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第463話 トゥルーズでの再会

 翌日、宮殿の食堂で朝食をいただいた後、貴賓室に案内されたユウキたち。部屋の中にはグレイス女王と、リシャール王子、ジョゼット王女のほか、軍務大臣と国務大臣の5名が待っていた。促されて席に着くとメイドが全員にコーヒーを出してくれた。メイドが退室するのを見計らって女王がユウキに旅の目的を聞いてきた。


 ユウキはウル国のハルワタート王子の権力掌握、古代魔法文明の遺物から邪龍ガルガが存在することを見つけ出し、衰退に向かうウルの領土拡大と獣人国家による人間世界の支配と秩序の構築を図るためにガルガを復活させるために暗躍していること、カルディア帝国はその情報を掴み、事実と認定するとともに、自分たちは帝国皇帝の命を受け、その阻止に動いていることを説明した。

 なお、魔族国ラファールも同じ情報を得ており、帝国と協同していることも申し添えた。


「わたしたちがビフレストのダンジョンで起動システムのひとつを発見したのですが、ウルにまんまと奪われてしまいました。仲間たちは今それを追っています。一方、わたしたちはガルガ本体を発見し、それを破壊するためロディニアに向かう事にしました。ガルガ本体はロディニア大陸北方の脊梁山脈に封印されているのではと考えてます。恐らくですが…」


「本体を破壊すれば、起動システムがあっても復活はできないですから」


 その突拍子もない内容にグレイスを始め全員が驚き沈黙する。ややあってリシャールが口を開いた。


「母上、今の話は強ちウソとも思えません。配下の密偵によるとウルで何某かの動きがあって、現国王は姿を見せず、ハルワタート王子率いる強硬派が全権を掌握。帝国との国境付近に軍隊の移動を命じたとあります。何が目的なのか分りませんでしたが、もし、それが事実とすれば由々しき事態です」


「しかし、邪龍とは…あまりにも突拍子すぎるのでは? おとぎ話でもあるまいし…」


 軍務大臣が信じられないと言う風に話し、国務大臣も同意とばかりに頷いた。しかし…、


「ユウキちゃんの話は本当だぜ。皇帝オヤジは宰相ヴィルヘルムに命じて全力で邪龍復活を阻止するよう命じた。追っているのは宰相の娘エヴァリーナだ。軍にも動員体制を整えるよう命令を下した。それに…」


「帝国第1皇子たる、このオレがここにいるのが何よりの証拠だと思うがね」


 グレイス女王は深く考え込み、ジョゼットは青ざめた顔をし、2人の大臣も言葉を失う。帝国の動きは、事態がそれほどまでに切迫していることを現しているのではないか…。


「それで、私たちに何を求めようと?」


「何も求めやしねえよ。その時が来たら自分の国は自分で守れ。国民を無駄死にさせるな。それだけだよ」

「それは帝国の公式な答えと捉えてよろしいのですか?」

「いや、オレの個人的な意見だが、皇帝オヤジもきっと同じように言うぜ」

「世界の命運は帝国が背負うと…?」

「どうだろう、皇帝オヤジはそこまで考えちゃいねぇと思うな。国を、国民を守る。ただそれだけを考えている。所謂ノブレス・オブリージュ(貴族の責任)ってヤツだ。立派な考えだと思うぜ」


「ふふふっ、帝国の後継者たる御方は面白いですわね。気に入りました」

「分りました。その「いざという時」に備えてイザヴェルも準備を整えることにいたしましょう。そして、その時が来たら我が王国軍3軍団のうち、中央軍を除く東部方面軍と西部方面軍を帝国に協力させます」


「女王様、それでは!」

「王国軍の2/3にもなる兵力を帝国に派遣するというのですか!?」


「ええ。どうせ邪龍が復活すれば王国軍だけじゃ防げませんもの。なら、少しでも勝算のある方に賭けるのが君主の務めです。そうですわね、ミュラー様」

「わははは! 女王とは気が合いそうだ」


「わかりました。私は軍部に命令を下しましょう。色々と準備が必要になりそうですな」

「軍務大臣、よろしくお願いします」


「そうとなれば、スクルドとビフレストにも協力を求めなければなりませんわね。ヴェルト3国は相互安全保障条約を結んでいますので、彼らにも軍の準備と派遣協力を要請しましょう。国務大臣、文書の草案作成をお願いします」


「ハッ、直ちに!」


「ミュラー様、2国に協力を求める際に、貴方のお名前をお借りしてもよろしいかしら」

「いいぜ、自由に使ってくれ。なんなら、皇帝オヤジの名前も使っていいぞ」


(さすがにそれは無理でしょう)


 ミュラーを除く全員がそう思ったのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 話し合いが終わり、ミュラーは女王やジョゼット王女とまだ話をしている。リシャールはユウキとアンジェリカを別室に案内した。


「ユウキ、先程の話の中で古代魔法文明の言語に詳しい帝国大学の助手がウルに捕らわれたと言ってたな。その助手は重要人物か?」

「そうですね…。彼女がいないとガルガに関するアースガルド資料の解読作業が停滞するかも知れません。それに、ウルの獣人たちに酷いことをされていると思うと…。何とかして取り戻したいのですが…」

