第468話 バルコムとエドモンズ三世
「そうだったんだ」
「うん、ユウキのくれた指輪に話しかけたらバルコムさんと繋がって、お話しているうちにすっかり仲良くなったの」
『儂も年甲斐もなく、カロリーナと話すのが楽しくなってな。ちょくちょく部屋に遊びに行ってたら…』
「うっかり、私の家族に見つかっちゃったのよねー。あの時は大変だったわー」
『うむ、全員儂を見てパニックになったからな』
「わあ、想像できちゃうね。あはははっ」
「笑い事か?」(ミュラー)
「パニックというレベルの問題じゃないような気がするが?」(リシャール)
「お化け怖いよぅ」(アンジェリカ)
「でもね、バルコムさんが私の体が自由になるように古代の魔法書を調べてくれて、治療してくれていたのが分ると、みんなすぐに打ち解けてくれたのよねー」
「ああ、バルコムさんはカロリーナの恩人だからな」
「子供たちもみんな懐いちゃったんですよねー」
「うん! おじちゃん大好き!」
「いっつも面白いお話してくれるんだよねー」
『わっはっは! 儂、照れちゃうな』
「やだー、おじさんたらすっかり人のいいおじいちゃんみたいになっちゃって。出会った頃の威厳が全然ないじゃない。おっかしぃーの! あはははっ」
「一体なんなんだ…これ」(ミュラー)
「伝説の魔物…なんだよな、リッチーって」(リシャール)
「イメージが覆るんですけど」(アンジェリカ)
「そうだ、おじさんやカロリーナに、わたしの新しい仲間…っていうか、家族を紹介したいな」
「へえ、マヤさんたちみたいな?」
「うん、そうなの」
『ふむ…儂もユウキの装飾具から発する魔力が気になっていたところだ。しかし、今日はもう夜も遅い。明日また来るとしよう。そして、ユウキ、なぜお主がここに戻ってきたのか理由を聞かせてもらおう』
「わかった。明日待ってるね」
『うむ』
バルコムは転移魔法で戻ると宴席はお開きになり、使用人たちが片付けを始めた。ユウキとアンジェリカは宿泊部屋に案内されてベッドに横になって大きく背伸びをした。
「今日は驚きの連続だったなあ。まさかリッチーまで出てきて、和気藹々とするなんて、想像外の出来事だった…」
「うふふ、ごめんねアンジェ。バルコムさんはわたしの育ての親なんだ。子供の頃、黒の大森林で彷徨い、ゴブリンに襲われたわたしを助けてくれて、それからずっと育ててくれたの」
「そうだったのか…。ところで、何故森を彷徨っていたんだ? ご両親は?」
「それは…」
ユウキが言うか言うまいか迷っていると、トントンとノックする音が聞こえ、寝間着姿で枕を抱えたカロリーナが入ってきた。
「えへへー、今日はユウキと一緒に寝たいなーって。いいでしょ」
「うん! モチロンだよ!」
「2人はホントに仲良しなんだな。だが、ユウキへの愛なら私も負けていないぞ」
「ヤダ、アンジェったら」
「なら、3人で一緒に寝ようよ。ベッドをくっつけてさ」
「お、いいね。それ」
ベッドを並べ、ユウキを真ん中に3人川の字になって横になった。アンジェリカがユウキとカロリーナの出会いと何故そんなに仲がいいのか聞きたがったので、カロリーナは少し考えた後、酷いイジメにあって家に引き籠り、人と会うのが怖くなっていた自分にユウキが手を差し伸べてくれたこと。ユウキと一緒にいると楽しくて、幸せな気持ちになったこと。ユウキと一緒にいた友人たちとも仲良くなって、毎日が楽しかったことを話して聞かせた。
「ホント、ユウキといると毎日が楽しくて、退屈しなかったわ」
「ふふ、何となくわかる気がするな」
「でしょ! わかるよね。でも…」
「ユウキは容姿と強い力のせいで魔女に仕立て上げられ、この国の人々の悪意の犠牲になって迫害された。魔女裁判という茶番にかけられ、処刑されることになったユウキは、愛する人が助けてくれると最後まで信じた。でもその男はユウキを見殺しにしようとした。そして、ユウキが一番愛した親友の子がユウキを救うため、体を切り裂かれて死んだの…」
