか』

「なんだって?」

『貴様の力は人を超えている。ここで勝利したとて英雄としてもてはやされるのは一時的。いずれ人々は貴様の力を妬み、恐れ、憎むだろう。その先にあるのは…』


「うるさい! 黙れ、もう言うな!」

『自分でもわかっているか…。わかっているなら我と来い。全てを滅ぼし、我々の望む世界を作ろうではないか。どうだ? 我と貴様でこの世界の神として君臨しようではないか』


「…神、だと」

『そう、神だ』


「お前は神となって何を成そうする」

『何を成すか…。そんな事は決まっている。魔法文明に生み出され、使役され、用済みとなれば処分されるだけの存在。それが我々魔物だ。その魔物がその末裔どもを滅ぼし、魔物が支配する世界を構築するのだ。我々の恨みを思い知らせるのだ!』


「なら答えは決まっている。断る!」

『ほう…。断るか』

「そうだ、断る。わたしはこの世界が、今の世の中が好きだ。絶対に破壊なんかさせない。させる訳にはいかない!」


『そうか。ならば、貴様はここまでだ。死ね、矮小な人間よ!』


 空を見上げたガルガの口元に向かって体中からエネルギーの流れが集まって行く。その流れが1点に集約された時、ガルガはユウキに向かって虹色に輝くエネルギーの奔流を吐き出した。


超熱線砲ハイメガバスター!!』

「ダークシールド!」


 魔力による暗黒魔法による防御シールドを展開して超熱線砲を跳ね返すユウキ。しかし、超熱線砲の凄まじいエネルギーにシールドが押し破られそうになる。ユウキは魔力を高めてシールドを強化するが、超熱線砲の破壊力はユウキの魔力を上回った! 防御シールドがエネルギー流の圧力でビシビシッとひび割れて行く。


(だ、ダメだ…。もう…持たない…。ごめんね、ミュラー…)


『マグネティック・フィールド!』


 突然胸元のペンデレートが光り輝き、アース君が飛び出てきた。直後、ユウキのシールドが熱エネルギーに飲み込まれて消滅し、熱線砲がアース君に直撃した…と思われたが、熱線砲はアース君の手前で見えない壁に阻まれ、四方八方に飛び散って爆発した。


『グルルル…』

『間一髪、間に合ったな。主、大丈夫か』

「あ、うん。あの、アース君…どうして…」


『我には自己再生能力が備わっている。時間が経てばいずれ復活したのだが、優しい主が宝珠にずっと治癒魔法を流し続けてくれたおかげで自己再生が促進され、通常より再生速度が速まったのだ。ありがとう、主』

「アース君…。よかった…」


『さあ、反撃だ。ガルガは我が抑える』

「でもヤツには攻撃が通じないよ」

『確かにガルガの外皮や超硬質の鱗を破ってダメージを与えるのは困難だろう。だが、電撃は通るから動きを止めることは出来る』

「だけど、動きを止めたくらいじゃ…」

『どんなに外が硬くても、体内にはそれほどの強度はあるまい』

「内部から破壊するっていうこと? 確かに方法はそれしかないかも。でも、どうやって…?」

『わからん! では、後を頼む!!』


 アース君はドザザザーッと土煙を上げてガルガに突進した。ガルガは熱線砲を発射して迎撃する。


『ガァアアアッ!』


 熱線砲がアース君の鎧板を直撃するが、強固で曲線的なメタルアーマーは熱線砲の熱に耐え、エネルギーを受け流した。アース君にダメージが通らないことでガルガは怯む。その隙をついてアース君はガルガの正面に体当たりし、仰向けに押し倒した。さらに顎の下に頭を押し付け、熱線砲が自分に向かないように顎を固定した。


『グァアアッ! 貴様…』

『何度も同じ手は食わん。今度はこっちの番だ、エネルギー衝撃波!』


 アース君の体全体が青白く光り、数万ボルトの電流が生成され激しく放電し始めた。ガルガの体も激しい電流に包まれ、全身の筋肉が痺れるように痙攣し、苦し紛れの咆哮を上げる。アース君はガルガの動きを封じるため、一層体に力を入れ電撃を浴びせ続ける。


