第484話 邪龍復活!
「ミュラーこいつはわたしが引き受ける! 右をお願い!」
「よっしゃ、任せろ!」
「ユウキ、儂は左を殺る。中央は任せたぞ!」
「アンジェリカ、魔法でぶっ飛ばせ!」
「了解です! アイスランス!!」
「極光、魔物を切り裂け!」
「ウワーハハハハ! 軟弱、軟弱ゥ! 疾風ヴォルフここに有りィ!」
ユウキたちはユーダリル都市遺跡で魔物たちと激闘を繰り返していた。魔物はゴブリンやオークといったいつものヤツから見たこともないような凶悪な姿をし、恐るべき能力を持った魔物が次々と現れ出ては襲い掛かってきた。
「はあはあはあ…、やっといなくなった…」
「疲れたー。もうだめ…」
「うう…、私は魔力切れ。もうアイスランス1本撃てない」
カロリーナとアンジェリカは荒い息を吐きながら地面に座り込んでぐったりし、ミュラーとリシャールも疲れを隠せない様子で、ごくごくと水筒の水を飲んでいる。さすがのユウキも疲労が激しい事から、元気なエドモンズ三世と変態ヴォルフに見張りを任せて休憩をとることにし、カロリーナの隣に座った。
「カロリーナ、大丈夫?」
「うん…と言いたいとこだけど、もうだめ。体力がナッシング」
「ユウキ、この遺跡に来て何日になる?」
「うーん。7日くらい?」
「いや、もう10日目だ」
アンジェリカの問いにユウキが指折り答えると横からミュラーが訂正してきた。
「やだ、そんなになる?」
「ああ。それに、ここの魔物の数は異常だぜ。捜索する余裕もねぇ」
「そうだな。遺跡は広大でどこから手を付けたらよいのかわからないし」
ミュラーとリシャールは遺跡を見ながら思案するが、魔物の多さに疲労だけが蓄積され考える余裕がなく、いい案が思いつかないでいた。
「元気なのは彼らだけだな」
リシャールの視線の先には、2人並んで巨乳だ思春期だツンデレだと己が性癖を自慢し合うド変態アンデッドがいた。ユウキは相変わらずな2人を見てため息をつく。
「もう…2人とも真面目に見張っててよ」
「…………」
「聞いてるの!? ねえ、返事してよ」
「……シッ!」
「ど、どうしたの?」
変態トークから急に真面目になったエドモンズ三世が、静かにするように言ってきた。何事かを感じたアンジェリカやカロリーナも集まって来る。また新たな魔物か…。そのまま全員何も言わず、武器を構えて周囲を警戒する。時間が5分、10分と経つが何事も起こらない。ユウキは警戒を解くとエドモンズ三世に声を掛けたが…。
「何事もないじゃない」
「………来るぞ!」
「えっ!」
地面の下からゴゴゴ…と地鳴りが聞こえ、地面が揺れ始めた。最初は小刻みに揺れていたが、徐々に揺れが大きくなり、立っていられないほどになった。
「じっ、地震!? うわ、うわわ…」
「全員、身を低くしろ! ユウキちゃん、オレに摑まれ!」
「きゃああああーっ!」
「アンジェリカ!」
悲鳴を上げてしゃがみこんだアンジェリカをリシャールが庇う。ユウキもミュラーに抱き着いて体を支える。1人あぶれるカロリーナ。その彼女に爽やかな笑顔(?)で優しく手を伸べるエドモンズ三世と変態ヴォルフ。
「わあ、嬉しい」
カロリーナが揺れに翻弄されながらどっちの手を取ろうかと思案していると、突然ドーン!と大きな音とともに地面が突き上がり、遺跡の中央付近から蜘蛛の巣状に地割れが走った。建物の残骸が次々と地割れに飲み込まれ始めた。
「みんな、わたしに摑まって!」
強烈な揺れの中、地割れが目の前まで迫って来る。飲み込まれれば地中で圧迫され、全員死んでしまうだろう。その前にここから離れなければならない。ユウキは全員を自分に摑まらせると、転移魔法を唱えた。
ユウキが転移したのはユーダリル遺跡から数キロ離れた小高い丘の上。遺跡全体が俯瞰できる場所だった。地震動がここまで伝わってくる。
「サンキュー、ユウキちゃん。助かったぜ」
「見て! 遺跡が!!」
カロリーナが遺跡を見て叫んだ。その光景に全員息を飲んだ。広大なユーダリル都市遺跡の中心部からマグマが噴出し、放射状に広がった地割れからも炎が噴き上がっている。息を飲んで見守っていると都市遺跡全体が地割れの中に飲み込まれ、地中深く落ちて行く。そして…。
『ギャオオオオオン!!』
空気をビリビリと震わせる空振動と共に、マグマの中から巨大な怪物が現れた。それは爬虫類を思わせる体をし、全身が黒赤色の鱗に覆われ蝙蝠のような羽と蛇の尻尾を持ち、太く逞しい2本の足には鋭く大きな爪が生えている。馬のように長く鱗と棘だらけの顔の先端には2本角が生え、口には鋭利な牙が並んでいる。
「ド、ドラゴンだ…」
「まさか、あれが邪龍ガルガなの」
「復活したというのか!?」
「くそ、間に合わなかったか!」
「凄く大きいわ。体長50mはありそう。こんな怪物が実在するなんて」
『ギャオオオーーッ!!』
ガルガがバサッと翼を広げた。翼端から翼端まで100mはある。ユウキたちはその巨大さに度肝を抜かれた。皆が茫然とする中、ガルガは空に舞い上がった。上空を2、3度旋回すると、南の方角へ飛び去って行った。
「行っちゃった…」
「あっ、見て!」