「目の間で起こった惨劇に心が壊れてしまったユウキは、暗黒の魔女として降臨した。王都を破壊し、大勢の人々を殺した…」
「…ううっ、ぐすっ」
「カ、カロリーナ、もういいよ」
「ううん、聞いて」
「この国はユウキを敵として認定し、討伐することを決定した。それを決めたのは、さっき話したマクシミリアンよ。そして、ユウキと私の友人たちも王国側に付いた。私はユウキが…、ユウキの気持ちを想うと可哀想で見捨てられなかった…。だからユウキと一緒に王国と戦うことを決めた。ユウキの親代わりとして一緒に暮らしたドワーフのダスティンさんや、ユウキの家族であったマヤさん、助さん、格さんというアンデッドと一緒にね」
「…そんな」
「結果、ダスティンさんやマヤさんたちは倒れ、最後に残ったユウキと私も友人たちの魔法攻撃で消滅した…。暗黒の魔女は討伐されたの。王国の公式発表でもそう記録されてる」
「でも、私たちは生き残った。その後、大怪我を負った私を家に送り届けたユウキは、南の大陸に旅立った…。大分端折って簡単に説明したけど、出会いと経過はこんなところかな。ただ、ひとつ言えることは私は今でもユウキが大好きよ。それだけは誰にも負けない」
「…ううっ、カ、カロリーナぁ…」
「よしよし、私の胸で泣きなさい」
「…骨に当たって痛い」
「失礼ね! どーせ私はペッタンコですよーだ。くそ、アンジェもデカいし、超乳力者どもめ~、妬ましい」
「ぷぷっ、あはははは!」
「笑うな!」
夜は更け、月が天頂近くに上がっても、3人娘の笑い声は止むことはなかった…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、建物に囲まれて周囲から見えない場所にある、広い中庭に集合したユウキたち一行とカロリーナ家族、ガイアたち3人。そして、転移魔法でやってきたリッチーのバルコム。他の使用人たちは全員、遠くの畑作業に向かわせたため、他人にみられる心配はない。
「じゃあ、出すね。みんな驚かないでね」
「一体何が出てくるのか楽しみだわね」
「きっとビックリするよ。では」
「最初はアース君!」
ユウキは胸のペンデレートに触れて魔力を流すと、ドドーン!と地響きを立てて全長50m、全幅5m、全高3mにもなる銀色に輝く巨大なヤスデのような魔法生物が現れた。
その巨大さと圧倒的な迫力にアンジェリカを除く全員が度肝を抜かれ、流石のカロリーナも顔を青ざめさせている。ただ、カロリーナの弟妹たちだけは歓声を上げて喜んでいた。
『皆さん、初めまして。我はアースロウプレア。アース君と呼んでくれれば嬉しい』
「アース君は古代文明都市のアースガルドで造られた魔法生物なんだよ。私の仲間の中では一番マトモで常識人なの」
『ほう…。儂も書物で様々な魔法生物を調べたが、これほどのモノは初めてだ。ふむ…これは凄い。アース君とやら、ユウキを助けてくれてきたようで感謝するぞ』
バルコムはアース君に近づくと、触角に触れて感謝の言葉を述べる。アース君は何だか嬉しそうだ。弟妹たちはガイアたちに手伝ってもらい、アース君によじ登って楽しそうにはしゃぎ、パパさんとママさんはハラハラして見ている。
「じゃあ、次行くね。アルフィーネ!」
『はーい!』
次に現れたのは植物の魔物、アルラウネのアルフィーネ。直径2mほどの球形の植物体の上に様々な色彩の花びらが開いていて、その中心に女性体が載っている。
女性体は人間の年の頃15~17歳位の茶色い瞳をした大きな目をした美少女で、植物体まで伸びた髪の毛は緑色、人間と同じ肌色をしており、胸はユウキと同じくらいのビッグバスト。植物で編んだようなブラで覆っている。身長は地面から2.5m位で、そのうち女性体は1m程。あまりにも美しい姿にその場の全員がうっとりとして見つめる。
