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第472話 セラフィーナ 大冒険の始まり

 時は少し遡り、ユウキたちがアルムダート市の拠点に帰還を果たした頃、帝都西部ギルド「荒鷲」のギルド長室では密かに3人の人物が集まっていた。その人物とは、ギルド長オーウェン、事務長リサ、そして密偵のレブ。オーウェンとリサはレブに探らせていたウルの動向について報告を受けていたのだった。


「宰相府に入った報告によると、ユウキたちが発見した起動システムとやらはウルに奪われちまったようだな」

「これで3つのうち、2つがウルの手に渡ったことになりましたね」

「ふん…。残り1つか…。それでウルの動きはどうだ?」


「ああ、オレが探ったところによると、残りの起動システムを探しているようだな。奴らはこの帝都に来ているぜ。ハルワタート自ら獣人冒険者を集めて南の海岸に向かったのを確認している」


「南の海岸…? 何のために」

「船を探すんだろう。奴らの目的はパノティア島に渡ることだ」

「パノティア島…。なるほど」

「何が「なるほど」なんです、組合長」


「俺はマスターだって言ってるだろ。パノティア島の奥地には精霊族が古来から守る神殿遺跡があるという噂がある。奴らの狙いはそこじゃねえか」

「パノティア島ですか…。確かに可能性はありそうですけど、あの島の奥地に足を踏み入れて戻ってきた人はいないって…」

「奴らは行く価値があると踏んだんだろうよ」


「どうするんだ、組合長」

「アレンたちはどこにいる」

「国境付近でウルの動向を探ってるぜ」

「なら直ぐに呼び戻すのは無理か…。仕方ねぇ、1週間もすればエヴァリーナ嬢たちが戻って来る。彼女らと相談だな。お前は引き続きハルワタートたちを追え。ただ、無理はするな」


「しっ…」


 突然レブが口に指をあてて音もなく立ち上がった。何事かと見上げる二人を手で制し、そっと扉の取っ手を握り、一呼吸おいて一気に押し開けた!


「誰だ!」


 レブは廊下に出て周囲を見回したが、誰もいない。


「気のせいか?」


 レブは扉を閉めると再びオーウェンやリサと密談を始めるのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 さて、ここにとんとんと軽快に階段を下りる1人の少女がいた。年は16歳、背中まで伸びた美しい銀髪、スラリとした体形の美少女で、名をセラフィーナ・リシア・カルディアといった。


「ユウキさんやお兄様たち、オマケにラピスまで頑張ってると言うのに、私だけ何もしてなく、のほほんと春休みを過ごしているのが耐えられないです。なので、組合長さんに思いっきり駄々こねしようかと来てみれば、面白い話を聞きました」


「組合長さんたちは直ぐには動けないみたいですし、ここはひとつ、この私、セラフィーナがウルの野望とやらを打ち砕いで見せましょう。そしたら、お父様もお兄様もお城の皆も褒めてくれるに違いありません。なにより暇が潰せますし」


「となれば、お城関係者にバレないように秘密裏に行動する必要がありますね…。仲間も欲しいところです。さて、どうしましょうか…」


 セラフィーナは、1人でぶつぶつ呟きながら階段の踊り場から、使えそうな人物はいないかと1階フロアを覗き見た。


「てめぇ、人にぶつかっておいて、ゴメンで済ませようってのかよぉ!」

「イテェ、イテェよー」

「あ~あ、こりゃ骨が折れてるな…」

「アニキぃ~、股間がビンビンイテェよう~」


「ふええん。ぶつかったのはゴメンなさい~。でも、ぶつかったのは肩で、こ…股間じゃありませんよぅ~。てか、そこに骨ってあるんですかぁ~」

「うるせぇ! 落とし前つけてもらおうか!」


「お、落とし前ってなんですかぁ~。お金ならありませんよう」


「イヒヒ。アニキ、こいつエルフの癖に、いいパイオツしてるぜ」

「くくくっ…こりゃ楽しめそうだ。金なんかいらねぇよ。体で責任取ってもらおうか」

「イテェ、イテェ。チンポがビンビンにいきり立ってイテェよーッ!」


「ひぃ、止めてください~」


 エルフの女の子にいちゃもんを付けていたチンピラ冒険者たちは、女の子を捕まえようと手を伸ばした。怯えた女の子はチンピラから逃れようと2、3歩後ろに下がり、そこでドンと何かに当たった。


「あっ…」

「………」


 女の子が振り向くと、背は自分よりやや低く、腕は太く胸板も筋肉で盛り上がったごっつい体躯をしたいかつい髭面の男がじろりと睨みつけていた。


「ど、ドワーフ…さん。ごっ、ごめんなさい」


 ドワーフはぐいと女の子を押し退け、チンピラたちの前に出た。


「なんだぁ、てめぇ」

「……どけ」


「なんだとぉ、このドワーフ野郎!」

「どけ。邪魔だ」


「てめぇ…、オレ様を誰だと思ってやがる!」

「知らんな」


「こ、この…」

「お、おいアニキ…」

「んあ?」

「ヤツはガンテツだ」

「なに、ガンテツだと!? こいつがガンテツ…。決してパーティーを組まない孤高の一匹オオカミ。立ちはだかるもの全てを自慢のグレートアックスで破壊し任務を遂行する。付いたあだ名が「破壊神」とかいうアイツか!?」

