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第482話 失意の帰還

「わはははは! こやつらは単眼魔人じゃ。見た目はアレじゃがかなり強いぞ。さーてと、ワシは戻るがお主らはこいつらに遊んでもらえ。ただ、遊び過ぎて殺されぬようにな。あはははは! さらばじゃ! じゃーねー♡」


 タマモはガンテツたちにひらひらと手を振ると「ポン」という音とともに、煙に包まれて消えた。


「くそ…、逃げられちまった。珠も取り返せず…。ちくしょう!」


 ガンテツが悔しそうにガン!と地面にグレートアックスを叩きつけた。


「姫さん、メルティとルルたちを連れて逃げろ」

「岩太郎ちゃんはどうするのです!?」

「オレはこいつらを足止めする」

「なんですとー! 1人では無理です。どんな能力があるかもわからないのですよ!?」

「だからだ。ここで姫さんを危険に晒す訳にはいかねぇ。メルティもルルも気を失っている。イヨ婆たちは戦えねぇ。なら、答えはわかりきっている」

「岩太郎ちゃん…」


 怪物たちは見れば見るほど禍々しい姿をしている。以前戦ったアラクネーやマンティコアも恐ろしい怪物だったが、目の前で唸り声を上げて近づいて来る怪物はそれらと違った、一線を画した恐ろしさを醸し出している。さすがのガンテツでも敵うかどうか…。


「早く行け! 逃げられなくなるぞ!」

「………でも」

「姫さん!」


 躊躇するセラフィーナは仲間たちを見た。おろおろするイヨ、ミヨ、アル。タマモの術で意識朦朧としているルルに、魔力を使い果たして気を失っているメルティ。どう考えてもガンテツを置いて逃げるのが得策…、いや、正しい選択だと思う。だが…。


「わかりました」

「ミヨさん、ルルちんを頼みます。イヨさんはアル君を。行ってください」

「は、はい。でも、姫様は…」

「私は大丈夫。メルティさんと直ぐに追います」


 ミヨは青い顔で頷き、イヨに手伝ってもらってルルを背負うと、アルと手を繋いだイヨを先導に秘密の通路を駆け上がって行った。


 4人が闇の中に消えたのを確認したセラフィーナはすっくと立ちあがると、帯剣していた幻蒼石の魔剣をすらりと抜いてパタパタと走り、ガンテツの隣に並んだ。驚いたのはガンテツ。


「な…、何をしてるんだ!?」

「見て分らんですか?」

「分らんわ! 逃げろと言っただろうが!」

「私は帝国皇女です。仲間を見捨てて逃げるなんて、皇女を名乗る資格を自ら捨てるようなものです。私は岩太郎ちゃんもメルティさんも、誰も失うわけにはいきません。だって、私は2人がとっても大好きですから。だから戦います!」


「姫さん…」


「聞け化け物ども! 私はセラフィーナ・リシア・カルディア! いずれ世界を征服する女!」


「ん? 世界征服?」

「気にしない、気にしない。さあ、行きますわよ、岩太郎ちゃん! 成敗!!」

「オレはガンテツだって言ってんだろ!」


「まずは私から…。面倒臭いので一気に行きます!」


 セラフィーナは大威力魔法を放つため、魔力をどんどん高める。極大まで高まる魔力で体がうっすらと黄金色に輝く。


「唸れ電撃の暴風! サンダーレイン!!」


 単眼の魔物の群れの上空から無数の超高電圧の電撃が滝のように降り注ぐ! 空気を切り裂く雷鳴が轟き、眩しい閃光が単眼魔人を包み込んだ。耳をつんざくような轟音が止み、雷光が収まって周囲が見渡せるようになる。単眼魔人は全て地面に倒れ伏し、ぶすぶすと燻っている。


「黒こげですね。やっちゃいましたか?」

「……いや、まだだ」


 ガンテツの言葉にセラフィーナが燻る単眼魔人を見て驚いた。電撃に焼かれたはずの魔人たちがむくむくと起き上がり始めた。


「えっ、ウソ!?」

「……姫さん、気を付けろ」


 立ち上がった魔人の黒焦げになった表皮がボロボロと崩れ落ちると、その下から無傷の本体が現れた。ガンテツとセラフィーナは武器を構えて警戒する。魔人たちはドスドスと足音を立てて2人の前に集まってきた。巨大な単眼がずらりと並ぶ光景は不気味の一言。警戒度を高め、様子を伺っていると、魔人たちの単眼が怪しく輝いた。


「姫さん、危ねえっ!」

「ふぎゃっ!」


 ガンテツがセラフィーナを抱きかかえて地面に臥せた。その上を幾筋もの赤い光線が通り過ぎて地面に命中するとあっという間に灼熱の溶岩のようになり、ぼこぼこと泡立った。


「あ…あわあわあわ…」

「くそ…何て威力だ。掠っただけでもヤベェぞ」

「岩太郎ちゃん、アレ!」

「なんだ、ヤツらこっちを見て…。マズいっ!」


 単眼魔人が一斉に地面に転がる2人を向いている。多数の瞳が赤く妖しく輝いた。ガンテツは焦るが逃げようにもセラフィーナを抱えたままで地面に転がっている状態では逃げるに逃げられない。ガンテツはギリッと歯を食いしばり、セラフィーナをぎゅっと抱きしめた。


(姫さんだけでも何とか助けなければ。くそっ、何とかならねぇのか!)


