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第467話 バルコムとの再会

「そうか…、そんな事が…」

「はい。なので、わたしたちは北の脊梁山脈に向かおうと思ってます」


 場所をカロリーナの家の会議室に移し、改めて自己紹介した後、ユウキが再びロディニアの地に来た理由について詳細に説明した。話を聞いたカールや兄のフランツは難しい顔をして考え込み、流石のガイアたちも顔を青ざめさせる。


「邪龍の話は所詮御伽話と思っていたけど、事実だったとは驚きです。また、あの時のように国土が戦場になるのでしょうか…」

「ママさん、邪龍が復活すれば北も南も大陸全土が灰燼と化すかも知れねぇ。だから、何としてもバケモノの復活は止めなきゃならねえんだ」


 ミュラーが茶を飲みながら、真面目な顔をして話すとカロリーナの母親であるクリスティーネが怯えた顔を見せる。


「だが、ユウキ君はいいのか? 君が戦いに赴く事は、私としては止めさせたいのだが…。またあのような事があっては…」

「パパ…」


「カールさん、心配してくださってありがとうございます。でも、わたしは決めたんです。この力は確かに忌まわしい力です。でも、今度は人の幸せのために使うと自分自身に誓いました。わたしの大切な人たち、愛する人たちはこの命に代えても必ず守ると。ですから、わたしは戦います」

「…わかった。そこまでの覚悟があるなら止めはしないよ。私たちは何もできないが、出来る限りの支援はさせてもらおう」

「すみません」

「私たちはユウキさんに恩義があります。カロリーナを生きて連れて帰ってくれたというが恩が。ですから精一杯協力するわ」

「ママさん…。ありがとう。ぐすっ…」


「ユウキ、私も協力する。脊梁山脈に行くわ。いいでしょ」

「来てくれれば嬉しいけど…。でもカロリーナ、体は大丈夫なの?」

「バッチリよ! 全然大丈夫!!」


「おいユウキちゃん、無理させんなよ。こんなチビッ子連れてくなんざ無茶だぜ」

「そうだな、男女差別をするつもりはないが、流石に厳しいと思う」

「ユウキには私が付いてるから大丈夫だ。チビッ子のカロリーナ嬢ではとても戦えるとは思えん。大人しく待っていた方がいい」


 ミュラーたちのカロリーナ評に思わず「ぷぷっ」っと笑うユウキにパパさんたち。当のカロリーナは頬を膨らませてプンスカ怒っている。3人は何となく、その表情が小動物に似ていて、可愛いと思ってしまうのであった。


「なに、この人たち。失敬しちゃうわね。ユウキ、お友達は選んだ方がいいわよ」

「ごめんごめん、許してカロリーナ」


「ミュラー、みんな。カロリーナはね、とっても強いんだよ。こう見えても水系の魔術師で魔法で作る防御壁は王国一と言われるほど強力だし、何より武器が凄くてわたしでも勝てないかもだよ」


「ハーハハハ、冗談キツイぜユウキちゃん。こんなチビッ子が強いって!? ハハハ、腹イテェ」

「お、おいミュラー殿…」

「ん?」

「後ろ、後ろ見て」

「何だよ…、ゲッ?」


 リシャールとアンジェリカが真っ青になってミュラーの背後を見ている。訝し気に振り向いたミュラーも度肝を抜かれて言葉を失った。ミュラーの目の前に黄金色に光り輝く大きな剣が、空中にぷかぷか浮かんでピタリと狙いを定めている。


「フフーン♡、それは神剣「極光オーロラ」私の守護剣よ。自動追尾能力があって、私の命令ひとつでどこまでも敵を追って倒すのよ。どうする? 戦ってみる?」

「カロリーナはね、魔物戦争の時、1人で魔獣グリフォンやケルベロスを倒したんだよ」


「ま、マジか…。わ、わかった。勘弁してくれ」

「カロリーナ、お客様だぞ。止めなさい」

「はいパパ。ごめんなさい。ミュラー様もスミマセンでした」


「い、いや…オレたちも悪かった…」


「ユウキ、今日は泊っていくでしょ。そうしなさいよ。いいでしょパパ」

「ああ、いいとも。皆さんもどうぞ。大したおもてなしもできませんが」


 ユウキたちはカロリーナ一家の好意に甘えることにしたのだった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 会議室を宴会場にしてささやかなパーティが開催された。クリスティーネ手作りの料理がこれでもかとテーブルに並び、久しぶりの美味しい食事にユウキやアンジェリカは大満足。ミュラーとリシャールはハウメアー特産の果実酒が気に入ったようで、カロリーナの父親や兄と一緒にがぶ飲みして気勢を上げる。カロリーナの弟妹たちも楽しそうに料理をパクついている。


 料理を食べていたアンジェリカにカロリーナが話しかけてきた。


「ねえ、あなたアンジェリカって言うんでしょ。アンジェって呼んでいい?」

「え、ああ。好きに呼んでもらってかまわない」

「じゃあ、アンジェで。アンジェはユウキとどうやって知り合ったの?」

「…大した話じゃないけど」

「それでもいいの。ユウキがどんな旅をして出会いをしたか聞きたいの」


「……。私には婚約者がいたんだ。アレシア公国の王太子、ジュリアス殿下という方で、5歳の時に初めて紹介された時に一目惚れして、それからずっとお慕いしていてな。彼と結婚することだけを夢見て努力してきた。だけど、殿下は私を見て下さらなかった。別の女性を愛されてしまった。それでも私は振り向いてもらおうとしていたんだが、事をする度に殿下からは嫌われていった…。そんな中、ユウキと出会ったんだ」


