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第491話 ザ・ラストバトル⑤

 カルディア帝国西方カレー地方南方、世界の命運を賭けた戦場から数kmほど離れた場所の田園風景が広がる長閑な場所に小さな村があった。しかし、既に住民たちは疎開していて人の気配はなく、静寂だけが村を支配していた。しかし、静寂は突然打ち破られる。


 バキバキバキッ! ドザザザザーーッ!


 建ち並ぶ小さな家々を圧し潰し、破壊して村の広場に銀灰色に輝く鎧板に身を包んだ巨大なヤスデ、アース君が姿を現した。さらにそれを追って虹色に輝く熱線砲が飛んできた。着弾の直前アース君は急旋回し、背中のユウキは遠心力で振りまわされ悲鳴を上げる。狙いを外された熱線砲は村の小さな建物を次々と薙ぎ払った。


 村の建物が熱線砲を浴びて燃え崩れて行く。炎の向こうにバサッバサッと翼の音を立てながら邪龍ガルガが舞い降りた。そして、距離を置いてガルガに対峙するユウキとアース君。


「ここなら思う存分戦える。ガルガ、悪いけどここで死んでもらうわね」

『矮小な人の存在で、我をここまで本気にさせるとは…。それにその魔法生物…。貴様、一体何者だ』


『我はアースガルドの女神を守護するため生み出された者。アースロウプレアだ』

『アースガルドだと…』

「そう。アース君はお前が滅ぼしたアースガルドが復活を託した女神フレイヤを守護する者として生み出された存在。まあ、女神候補は干からびて死んじゃったけど。お前はユーダリルが生み出した怪物。出自は違えど、お前とアース君は兄弟みたいなものだね」


『兄弟だと…、バカを言うな。古代魔法文明が生み出した者は全て敵。我は我を生み出した魔法文明が憎い。その末裔どもが憎い。全て滅ぼす』

「相容れないの? 共存は出来ないの?」

『相容れぬ。我は我の理想の地を築く。魔物溢れる暴力と恐怖が支配する世界を…』


「そう…。じゃあ、わたしはお前を倒す!」

『グガァアア!』

「フレア!」


 ガルガはユウキとアース君に向かって熱線砲を放った。ユウキは爆裂魔法フレアで迎撃する。両者の中間で大爆発が起こり、爆風でガルガはよろめき、アース君は防壁魔法を唱えてガードした。


『我がメガバスターがこうも防がれるとは…。むっ!?』


 体勢を整えたガルガが相手を見るとアースロウプレアしかいない。人間の娘はどこに行った? 周囲を見回すガルガの目に漆黒の槍を構えたユウキが飛び込んできた。


「どこ見てる! パワー・スラッシュ!」

『ガアッ!』


 ユウキはガルガの眉間目掛けてゲイボルグを叩きつけた。ガキィン!と金属質の音がして刃が弾かれる。舌打ちしたユウキは眉間を蹴り、空中回転して背中側に取り付くと、延髄付近目掛けてゲイボルグを力一杯突き刺した。鋭い刃先が鱗に当たった瞬間、キィイン!と甲高い音がして火花が散る。しかし、渾身の力を込めて突き入れたのに、ゲイボルグの刃は1ミリも刺さっていない。


「うそでしょ、どんだけ硬いのよ!?」

『バカめ、そんな針なんかが我に通じると思うか!』


 ガルガは激しく身を振って体に張り付いていたユウキを空中に跳ね飛ばした。そして、腕を伸ばしてユウキを捕まえると、もの凄い力で締め上げようとする。しかし、ユウキは咄嗟に防御魔法をかけた。ドラゴンのパワーと暗黒魔法のパワーがせめぎ合う。中々握り潰せないことにイライラしたガルガは、ユウキを掴んでいる手を振り上げて地面に叩きつけた。バスン!と音がしてユウキは地面にめり込んだ。防御壁の効果で直接ダメージはかなり軽減され、致命傷は免れたが、それでも衝撃で息が詰まる。


