番外編6 アルヘナちゃんの憂鬱⑤ 女の意地激突編
数々の紆余曲折…もとい、冒険を経て最高の食材を集めたアルヘナ率いるお嬢様連合とパール率いる愉快な仲間たち。いよいよ決着を付ける時が来た。場所は帝都西部地区の冒険者ギルド「荒鷲」内の飲食店。大勢の冒険者がテンションを上げて見物する中、対戦者と審査員が試合開始を待っており、否が応にも期待と緊張で盛り上がる。ざわざわと見物客が騒いでいると、1人のスーツを着たスレンダー女性が魔道マイクを持って進み出てきた。
「レディース&ジェントルメン! 只今より1人の男を巡る女の熱き戦い「料理バトル」が始まりまーす! 司会は私、当ギルドの事務局長リサが務めます。ちなみに私も養ってくれるイケメン男性を絶賛募集中! よっろしくぅー!!」
うぉおおおー!とギャラリーから歓声が上がる。リサは手を上げて場を黙らせると、くるんとマイクを回した。
「まず、審査員を紹介します。1人目は当対決の主役、人間だけでなく魔物も含めた数多の女を虜にする魔性のスケコマシ男、無自覚ハーレムの帝王カストル君~!」
リサの紹介に冒険者の漢たちから「死ね!」「チンカス!」といった怒号と罵声が飛ぶ。
「なんですか、その紹介は…。まるでボクが最低なクズみたいじゃないですか。何でこんなことになってるんだ?」
「くっそ~、あたしが知らない間にこんな面白イベントするなんて~」
椅子に腰かけてるカストルの背後にぴったりくっつき、大きなお胸をカストルの頭に載せて悔しがるクリスタ。しかし、一番悔しがっているのは、カストルに羨まし気な視線を送るギャラリーだった。
「2人目は当冒険者ギルドのオーウェン組合長~。昨晩の夫婦喧嘩で付いた右目の青タンが痛々しい~っ! ちなみに原因は夕飯に出された鳥のから揚げ全部に組合長がレモンをかけた事だそうでーす」
ギャラリーからどっと笑いが起こる。
「俺はマスターだって言ってるだろ。夫婦喧嘩は関係ねぇだろうが…。それに何でお前がソレを知ってるんだよ」
「3人目は帝国宰相の御子息ヴァルターさん~。超絶巨乳美少女のユウキさんを振ってド貧乳ロリ系女子に走ったマニアッカー! ユウキさんに同情した宰相府の女子職員から絶賛シカトされまくり中でーす」
「…………。勘弁してくれ」
「4人目は美少女メイドのミウちゃん~! 黒の猫耳が超ラブリ~ッ!! 密かにカストル君に恋してる、恋に恋する14歳。う~ん、思春期ですねぇ~。私もこういう時代があったのかな…。おっと、何故か涙が出てきちゃいました!」
「リサさんのバカ! 何でバラすんですの!? ひぃ、クリスタさんの視線が怖いんですの。アレは人を呪い殺す目ですの!」
「さーて、最後はたまたまギルドに来て、たまたまここを通りすがって捕まった女エルフのメルトさん。所謂数合わせってヤツです。よろしくお願いしますね」
「凄い適当な紹介ね。とても迷惑なんだけど…。でもまあ、お金なくて食事できなかったからちょうどいいわ。頑張ります」
「はい。審査員の皆さまよろしくお願いしま~す! さあ、いよいよ対戦者の紹介で~す。最初は貴族美少女連合カストル君ラブリー親衛隊から、クリスティーネさん、フローラさん、アルヘナちゃんの3名でーす! わぁお、お揃いのTシャツ&ホットパンツですね~。それに、ひまわり柄エプロンがとっても似合ってて超ラブリーです! 正に正統派の美少女たち。どんな料理を作るのでしょうか、楽しみです!」
「対するは、カストル君ハーレムメンバー、パールと愉快な仲間たちから、パールバティさん、アンゼリッテさん、アリエルさんの3名ですっ!」
パールたちが紹介されると、会場から騒めきと共に大きな歓声が上がった。
「おおっと、こいつらちょっとヤバいんじゃないですかぁ~。上半身素っ裸ですし、パンツはスッケスケレース地の紐パン。ちょっとぉ、尻の割れ目が見えてますよ。オマケに布地の薄いロングエプロンって。これ所謂「裸エプロン」ってヤツですよ。このエロスケどもが…。ぱっつんぱっつんの胸が超絶に妬ましい…。あら、うっかり闇のオーラが溢れ出てしまいましたわ。オホホホ!」
パールは自慢の巨乳をゆさゆさと揺らして殊更強調し、カストルだけでなくギャラリーの漢冒険者たちの視線を釘付けにする。一方、アンゼリッテとアリエルは乏しい起伏を手で押さえ、何とも言えない表情をしている。
