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第488話 ザ・ラストバトル②

「司令官、魔物の軍団が動き出しました。上位種を含むゴブリンとオークを主力とする約100万の軍勢が右翼の連合国軍に向かっています。また、ドラゴン種を中心とする軍勢が我が主力軍の足止めを図るため、前衛の第1、第2軍団に向かって進撃を始めました」


「我々と敵との距離は?」

「約30キロメートルです」


「司令官、パウルス中将とブラウヒッチ中将から距離10キロメールで制圧砲撃を実施すると連絡が入りました!」

「………。前衛部隊に伝令。ドラゴンは第1から第3軍団で迎撃せよ。第4、第5軍団は左翼回頭、連合軍に向かう魔物の側背を攻撃するようクルト(第4軍司令クルト・シュトゥーデント中将)とエルヴィン(第5軍司令エルヴィン・イエーネッケ中将)に伝えろ」


「ハッ!」


 通信参謀の指示と至急の命令書を持って、伝令兵が四方に散る。作戦参謀と作戦行動図を見ながら次々と指示を出すマンシュタイン大将にミュラーが近づいた。


「さすがだな、マンシュタイン」

「…ミュラー様。この戦は意味のない、大義の無い戦いです。だからこそ勝たねばなりません。そのためには悔いを残したくないのです」


「オレも同じ気持ちだ。だが、一つ聞いていいか?」

「どうぞ」

「数の多い敵に当たるには戦力集中が基本だぜ。2個軍団を分散させたら戦力的に不利になるんじゃねえか?」

「その問いに対する答えはふたつあります」


「ひとつは、左翼軍は各国の寄せ集めで数が少ないうえに連携が執り難い。しかし、左翼戦線が総崩れになれば、戦線を支えるため各軍団から師団を抽出して敵に充てなければなりません。そうなれば戦力の逐次投入となり、各個撃破される可能性が高くなり、強いては我が軍全体の崩壊にもつながりかねません。敵の動きを見ると、それを企図しているように感じられる。戦線を支えるためには最低でも2個軍団12万の兵を送る必要があるのです」


「なるほど…。きっとミハイルの策だな。クソ野郎が…。もうひとつはなんだ?」

「右翼軍の存在です。ルントシュテットは柔剛のバランスが取れた優秀な指揮官です。彼ならきっとこのように兵を動かすでしょう。これなら、2個軍を補って余りあるでしょう」


 マンシュタインは指示棒を動かして図面上をなぞった。それを見たミュラーはニヤッと笑みを浮かべる。


「な~るほどなぁ。これなら勝ちが見えそうだ」

「だが、ガルガの存在があります。地上で善戦してもガルガが出てくれば、一撃で吹き飛んでしまいます」

「ガルガはオレの嫁、ユウキちゃんが相手取る。だから心配するな!」

「そうですな…(暗黒の魔女と名乗った女性か…。いかに魔女でも邪龍に勝てるとは思えないが、さりとて、我々に出来る事も限られている。ここは全ての可能性にかけるしかない。私は私に出来る事をするだけだ)」


「司令、第1から第5の各軍団進発準備完了しております! ご命令を!」


 作戦参謀の進言に頷いたマンシュタイン大将が命令を出そうと口を開きかけたとき、ミュラーが制止し、頼み事をした。


「将軍、少し待ってくれないか。おい、誰か通信機を貸してくれ。それと、各軍団の兵にオレの声が届くようにしてくれないか」


 通信参謀がマンシュタインを見ると頷いたので、通信兵に指示して魔道通信の準備をさせるとマイクを渡してきた。ミュラーは礼を言い、マイクを取って軍団の方に向いた。軍団本部から距離があるので、各軍団の様子は見えないが、全員が自分を注目しているように感じた。


「オレは第1皇子のミュラーだ。こんな時だが一言だけ言わせてくれ。今からろくでもない戦いが始まるが、ろくでもないからこそ勝たなくては意味がねえ。お前らこんな戦いで命を落とすんじゃねえぞ。石にしがみ付いても生き残れ。そして、戦いが終わったら一緒に美味い酒を飲もうぜ! 以上だ」


