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第479話 精霊族の秘宝

「ルルさん…」

「お願い、帝国のお姫様。あたしも連れて行ってください」


「……。それはできません」

「どうして!」

「私たちが相手にするのは、目的のためなら女子供でも容赦なく殺す獣のような輩です。その事はルルさん。あなたはよくご存じのはずです」

「…………」


「その通りだお嬢ちゃん。オレたちだってどうなるか、わかったもんじゃねえんだ。せっかく拾った命を無駄に捨てることはねえ」

「そうですよぉ。ルルさんが死んだら、お亡くなりになったご両親も悲しみますよぉ」

「そうじゃ。ルルはここで待っておれ」


「い…嫌です。あたし、ここで大人しく待ってるなんて絶対に嫌。あいつらがこの里で何をしようとしているか良くわかんないけど、そのせいでお父さんもお母さんも…、それだけじゃない、大勢の里の人たちやお友達のリウくんもキキちゃんも殺された。平和で楽しかったこの里が地獄になった」

「あたし、絶対にあいつらを許せない。仇を取りたい。あたし、弱虫だけど頑張ります! だからお願い、連れて行って!」


「ダメだ!」

「ひうっ…」


 ガンテツの怒気を孕んだ大声が落ちる。ルルはビクッと身をすくめて動きを止めた。


「いくぞ、姫さん」

「ま…待って。連れて行って。あたし頑張る。頑張りますから…。お願い…。ぐすっ」


「岩太郎ちゃん、メルティさん、待ってください」


 セラフィーナはガンテツとメルティを呼び止めると、くるりと振り返って、すたすたとルルの側に近づいた。イヨや里の人たちはハラハラとして2人の様子を見ている。


「決心は変わりませんね」


 ルルはこくんと頷く。


「本当に死ぬかもしれませんよ」

「構わない。このままじゃ死んだお父さんとお母さんに顔向けできない。あたしはあたしの出来ることをしたいです」


「うむ! その意気やよし! 今からあなたを私の家来にしましょう」

「本当ですか!?」

「はい。家来になった証としてこれを下賜します」


 セラフィーナはマジックバッグから予備に取っておいた短剣を取り出し、ルルに渡した。


「これは…、短剣ですか。ありがとうございます。武器までいただけるなんて」

「武器? 違います。これは自決用です」

「…え? 自決?」

「そうです。我がパーティの戦陣訓は「生死を超越し一意任務の完遂に邁進すべし。その期待に応えられぬ時は、生きて虜囚の辱めを受けず」です。奴らはケダモノと同じです。捕まったら最後、徹底的に辱めを受けるに決まってます。ですので、その時が来たら…わかりますね」

「…ごくり」


「どっからそんなもの引っ張ってきたんだよ。そんな戦陣訓、聞いたこともねえぞ」

「怖いですぅ」

「私の知り合いの乳お化け…ではなく、冒険者から教えられた戦陣訓です。何やら彼女のいた国の古い軍隊の言葉だそうで、これを聞いたとき私は深い感銘を受けました。皇帝おとうさまには受けが悪うござんしたが」


「だろうな…」

「と、いう訳でルルさん、一緒に行きましょう。あなたの決心を尊重します。それと、何より私が気に入ったのは、その限りなく平坦に近いド貧乳です。ルルさん、お歳は?」

「じ…16歳」

「わたしと同い年でその平坦さ。侮れません。生きて帰ったら平坦貧乳グランプリを開催しましょう」

「は…はあ」

「うむ。では皆の衆、シュッパーツ!」


「真面目なんだかふざけているのか良くわからんお姫様じゃな。アンタらもお供大変じゃのう」

「…わかるか」

「あははは…」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 セラフィーナたちが連れてこられたのは社殿奥の「神域」と呼ばれる場所。精霊を祭る大きな祭壇が置かれているが、よく見ると中央から少し横に動かされていて、元々祭壇があった場所には人ひとり通れるくらいの奥に続く入り口が開いている。


「ここが神殿の入り口じゃ」

「ハルワタートたちはここから入ったのですね」

「真っ暗ですぅ」

「バアさん。秘密の入り口とやらはどこだ」

「急かすな。こっちじゃ」


 イヨは祭壇の前を通り、社殿の外に出て里を抜け、崖沿いの細い道に入った。道は整備されておらず草深く、また、木の枝や草が行く手を遮り顔に当たって痛い。ガンテツはイヨの前に出ると、里で借りてきた山刀を取り出し、草木を切り払いながら進み始めた。そうして歩くこと約30分。一行は小さな祠の前にやってきた。


「小さい祠?」

「ここじゃ」


 イヨが祠の中に祭られている像を動かすと、祠が「ズズズ…」と音を立てて動き、地下に続く階段が現れた。


「これが隠された通路じゃ」

「いよいよですね。覚悟はいいですか、メルティさん、ルルちん」

「はいはい~」

「ルルちん…」


 全員が階段に入ったことを確認したイヨは壁のレバーを押した。すると、祠が移動して通路が塞がれると同時に途端に真っ暗になり、メルティが小さな悲鳴を上げた。


「ひょぇwww」

「騒ぐなデカ乳娘。光の精霊よ、ワシらの周りを照らしておくれ」


 イヨの呼びかけに光の精霊が答え、セラフィーナたちの周囲が明るくなった。見ると、小さな光の球が複数ポワポワと光を放ちながら浮いている。


「わあ、キレイ!」

「ふわわ…。本当ですねぇ。わたしの明かり魔法とは違った輝きでぇ、こっちの方が優しい感じがしますぅ」

「光の精霊様ですよ。あたしたち精霊族は精霊様の力を借りることができるんです」

「ほう。話には聞いていたが、オレも見るのは初めてだ」

「行くぞ。ワシについてまいれ」


 人ひとり分の幅しかない、狭く長い長い階段を降りると平坦な道になった。精霊の光が届く範囲は明るいが、その先は暗闇に沈んでいる。その不気味な雰囲気に誰もが口数が少なくなり、体力のないセラフィーナが疲労でくたくたになった頃、唐突に突き当たりになり、進むことが出来なくなった。