「私たちには全く余裕がないし、どこにいるかも分らない。お手上げ状態ってところだな」


「そうか…」


 リシャールはパチンと指を鳴らすと、音も無く2つの人影が部屋の中に現れた。


「お呼びですか、リシャール様…って、うわあ!」

「リム、ただ今参じ…きゃああああっ! た、助けてぇ!!」

「なによ、人の顔見て化物みたいに…失礼しちゃうわね。ジェスとリムだっけ」


 呼び出されたのは元暗殺者のジェスとリムだった。2人はユウキの顔を見て悲鳴を上げ、リシャールの背中に隠れる。


「この2人は以前、母上とジョゼットの命を狙った暗殺者アサシンだったのだが、以前ユウキとエドモンズ様に酷い目に遭わされてな、命を助ける代わりに私の配下となったのだ。今は密偵として使っている」


 きょとんとするアンジェリカにリシャールが笑いながら説明してくれた。


「何となくわかった。ご愁傷様…」


「お前たちはウルに向かい、帝国大学助手のアンネマリー嬢の居場所を突き止め、救出するのだ。困難だが頼むぞ」

「頼むわね(パチンとウィンク♡)」(ユウキ)


「ひぃ…」(リム)

「ハッ! ほら、行くぞリム」


 ジェスはユウキのウィンクに恐怖して腰を抜かしたリムを背負って部屋を出て行った。


「もう、何なのよ」(ユウキ)


「ははは、許してやってくれないか。彼らはよく働いてくれているんでな。救出も任せておけば大丈夫だ。さて本題に入ろう。実はユウキに頼みがあってここに呼んだのだ」

「本題…、ですか?」


「ああ、ガルガ本体の捜索に私も同行させてくれ」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 グレイス女王やステラたちと別れ、一路ロディニアへの玄関口、スクルド共和国のマッサリア港へ向う事にしたユウキたち一行。現在は国境を越え、中継地である首都トゥルーズに向かっているところだった。今は観光シーズンでないため連絡馬車の乗客も少ない。4人はゆったりと座って窓から景色を眺めている。


「リシャール様、本当に良かったんですか?」

「ああ、世界の危機なんだろ? そんな状況で城で安穏としてられないからな。それに…」

「それに?」

「頑張ってる「友人」に手助けしてやりたいと思ってな」


 友人という言葉にことさら力を入れて話したリシャールに、ユウキは申し訳なさを感じ、アンジェリカは複雑な想いを抱いた。しかし、ユウキは努めて表情に出さず、感謝の気持ちを伝え、リシャールは笑顔で返すのだった。


 トゥルーズに到着したユウキたち。帝国とは違うエキゾチックな雰囲気の賑やかな街並みを見て自然にテンションが上がる。


「えーと、2、3日この町に宿泊して準備を整えようか」

「そうだな。なあユウキ、何かいい匂いしない?」

「言われてみれば…。あ! この匂い!」


 ユウキはきょろきょろと周辺を見回して、匂いの元である屋台を見つけ、飛び上がって喜んだ。


「キャー! 懐かしー、たこ焼きだぁ!」

「たこ焼き? なんだそれ?」

「最近流行りの食べ物だ。とても香ばしくて美味しいらしいな」

「ほう、食ってみてぇな。早速買って食べようぜ」


 たこ焼きの屋台には10人ほどの客が待っていて、ユウキたちは最後尾に並んだ。屋台からはジュウジュウと生地が焼ける音と香ばしい匂いが漂ってくる。この匂いに我慢できなくなったユウキのお腹がグウ~と鳴って皆に笑われた。


「はい、次の方どうぞ~」

「えっと、たこ焼き4人分。急いでね!」

「は~い。…えっ!?」

「どうしたの、早くちょう…だ、い…」


「ユ、ユウキさん!」

「アリス!?」

「えっ、ユウキさん」

「フェリシア!?」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「へえ、フェリシアは冒険者を引退して、アリスのたこ焼き屋さんに転職したんだぁ」

「はい。商工会の協力でアリスさんのたこ焼き屋さんが会社化したのをきっかけに、孤児院も会社が買い取って運営することになりまして。それで、私もアリスさんをお手伝いすることにしたんです」


「アリス凄いね。学生で社長さんかぁ。それで、たこ焼き屋さんは何店舗に増えたの?」

「えへへ…。スクルド国内で30店舗です。イザヴェルにも5店ほど出店してます。あと、帝国にも出店の計画があるんですよ」

「わあ、帝国でも食べられるようになるんだあ。楽しみだなあ」

「それもこれも、ユウキさんがあたしの夢を手伝ってくれたからですよ~。ホント感謝してます」


「そうだったんだ。ユウキがね…。ところで、なんで社長さんがたこ焼き屋いてるんだ」

「いや~、たまには焼きたくなっちゃって。なので、休みの日は焼きにきてるんですよ」


「ははは、その焼きにかける愛、オレは嫌いじゃないな。しかし、確かに美味いな」

「ああ、この食感は癖になる。気に入った!」

「ところで、この中の具はなんなの?」


「プルプ(たこ)です!」

「は?」


 アンジェリカの手がピタリと止まる。


「プルプって…、あの赤くて8本足でにゅるにゅるして、悪魔の化身って言われてる…アレ!?」

「そうです! アレです!! 美味しいでしょう」

「そ…そうだな」


 見るとユウキは3皿目をパクついており、ミュラーもリシャールも「美味い」と言いながら無心に食べている。しかし、アンジェリカはプルプの姿を思い浮かべると、ちっとも手が進まないのであった。


 アリスとフェリシアに再会を誓って別れを告げ、買い物をして準備を整えたユウキたちは、いよいよ北の大陸ロディニアへの玄関口である、マッサリア市に向かって出発した。チャーターした馬車の中でミュラーとリシャールは武器の手入れに余念がなく、アンジェリカは初めて見る風景を楽しんでいる。一方、ユウキはある人物に想いを馳せていた。


(ロディニアに到着したら真っ先に会いに行こう。元気かな、カロリーナ…)

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