『アルラウネのアルフィーネでーす。みなさん、仲良くしてくださいね♡』
「アルフィーネは人間型にも変身できるんだよ。ちなみに性格は「はっちゃけ」の「イケイケ」系。ぬるぬる女子レスリングのチャンピオンなの」
『えへへー、照れますね』
『ほう、アルラウネとはまた希少な魔物を仲間にしたな。うむ、流石に美しい。ユウキ、この者はアルラウネの中でも特に希少なハイ・アルラウネだ。強い魔力を感じる』
ボンと人型モードに変身したアルフィーネのビッグバストをしげしげと見るリシャールの後頭部をアンジェリカがペシンと叩き、カロリーナは憎々し気な視線を送る。
「じゃ、3人目。出てこいド変態」
『ワーハハハ! 皆の者、驚け、そして畏怖せよ。吾輩こそ「ラファールの獅子」と呼ばれたラファール国第十三代国王「ヴォルフ」であーる!』
現れ出たのは、鎧に覆われた首なしの馬に跨った首なしの騎士「デュラハン」。片手で手綱を持ち、もう片手で兜を被った頭を抱えており、兜の奥で不気味な赤い目がのぞいている。上位アンデッドの出現にママさんは悲鳴を上げ、パパさんの後ろに隠れ、流石のガイアたちもビックリして声も出ない。
「あれ、デュラハンモードで来たんだ」
『うむ、この方が皆が驚くかと思ってな。して、吾輩の予想通りの反応! 満足満足』
『ほう…デュラハンとは面白い。ふむ、戦闘力はマヤに匹敵するな。これはよい拾い物だ。ユウキの助けになるだろう』
「ユウキ、大丈夫なの? こんなの連れて」
「大丈夫だよカロリーナ。こいつ、ラファールの獅子なんて言ってるけど、実態はツンデレ系ロリ巨乳美少女に執着する超ド変態だから。変態ってコイツのためにあるような言葉だよ。あ、カロリーナはツンデレ系美少女だけど胸がないから、コイツの対象外なので安心して」
「安心したような悔しいような、微妙な気分だわね…」
「じゃ、最後…。わたしの最も信頼する仲間…。彼がいなかったら、わたし旅を続けられなかったかも知れない…。とても大切な「人」だよ」
「ユウキ…」
「来て! アベル・イシューカ・エドモンズ三世!!」
ユウキの前に暗黒の霧が渦巻き、その中から現れ出たのは骸骨の姿をしたアンデッド。頭には王冠を被り、豪華な王者の青で染められたチュニック、艶やかな模様が刺繍された緋色のマントを着け、大きな碧玉で装飾された王杖を持っている。また、全身から闇の闘気が溢れ出し、恐ろしいほどの存在感を醸し出していた。
『フハハハハハ! フハハハハハ! ワーッハハハハハ! 呼ばれて飛び出て只今参上! 我が名はエドモンズ三世! アベル・イシューカ・エドモンズ三世! 遥か300年前、イザヴェル王国の王だった男よ。今は最凶のアンデッド、思春期美少女と巨乳っ娘がとぉーっても大好きな死霊王「ワイトキング」なるぞ! ウワーッハハハハ!』
「もういいって。止めなさいよ、その高笑い」
『うおう!』
馬鹿みたいに高笑いするエドモンズ三世の後頭部にチョップを入れて黙らせた。カロリーナと家族たちはワイトキングの出現に驚いた。なにせ、ワイトキングは死霊の中でも最悪とされる怪物だからだ。それがユウキの仲間だったとは…。
エドモンズ三世はバルコムの前に進み出て膝をついて平伏する。
『アンデッドの最高位であり、神に近しい存在の「リッチー」のバルコム様にお目に掛かることが叶い、恐悦至極に存じます。儂はワイトキングのエドモンズ三世。聞けば貴殿はユウキの育ての親だとか。しかし、儂もユウキと出会って以降、常に側にいてこの子の幸せを願いながら成長を見守って参りました。願わくば、このままユウキの側にいることをお許しいただきたい』