今度はカロリーナがガルガの出現した付近を見て驚いた声を上げた。地面の下から蜥蜴の体に蝙蝠の翼を持った飛竜や四つ足ので地面を歩くドラゴン、多数の首を持った怪物、馬の頭に蛇の体をしたものが次々と現れ出て来る。
「な、なに…あれ」
『あれは恐らくガルガの眷属だ。飛竜ワイバーン、火竜ザラマンダー、水龍ヒュドラ、魔龍リンドブルム…。儂も見るのは初めてだ』
「おじさん!」
「バルコム殿か」
『禍々しい気配に来てみれば…。何と言う事だ。伝承が事実だったとは』
「おじさん、あの龍たちはどこに行こうとしてるの?」
『うむ…。方向から見て西方エルトリア王国の首都リーリルだろう。その後は西に向かうに違いない』
「…またロディニアが魔物に蹂躙されるのね…」
『それを防ぐにはガルガを倒すしかない。さすれば眷属たちも力を失うだろう』
ユウキは難しい顔をして思案し、決意を込めた顔で真っ直ぐ仲間たちを見た。
「帝都に戻る。ウルはガルガを手に入れてしまった。どんな災厄がかの地を襲うか分らない。わたし、絶対にガルガを倒し、大好きなラミディアの地を守りたい。だから…」
「ユウキちゃん、戻ろうぜ帝都に! オレの帝国を害そうとするヤツぁ絶対に許さねぇ」
「うん!」
「ユウキ、私はハウメアーに戻るわ。またロディニアが戦場になるなら、私は愛する家族を守りたい。好きな人もいる。この神剣「極光」で守る。私は守りたい人たちを絶対に悲しませたくないから」
「カロリーナ…」
『ユウキ、儂もカロリーナに同行する。儂にとっても一家は家族みたいなものだからな。それに…』
「?」
『カロリーナは儂の親友だ。友と戦うのもまた一興』
「ぷぷっ。最初に出会った頃は世捨て人みたいな雰囲気だったのに。おじさんも変わったね。いい感じで」
『人の意識というものは分らぬものよ。それが例え自分自身であってもな。さて、ユウキにこれを渡そう。1度しか使えぬが、希望の場所に行ける転移の魔法陣が記された巻物だ』
「ありがとう、おじさん」
バルコムが転移の魔法陣をユウキに渡した。それを見ていたリシャールがバルコムに話しかけた。
「バルコム殿、その巻物だがまだあるのなら、私にも譲っては頂けないであろうか。私も国に戻って女王に事の次第を報告し、軍を準備せねばならない」
『よかろう、持っていくがよい』
「感謝する。ミュラー殿、約定通り私はイザヴェル王国第2、第3軍を率いて帝国に馳せ参じよう」
「おう! 頼む!」
「リシャール様、私もお手伝いします」
「来てくれるのか?」
「はい、ご迷惑でなければ…」
リシャールはアンジェリカの手をしっかりと握ると「嬉しいよ」と言った。アンジェリカの顔はみるみる真っ赤になった。それを見ていたユウキとカロリーナはニヤニヤと笑う。
「あらあら、まあまあ…」
「青春ですわねぇ~」
『ホーッホッホ! アンジェリカの思春期度数が爆上がりじゃ。脳内ピンク色!』
「急に会話に入ってくんな!」
『あらあら、最近できた彼氏とエッチすることばかり考えている娘さんが何言ってるのかなーっと…、グハァッ!』
茹でだこユウキにぼこぼこされるエドモンズ三世をさておきリシャールは巻物を開いてアンジェリカの手を取った。
「ミュラー殿、また後で会おう!」
「ユウキ、一時別れるが、また一緒に戦うのを楽しみにしてる。あと、もうエドを許してあげて」
アンジェリカは転移の巻物に魔力を通すと、魔法陣が光り輝き、瞬時に姿が消えた。続いてバルコムとカロリーナも自分たちの家族を守るため、決意も新たに戦いに赴く。
「ユウキ、あなたの健闘を願ってる。平和が戻ったらまた会いましょう!」
『ミュラー殿、ユウキを頼むぞ』
「おう、任せてくれ!」
バルコムとカロリーナもハウメアーに向けて転移して消えた。最後に残されたユウキとミュラーは改めて、ユーダリルの都市遺跡を見た。地割れから次々と多種多様なドラゴンが次々現れ出ている。
「凄い数…」
「この大陸も厳しい戦いになりそうだな。だが、ラミディアはより厳しくなる。敵はガルガや眷属どもだけじゃないからな」
「…………。(ガルガの復活を阻止できなかったのは自分のせいだ。この世界は必ず私が守る。この命に代えても。二度と愛する人々を悲しませてはいけない。ララやアドルさんのような人を生んではいけない…)」
「ユウキちゃん、何を考えているかわからねぇが、ユウキちゃんは1人じゃねぇ。オレが、仲間が付いてる。全員で力を合わせ、ガルガを、ウルの奴らをぶっ飛ばそうぜ」
「………。うん! そうだね、わたし1人じゃない。一緒に戦ってくれる大勢の友人がいる。そしてあなたがいる。だから頑張る。今度こそ、大好きなこの世界を守る」
ユウキはミュラーに抱き着くと、転移の魔法陣を開いて魔力を通した。巻物に描かれた魔法陣が輝き、ユウキとミュラーは帝都に向けて瞬間移動した。
誰もいなくなった大森林にドラゴンの咆哮が響き渡る。ドラゴンたちは一斉に南へ向かった。その先には人口数十万の都市がある。しかし、都市の人々は迫る脅威に気づいてはいなかった。
ガルガ復活! いよいよ最終決戦の時が来た! 次から最終章が始まります。長かったユウキの物語も終わりに近づいてまいりました。ユウキは幸せを手にすることが出来るのか、戦いの幕が今上がる!