「アニキ、見事な解説っす」


「…………」


「ちっ…。行くぞ、おめえら」

「あっ、アニキ、待ってくださいよ~」


 女の子に絡んでいたチンピラたちはそそくさとギルドから出て行った。ガンテツと呼ばれたドワーフはチンピラを一瞥すると、ギルドカウンターに行こうとしたが、その前に先程のエルフの女の子が出てきて、ガンテツに声を掛けた。


「あ、あの…。お、お礼を…」

「いらん。お前を助けた訳じゃない。どけ、邪魔だ」


 パチパチパチパチ。突然拍手が聞こえてきた。何事かとガンテツと女の子が周囲を見回すと、1人の身なりの良い服を着た銀髪の美少女が拍手をしながら近づいてきた。


「見事です。チンピラを眼力威圧だけで退けるとは、中々の実力者とお見受けしました。それに意識せず自然に女性を助ける行動力と正義感。ただ物ではないと感じさせる風格。合格です」


「なんだ、お前は。いきなり現れてわけわからん事言いやがって。頭おかしいのか」

「頭はおかしくありません。あなたは私の家来として合格したのです」

「はあ? 何言ってんだ。オレは誰とも組むつもりはねぇ。ガキの家来ごっこに付き合う暇もねぇ。さっさと帰れ! ここはガキの遊び場じゃねえぞ!」


 雷よりでかいガンテツの声がギルド内に響き渡る。しかし、美少女は涼しい顔。誰もが逃げ出す一喝が効かない事にガンテツの方がが怯む。


「遊びじゃないです。話をしようにもここでは人目が多すぎますね。えーと…あ、あそこの飲食スペースのテーブルが空いてます。あそこで話をしましょう」


 マイペースな美少女に調子が狂うガンテツだったが、ここは毅然とした態度を取ることにした。女の子の遊びに付き合ってられない。


「断る」

「どうしてです? さあ、一緒に来てください」

「付き合ってられん。1人で行け」

「一緒に来て♡」

「ガキは好かん。特に女は」

「どうしても?」

「どうしてもだ」


 ガンテツはくるりと背中を向けると、自身の用を足すためにカウンターに向かおうとした。傍らではエルフの女の子がハラハラした感じで2人を見ている。美少女はパタパタとガンテツを追いかけ、彼の手を取って自分のスカートを握らせてから、大きく息を吸って叫んだ。


「キャーーーッ! このおじさんエッチィーッ! 私のスカート捲って、パンツを下ろそうとしているーっ!!」

「うおっ! なんてこと言いやがるッ!」


 美少女の叫びに冒険者たちがわらわらと集まってきた。そして、美少女のスカートの裾を握るガンテツを見て非難し始めた。


「ガンテツ、テメエ…見損なったぞ!」

「いい歳こいたオヤジが、女の子のスカートめくりかよ。今になって思春期か!」

「最低野郎が、ロリコンスケベ!」


「ちっ…違う! 誤解だ!!」

「キャーキャー! ロリコンドワーフに犯されるぅ」

「ああ、もう黙れ! 行く、一緒に行くから」

「むふふ…最初からそう言えばよかったのですよ」


「では、向こうのテーブルに行きましょう。そこの無駄に乳がデカくて私の劣等感を刺激しまくるエルフ。あなたも来てください」

「えっ…。わたしもですかぁ~」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「さて、自己紹介といきましょう。私の名前は「セラフィーナ・リシア・カルディア」です。聞いたことあります?」

「知らねぇな」

「まあ、私を知らないなんて。仕方ないですね、ここだけの話、実は私は帝国皇女で皇位継承2位のお姫様なのですよ。Bクラス冒険者でもあります。どうだ、参ったか」


 驚く2人を前に、証拠となる皇室の象徴たる鷲の意匠が刻まれたブローチを見せて得意げに起伏に乏しい胸を張るセラフィーナ。


「はい、次はロリコンドワーフさん」

「オレはロリコンじゃねぇ。ちっ、しゃあねーな…。名はガンテツ。冒険者だ」

「岩石?」

「岩石じゃねぇ。ガンテツだ」

「岩石岩太郎」

「どこの名前だ。バカにしてんのか!?」

「ハイ、次」

「話を聞けよ!」


「わ、わたしはメルティといいます。一応冒険者です。駆け出しですけどぉ」

「あなた、エルフなのに随分と乳が大きいです。妬ましい…、不敬罪で死刑に処す」

「何でですかぁ~。不条理です、弁護士を呼んでくださぁ~い」

「冗談です。妬ましいのは本当です」


 ガンテツは不機嫌さを隠さない顔で、何の用かセラフィーナに問いただした。


「ところで、一体何なんだ。用があるんじゃねえのか? 下らん話しだったらオレは速攻で帰らせてもらうぞ」

「おっと、そうでした。先ほども言いましたが、あなたがた2人は今から私の家来になってもらいます」


「はあ!? なんだそりゃ」

「わ、わたしもぉ!?」

「ですです。話をする前にお聞きしますが、お2人は魔法を使えますか」


 質問の意図を計りかねたガンテツとメルティだったが、ガンテツは土系、メルティは炎と水両方が使えると話した。セラフィーナ自身は風系の魔法剣士と紹介しながら満足げに頷いた。そして、真面目な顔に戻すと本題を切り出した。


「私の目に狂いはありませんでしたね。この3人で全ての四元魔法が使える。実に素晴らしいです。あなた方は私と一緒にパノティア島の奥地に向かってもらいたいのです」

「パ、パノティア島だと」


 パノティア島と聞いて2人は驚いた。

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