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第478話 精霊族の長老

「ヒャッハーッ!」

「男とババアは殺せ! 女子供は捕らえろ!」

「人間とエルフの女はまわせーっ」

「邪魔だドワーフ!!」


「させるか、馬鹿野郎ども! ぬをおおおりゃあーっ!!」


 ショートスピアを腰だめに構え、奇声を上げて突っ込んできたウル兵に向かってガンテツはグレートアックスを横薙ぎに振りぬいた。先頭の2人が鎧ごと胴体を真っ二つに両断され、血と内臓をぶちまけながら地面に転がった。驚いたウル兵はガンテツの前で一旦止まると間合いから離れ、半円状にガンテツを取り囲む。


「合図で一斉に槍を投げろ!」

「うぬ…」


 1人の兵士の合図でショートスピアが一斉に投擲された。放物線を描いてガンテツに迫る十数本の槍。全てを迎撃するのは不可能。何本かは体を貫くだろう。


「アイス・シールドォ!」


 身構えたガンテツの前に氷の壁が展開され、ウル兵の放った槍をキン!カキン!と甲高い音を立ててはじき返した!


「よっしゃぁ! メルティ、いいぞ!」


 ガンテツはグレートアックスで氷の壁を破壊するとウル兵に向かって突撃した。ウル兵たちはロングソードを抜き、リーダーらしい兵士が指示を出す。


「半数はドワーフを迎え撃て。半数は俺について来い!」


 半数のウル兵がガンテツを牽制し、残りの半数がセラフィーナたちに向かってきた。セラフィーナとメルティは魔法で迎撃するため、内なる魔力を高める。


「ライトニングボルト!」

「ファイアストームッ!」


 雷の魔法が1人のウル兵を貫き、炎の嵐がさらに2人を巻き込んで消し炭にした。しかし、残った3人は怯まず剣を振りかざして突っ込んでくる。セラフィーナは幻蒼石の魔剣を握り締め1人のウル兵に斬りかかった。剣と剣がぶつかり合い、キィイン!という金属音と共に火花が飛び散る。


「ハーハハハッ、カワイイ顔してうやるじゃねーか。待ってろ、直ぐにひん剥いてやる!」

「うにゅにゅ…。よくも里の人たちを…、許しませんっ!」


 獣人兵士とお姫様ではパワーの差は歴然。ギリギリと押し込まれ、頭上で相手の剣を抑えるのが精一杯。相手の力で体が軋み、魔剣を持つ手が痺れてくる。しかし、気持ちだけは負けてない。精霊族の人々を虫けらのように殺したハルワタートたちへの怒りがセラフィーナに力を与える。


「こ、このっ…」

「ウヒャヒャ…。おれゃあ人間の女を食ったことはねぇんだ。お嬢ちゃんのアソコはどんな味がするんだろうなぁ」

「誰がオマエなんかに、私の初めてをあげるもんですか」

「処女か! こりゃたまらん!!」

「そうはいかの塩辛ですっ!」

「ウギャッ!!」


 セラフィーナはウル兵の無防備な股間に蹴りを入れた。ぐにゅっとした嫌な感覚とともにウル兵がビクンと体を震わせ、前屈みになって蹲る。このチャンスにセラフィーナは雷撃の魔法を放った。ウル兵は全身を走る電撃に全身が痺れ、「あばばばば…」と奇声を上げながら地面に倒れ伏した。


 一方、メルティには2人のウル兵が襲い掛かり、ピンチに陥っていた。魔法を放つ間もなく接近され、近接戦闘が苦手なメルティは為す統べなく捕らえられてしまった。1人に背後から羽交い絞めされ、喉元に腕を回され息が苦しい。また、グイと背中を押されて大きな胸を強調される。