『ウォオオオーーッ!!』


 中央軍に所属する兵たちが拳を突き上げて吠え、地面をどんどんと踏み叩く。ミュラーは通信兵にマイクを返すとマンシュタイン大将に敬礼し、護衛騎士が連れて来た馬に跨った。


「将軍、オレは第1師団の許で戦ってくるぜ。後は任せた!」

「ミュラー様、ご武運を」

「おう! 行ってくる!」


 ミュラーは神槍グラディウスを持ち、数名の護衛騎士と共に最前線へ駆けて行った。ミュラーの背を見えなくなるまで見送ったマンシュタイン大将は居並ぶ作戦参謀に向かって命令を下した。


「全軍出撃!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「大将、中央軍司令部より伝令です。中央軍は正面のドラゴン集団に第1から第3軍を充て、第4、第5軍団を左翼軍に向けて進発させました」

「ふむ…。連合国軍は弱体と見て2個軍を差し向けたか。第6軍の3個師団が予備軍という訳だな」


 右翼の4個軍計12個師団24万人を率いるルントシュテット大将は軍団本部に定めたテント内で作戦図面を参謀たちと一緒に眺めていた。図面には敵の現在位置と時間ごとの推定位置と中央軍と左翼軍の現在地と迎撃位置が描かれている。


「さて諸君、我々はどう動くべきかな」


 作戦参謀たちは暫し意見を交わした後、首席参謀が指示棒を使って纏めた作戦案を説明し始めた。


「作戦案を説明します。敵主力は左翼軍に指向し、ドラゴンを主体とする打撃軍は中央軍を迎え撃つ構えです。よって、我が第7軍から第9軍は縦列編成でこのまま前進、その後、この位置で左展開、ドラゴン打撃軍を側面から半包囲して攻撃、殲滅します」

「なお、パウルス中将の砲兵隊は制圧砲撃後、支援砲撃に切り替え、第7、8、9軍の戦闘を支援します」


「いいだろう。私も繞回運動による側背攻撃が取り得る最良の方法と考えていた。だが、懸念がひとつある」

「司令の懸念とは、我が軍の前に敵が現れるケースですか」

「そうだ。今の作戦案は我が軍の前に敵がいないことが前提だ。しかし、敵軍が現れたら繞回運動は出来ない」

「その場合は第7軍と第8軍をこの位置まで前進させます。この場所は地形が狭隘なので2個軍の兵力があれば敵が大兵力であってもある程度支えられるでしょう。その間、第9軍と第10軍から抽出した2個師団の計5個師団で繞回運動を行い、敵の後背を突きます」

「よかろう。中央軍には我々の戦力が必要だ。マンシュタインもそれを前提に作戦を立てている。作戦参謀、全軍に所定位置に移動するよう命令したまえ。通信参謀、パウルスに連絡を取ってくれ」


『ハッ!』


 命令を受けた参謀たちが忙しく動き回る足音を聞きながら、ルントシュテット大将は作戦図面に目を落とし、敵はどう動くのか考えを巡らせていた。



「師団長、ヒトマルマルマルをもって所定位置まで前進せよと7軍司令部より命令が出されました」


 左翼軍を構成する4個軍のうち、最前列に位置する第7軍所属第20師団の司令部は命令を受け、各部隊への指示に奔走し始めた。師団長アレクサンダー少将はニヤッと凄みのある笑みを浮かべると、


「いよいよか。ウルのクソ野郎共を俺の手で地の果てまでぶっ飛ばしてやれる。楽しみじゃねぇか。相手は人間じゃねえし、遠慮する事ねえぞ。思う存分叩きのめしてやれ!」


 と言って師団参謀たちを見回した。そこに、ミスリル製の銀色に輝くハーフプレートとスケイルスカートを穿き、ミスリルソードを帯剣した背の小さい美少女が同じように軽装鎧に身を纏った2人の美女を引き連れて近づいてきた。


「やだ。アレク師団長って、お母様と同じような事言ってるわ」

「ラピス様!? 軍本部におられたのではなかったのですか?」


「そうだったのだけど、兵たちが戦うのを黙って見ている事なんかできないわ。わたくしも帝国の一員ですもの、皆と一緒に戦うわ」


「しかし、我が第20師団は先鋒として真っ先に敵に対峙するのですぞ。いわば地獄の最前線。御身に危険が及びます。命だって危ういかもしれません」

「そんなこと承知の上よ。わたくしは後方の安全な場所にいて督戦するだけの口だけ人間になりたくないの。ミュラー兄様だって、セラフィーナだって最前線に出ている。それは何故かしら」