 魔人の単眼から熱線が発射された。もう逃げられない。さすがのガンテツも覚悟を決めた。その時…。


「メイルストローム!」


 2人の目の前に水の壁が立ち上がってぐるぐると渦を巻き、熱線を全て受け止めた。激流と超高温の熱線がぶつかり合い、激しい高温の水蒸気が辺りに立ち込め、単眼魔人を包み込んだ。熱い蒸気が巨大な目に直接当たって激しく沁み、魔人は痛さで暴れまわる。

 水蒸気から目を守ろうと熱線攻撃を止め、距離を取った単眼魔人たち。メイルストロームの内側ではガンテツとセラフィーナが唖然として周囲の水の壁を眺めていた。


「これは…」

「水の防御魔法?」


 魔法の効果が終わり、メイルストロームの渦が地面に落下して周囲が開けた。2人が背後を振り向くと、地面に這いつくばりながら、苦しそうな顔をして片手をこちらに向けているメルティがいた。


「メルティさん!」

「…うぐぐ。2人とも頑張れ…。負けるなぁ…。バタッ」


「ありがとうよ、メルティ。後は任せろ」

「岩太郎ちゃん。おメメには魔法は効かないです。どうします?」

「けっ、魔法が効かねぇならぶっ叩くだけだろ」


 パタッと倒れたメルティに感謝の気持ちを伝えた後、ガンテツはグレートアックスをしっかり握って右往左往する単眼魔人を見据えてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。セラフィーナも幻蒼石の魔剣を鞘から抜いてガンテツの真似をしてニヤリと笑った。


「行くぞ姫さん!」

「はいさっさー!」


 単眼魔人の集団に躍り込んだガンテツとセラフィーナ。グレートアックスで魔人を真っ二つにし、幻蒼石の魔剣で胴体を貫く。魔人は高熱水蒸気で目を潰され、最強の武器である熱線を封じられてしまい、むやみやたらに手を振って攻撃してくるだけだ。


「そんな攻撃なぞ、当たらんわ! 砕け散れ!」

「必殺セラフィーナ・スラッシュ!」

「なんじゃそりゃ!?」


 熱線の使えない単眼魔人はただのでくの坊だった。ガンテツとセラフィーナの敵ではなく、次々に斬られ、倒れて行った。最後の1体がグレートアックスで胴体を両断され、地面にべしゃっと倒れるとガンテツはアックスをガン!と地面に叩きつけた。


「はあはあはあ…全部倒した…です」

「………。くそっ、スマン姫さん」


「何がですか?」

「せっかく手に入れた秘宝を、まんまと奴らに奪われてしまった」

「仕方ないです。油断した私が悪いのです。岩太郎ちゃんが気にする必要はありません。相手が1枚上手だったのです」

「だが、オレが付いていながら」

「ううん。私は岩太郎ちゃんやメルティさんに感謝してるんです。2人がいなければ、とてもここまで来ることは出来なかったでしょう。本当にありがとう」


「…………」

「そんな顔をしないでください。確かにガルガの起動システムは奪われてしまいましたが、精霊族の人々を助けることが出来ました。それだけでもヨシとしましょう」


「だが…」

「ハルワタートやタマゴとの再戦の機会は必ずあります。その時は一緒に戦ってくれるんでしょう」

「あ、ああ。そうだな! ヤツらはオレが必ず倒す!」


「それでこそ、帝国最高のSクラス冒険者、ガンテツさんです。貴方を仲間にできたこと、私の最高の幸せです。もちろん、メルティさんも」

「姫さん…。おう! オレも姫さんを気に入ってる。わりぃが暫くお供させてくれ!」

「はいこちらこそ! じゃあ、戻りましょうか。今後の対応も考えなければなりませんし」


「メルティはまだ気を失っているようだな」

「私たちを守るため、無理しちゃったみたいですし。ありがとうです。本当に」


 ガンテツはマジックバッグから背負子を取り出すと、倒れているメルティを抱きかかえて座らせて背負った。


「どっこらせっと。姫さんに比べると結構重いな。胸の差か?」

「失敬ですね。私だっていずれ大きくなるんです。たぶん…」

「まあ、夢を見るのは自由だからな」

「ムカ!」


「ホレ、行くぞ」

「もう、後でお仕置きしちゃうから。月に代わってオシオキよん!」

「わかった、わかった」

「もう!」


 来るとき使った秘密の通路を使って地上に向かう。先に逃げたイヨたちに協力した光の精霊たちがふよふよと漂っていて十分に明るく、移動するに困難は無かった。通路を半ばほど登った頃、メルティが目を覚ました。