「ククク…。このエルフ。見れば見るほどいい体だぜ」

「おい、早く剥いてしまえよ」

「焦るなって」


「や…やめ、やめてぇ~!」

「うるせえ! オレらの仲間を焼き殺しやがって。落とし前をつけさせてもらうぜ!」

「きゃああ~ん」


 絶体絶命の大ピンチ。ガンテツは離れた場所で多人数相手に1人で戦っており、セラフィーナもウル兵と剣を打ち合っており、こちらを助ける余裕がない。何とか羽交い絞めを振りほどこうとするが、パワーに勝る獣人兵に非力なメルティは動きを完全に封じられている。ウル兵は服を脱がそうと掴みかかってきた。涙あふれる目をぎゅっと閉じたメルティの耳にウル兵のくぐもった声が聞こえ、体を押さえていた相手の力がフッと抜けた。


「ぐふっ!」

「があっ!」


 メルティが目を開けると、生き残った精霊族の大人たちが手に手に木の棒を持ってウル兵に襲い掛かっているところだった。メルティを襲うことに夢中になっていたウル兵は不意を突かれ、一方的にボコられている。


「イテェ! 止めろくそ野郎ども!」

「ぐあっ! てめぇらぶっ殺すぞ!」

「うるさい! 妻を、子供たちを返せ!」

「家族を返して!」


 木の棒でぼこぼこ殴られ、身を丸めて耐えていたウル兵が雄叫びを上げ、伸び上がって精霊族の大人たちを振り払った。悲鳴を上げて地面に転がる精霊族の大人たち。それを見て子供らが悲鳴を上げる。ウル兵は怒りに燃える目で精霊族に向かっていく。吹き飛ばされて地面に座り込んでいる大人たちに剣を振り上げた。


「そうはさせませぇん!」

「ぐばぁ!」


 そこに服の乱れを直したメルティがウル兵に接近して魔術師の杖を思いっきりフルスイングした。杖は1人のウル兵の顔面にヒットし、悲鳴を上げながら顔を押さえて後退する。もう1人は何事かと仲間に顔を向けた。そこに油断が生まれた。


「アイスランス!!」

「ギャアアーッ」


 メルティの放ったアイスランスが2人のウル兵の体を貫き、どう…と音を立てて地面に倒れた。


「メルティさん、大丈夫ですか!?」

「は、はい~。何とか~」


 セラフィーナとメルティがお互いの無事を確かめ合っていると、複数のウル兵を1人で相手取っていたガンテツも戻ってきた。


「2人とも無事か」

「岩太郎ちゃん!」

「少し手間取ってしまったが、向かってきた奴らは全部ぶっ殺したぞ」

「ガンテツさん、さすがですぅ」


 電撃で痺れて動けないウル兵を見つけたガンテツは、側に寄って息があるのを確認すると、おもむろに腰のベルトにひっかけていた岸壁登りに使用したロープを取り出して、ウル兵をぐるぐるに縛り、地面に転がした。そして、パンパンと手をはたくとセラフィーナとメルティに言った。


「姫さん、奴らを追おうぜ。まだそう遠くまで行ってないハズだ」

「セラフィーナ様、行きますよぉ」

「…………」


「どうした姫さん。追わねぇのか?」

「セラフィーナ様?」

「…………」


 ハルワタートたちを追おうと声を上げたガンテツとメルティだったが、セラフィーナは長老イヨの周りに集まって悲しみに涙する精霊族の人々をじっと見ていて、2人の声も届いていないようだった。そして、ガンテツに向かってこう言った。


「岩太郎ちゃん。亡くなった精霊族の方々を葬ってあげましょう。土魔法で埋葬する穴を掘ってあげてくれませんか。メルティさんも手伝いをお願いします」


「お、おい。そんなことしてたら、起動システムとやらを奴らに持っていかれちまうぞ」

「そうですよぉ。ここはあの人たちに任せて、ハルワタートを追うべきですよぉ」

「岩太郎ちゃんとメルティさんの言う事は最もです。私もそうすべきと思います。そのためにここまで来たのですから。でも…」


「私はどうしてもこの方々をこのまま放っておくことはできないのですよ。こんなの自己満足にしか過ぎないことも、偽善だということも理解してます。でもお願い。私のワガママを聞いてください」