「おい、ババア!」

「慌てるでない。ここが目的地じゃ。男、壁の右端を強く押せ」

「チッ…。ここか?」


 ガンテツが言われた通り壁を押すが、壁はびくともしない。


「ほれ、もっと力を入れろ」

「クソ…ババア…っ。ぬおぉおおおーっ!」


 ガンテツが気合を入れて吠え、ビキッビキッと腕の筋肉と血管が盛り上がる。


「うるぁあああーーっ!」

「私も手伝っちゃう。えーい♡」


 腕と下半身に全身の力を込めて壁を押すガンテツの尻に手を当てて押すセラフィーナ。微妙な位置に手を当てられ、こそばゆくなる。


「止めんか! ケツに触るな。力が抜けるわ!!」

「ヤダ、ガンテツちゃん。照れてるぅ~」

「バカ野郎! 割れ目をなぞるな!」


「滅茶苦茶屈強そうなドワーフが姫様に一方的に翻弄されてる…」

「ルルさん、これが普通なんですよぉ~」

「えぇ…」


 ギャーギャー騒ぎながらもガンテツの押しで壁の右側が少しずつ前に動き、左側が後ろに下がり始めた。メルティとルルが左側の壁に手をかけて右に引っ張ると「ガガッ!」と地面を削るような音がして壁が縦になり、通路の先が開けた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 セラフィーナたちが出た場所は縦横数十m、高さ約10m程の広いホールの一角だった。空間には光の精霊がキラキラフワフワといくつも漂ってホール内を照らしており、幻想的な光景を見せている。周囲を見回しても人の姿や気配はなく、ハルワタートたちに先んじて到達できたようだ。


「アレが精霊神殿じゃ」


 イヨが指さす方を見ると、ホールの奥に石造りの屋根を何本もの柱で支えられた建物があった。その規模、大きさにセラフィーナたちは驚いた。


「地下にこんな建造物があるなんて…。アースガルドの遺跡みたいです」

「驚いたな、こりゃ」

「びっくりですよぉ」

「ここに来たのは、あたしも初めてです」


「こっちじゃ」


 イヨが先に立って精霊神殿の中に入り、セラフィーナたちがそれに続く。柱に囲まれた通路を20m程歩くと一番奥にたどり着いた。光の精霊が漂うそこには人の背丈ほどの台座が拵えられ、高さ3m程の大きな女性像が置かれている。


「奇麗な人…」

「精霊神アコンカグヤ様じゃ。カグヤ様の手を見てみよ」

「手?」


 言われた通りアコンカグヤ像の手を見てみる。像の手はささやかな膨らみの胸の前で、手のひらを上にして重ね合わされている。よく見ると、手のひらの上に白く輝く小さな珠が置かれていた。


「あれが精霊様の秘宝じゃ」

「あれが…。美しい珠ですね」

「取るのか?」

「トーゼンです。そのために来たのですから。あれは国が厳重に管理すべきものです」


「本来なら誰にも触れさせたくは無いのじゃ。先祖代々大切に守り続けてきた宝じゃからな。じゃが…」

「…おばば様」


「ワシらの里を滅茶苦茶にした者共に渡すわけにはいかん。しかし、ワシらには戦う術がないのも事実。なら、姫さんに託すのが最善と思う。事が終わった暁には返してもらえればそれで良い」

「帝国皇姫の矜持にかけて約束しましょう。もし、約束が守れなかった時はメルティさんを自由にして構いません。生贄でも、エッチなバニー姿でのご奉仕でも何でもしてください」

「何故!?」


「まあそれはさておき、早速お宝をいただきましょうか」

「セラフィーナ様、泥棒みたいですよぉ」

「気分は大泥棒です。岩太郎ちゃん、屈んでください」

「ん? こうか?」


 屈んだガンテツの肩に足を置いたセラフィーナはよろよろしながら立ち上がった。メルティが「おっとっと」と言いながら体を押さえる。


「岩太郎ちゃん、立ち上がってください」

「俺はガンテツだって言ってるだろうが…。よっと…」


 ガンテツが立ち上がると、ちょうど精霊像の手の辺りにセラフィーナの頭が届いた。セラフィーナは球を取ろうと手を伸ばした。


「お…、ううん。もう少し…」

「おい、大丈夫か?」

「セラフィーナ様ぁ、もうちょい右ですよぉ」

「こ、こっちかな…。あ、取れた! うわたたっ!!」

「きゃあっ、危ない!」

「うぉっと!」


 秘宝を手にした瞬間、バランスを崩して足を踏み外し、床に落ちそうになったセラフィーナをガンテツがお姫様抱っこで受け止めた。ビックリまなこの姫様の顔が可笑しくて、メルティとルルは安堵するとともに「プッ」っと吹き出してしまった。当のセラフィーナも照れ笑いをしながら、ガンテツにお礼を言った。


「えへへ…、ありがとうございます。岩太郎ちゃん。さて、目的は達せられました。長居は無用。直ちに撤収します」


「そうはいかねぇぜ」


 精霊神殿から撤収しようとしたセラフィーナたちの前に10人ほどの集団が現れた。2人を除きフード付きコートを脱ぎ去った。下から現れたのは銀狼の獣人に、狐耳の亜人の女性。ガタイの良い初老の灰色狼の戦士と獣人亜人の兵士たちだった。

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