第49話 帰ってきた2人
王都の夏祭りを目前に控えたある日、ハウメアー市の実家に帰っていたカロリーナとユーリカが戻ってきた。
「ヤッホー! ユウキ、たっだいまー」
「ダスティンさん、マヤさん。またお世話になります」
「おかえりー、2人とも日に焼けたねー。疲れたでしょ、休んで休んで」
「うん、ありがとう。そうそう、みんなにお土産があるんだ! ユーリカと一緒に選んだの」
「わあ、嬉しい。何だろ、楽しみだな~」
「まず、ダスティンさん。ハウメアー特産のお酒」
「そのお酒は、ハウメアー周辺でしか採れない希少なラズベリーから造られたお酒だよ。ハウメアー以外にはあまり出回らない逸品です!」
「おお、それは楽しみだ。早速いただこう」
ダスティンは嬉しそうだ。
「これはマヤさんに。ハウメアーの染め物で作られたスカーフだよ。色合いがキレイでしょ。絶対似合うよ」
スカーフはきれいな紫色のグラデーションになっており、花の刺繡があしらわれている。
『美しい色合いですね。気にいりました。ありがとうございます』
マヤは早速スカーフを巻いている。こちらも、とても嬉しそうだ。
「ユウキさんにはコレです!」
ユーリカが取り出したのは、見事な熊の一刀彫。熊は前足で大きな魚を押さえ付け、得意そうに上を向いている。しかも、彫り物自体結構大きい。
「……。(北海道土産? これ北海道のお土産屋さんでよく見るやつと同じ…)」
「どうです。見事なものでしょう。ハウメアーでも有名な彫刻店で購入しました! 気に入ってくれました?」
「……えっと、う、うん。嬉しいよ。微妙にだけど。重かったでしょ、ありがとう…」
「さっそくお部屋に飾ってくれませんか。さあ!」
ユーリカが急かす。ユウキはどうしたら断られるか思考を巡らす。
「いや、これボクの部屋より、お店に飾った方が映えるんじゃないかな」
「おいおいユウキよ、友達がせっかく買って来たんだ。自分の部屋に飾れ」
(このオヤジ~、店に置きたくないんだな。押し付けようと思ったのに~)
ユウキはダスティンをジト目で見るが、ダスティンは素知らぬ顔でお土産のお酒を飲んでいる。
「わ、わかったよ。行こう」
ユウキは諦めて熊の彫刻を持ち上げ、3人で2階の部屋に向かった。
部屋の机の上に熊の彫刻を置く。女の子らしい部屋に大きな熊の彫刻は何ともアンバランスで、一種独特の雰囲気を放っている。
「彫刻の存在感が半端ない…」
思わず、感想を口にするユウキ。
「いや、ユウキ、いい感じだよ、プププ」カロリーナが吹き出す。
「ユウキさんに気に入ってもらってよかったです! ユーリカ感激です!」
「ハハ、ボクも嬉しいよ。微妙にだけど、ホントに微妙にだけどね…」
暫く、熊の彫刻を何とも言えない気持ちで観賞した後、2人のお土産話に耳を傾ける。
「私の家は、ハウメアーの郊外に農場を持つ大規模農家なの。人もいっぱい使ってるんだ。今の時期、夏野菜の収穫とか畑の除草とかで忙しくて、弟や妹たちの世話を押し付けられて大変だったよ。おまけに、私の水系魔法で畑の水やりまでさせられてさ」
「へえ、弟さんと妹さんいるんだ」
「うん。弟3人に妹2人。あとお兄ちゃんが1人いて7人兄弟だよ」
「わあ凄いね。兄弟多くて楽しそう」
「楽しくないよ。うるさいし、ケンカばかりしてるよ。まあ、弟と妹は可愛いけど」
(今のカロリーナ、望お姉ちゃんと同じ顔をしてた。ふふ、いいお姉ちゃんだね)
「私はお見合いさせられそうでした…」
「へえ、ユーリカにはもうそんな話が来てるんだ」
「ユーリカはね、ハウメアーの一番大きい商家の一人娘なんだよ」
「そうなんです。だから、お父様が商売の後を継がせるため、早く婿をもらえってうるさくて」
「はあ、大変だね~」
「そうだ! ユウキさん。私の代わりに結婚して店を継いでもらえませんか?」
「何でそうなるの! 無理に決まってるでしょう」
「お見合い相手ってのが若いんですけど、巨乳好きの小太りで、頭が少し禿げている男性でした。どうです? ユウキさんにお似合いだと思うんですけど…」
「どこがお似合いなのよ! ボク、全然興味ないって言うか、ユーリカは自分の嫌いな人押し付けているだけでしょう。もう…、巨乳好きっていう部分でアウトだよ。ボクは自分のおっぱいを安売りしたくないの!」
「何ですかその謎理論は…。仕方ないですね…。カロリーナで我慢しますか」
「アンタ、ケンカ売ってんの? どうして巨乳好きを私に振るのよ」
「おっと、これは失敬。カロリーナさんは巨乳とは真逆の女、貧乳を極め、悟りを開いた神のようなお方でしたね。オーホホホ!」
「こ、この牛女…。乳がデカいからって貧乳女子を見下しおって…。コ・ノ・ウ・ラ・ミ・はらさでおくべきかぁああ! 乳よ重力に引かれて垂れるがよい! 重力魔法グラビティ!」
「もう、カロリーナったら、そんな魔法ないでしょう。あははは」
2人の話を聞いて笑っていたユウキは、ふと、アルバイトの件を思い出して、
「そうだ、2人に協力してもらいたいことがあるんだ。実は夏祭りにアルバイトすることになったんだけど、あと2人何とかならないかって言われているんだ。もしよかったら、お願いできないかな」
「私はいいよ」
「私もです。なんか面白そうですね」
「ありがとう、助かるよ。ただ、仕事内容は当日にならないとわからないんだよね」