「兄様とセラフィーナはこの国が好きなの。この地に住むみんなが好きなの。だからこの地を、人々を害する連中が許せないんだわ。それはわたくしも同じ。だから戦うわ。わたくしも大好きなこの国の人々、大切な友人たちをこの手で守りたいもの」


「ラピス様…。ご立派です。バカだバカだ究極バカのボンクラ姫と聞いておりましたが、そんなことは無かった。このアレクサンダー、感激いたしました! わかりました。ラピス様の御身はこのアレクサンダーがお預かりします。絶対にこの国を守り抜きましょう!!」

「ありがとう…なんだけど、何か納得いかないわね…」


「私たちは迷惑なんですけどねー。このバカボケ女は全く…。死ぬなら1人で死ねっての」

「ホントよねぇ~。でも、汗臭い男たちのむんむんした熱気…最高よぉ~。もうアソコびしょ濡れ…♡」

「こ…こいつら…」


「わーははは! いいねぇ、この緊張感のなさ。最高じゃねえか。なあ、みんな!」

『わはははは! 全くだ!!』


 アレクサンダー師団長と師団幕僚が大笑いする。ぷんぷんしていたラピスもつられて笑い出した。その中で冷静に時間を見ていた作戦参謀の1人がアレクサンダー少将に声を掛けた。


「師団長、時間です!」

「よっしゃ! 野郎ども行くぞ! 第20師団前進だ!!」

『うぉおおおーっ!』


 ルントシュテット大将率いる軍団もまた、侵攻してきた敵を討つべく動き出した。その中において、先鋒となる第20師団、通称アレクサンダー師団の中で猛将アレクサンダー少将と並び、凛とした姿で進む帝国皇女ラピスの姿は兵たちに勇気を与えるのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 帝国及び連合国の軍勢から少し離れた場所に布陣するローベルト大将率いる帝国親衛師団とガリウス王子率いるラファール国魔道兵団合わせて6万。その正面にも不穏な動きがみられていた。


「ローベルト大将、アンデッド兵100万が動き出しました。先遣偵察隊によるとアンデッド兵はスケルトンで構成されているのですが、中には身長2m程の見たこともないような大型のスケルトンも混じっているとのことです」

「大型のスケルトン? なんだそれは?」


 ローベルト大将が首を捻る。その報告を難しい顔をして聞いていたガリウス王子はハッとして顔を上げた。


「ローベルト殿、もしかしたらそいつは竜牙兵かも知れないぞ」

「竜牙兵?」

「ああ。竜の牙から生み出されるというアンデッドで、並みのスケルトンとは比べ物にならん強敵だ」

「少しは手ごたえがありそうなヤツが混じっているということですか。だが、所詮スケルトン。帝国最強の我が親衛師団兵の敵ではない」

「油断は大敵だぞ。個々の能力は低くても戦力差が大きい。慎重に作戦を練らないと足元を救われるぞ」

「ふむ…。ガリウス様の言う事も一理ある」


 2人は帝国とラファールの作戦参謀が集まっている仮設の大型テント移動すると、そこでは作戦図面が広げられ、意見が交わされていたが、ローベルトとガリウスの姿を見ると全員敬礼をした。


「それで、敵情と我々の行動計画について説明をもらおうか」

「ハッ。コーネフ少佐!」


 親衛師団の首席参謀から指名された作戦参謀の1人が作戦図面の前に立ち、指示棒で図面を指し示し、ウルの本隊、魔物の部隊位置、帝国軍と各国連合軍の配置について説明した。


「一方、敵のアンデッド部隊は数に任せて国境を越えて雪崩れ込んできています。我が軍が敵との交戦中にアンデッド部隊が大挙して押し寄せると圧倒的な数の暴力により、我が軍の戦線が崩壊する可能性が高まります」

