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第466話 カロリーナ

 翌朝、ホテルのロビーに集合したユウキたちは、ロディニア王国西方の中核都市ハウメアーに向けて出発するところだった。しかし…、


「もう、ミュラーったら一体何時まで飲んでたの!?」

「私は午前3時頃にトイレに起きたんだが、その時は姿は見えなかったな」

「す…、スマン。もうちょっと待ってくれ…。二日酔いで…気持ち悪い…」


「ミュラー殿、水をもらってきたぞ」

「すまねぇ…。ごくごくごく…。悪ぃ、もう一杯くれ…」

「はいはい。待ってて」


「もう、仕方ないね」


 ユウキはミュラーの手を握ると治癒魔法を発動させた。魔力がミュラーの体を包み、幾分二日酔いの症状が軽くなった気がする。


「助かったぜ…。少し良くなってきた」

「わたしと別れてから、チンピラたちとどこに飲みに行ってたの?」

「いや…、何軒かハシゴしたのはわかってるんだが…(本当の事を言ったら殺される…)」


 お代わりの水をアンジェリカから受け取り、ごくごく飲んだミュラーは、治癒魔法の効果もあって多少気分が回復したことから、「もう大丈夫だ。行こうぜ」とみんなに声をかけた。ユウキはため息をついて、床に置いていた荷物を持った。その時、エドモンズ三世が念話で語りかけてきた。


『ユウキ、ミュラーがドコに行ってたかわかったぞ』

(ホント!?)

『うむ、お主の手が奴に触れた瞬間、見えたのじゃ』

(それで…、え~っ、やだぁ~もう…)


 エドモンズ三世からミュラーが飲んだ場所を聞いたユウキは、ちょっと怒り気味にミュラーを呼び止めた。


「ミュラー」

「うん、なんだユウキちゃん」

「メイドバーの猫耳ちゃんは可愛かった? おっぱいパブでは巨乳の子を侍らせて随分とお楽しみだったみたいね」


「な…!?」


 ミュラーは硬直して動きを止め、ギギギ…と人形のように首を回して後ろを見た。そこにはユウキが笑みを浮かべてミュラーを見ている。だが、目は笑っていない。ミュラーはごくりとつばを飲み込んだ。


「な、なぜそれを…」


「エロモンがね、ミュラーの心を読んだのよ。へえ~、コスプレノーパン喫茶ってトコにも行ったんだぁ。何をする所なのかなぁ~。ってか、何をしてきたのかなぁ~。スッキリしちゃったりしたのかなぁ~。ミュラーさん、ユウキに教えてくれないかなぁ~」


「サイッテーだな、この皇子は。ドスケベ!」(アンジェリカ)

「おっぱいパブとかコスプレノーパン喫茶なんてものがあるのか…」(リシャール)


 思わず行ってみたいと口に出そうになったリシャールだったが、ジト目のアンジェリカに睨まれて慌てて言葉を飲み込んだ。一方、ミュラーはズザザーッと目にも止まらない動きでユウキの前に土下座する。


「ユウキ様、平に、平にご容赦を! 物事に流されてしまうはそれがしの悪しき所業でござる。自覚申しておるにも関わらず直せぬ己が、情けのうござる。しかし、漢は常に女子の肌を、豊かで柔らかき乳を求める業深き生き物。その点も御考慮いただきたく存じますれば有難いでござる。某、左様な事はこれを最後に二度と致しませぬ。今一度、魂から平伏いたし申す。まことに忝けのうございます!!」


「謝罪の中に、さり気無く巨乳が好きだと織り交ぜてるよ。このド変態」(アンジェリカ)

「世界最強の帝国の第1皇子、皇位継承者筆頭が女の子に土下座…」(リシャール)


「ふーん…、でもぉ、わたしよりぃ、おっぱいが大きくて可愛い女の子がいっぱいいたんでしょう。その子たちの方がいいんだよね~。いーっぱい、おっぱい揉ませてくれたんでしょう。そうよね~、わたしは難攻不落の要塞のようなつまんない女ですからね~」


「め…滅相もござりませぬ! ユウキ様は最高に素晴らしい女子おなごにござります! ユウキ様を前にしては他の女子などカス同然にござりますれば!!」


「私もカスってこと!? このドスケベ皇子、許さない!」

「まあまあ、落ち着けアンジェリカ。君は素晴らしい女性だ。少なくとも私はそう思っている。気にするな」

「リシャール様…」


「ホントかしらぁ~。カワイイ猫耳の巨乳メイドさんをお嫁さんにしたらいいんじゃないのかなぁ~。わたしより優しくしてくれるかもよ」


「わたくしの妻になるべき女子おなごはユウキ様以外にござらぬ! 許して下さらぬなら、ここで全裸になりて許しを得るまで踊り狂う所存!! 見て下され、わたくしの覚悟を!!」 


 ミュラーは立ち上がると、ババっと服を脱ぎ始めた。


「ぎゃあ、止めて止めて恥ずかしいっ! わかった、わかったから! もう怒ってないから。服を着て服を、股間出すな!!」

「おお、わたくしを許すと申されるか。このミュラー、感謝の極みにござる」


「もうその話し方止めたら?」(アンジェリカ)

「わーはははは! ミュラー殿は真に面白き御方よの!」(リシャール)

「うつってるし…」(アンジェリカ)