「セラフィーナ様はお優しいのですね…」


 セラフィーナの真剣な瞳を見ていたガンテツは「チッ…」と舌打ちすると、頭を掻きながら精霊族の男たちに声をかけに行き、メルティも後を追ってパタパタと駆け出した。


「なぜ、ワシらにここまでしてくれるんじゃ?」


 2人の背中を見て胸に手を当てて黙祷するセラフィーナにイヨが声をかけてきた。


「自分でもよくわかりません。でも…」


 セラフィーナは遠くを見た。そこではガンテツの作った穴に遺体を埋葬し、墓石を立てている人々の姿が見える。少し離れた場所でお墓に添えるためなのか、メルティと一緒に花を集めているルルや子供たちの姿があった。


「皆さんの悲しむ顔を見ていたら、無力な自分でも何かしてあげられることはないかと思ったのです。この程度しかしてあげられなくてすみません…」


「…………。いや、礼を言うのはワシらの方じゃ。あんたらが来なければ里の衆は皆殺されていたじゃろう。あんたらのお陰で半分は生き延びることができた」


 イヨの言葉にセラフィーナは暗澹たる気持ちになる。半数は生き残った…。しかし、半数は死んだと言うことだ。沈んだ顔をしたセラフィーナに、イヨは感謝の気持ちを伝えてくれ、少しだが心が軽くなった。そこに埋葬を終えたガンテツとメルティが戻ってきた。


「終わったぞ、姫さん」

「疲れましたぁ~。少し休みたいですぅ」

「2人とも、ありがとうございます。この間にもハルワタートたちは先行してます。すぐに追いますよ。働け、メルティ!」

「ひょぇええ~。鬼! 悪魔! ぺちゃぱい!!」

「お…おのれ…言いおったな! 岩太郎、この不埒物を引っ立てい!」

「遊んでる場合じゃねえだろうが」


「待て、あんたらに聞きたいことがある」

「なんでしょう」


「あいつ等は一体何者で、なぜ、ワシらの秘宝を奪おうとするのじゃ。なぜ、ワシらがこんな目に合わねばならんのじゃ。教えてはくれまいか」


「ばあさん、オレたちは急いでいるんだ。悪いが付き合っている暇はねぇ」

「わたしは少し休みたいですぅ」

「胸にそんなでかい脂肪タンク抱えて何言ってるんですかね。このエロエルフは」

「もう、ド貧乳ぺちゃぱいってホントの言ったことは謝りますよぅ」

「き…貴様。許さん!」


「精霊神殿へはワシら巫女一族だけが道を知っている。また、娘の案内があったとしても到達するまで半日はかかるじゃろう。じゃが、ワシだけが知る秘密の通路を使えば2刻(2時間)もあれば辿り着く。ここで少し話をしても奴らに先行することは可能じゃ」

「話が終わればワシが神殿まで連れて行ってやる。ワシとて精霊族が代々守り続けてきた秘宝を渡すなど許容できるものでもない。頼む!」


「どうするよ、姫さん」

「…わかりました。ご説明しましょう。お話できる範囲でですが」

「感謝する。話ができる場所まで案内しよう。皆の衆も来るがいい」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 セラフィーナたちが案内されたのは里の奥、崖直下に建てられている社殿の大広間。畳というものが敷かれており、広さはざっと百畳(約330㎡)あるとのこと。そこにイヨとその背後に里の生き残りの大人や子供(約百数十人)が座り、セラフィーナ、ガンテツ、メルティが対面に座った。ルルがセラフィーナたちの前にお茶を置いて、イヨの隣に座った。