「きゃあ、ぐふ…っ。げほっ、げほっ…」


 地面に蹲るユウキを踏み潰そうとガルガは鋭い爪を生やした大きな足を上げた。そこにユウキを助けようとアース君がガルガに体当たりした。ドガーン!と大きな音とともに片足を上げていたガルガはアース君共々大きく体勢を崩して地面に倒れた。


 ユウキは息を整えると全身に治癒魔法を巡らせ、ダメージを回復させた。その間、アース君はガルガの上に覆いかぶさって電撃を浴びせかけている。しかし、ガルガにはあまり効果が薄いらしく、致命的ダメージは与えられないようだ。逆に電撃を吸収したガルガの体にエネルギの流れが生じ、口元に集まって来る。


「アース君、危ない!」

『ガァアアアッ!』


 覆いかぶさるアース君の柔らかい下腹を狙ってガルガは熱線砲を放った。物凄い圧力とエネルギーの奔流が直撃し大爆発を起こしてアース君が吹っ飛び、100m以上離れた場所にズズン!という音とともに仰向けに叩きつけられた。ユウキは「キャー」と叫び急いでアース君の許に駆け寄る。


「アース君、アース君大丈夫!?」


 ゼロ距離で鎧板の無い柔らかい下腹を直撃したしたため、熱線砲の当たった部分の側脚が吹っ飛び、内臓部分が黒焦げになってぶすぶすと煙を立てていた。ユウキは慌てて治癒魔法をかけるが、アース君は…。


『主…、ユウキ。治癒魔法は不要だ。貴重な魔力は使わないでくれ』

「でもでも…。アース君はわたしを助けるために…」

『我は大丈夫、心臓部は無事だ。時間はかかるが、いずれ復活する。ただし、大分ダメージを受けてしまった。これでは主の役に立てない。済まない…』

「ううん。ありがとう、ゆっくり休んでて」


 ユウキは胸のペンデレートに魔力を通し、アース君を収容した。この中にいれば自身だけでなくユウキの魔力の力もあって回復が早くなるだろう。ユウキは蒼く輝く宝珠を手にして感謝の念を送った。そして、ゲイボルグをしっかりと握ってガルガを見る。アース君の助けを得られない状況で勝利の確率は大幅に小さくなったと思うが、ユウキは自身の暗黒の力を信じ、ガルガに向かった。


 ズズン!と地響きを立てて迫るガルガ。散々ユウキやアース君の攻撃を受けたにもかかわらず、大したダメージを受けた様子はない。


「化物め…」

『グルルルル…』


 ガルガはスッと目を細めてユウキを見た。巨大な魔法生物がいなくなった今、矮小な人間なんぞ敵にもならない。ガルガはユウキに背を向けると翼をバサッと広げた。


(戦場に戻るつもり!? 今ヤツに行かれたらわたしたちは負ける。ミュラーも死んじゃう。大切な友人たちも…。そんなのダメ! 何としても阻止しなくちゃ。そして、ヤツを倒さなくちゃ!)


 翼を羽ばたかせ飛び上がる寸前、背中に凄まじい爆発が襲い掛かり、ガルガは衝撃で前のめりに倒れた。大声で吼え、起き上がろうとするガルガの背中に連続して爆発が起こり、爆圧で地面に押しつけられる。


「メガフレア! メガフレア!! もう一発!!!」


 魔力で上空に飛び上がったユウキは爆発魔法のメガフレアを連続して放つ。魔法を唱える度に漆黒の炎を纏った超高熱高圧の球体が次々と打ち出され、ガルガだけでなく周囲の建物や木々も巻き込んで粉砕した。


 次々襲い来る爆圧に身動き取れないガルガは首を回して背中側に向けると、口を開けて熱線砲を発射し、迫りくる爆裂球を消し飛ばした。ガルガはそのまま首を回し、薙ぎ払うように熱線砲を放ち続け、ユウキの魔法を消滅させた。ガルガはさらに熱線砲をユウキ目掛けて発射してきた。


『ギャオオオオーーッ!!』

「!!」


 虹色に輝く粒子の奔流がユウキに迫る!