「もう、エッチな場所に行っちゃダメだかんね」

「約束する。もう絶対に行かない!」

「ホントかな…。まあいいか、余計な時間を取ったね。じゃあ、ハウメアーに向けて出発しようか」


『おおーっ』


「もお、調子いいんだから…」(ユウキ)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 リーズリット市を出発して暫く北に向かう街道に進むユウキたち一行。やがて視界に廃墟となった建物が見えてきた。建物には足場が組まれ、多くの作業員が残った部分の解体工事をしている。ユウキは立ち止まって作業の様子を見る。気になったアンジェリカはユウキに聞いてみた。


「ユウキ、あの廃墟はなんだ? 随分と大きな建物のだったみたいだな」

「あれは、王国軍の要塞だったもの。アクーラ要塞と言って南方防備の拠点だった。わたしが…破壊したの…。要塞の中にいた大勢の人たちと一緒に…」

「…ユウキ」


「もう行こうぜ」


 ミュラーはユウキの肩を抱いてアンジェリカとリシャールに声をかけた。俯いて歩くユウキの背中がとても悲しそうで、アンジェリカはこの国で起こった悲劇はユウキの心をいつまでも縛り付けていると思うのであった。


(なんとかしてあげたいが…、それはミュラー殿の役割…かな)


 途中、都市間を繋ぐ連絡馬車を乗り継ぎ、数日かけてロディニア王国西方の中核都市ハウメアーの近郊にやってきた。小高い丘から望む光景は壮大の一言で、広い平野に地平線まで続く綺麗に区画された畑。青い空に所々浮かぶ白い雲のコントラストがとても美しい。


「何て美しい風景だろう…」

「ああ、壮大とはこのためにあるような言葉だな」

「帝国でも、ここまでの田園風景はないな」

「行こうか、目的地は郊外の農場なんだ」


 ハウメアー市街に入らず、畑の中を通る街道を行く。街道脇に広がる畑の野菜や色とりどりの花々、その間を飛び回る蝶や蜂などの虫たちを眺めながら歩いていると、やがて遠くに柵に囲まれた白壁の建物が見えてきた。ユウキはカツラを取って黒髪に戻すと、速足で建物の方に向かう。アンジェリカたちもその後を追うが、ユウキは小走りからついには駆け出して置いていかれてしまった。


「お、おい待ってくれユウキ」

「行っちまった…」


 近づくにつれ、建物が段々大きくなる。その建物から少し離れた日当たりの良い場所に1本のパラソルが立っており、その下に小さなテーブルと飲み物が置かれ、テーブル脇のビーチチェアに誰かが体を預けて日向ぼっこをしていた。その人物は人の気配に気づくと、


「ん~、誰かきたの? ガイア? あ~あ、家の敷地外から出られないなんてつまんないな」


 と声をかけて体を起こそうとした。ユウキはパラソルの近くで止まると、小さな声で呼びかけた。


「カロリーナ…」


 呼びかけられた人物はビクッとして動きを止めた。ユウキはもう一度、懐かしい名を呼ぶ。


「カロリーナ、わたし…ユウキだよ」


 カロリーナはパラソルを退けて呼びかけた人物を見た。そこに立っていたのは黒い髪の美しい顔の女の子。紛れもない、再会を誓って別れた大親友…ユウキ本人だった。


「ユ…、ユウキ…なの? ゆ、夢じゃ…ない、わよね」

「うん…ユウキだよ」


「う…うわあああああーーん! ユウキ、ユウキぃいーっ!!」

「カロリーナっ、カロリーナぁ! うああああっ! わああーん!!」


 カロリーナは椅子から立ち上がるとパタパタと駆け寄ってきてユウキに抱きつき、わんわん泣き出した。ユウキもまたカロリーナを抱きしめ、大声で泣いた。


「わああーん! バカバカバカ! 全然手紙を寄越さないからずっと心配してたんだよ、このバカユウキぃ~、うわわーん!!」

「ごめんね、ごめんねカロリーナ。色々あってお手紙出せなかったの。カロリーナ、体動かせるようになったんだね。良かった…良かったよぉ…ふぇえええん!!」


 追いついてきたアンジェリカたちは、抱き合ってわんわん泣く2人を見ているしかできない。


「あの子、誰だ? アンジェリカ知ってるか?」

「いいえ…」


「お嬢さん、どうかしたんですかい? ん、誰だあんたたち」


 建物から表の騒ぎを聞きつけた熊のような大男がぞろぞろと出てきた。カロリーナは涙を指で擦りながら男たちに向かって、


「ガイア、オルテガ、マッシュ! ユウキだよ、ユウキが帰ってきたの!!」

「なんですって、ホントですかい!?」

「ガイア、見ろよユウキちゃんだぜ」

「マジだ…間違いねぇ」


「グスッ…、三連星のみんな。久しぶり」

「おいマッシュ、旦那様を呼んで来い!」

「あ、ああ」


 話を聞いたカロリーナの両親と兄妹たちがバタバタと家から出て来て、ユウキを見て驚いた。


「ユウキ君!? 本当だ…ユウキ君だ…」

「皆さん、お久しぶりです」


「あ、ああ…驚いて声も出ないな。っと、ここでは何だ。家の中に入ろう」

「ありがとうございます。あの…、この3人はわたしの旅の仲間なんです。この方々もよろしいですか?」

「いいとも。私はこの家の主でカールと言います」


「アンジェリカです」

「ミュラーだ」

「リシャールと申します」


「わあ、ユウキ。ミュラーさんとリシャールさんてすっごいイケメンだね」

「ふふっ、カロリーナ。ミュラー様はね、カルディア帝国の皇子様で、リシャール様はイザヴェル王国の王子様なんだよ。アンジェも元貴族のお嬢様なの」


 思ってもみない大物を引き連れたユウキに、カロリーナ一家は驚いて思わず平伏するのであった。

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