「それを防ぐために、我々がここにいるのだ」


「ガリウス様のおっしゃる通りです。我々は必ず勝たねばなりません。よって、両国で検討した結果、我々の配置はこうします」


 コーネフ少佐は作戦図面にひとつ、ふたつと駒を置いた。


「地図上ではわかりにくいのですが、ここは底が平坦な窪地になっています。少数の部隊でアンデッドをここに誘導し、集まったところで魔道兵団の魔法攻撃で一気に殲滅。その後、親衛師団が突撃、残敵掃討後、両師団は転進して各国連合軍を側面から援護します」


「ふむ…。確かに広域地の野戦で迎え撃つより確実だな。スケルトンは単純だから上手く誘導すれば一気に殲滅するのも可能だろう。しかし…」

「誘導する部隊はかなりの危険に晒される。精鋭を選ばねばならんな…」


 ローベルト大将とガリウス王子が両師団の編成表を開き、検討を始めたところで両指揮官に声がかかった。


「その役目、私たちが引き受けます」


 その声に2人が振り向くと帝国第1皇女セラフィーナに巌のような体をし、グレートアックスを持ったドワーフのガンテツとスタイル抜群の巨乳エルフのメルティが立っていた。突然の申し出にローベルト大将はビックリ驚いた。


「セラフィーナ様!? いやいや、ダメです。そんな危険な事はさせられません!」

「なぜなにどうしてですか。私は幾多の冒険を経て多くの魔物と戦ってきました。帝国兵の皆さんより魔物の扱いには慣れているつもりです。それに、敵の数は膨大です。1人の兵士さんも無駄にできないと思います」


「しかし…」


「姫さんなら大丈夫だ。度胸もあるし咄嗟の判断力もある。あんたらが心配するほどヤワじゃねぇ。なによりオレとメルティが付いている」

「そうですよぉ~。セラフィーナ様はぁ、胸はまな板みたいに真っ平なんですけどぉ、勇気はものすごぉく大きいんですよ~」

「ローベルト! このデカ乳エルフを斬首なさい!」

「どうしてぇww!」


「斬首はともかく、しかし…」

「迷ってる暇はないと思いますよ」

「ですが…」


 ローベルトが逡巡していると、今度は上空から声がした。全員が上を見て驚いた。上空から翼を持った何者かが降りて来た。降りてきたのは上級悪魔のアークデーモンに女悪魔、淡青色のワンピースを着た大きな白い翼を羽ばたかせて降りてきた美少女。突然の悪魔の出現に師団司令部は大騒ぎになり、抜剣した護衛兵がわらわらと集まってきた。そんな混乱を他所にアークデーモンは腕の中から2人の人物を下ろした。それはラファール国第2王子ラインハルトと従者のサラだった。


「セラフィーナ様と共に私もこの任務を引き受けましょう」

「ラインハルト。それにサラか!?」

「兄上、状況は理解しています。そのため、彼らも連れてまいりました。彼らがいれば十分任務を果たせると思いますが」


『まあ、アルヘナちゃんがへっぽこを助けろって言うからな。しゃーない』

『急に呼び戻されてさ。何事かと思ったじゃない』

『でも、カストルの頼みだし、アンデットは私の敵だし』


「上級悪魔のメイメイにパール。それに大天使アリエル。この3人で1個大隊分の働きが出来ると思います。兄上、ご決断を!」


 ローベルトとガリウスは決断し頷き合った。そして大声で命令した。


「わかった。ここに特別遊撃隊を編成する。隊長はセラフィーナ様、副隊長はラインハルト王子! 任務は竜牙兵を含むスケルトンと交戦しつつ殲滅ポイントへ誘導する事。この戦いの命運がかかる重要な任務だ。心してかかるように! 準備出来次第直ちに出発!!」


『はい!』


 セラフィーナは信頼する仲間ガンテツとメルティに合図すると接近するアンデッド軍団を誘導するため前進を始めた。ラインハルトもまたサラとメイメイ、パール、アリエルを連れて出発した。ローベルト大将とガリウス王子は彼らの成功を信じ、それぞれの師団動かすため、作戦参謀に命令を下していった。


(セラフィーナ様、ご武運を。決して命を粗末にされぬようお願いしますぞ)


 ローベルト大将は空を見上げ、セラフィーナの武運を祈るのであった。

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