(やばい!)


 熱線砲がユウキを飲み込み、メガフレアの攻撃が止んだ。ガルガは体を起こし、矮小だと侮っていた人間の女の姿を探す。


『グルルル…。殺ったか。手こずらせおって…』


 ガルガは周囲を見回し、周囲に何もない事を確認すると、戦場に戻るため、再度翼を広げた。次の瞬間、ガルガの胴体に凄まじい爆発が起こり背中側から地面に叩きつけられ、土煙をあげて滑り倒れ唸り声を上げた。


「ぜえぜえぜえ…。どうだ、わたしの全魔力を込めたフレアは。さすがの化け物もダメージを受けたはず…えっ!」


 ぶすぶすと焦げた匂いがする煙を立てながら、ガルガがのっそりと立ち上がった。その目は怒りに燃えて…というより、冷たく凍えるような爬虫類の目で地面に降り立ったユウキを見つめる。一方のユウキは魔力をほぼ使い切り、息を切らせて地面に片足付きでガルガを見上げる。


『グルルル…。貴様…許さん! 我にこれほどのダメージを与えるとは、貴様ただの人間ではないな。魔法生物を使役し、暗黒魔法を使う人間など古代文明世界でも存在していなかった。貴様、文明が残した人間兵器か? いや、そんなことはどうでもいい。まずは貴様から倒す! 人間共への復讐はその次だ!』

『ギャオオオオーーッ! メガバスター!!』


 ギラリと目を輝かせ、ガルガは熱線砲をユウキ目掛けて放った! ユウキのいた付近に着弾し、大爆発を起こした。爆炎と土煙が収まると直径数十mにもなる巨大なクレーターが形成され、周辺の建物や木々も爆砕されて掘っくり返され、荒野のようになっていた。


『グルルル…。消し飛んだか…。いや、まだだ』


 ガルガは体の向きを変えるとズシン、ズシンと瓦礫となった集落を移動し始めた。


「はあ、はあ、はあ…」


 ユウキは熱線砲の着弾寸前に転移魔法で村の外れに建つ住宅の陰に逃げ込んだ。そっと覗き見ると、ガルガは破壊された住宅街を探し回っている。大きく深呼吸をしたユウキは治癒魔法を巡らせて体の傷やダメージを負った部分を治していった。


「くそ、何てバケモノなの。わたしの渾身の爆裂魔法が全く通じないなんて。でも、ヤツの注意は完全にわたしに向いている。このチャンスを生かさなければ…。だけど、さすがに魔力が…」


 建物の壁に背中を預け、「ほう…」とため息をついたユウキの手に何かが触れた。ユウキが確かめると、それはどんな時でも肌身離さず持っているマジックポーチだった。


「そういえば…」


 マジックポーチをまさぐり、透明な液体が入った1本の小瓶を手に取った。小瓶には「魔力回復薬(改二) リリアンナ創薬研究所製」と書かれている。


「出陣前に貰ったんだけど、確か副作用を極力減らした改良版って言ってたよね。極力ってとこに引っかかるんだけど…。仕方ない。背に腹は代えられないし…。もし、副作用が出たらリリアンナの顔の上から地獄を見せてやろうっと」


 ユウキは瓶の蓋を開けるとごくごくと飲んだ。お腹の中がカーッと熱くなって魔力が戻ってきたような感じがする。


「よし、これならいける。副作用が出る前に片を付ける!」


 村の集落跡を探し終えたガルガは、村外れのユウキが潜む建物を見つけ、地響きを立てながら近づいて来る。ユウキはマジックポーチから振動波コアブレードを取り出して帯剣し、ゲイボルグを手に取ると体に魔力を巡らせ、建物の陰から飛び出した! 爬虫類のような目を冷たく輝かせ大きく吠えるガルガ。その顔目掛けてユウキは爆裂魔法を放った!


『ギャオオオオン!』

「ガルガ、勝負だ!」

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