「な…なに? あの格好は。あのドエロ悪魔め~。お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ。パールのおっぱいばかり見て~」
「全くですわ。こうなれば、私たちもシャツとブラを脱ぎましょう!」
「でもクリスティーネ様、私たちのエプロンじゃおっぱいが丸出しになってしまい、恥ずかしいです。それに、アルヘナさんは…」
「スミマセンね、私だけちっぱいで」
『フーム。あの娘たち結構おっぱい大きいわね。妹ちゃんがかわいそう。でもでもバストサイズの合計数ではわたしたちが負けてるか…』
『…………』
アンゼリッテとアリエルは胸を両手で押さえて床を見つめている。アルヘナは2人の気持ちが痛いほどわかるのであった。
「さてさて、初めにルールを説明します。作る料理は自由です。つまり、何でもあり! 制限時間は90分とします。時間オーバーは即敗退です。時間には気を付けてくださいね。審査員は2チームの料理を食べ、コレ!と思った方の札を上げてもらいます。それでは、ちょうど時間となりましたぁ! ではスタートッ!!」
リサの合図で料理対決がスタートした。ギャラリーから大きな歓声が上がり、両チームが目線を合わせて火花を散らす。今、1人の男を巡る女子の戦いが始まった!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※※パールと愉快な仲間たちチーム※※
『アンゼリッテ、アリエル。頼むわよ、練習通りやれば上手くいくから』
『う、うん…』
『わたしがお肉を揚げてメインの味付けをするから、アンゼリッテはご飯を炊いて、アリエルは玉ねぎ切ってちょうだい。さあ、始めるわよ!』
『了解!』
パールはどでかいブロック肉をドドンと取り出した。ギャラリーから「おおっ!」という感嘆の声が上がる。ブロック肉を包丁で厚めにスライスすると、丸棒でバンバンと叩き始めた。その間、アンゼリッテは予めといでおいたコメを魔道コンロにかけた釜に入れて炊き、アリエルは玉ねぎの皮をむいて洗った後、ざく切りにする。
『う…、うう…ふぇええ…っ』
美しい金髪をツインテールにした超絶美少女天使がぽろぽろ涙を流し、泣きながら玉ねぎを切る姿にギャラリーの漢たちは「きゅーん♡」となり、思わず声援を送る。
パールは肉を薄力粉→溶き卵→パン粉の順に均一にまぶして熱した油で揚げ始めた。暑さで顔を赤くし、汗をかきながらカツを作るパールの顔は真剣そのもの。気迫あふれる美少女悪魔がエロ巨乳を揺らしながら料理する姿は壮絶で美しく、漢たちはうっとりと見とれてしまう。
一方、アンゼリッテはコンロにかけた釜をじいっと見つめている。火を止めるタイミングを間違えると、ご飯が硬くなったり水っぽくなったりしてしまい、練習では幾度も失敗してきた。直前の練習でもご飯粒に芯が残って不味かった。しかし、本番は始まっている。ご飯の出来でかつ丼の成否が決するのだ。美味しい料理をカストルに食べさせたい。何より頑張ってきたパールを喜ばせたい、その一心でご飯を炊く。隣で泣きながら玉ねぎを切るアリエルがうるさい。
『よし! カツは揚がった。そっちはどう!?』
『ご飯はもう少しです!』
『切った玉ねぎをたれに漬けてる。ぐすっ…ずずっ…』
『じゃあ、味付けはわたしに任せて! アリエルはカツを2cm幅に切って。アンゼリッテはご飯を頼むわね』
『らじゃー!!』
愉快な仲間たちはかつ丼完成に向け、最後の追い込みに入った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
※※カストル様親衛隊チーム※※
「さすが肉食系女子ども。肉で胃袋をつかみにきたか…」
「あれ、随分といいお肉使ってますわね」
「クリスティーネ様、アルヘナさん。私たちも負けていられません。始めましょう!」
『サー・イエッサー!』
「ではでは、私ことフローラがこの場を仕切ります。各自事前に決められた役割を確実に果たされることを期待します!」
『サー・イエッサー!』
「よ~し、始めちゃいます。ただのパンケーキじゃありませんからね~」
フローラはボウルに卵と白砂糖を入れてすり混ぜ、次にハウメアー産の高品質菜の花油を入れ、白っぽく乳化した状態になるまでまぜまぜする。さらにアルムおんじから入手したヤギ(ゆきちゃん)の乳とバニラエッセンスを加え、薄力粉とベーキングパウダー、塩を入れてさらに混ぜ合わせて生地を作る。
「ぬぉおおおおーーっ!」