「では、教えてくれ。あ奴ら獣人は一体なのものなのじゃ?」

「彼らは私たちの帝国に隣接する獣人国家「ウル」の者たちです。白銀狼の獣人がいたでしょう。彼がリーダーのウル国王子ハルワタートです」


 セラフィーナはウルが獣人中心の世界国家を構築するため、いにしえの世に存在した「邪龍ガルガ」を復活させ、その圧倒的な力で世界を征服するつもりであること、そのためにガルガ復活に必要な3つの秘宝を探し求め、既に2つを入手し、最後の一つを探し求めていることを話した。自分たちはそれを阻止するために追ってきたことも。


「ワシらの秘宝が、その…ガルガとやらを復活させるために必要なものじゃというのか?」

「私たちにはわかりません。ですが、ウルはどうやって調べたのか不明ですが、そう確信したのでしょう」


「ふむ…。巫女一族に伝わる伝承では、秘宝は古の魔を封じたもので、決して持ち出すなと伝わっておる。じゃが、これは巫女一族しか知らぬこと。どうやって知り得たのか…」

「まあよい。奴らが来た理由は分かった。なら、秘宝を求めるならワシら巫女一族だけを狙えばよかったのではないか? 何故、里の者たちを皆殺しにしようとしたのじゃ。非道過ぎるのではないか! 島の外の者共は皆そうなのか!?」


「…い、いえ。そんなんじゃ」

「えと、えっとぉ…」


 セラフィーナとメルティが言い淀むとガンテツが飲んでた茶をドンと置くと回答を引き継いだ。


「獣人ってヤツは獣の血を強く引いているからな。闘争・狩猟本能が人間やオレたち亜人に比べて激しいんだ。ウル本国で生まれ育ったヤツらは特にな。獲物は容赦なく殺し、奪い、燃やし尽くすんだ。ゲス野郎どもが…」


「本能だけでワシらを…、この平和な里を襲ったというのか!? 男を殺し、女は犯し、子供たちにまで手をかけたというのか! そんな非道が許されると思うのか!! ぐっ、ぐぬぬぬ…」


 イヨの叫びに集まった精霊族の人々からも悲痛な声や嗚咽が上がる。イヨも暫く目頭を押さえていたが、顔を上げると「はあ…」と深く息をついた。


「ところで…」

「はい、なんでしょう」


「ヤツらもそうだが、あんたらはどうやって迷いの森を抜けてきたのじゃ。あの森には精霊様の加護が働いており、精霊族以外は抜けることは出来ぬずじゃが…」

「…ククッ。オーホホホホッ!」


 突然お嬢様笑いを上げるセラフィーナ。


「実はですねぇ。帝都にはポポちゃんっていう精霊族の少女がいて、私の友人なのです。糸を使って森を抜ける方法を教えてもらったのですよ」

「ポポだって!?」


 突然2人の男女が立ち上がった。見るとイヨも驚いた顔をしている。


「あ、あれ? どうしたのですか?」

「ポポは1年以上前にこの村を飛び出した娘でな。あの2人はポポの両親なのじゃ」

「なーるほど」


 セラフィーナはポポの両親を手招きして呼び寄せるとポポの近況を教えてあげた。


「…という訳で、今では帝国の友好国、ラファール魔族国の侯爵家のご子息レグルス様と究極のラブラブバカップルになりまして、婚約の儀まで済ませているそうです。つ・ま・り、ポポちゃんは将来侯爵婦人になる予定です。すごい大出世もいいとこ、究極のシンデレラストーリーですね」


「…………。ああっ」

「ラナ!?」


 あまりの衝撃にポポの母親ラナはふらりと倒れ、父親シルが慌てて抱きかかえた。


「ま…まあ、ポポが幸せならよいじゃろう。また、森を抜けられたのも納得じゃ」

「では、そろそろ案内してもらえねぇか」


「よいじゃろう。ついて来い」


 そう言ってイヨは立ち上がった。セラフィーナ、ガンテツ、メルティもその後ろに続く。


「待って! あたしも行く!!」


 4人が振り返ると、決死の顔をしたルルが立ち上がっていた。

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