「ん…んん…。あれ…?」

「気が付いたか」

「ここは…?」

「神殿に通ずる秘密の通路です」

「そうですかぁ…。あの、ウルの人たちは…」

「逃げられました。残念ですが、秘宝も奪われてしまいました」


「すみません…。わたし、全然お役に立てませんで…」

「そんなことないです! メルティさんには何度も助けられました!」

「そうだぞ、オレたちがこうして生きていられるのはお前のお陰だ。感謝してるぞ」

「セラフィーナ様、ガンテツさんも…」


「なあ、メルティ」


 その後、3人は黙って地上に続く階段を上っていた。精霊たちがぽわぽわと飛び回り、優しい光を放っている。そんな中、ガンテツがメルティに話しかけた。セラフィーナはメルティの顔をそっと見る。


「お前、以前オレに自分はトロくて、全然仲間の役に立たなくて、いつしか誰も自分を見向きもしなくなって自信を失ったって言ってたな」

「は…はい…」


「ここ暫くお前と一緒に姫さんのお供をしたが、オレはお前を中々出来るやつだと思ってるぞ。場面場面で2種類の魔法を使い分ける判断力、ピンチにも逃げ出さない根性と向かっていく胆力。少々腰が引けてるのはご愛敬か。それに、お前はボーっとしているようで周りを良く見ている。姫さんも言っていたが、お前には本当に助けられた」


「仲間なんていらねえと思っていたオレだが、お前とは組んでもいいとも思っている。どうだ、このままオレと組んで姫さんの助けにならねえか」

「ふふっ、私もメルティさんが側に一緒にいてくれると嬉しいな」


「…………ううっ」

「どうした?」

「ぐすっ…う、嬉しい。こんなこと言われたの初めて。どのパーティでも役立たずと言われ、相手にされなかった…。こんなわたしを仲間にって…、嬉しい。嬉しすぎますぅ。うわああーん」


 思いがけずガンテツに評価されたこと、仲間になってくれと言われたことで感極まったメルティが大泣きし始めた。ガンテツに背負われながら、わんわん泣くメルティを見つめるセラフィーナは、いつも明るいメルティが経験してきた苦労を慮ると少し切なくなった。それとあのガンテツがメルティを認めたことで嬉しくもなった。


(今までの仲間は見る目が無かったですね。でも、そのお陰で出会えたことで私はラッキーでした)


 やがて秘密の通路を抜けて地上に出た。上ではイヨやミヨたちが待っていてくれた。ガンテツとメルティに続いてセラフィーナが通路から出ると、ババッとルルが土下座をしてきた!


「申し訳ありません姫様! あたしのせいで秘宝をケダモノどもに奪われてしまって!」

「あたしを助けてくれ、里を助けてくれたにもかかわらず、恩を返すどころか邪魔をしてしまい、挙句の果てに秘宝まで奪われてしまう始末。なんてあたしってドジで間抜けな亀なんだろう。本当にすみません!」


 セラフィーナは目を細め、冷たい視線でルルを見た。


「確かに、秘宝を犬っころたちに奪われた原因はルルちんにあります」

「ぐぅっ…」

「あと一歩で私たちの勝ちでした。ルルちんのせいで指の間から水が漏れるように勝ちが逃げてしまいました。この罪は重く切腹を申し付けたいほどです」

「ひぃっ…」


 しかし、セラフィーナは謎の笑みを浮かべるとそっとメルティの肩に手を置いた。


「でも、私は慈悲深い女です。特に貧乳女子には寛大です。今後私は帝国に戻り、あのクソ犬とロリババア狐をぎったんぎったんにしなければなりません。そのためには仲間が必要。ルルちん、私に付いて来てくれますね」

「は…はい。セラフィーナ様に助けられたこの命をもってお仕えいたします!」


「よろしい。罪を憎んで人を憎まず。貴女を許しましょう」

「任務の失敗はぁ、油断していたセラフィーナ様にも原因がありますよぅ」


「聞こえてますよメルティさん。後で乳揉み100万回の刑に処す!」

「ひ、ひぇええ~」


「お前ら、ふざけとる場合じゃねぇぞ。これからどうするんだ」

「そうですね。とにかく急いで帝都に戻るとします」


「ですが姫さまぁ、わたしたちボロボロですよぅ。疲れてもう動けませぇん」

「なら、今日はワシらの里に泊まれ」


 セラフィーナはガンテツとメルティ見た。さすがのガンテツも常に最前線でハルワタートやタマモたちと戦い、疲労の色は隠せない。また、メルティも動けるようになったものの、魔力は回復していない。この状態で森の中で魔物に遭遇したら全滅は必至だ。ここは素直にイヨの厚意に甘えることにしたのだった。


(とにかく休んで頭をスッキリさせましょう。そうしたら次の打つ手が見えてくるかもしれません)

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