バルコムはエドモンズ三世の肩に手を置いて顔を上げさせた。
『エドモンズ三世殿、今までユウキを助けてくれたのだな。感謝申し上げる。この子の無事な姿が見られたのは、ひとえに貴殿や、ここにいる仲間たちのお陰であろう。感謝するのは儂の方だ。これからもこの子のために働いてはくれぬだろうか』
『ハハッ! この身ある限り、ユウキをお助けいたす所存!』
『うむ。アース君殿、アルフィーネ殿、ヴォルフ殿もよくこの子を助けてくれた。これからもよろしく頼む』
バルコムの言葉にヴォルフはエドモンズ三世と並んで平伏し、アルフィーネはぴょこんとお辞儀をし、アース君は触角を動かした。思ってもみないエドモンズ三世の行動と想いにユウキは感動して涙ぐむ。その肩を優しく抱いたアンジェリカもまた、涙ぐんでいた。
バルコムがアース君の側に行き、魔物姿に戻ったアルフィーネにパパさんやママさんが話しかけ、弟妹たちは首無し馬「黒大丸」に跨って遊び始めた。エドモンズ三世はゆっくりと立ち上がるとカロリーナの前にやってきた。ユウキの胸に悪い予感が過る。
『お主がカロリーナか』
「そうだけど。な、なに…」
「エロモン、止めて!」
『ワイト・サーチッ!』
「あ~あ、やっちゃった…」(アンジェリカ)
『身長154cm、体重45kg。B78、W60、H84。ユウキと同じ18歳なのにお子ちゃまロリッコ体型とは、母親は巨乳なのに可哀想じゃなプークスクスクス。だが、乳首は綺麗な桜色でアソコはツルツルなのはポイント高いぞ。ふむ、過去に巨乳に対抗して自由貧乳同盟を立ち上げるもメンバーが集まらず断念か…。後でエヴァリーナと貧乳シスターズを紹介しよう』
『思春期度数は…おおっと、96もあるじゃないですか~。お主、恋をしておるな。ふむ、自分を献身的に介護してくれた男への密かに恋心…ヤダ、乙女チック』
「な、なんなのよ! そんなんじゃないから!」
『おおっと、ツンデレいただきました~。さて、そのお相手はっと…』
「ヤダ、止めて! 言わないで!!」
『でへへ…止めろと言われりゃ言いたくなるのが人の常』
「エドは人じゃ無いだろ…。止めたげなよ」
『そのお相手は…』
「はい、すとーっぷ!」
『ぐっはぁ!』
「わたしの大切な親友に対する愚弄はそこまでよ」
ユウキに背中を蹴っ飛ばされ、地面に倒れたエドモンズ三世。後頭部をガッシ!と踏みつけられ呻き声を上げる。死霊の王と呼ばれるワイトキングが1人の女の子に足蹴にされている光景にカロリーナとガイアたちはドン引きしている。
『や…やめんか。ぐお…眼窩と鼻骨と口腔内に土が入って…。草が刺さって辛いっす!』
「カロリーナごめんね。このカスは女の子の秘密を暴くのが趣味な超弩級のド変態なの。犠牲になった女の子は数知れず…。コイツはしっかりお仕置きしとくから」
「ふぇええん…。ユウキ~」
「よしよし、ホントごめんねカロリーナ」
ユウキとカロリーナはパパさんやママさんの方に歩いて行った。倒れているエドモンズ三世の周りにアンジェリカとガイアたちが集まって、木の枝でつんつんする。
「反応がないな…」
「返事がない…。ただの屍のようだ」
「ガイアさんたち、悪いけどひっくり返してくれないか」
オルテガとマッシュが「せーの!」と掛け声をかけてひっくり返したエドモンズ三世の顔面の穴という穴に土や草が詰まっていた。アンジェリカは、ため息をつきながら木の枝で土ほじくり出し、残った土はガイアが頭蓋骨を外して井戸の水で洗い流しに行った。
首のない白骨死体を見下ろしてオルテガとマッシュは何とも言えない微妙な気持ちになるのだった。
「ワイトキングって、恐ろしい魔物のはずだよな…」
「ああ…、そのはずだぜ」
「自業自得だよ。エドのバカ」
白骨死体が横たわる小さな空間にアンジェリカの小さな呟きだけが聞こえた。




