第50話 アルバイトの真実
夏祭り当日の朝、ユウキ達3人は武器屋の前でレオンハルトを待っていた。
「最近、ダスティンさんの武器店、街でどう呼ばれますか知ってます?」
「ううん、知らない」
「ボクも」
「女子寮って呼ばれているみたいですよ」
「ああ~」
カロリーナが納得したような声を上げる。
(女子寮か…。オヤジさんが聞いたら。面白くないだろうな。本人の前では、この話題しないようにしよう。うん)
そんな、他愛もない話をしているとレオンハルトがやってきた。
「よお、ユウキちゃんお待たせ。おっ、その2人がユウキちゃんの友達か?」
「こんにちは! カロリーナです」
「初めまして、ユーリカと言います」
「おお、2人とも可愛いねぇ。よし! これなら大丈夫だろ」
「ねえユウキ! 私たち可愛いって。やだあ、ホントの事言われて恥ずかしいっ」
「んじゃ、案内するから付いてきな!」
「んもう! さらっと流さないでよ!」
カロリーナがぷんすかして言うが、レオンハルトはどこ吹く風で、歩き始めた。
「ねえ、レオンハルトさん。本当に変なアルバイトじゃないでしょうね」
「大丈夫だって! ユウキちゃんは心配性だな」
しばらく歩いて、大通りの商店街にやってきた。あちこちでお祭りの準備が進められている。レオンハルトは、商店街の一角にある喫茶店にやってきた。
「ここだ、入ってくれ。お~い、マスター! 連れて来たぞ!」
「おっ、レオンハルトさんか」
店の中から、前掛けをした恰幅の良い男性が出てきた。男性は40歳半ばくらいで、やや額が禿げ上がっているものの、温和そうな顔をしている。
「おお、この3人かい。いや~、なるべく可愛い子を頼むって言っていたが、これほどの女の子を連れてくるとは思わなかったよ」
「おっと、私はこの喫茶店のマスター、ホフマンと言います」
3人は自己紹介をすると、ホフマンは店の奥に3人を招き、衣装を準備しているからそれに着替えてきてほしいと話し、着替え後に仕事の内容を説明すると言った。ユウキは何となくイヤな感じがしたが、言われた通り、用意された衣装に着替えることにした。
「マスター、3人にはウエイトレスさせるんだろ。着替えさせる必要があるのか」
「ふっふっふ。まあ見ててください。ああ、出てきましたよ」
店の奥から出てきたのは、胸の所がやや大きく開いた、ゴスロリ風萌えメイド服に身を包んだ3人だった。
「おおーー!」
レオンハルトが感嘆の声を上げ、ホフマンが満足そうに頷く。
カロリーナは3人の中で一番背が低くく、胸が足りないが、かえってそれが、あどけないかわいさを生み出しており、正に「ロリッ子メイド」と言っていい装い。
ユリーカとユウキは大人っぽい体つきがもろに出て、色っぽい雰囲気が全身からにじみ出ている。また、開いた胸元から覗く、胸の谷間が素晴らしい。
「な、何ですか…。この衣装は! ボク、恥ずかしくて死にそうです!」
ユウキが顔を赤くして精一杯抗議する。
「いやいや、素晴らしいです。さて、ここは夏まつり期間「メイド喫茶」としてオープンします。皆さんには接客をお願いしたいのです」
「もちろん、メイド喫茶ですから、お客様を迎えるにはこう挨拶してください」
『いらっしゃませ!ご主人様!』
ユウキたちは言葉も出せず、立ち尽くしている。ホフマンの裏声が気持ち悪い。
「一度練習してみましょうか。そうですね、レオンハルトさんに向かってやってみてください。さあ!」
3人は顔を見合わせてもじもじし、中々声が出せない。ホフマンが何度も促し、やがて意を決したように、
「いらっしゃませ! ご主人様!」
と可愛らしくあいさつした。レオンハルトは、にやにやして3人の少女をガン見している。
「うん、まあ良いでしょう。たどたどしいのがかえって新鮮です。それと皆さん。接客にはそれぞれ個性持ってお願いしますよ」
「こ、個性ってなんですか」
「君たち女の子の生まれ持った性格と言いますか、属性です。例えば、相手が好きなのにそっけない態度を取ってしまうとか、恥ずかしくなってドジを踏んでしまうとか、そんな感じで接客してください」
「アバウト過ぎる上に、ハードルが高い…」
ユウキは無理難題に頭を抱えた。
「私はね、このメイド喫茶で、夏祭り商店街売り上げナンバーワンを目指しているのです。皆さんにかかっているのですからね。よろしく頼みますよ」
「やっぱり断ればよかった~。ボク、できないよ~。恥ずかしいし…」
「個性って、どう出せばいいんでしょう」
「ユーリカはその無駄にデカいおっぱいを相手に押しつけてやればいいでしょ。ユウキ、いつまでもめそめそしない! そのおっぱいは飾りなの!」
「うう、おっぱい関係ない…」
「さあ、開店しますよ!」
ホフマンがにこやかに開店を宣言した。今ここに、メイドたちの戦いが開幕したのだった。