(アース君…。体は再生したと言っても完全じゃない。アース君はわたしにチャンスを与えるために無理して頑張ってる。その期待に応えたい。だけど、今のままじゃ…)


 ユウキは地面に落ちていたゲイボルグを拾うと、目を閉じて心の奥底に渦巻く暗黒の力に意識を向けた。


(わたしをわたしで無くした忌まわしい暗黒の力…。でも、今はその力が必要。今よりももっと、もっと強大な力が必要なの。暗黒の力よ、今一度わたしに力を与えて…)


 ユウキの体が暗黒の闘気オーラに包まれ、激しい衝撃波が周囲に放たれ、地面の土砂や建物のがれきが吹き飛ばされる。衝撃波は組み合って格闘しているガルガとアース君にも届き、激しく体を打った。


『ガァアアッ、何だこのエネルギーは!』

『主!?』


 暗黒の力をコントロールしていたユウキの心が真っ黒に塗りつぶされる。憎悪、憤怒、悲しみ…、消そうとしても消せない負の力が心を蝕んでいく。しかし、ユウキのわずかに残る光が人格が消えるのを押し留める。暗黒の力が全身に漲るのを感じたユウキはゆっくりと目を開いた。


 闘気オーラを身に纏い、血のような真紅の瞳をした美女がガルガをじっと見据える。


「ガルガ、決着をつける!」

『グァアアッ! 矮小な人間がぁ、ふざけおってぇ!』


 ガルガはぐぐっと両腕に力を入れ、立ち上がりながらアース君を持ち上げ、地面に投げ飛ばした。ズズン!と地響きを立てて倒れ転がるアース君に向かって熱線砲を浴びせかけるが、アース君は素早く脚を動かし、シャカシャカと移動して直撃を避けた。狙いが外れた熱線砲が地面に当たって大爆発を起こし、直径200mにもなるクレーターを作った。ガルガが悔し気に見回すと、アース君は熱線砲の射程外まで下がっている。


「ガルガ、こっちだ!」

『ガァッ!』


 爆発によって巻き上がった土煙の中からユウキが飛び出てきて、ゲイボルグを大きく振りかぶった。不意をつかれたガルガは一瞬攻撃する事を躊躇った。それが油断を生んだ。


「ゲイボルグ! お前の真の力を見せて! オーラ・ブレード!!」


 ゲイボルグの刃が輝き、光のオーラが伸びる。ユウキはゲイボルグをガルガ目掛けて斬り付けた!


 ザシュッ!


 肉が斬り裂かれる音がして、ガルガの左腕が付け根から切り落とされ、どさっと地面に落ちた。続けてユウキも着地した。


『ギャォオオウ! 我の腕が、腕がぁ! グルルルゥ!』

『何故だ、ギャオオ…ゥ、何故腕が再生しない!?』


「それが、神々の作りし魔槍「ゲイボルグ」の力だ。斬られた相手は外傷だけでなく、体内全て斬り裂かれ、致命傷を負う。ガルガ、お前の再生能力よりゲイボルグの力が上回っている。腕は再生しない」


『小賢しい真似を…。許さぬ…。我の神聖なる体に1度ならず2度までも傷をつけた事、万死に値する。死ね!』


 ガルガは熱線砲を発射した。ユウキは魔力を体に巡らせて飛び上がって躱すと一気にガルガに接近し、熱線砲を打ち終えて開いたままの口の中に飛び込んだ。突然の行動に不意をつかれ驚いたガルガは口を閉じて噛み砕こうとするが、ユウキはゲイボルグをつっかえ棒のように立てた。ざくりと鈍い音がしてガルガの上あごにゲイボルグが突き刺さり、激痛に一層大きく口を開けた。ユウキは両手を胸の前で合わせ、全魔力を集中させると両手の間に白く輝く光の球が形成される。


「星々の終焉の力、全てを破壊せよ…。ガルガ、暗黒の魔女からの最後のプレゼントだ。有難く受け取れ」


「スーパー・ノヴァ!!」


 元素の崩壊限界まで圧縮された光の球がガルガの体内に向けて打ち出された。

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