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第490話 ザ・ラストバトル④

 地上の人間を熱線砲によって焼き払おうとしたガルガの体に超高温高圧の爆裂球が何発も命中し、大爆発を起こした。体を覆う超硬質のメタルスケイルを撃ち抜く事は無かったが爆圧が空中姿勢を崩させ、帝国軍への攻撃機会を失わせることには成功した。


 突然の攻撃で地面に叩き落されそうになったガルガは、翼を羽ばたかせて態勢を立て直し、爆裂球が飛んできた方向に首を向けると、更に多数の爆裂球が飛んで来て次々と命中する。爆裂球はガルガだけでなく周囲を飛んでいた飛竜にも命中する。ガルガに比べ遥かに耐久力に劣る飛竜は爆発とともに粉々に粉砕された。


『ガァアアアアッ』


 爆圧に耐えられなくなったガルガは上空に高く飛び上がり、熱線砲で爆裂球を薙ぎ払った。爆裂球を全て迎撃したガルガは羽ばたきながら爆裂球が飛んできた方向を見る。

 ガルガが見つめる先に物凄い土煙が上がる。土煙が徐々に大きくなるにつれ「ドドド!」と地響きが響いてきた。


『ガウウッ…』


 土煙の中から全長50mにも達する銀色の鎧板で覆われた巨大なヤスデの怪物が現れた。そして、怪物の背に自分の身長の1.5倍もある巨大な槍を持った人間の女が立っていた。

 その女は黒く長い髪をなびかせ、禍々しい漆黒の鎧を身に纏った魔女の姿をしたユウキだった。ユウキは魔力を使って高く飛び上がり、巨大な槍「ゲイボルグ」をガルガの頭目掛けて振り下ろした!


「ガルガ! お前の相手はわたしだ!」

『ガァッ!』


 バキィイン!と金属質な音がしてガルガの頭に当たったゲイボルグが弾かれた。ユウキは蹴りを入れ、その反動で飛び上がり距離を取ると再びメガフレアを放った。連続して爆発する魔法がガルガを怯ませる。爆圧に耐えられなくなったガルガは地上に降りた。ユウキもアース君の上に降り立ち、ガルガと対峙する。


 ユウキは改めてガルガを見る。見れば見るほど大きく禍々しい姿をしている。巨大なアース君ですらガルガの前では小さく見える。


(間近で見ると物凄い圧迫感。見るもの全て恐怖感を与える姿。それに、わたしのメガフレアを迎撃した熱線砲の凄まじい威力。想像した以上の怪物だ。あいつから見たらわたしなんて小さなゴミ虫みたいなんだろうな。でも、ヤツに勝たなければわたしの大切なものを守れない)


「ガルガ! お前の相手はこのわたし、暗黒の魔女だ! わたしを倒さなければこの世界を手に入れられないぞ。だが、倒れるのはお前の方だ。フレア!!」


 メガフレアより数倍大きく強力な爆裂魔法がガルガに迫る! 熱線砲を放って迎撃するガルガ。両者の中間で熱爆発が起こり、爆風が周囲に広がり、ユウキも吹き飛ばされてしまった。


「うわ、うわわ! くっ、転移魔法…!」

『ギャオオオオオーーン』


 ユウキは爆風に吹き飛ばされながら転移魔法を唱え、アース君の上に移動した。ガルガは翼を広げると大音響で吼えた。また、下半身から上半身に向けてエネルギーが稲妻のように胸から首、首から口に流れて行く。


(なにあれ。マズい気がする…)


『死ね、我に歯向かう愚か者! 超熱線砲ハイメガバスター!』

『マグネティック・フィールド!』


 虹色に輝く高エネルギーの熱線がユウキとアース君に向けて発射される。エネルギーの奔流が命中すると同時に大爆発が起こった。帝国や連合軍の兵士たちが固唾を飲んで見守る中、爆発によって巻き上がった土砂が地面に落ち、土煙が晴れて来た。勝利を確信し、吼えたガルガだったが、爆心点を見て驚いた。そこには全くの無傷でガルガに対峙するアース君とユウキがいた。


『グルル…』


「アース君、ガルガをここから引き離す。お願いできる?」

『任せてもらいたい。主、身の回りにシールドを張って、我から少し離れてくれ』

「分った!」


 ユウキは魔力を体に巡らせて空中に飛び上がってアース君から離れた。ユウキが離れたことを確認したアース君は無数の脚を動かし、猛然とガルガ目掛けて突進した。ガルガは迎撃のため熱線砲を放つ。しかし、アース君の防御魔術「マグネティック・フィールド」が跳ね返す。必殺の武器が通じないことで怯むガルガに接近したアース君はぐるんと体を丸めて球状になると、地面から飛び上がってガルガに体当たりした。


 ドガン!と大きな音がして衝撃でガルガは地響きを立てて地面に倒れた。起き上がろうと藻掻くガルガに何度も体当たりして痛めつける。頑丈な外皮がダメージを防ぐものの、うっとしい事この上なく、イライラしたガルガは前足でアース君を払い退けた。


『ガァアアッ!』

『!!』


 地面に叩きつけられたアース君が球状から本来のヤスデ形態に戻る。起き上がろうとするガルガに対し、今度はヤスデのまま体の2/3を立ち上げ、そのまま圧し掛かった。ガルガを倒したアース君は全身を震わせ、全身から高電圧の電撃を放つ! 電撃は容赦なくガルガの外皮から体内に伝わってダメージを与える。悲鳴にも似た咆哮を上げ、ガルガはアース君を振り解こうと暴れまわり、凄まじい振動が辺りを揺るがす。その様子を上空から見ていたユウキは思わず、