 アンジェリカはジュリアス殿下始め、誰にも相手にされず孤独だった自分に共感し、手を差し伸べてくれたのはユウキだけだった事、恋が成就するよう手助けしてくれた事を話した。


「結局は上手くいかなかったがな。それ以降、国を出た私はユウキと一緒に旅をしているんだ」

「そうだったんだ…。ユウキ、きっとあなたに自分を重ねちゃったんだろうなぁ」

「えっ、それはどういう…」

「ユウキはね、好きな人がいたの。相手の方もユウキに好意を示していたんだけど、結局、その男はユウキを捨てて、別の女に走ったの。ユウキの一途な想いを、愛を裏切った。アンジェはユウキの正体…知ってるんでしょ」

「ああ…知っている」


「その原因を作ったひとつがそれ。私はね、絶対にあの男は許さない。ユウキの純粋な心を弄んだあの男を…絶対に…」

「そ、それで、その男とは…」

「ロディニア王国、国王マクシミリアン。当時は王子だった男よ」

「…………」


(そんな事があったのか…)


 酒を飲んでいたミュラーは、アンジェリカとカロリーナの話を気づかれないように聞き耳を立てながら聞いていた。そして、楽しそうに笑うユウキを見て、複雑な思いをするのであった。


 ユウキが楽しくガイアやオルテガたちと語らっていると、突然カロリーナが立ち上がっった。


「ねえパパ、ママ。あの方呼んでいい?」

「私たちはいいが、来てくれるかな」

「大丈夫よ。ユウキがいると知ったら何が何でも来ると思うわよ」


「カロリーナ、あの方って?」

「ふふーん、楽しみにしてなさい」 


 カロリーナはアンジェリカに向かって「にひひー」と笑うと全員に背を向けてコソコソしだした。ユウキは「?」となりながら、ご両親や弟妹たち、黒い三連星を見ると何故かニヤニヤしている。アンジェリカたちも微妙な空気に居心地が悪くなった。


「…………。はい、お待ちしてます」

「待たせたわね。すぐ来るって」

「何してたの? 来るって…、誰が?」

「まあ、待ってなさい」


 カロリーナが料理の唐揚げを食べていると、部屋の一角に膨大な魔力の渦が巻き起こる。圧倒的な魔力に当てられた、アンジェリカは立ち眩んでよろけ、慌ててリシャールが支え、魔力がないミュラーですら圧力に負けそうになった。


「おいおい、一体何事だ?」

「エドモンズ殿と魔力が似ているような気がするな、しかし、こっちの方がずっと大きい」

「く…、凄いプレッシャー…」


(この魔力…、まさか…まさかっ!)


「カロリーナ! 会わせたい人って、もしかして!?」

「そう。私たちの恩人よ」


 魔力の渦の中からヌウッと姿を現したのは、頭部には髪の毛がなく、顔の目の部分は黒く落ち窪み、怪しげな光が見えている。鼻はなく骸骨のような鼻腔となっていて、口も骸骨のよう。皮膚があるが茶色く、光沢を放っている。また、全身を薄汚れたようなローブで身を包み木で出来た大きな杖を持っている。


「わー、おじちゃんだー」

「骸骨のおじちゃんだー。わーい!」


 カロリーナの弟妹たちがバルコムに纏わりつく。バルコムは優しく子供たちの頭をなでると呆然とするユウキの目に進み出た。カロリーナと家族たちはバルコムに礼をして、ニコニコ笑顔で2人を見ている。


「お…、おじ…さん…」

『ユウキ』

「うわあああっ…、おじさん、おじさん、バルコムおじさんーっ! わあああん!」

『ユウキ、会いたかったぞ』


 ユウキはバルコムの胸に飛び込んで泣きじゃくる。ぼろぼろ大粒の涙を流し、声を上げてわんわん泣くユウキを見て、カロリーナもご両親も涙ぐむ。一方、アンジェリカとミュラー、リシャールは余りの事に呆然とする。


バルコムはユウキを優しく抱くと…、


『ユウキ、儂はお主に謝らねばならぬ。カロリーナの話を聞くまで、儂はお主が王都で幸せにやっておるものとばかり思っておった』

「…うう…ぐすっ…。ふぇ…」


『魔物たちの軍勢を退けたのは知っておった。しかし、儂はその後、新たに発見した迷宮の奥深くを探索していてな、まさかお主が迫害を受け、魔女に仕立て上げられておったとは知らなかったのじゃ。知っておれば、儂がおればお主をあのような目には遭わせなんだものをっ!』

「…………」


『儂は…儂は愚か者じゃ。娘1人助けられず、何が賢者じゃ。何がリッチーじゃ。だだの愚か者じゃ。スマン、許してくれユウキ。お主を助けられなかった儂を許してくれ…』

「おじさん、おじさんおじさん、おじさーん! うわあああん!」


「おいおい、冗談きついぜ…」

「あれが北の迷宮奥深くに住まうといわれる伝説のアンデッド「リッチー」のバルコム…」

「リッチー、神に匹敵する力を持つ魔物…。まさか実在するなんて…」


 ミュラーたちは突然現れた「リッチー」のバルコムを見て唖然として立ち竦む。そこに、カロリーナが「えっへん」と咳払いしてやってきた。


「へへー、驚いた? あの方はバルコムさんといって、伝説のアンデッド「リッチー」なのよ。そして、ユウキの育ての親で、私の大親友なの」


 伝説の魔物、神にも等しい力を持つ究極のアンデッド、リッチーの胸に縋りついて泣くユウキとそれを温かく見守るカロリーナ一家。一体これはどういうシチュエーションなのだろうかとアンジェリカやミュラー、リシャールは呆然と見ているしかできなかった。

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