優し気な顔の美少女が気迫あふれる表情で腕を振り回し、腹の底から吼えながらボウルの中の生地を混ぜ合わせる姿は鬼気迫るものがある。だが、ギャラリーの漢たちは腕を振る度に揺れるバストに目が釘付けだ。一方、
「アルヘナさん! もっと声だせ、もっとだ! タマ落としたか!!」
「タマはありません! 乳もありません、サー!!」
「ワーッハッハッハ! 口より手を動かせ、このロリロリ野郎!!」
「サー・イエッサー!!」
クリスティーネとアルヘナは掛け声を掛け合いながら、フローラの作業と並行してメインディッシュの付け合わせやデザートを作って行く。
「よーし、ケーキは焼き上がりました! 2人はアツアツのうちに「アレ」をお願いします。私はその間に全員分焼いちゃいます!」
「サー・イエッサー!!」
「GO!GO!GO!!」
フローラ軍曹の指示に、2人はぱたぱたと動き回り、クリスティーネは大きな葉に包まれた艶々のバターを、アルヘナは黄金色に輝く液体が入った瓶を取り出して顔を見合わせ、頷き合った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時計を見ていたリサがサッと手を上げた。
「さあ、調理時間終了でーす! おおっと、両者完成したようです。では審査員の前に料理を出してください。まずはラブリー親衛隊チームッ!」
アルヘナたちは、そそ…と可愛らしく出来上がった料理を審査員の前に運び並べ始めた。バターが載った、きつね色に焼けたほかほかの2段重ねのパンケーキと葉物野菜とアボガドのサラダ、ゆきちゃんのミルクで作ったシロップをかけた黒いゼリーの3点セット。ゼリーの上に載せた赤いサクランボが可愛らしい。
ギャラリーから「なんだ、パンケーキか」とか、「女の子じゃこんなもんだよ」と言った声が上がるが、アルヘナは表情に出さずにパンケーキの上に黄金色に輝く糖蜜をかけて行った。自らキラキラ輝く糖蜜にミウやメルトは「きゃ~、美味しそう」と悲鳴を上げた。
「私たちは「キラキラ乙女の甘ぁ~いパンケーキとコーヒーゼリーのセット」です!」
「ふむふむ、親衛隊チームはシンプル・イズ・ベストできましたね。甘い物で攻める感じですか。ではでは、愉快な仲間たちチームどうぞっ!」
『なんなのよ、さっきから愉快な仲間たちって。失礼しちゃうわね』
パールたちはドドンとカストルたちの前にどんぶりを置いた。どんぶりにはホカホカご飯と卵でとじられたジャンボカツが「これでもかっ!」と言うほどてんこ盛りにされていて、オーウェンとヴァルターは「おおっ!」と声を上げ、ミウとメルトはドン引きしている。
『かつ丼よ! 古代魔法文明の街角食堂、孤独のグルメで人気の一品だったものよ。しかも、使用しているお肉はオレンジ豚の特Aなんだから!』
「おお、これはオレンジ豚を使っているのか!?」
ヴァルターの反応にパールが聞き返す。
『あら、あなたオレンジ豚を知ってるの?』
「ああ、あそこは宰相府の直轄地だからな。あの里のオーガたちはオレの友人なんだ」
『まあ! ならあなた、わかってるわね(かつ丼に票を入れなさいよ!)』
「お、おう…」
ヴァルターはちらとアルヘナたちを見ると、3人とも腕組みをして厳しい表情でじいっとヴァルターを見つめている。恨み100%の厳しい視線に射抜かれたヴァルターは、何故そんな視線を送られるのか全く分からないまま、背筋が凍り付く感覚を覚えるのだった。そんな中、司会のリサは両者の料理を見比べていた。
「うーん…、何と言うか両者の料理の方向性がバラバラで勝敗の行方が見えませんね。なら、審査員の皆様に食べていただきましょう! では、審査員の皆様、どうぞー!」
リサの合図で審査員たちが料理に手を付け始めた。そんな中、カストルは2つの料理をじっと見つめている。
(パンケーキとかつ丼…。アルヘナ、パール。ボクが食べたいと思ってたものをちゃんと覚えててくれたんだ。がんばって作ってくれたんだ…。ありがとう、有難くいただくよ)
ちょっとだけ潤む瞳でパンケーキとかつ丼を見たカストルは、テーブルに置かれたフォークを手に取った(箸もあったが、使い方がわからないので無視)。
頭にクリスタのおっぱいをのっけたままのカストルがフォークを手にしたことで、両チームの女子たちの緊張が極度に高まり、目線で火花を散らす。ついに決着の時がやってきた!
スミマセン、思った以上に長くなってしまいました。もう1話だけ番外編にお付き合いくださいませ。