「凄い…。まるで怪獣大戦争」


 と口をついて出てしまった。


 ガルガのヘイトが十分自分に向いたと判断したアース君は、電撃攻撃を止めるとガルガから離れ、ウルと連合国軍の戦場から全速で移動し始めた。アース君の意図を察したユウキはアース君の頭部付近に飛び乗ると、南へ向かうよう指示した。


「アース君、ここで戦うと帝国軍も巻き込んでしまう。南へ移動しよう」

『分った!』

「メガフレア!」


 振り向き様にユウキは爆裂魔法を放った。ガルガは翼を広げて飛び上がって躱す。目標を失ったメガフレアは次々に大地に着弾し爆炎を上げ、衝撃波を周囲に撒き散らした。


『ギャオオオオオーーン!』


 ガルガは人間と魔法生物という思ってもみない敵の出現、さらに熱線砲を跳ね返され、逆に反撃によって地面に落とされ転がされるという屈辱に、怒りで我を忘れ真っ赤に目を輝かせてユウキとアース君を追い始めた。


「よし、ガルガの敵意ヘイトをこっちに向けさせる事は成功したよ! 逃げて逃げて!」

『しっかり摑まってて!』


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 遠ざかり、小さくなる土煙と空飛ぶガルガを茫然と見送る帝国軍の兵士たち。巨大生物同士の戦いに圧倒されてしまっていた。ここ中央軍第1師団でも…。


「なんだ…。あの怪物は一体何なんだ。ガルガと対等に戦っていたぞ」

「女の子もいたな。あれが噂の暗黒の魔女なの…か」


 動揺する最前線たる中央軍の隙をついて魔物の大軍が目の前に迫ってきた。中央軍第1師団にいたミュラーは大音声で動揺する兵士たちに叫んだ。


「お前らしっかりしろ! 目の前を見ろ! 敵が迫ってるぞ、気持ちをしっかり持て! 下っ腹に力を入れろ。ただし、力を入れ過ぎて屁こくなよ! 糞漏らすなんざぁ、もってのほかだぞ、臭えからな!」

「…ぷっ、わはははは!」

「よーし、気がほぐれたな。ガルガと戦っていたのはオレのカワイイ奥さん(予定)だ! ユウキちゃんはガルガを倒す。間違いない! なんてったってカワイイからな!」

「おっぱいも大きいです!」

「よくわかってるじゃねえか! だが、あのスペシャルなおっぱいはオレの物だ。誰にもやらん! だから、お前らは目の前の敵を倒せ! お前らの活躍が女の子の目に留まればモテモテになるかも知れんぞ! さあ武器を手にしろ! オレに続けーっ!」


「おおーーっ! ミュラー様に続けーっ、魔物を倒せー!」

「国を守れ! 生き残るぞー!」


 目の前のドラゴンの群れに先陣を切って突撃するミュラーに、第1師団の兵士も気勢を上げて突撃を始めたのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「師団長、軍団司令部から通信です」

「おう!」


 魔道通信機を受け取ったアレクサンダー師団長は、通信機を耳に当て何かを聞いていたが突然大きな声を出した。


「本当か!? ……了解した」

「何かあったの?」


 ラピスの問いかけに対して、アレクサンダーは周囲の師団参謀にも聞こえるように答えた。


「魔物の軍勢に向かっていた第4軍が邪龍ガルガの一撃で司令部もろとも消し飛んでしまったそうだ。司令長官のクルト中将も戦死された」

「なんですって!?」

「ただ、ガルガは暗黒の魔女とその眷属によって牽制され、戦場から離れていったとのことだ」


「さすがユウキね。わたくしたちも負けていられないわね。ね、コメリア、性獣」

「アメリアです。いい加減覚えろ、バカ女」

「私、すっかり性獣が定着しちゃったわん」

「誰がバカ女よ!」


「わははは! ラピス様は緊張感ってものが無いんですかい!」

「あるわよ!」


 第4軍団の壊滅の報に一瞬動揺した第20師団だったが、ガルガの脅威が薄れた事とラピスとアメリア、スズネの緊張感の無いやり取りにすっかり気が抜けてしまった。


(このラピス姫、こんな時でも落ち着いていやがる。歴戦の兵士ですら動揺したってのにな。さすがマーガレット様の娘だぜ。こりゃ大物になるぞ)


「よっしゃ! 第20師団、選回点まで前進!」

「師団長!」

「今度は何だ!?」

「我々の前方に魔物の集団! 数は推定20万!」

「ほう、繞回運動を阻止に来たってか。ミハイルのクソ野郎の采配だな、よく見てやがるぜ」

「師団長、第7、8軍団前進。魔物の集団を迎撃・殲滅せよとの命令が軍団司令部より届きました」

「よっしゃ! 先の命令は撤回。第20師団前進。21、22師団と連携して魔物どもをぶっ叩く!」


「よーし! みんな行くわよーっ!」

「ハイハイ、1人で逝ってください」

「あ~あ、メンドくさ…」

「アンタら覚えてなさいよ、もう!」


 心の底からやる気のなさそうなメイドを連れて、ラピスもまた、親友ユウキの想いに応えるべく最前線に赴くのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 そして、危機を脱し混乱から態勢を立て直した第5軍団でも、司令官エルヴィン・イエーネッケ中将が配下の各師団に命令を下していた。


「司令官、第4軍団の残存兵は後方に退避させました」

「よろしい。各師団に伝達せよ。連合軍に合流し敵を叩く。前進!」


 第5軍団6万の兵もまた目前に迫る魔物の大軍に向け、再び前進を始めたのだった。

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