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第461話 イザヴェル王国へ

 それから身の回りの整理や冒険者ギルドのボールスに報告等を済ませた後、ユウキ、アンジェリカ、ミュラーを除く仲間たちはカルディア帝国に向かって出立した。エヴァリーナは馬車の窓から身を乗り出していつまでも手を振っていた。ユウキも手が千切れるのではと思うくらい手を振った。やがて、馬車の姿が見えなくなった頃、そっと涙を拭いたユウキは2人に向き合った。


「さて、我々も出発しようか」

「そうだな。経路はイザヴェルからスクルドに入り、マッサリア港からロディニアに向かうのだったな」

「うん。まずはイザヴェルの首都ウールブルーンを目指そう。そこで知人に会いたいんだけどいいかな」


「俺は構わねぇぜ」

「私もだ」

「ありがとう」


 次いでユウキはアース君を除く自分の眷属たちを呼び出した。エドモンズ三世、ヴォルフ、アルフィーネがユウキの目の前に立つ。


「わたしは北の大陸ロディニアに行く。目的は邪龍ガルガの本体捜索と破壊。エロモン以外の皆も気づいていると思うけど、わたしは過去、「暗黒の魔女」としてロディニアで大勢の人を殺し、都を破壊した。本当はあそこに足を踏み入れたくないの。でも、わたしはわたしの大好きな人々を守るため、敢えて行くことにした。着いて来てくれる?」


『何を今更…。儂はユウキの保護者じゃぞ。お主の行くところにエドモンズ在りじゃ。何があっても儂はお前の味方じゃ。安心するがよい』


「ありがとう。エロモン」


『吾輩も異論はないな。いかな強敵が待つか…楽しみだわい』

「ラピスとは離れ離れになるけど…」

『なに、ユウキが生きて戻ればまた会える。吾輩の活躍を聞けば、ラピスちゃんも一瞬にして虜になるというもの。デレたツンツン美少女をモノにする…ぐふふ、最高じゃ』

「絶対にモノにはならないと思うけど…。まあ、よろしくね」


『アルフィーネは戦闘ではお役に立ちません。でも、頑張ります!』

「何を頑張るかわからないけど、期待してるね」

『ハイ! お任せください!』


「アース君、ここぞという時はお願いするね」

『必要になったら我の力、思う存分使うがよい』

「ありがとう。アース君が一番頼りになりそう」


 ユウキは眷属たちの思いがとても嬉しく感じたのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 その日のうちにアルムダート市の連絡馬車乗り場に移動し、イザヴェル国境行きの連絡馬車に乗り込んだ。馬車はほぼ満員だったため、大柄なミュラーは窮屈そうに座っていたが、我慢出来なくなったのか、これまた窮屈そうに座っていた隣の男の子を膝の上に抱っこしした。男の子はビックリしていたが、次第に打ち解けたのか楽しそうに笑っている。男の子の両親が済まなそうにしているが、ミュラーは気にするなと言って、自分の冒険譚などを面白可笑しく話して聞かせるのだった。


(ミュラーって、本当に心が広くて優しいな。あの笑顔、いいな…。わたしにも向けてほしいな…)


 ユウキは男の子と楽しそうに話すミュラーを見て心が温かくなると同時に、ちょっぴり嫉妬も覚えるのであった。


 途中1泊して翌日に国境検問所に到着し、出入国手続きをしたユウキたち。検問所ではSクラス冒険者とAクラス冒険者の揃い踏みに、イザヴェルで何事があったのかと騒ぎになったが、ただの旅行だといって落ち着かせた。イザヴェル側の国境から王都行きの連絡馬車に乗り、一路ウールブルーンに向かう。途中、グランドリューの町やソラリス湖が見えてきたとき、ユウキはとても懐かしく思い、アンジェリカにグランドリューに滞在し、経験したことを話して聞かせた。


 そして、ついにイザヴェルの首都ウールブルーンに到着した。初めて見る水の都と評判の美しい街並みにアンジェリカは声も出せず感動している。


(ふふ、わたしも初めて来たときは同じだったよ。そういえば、ステラは元気かな…)


「ユウキちゃん、これからどうするんだ」

「そうだね…。もう夕方だし、宿をとって休もうか」

「じゃあ、宿を探さないとな」

「大丈夫、当てはあるよ」


ユウキが案内したのは繁華街から少し離れた場所にある木造2階建ての小さな宿。看板には「さざなみ亭」と書いてある。中に入ると4人掛けの丸テーブルが6つほどあって、宿泊客や仕事帰りと思われる親父たちが楽しそうに食事や酒を飲んでいて、ユウキはなんだかとても懐かしく感じたのであった。


「いらっしゃませ~…って、もしかして、ユウキさん?」

「リリーナ、久しぶり」

「わあああっ、本当にユウキさんだぁ! うわぁ、久しぶりなんてもんじゃないですよ。わああ、お元気そうで益々美人になりましたねー。その節はありがとうございました!」

「あはは、リリーナのお世辞もいっちょまえになったね」


「うふふ~。それで今日は? お泊りですか」

「うん、お部屋2つ空いてるかな」

「ちょっと待っててください」


 リリーナはパタパタと受付カウンターまで行くと宿帳を開いてニコッと笑い、手招きしてきた。


「部屋は4人部屋と、2人部屋が2つ空いてますよ。どうします? にしし…」

「なにその笑いは…。2人部屋を2つお願い」

「まいど! 部屋割りはどうします?」

「俺とユウキちゃんで1つ、アンジェリカは1人でひとつだな」

「何言ってんのバカ! わたしとアンジェ、アンタは1人!!」

「ちぇ~。ケチ!」


「あはははっ、面白いですね~。ハイ部屋の鍵です。食事は何時でも摂れますのでどうぞ」

「面白くも何ともないよ、全く…」


 ぶつぶつ文句を言うユウキをアンジェリカが「まあまあ」と宥めながら部屋に入り、旅装をといた後、残念そうな顔をしたミュラーと合流して1階食堂の空いてるテーブルに座った。すぐにリリーナが食事とお酒を運んできた。


「無事の到着に」

「カンパーイ!」


 久しぶりのイザヴェル料理はとても美味しく、ユウキとアンジェリカはパクパクと食べる。ミュラーは地酒の味がすっかり気にいったようで、何杯もお代わりするのだった。


「もう、あんまり飲み過ぎないでよね」

「わははは! 残念だな、俺はもう飲み過ぎているっ!」


 そう叫んだミュラーはバタンとテーブルに突っ伏してグーグー鼾をかいて寝てしまった。その様子に苦笑いする2人。お開きにしようとミュラーを抱えて部屋に戻り、ベッドに寝かせた後、さざなみ亭から少し離れた公衆浴場に向かった。お風呂に入っていると宿の仕事を終えたリリーナも来たので、ユウキはイザヴェルから離れた後の冒険譚を聞かせてあげると、リリーナは物凄く喜んだのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌日、ユウキとアンジェリカはいつも以上にお洒落をして宿を出た。超絶級の美少女2人は否が応でも目立ち、町行く男たちが声をかけようとするが、背後に控えるミュラーが剣を持って威圧するため近づけない。


「ミュラーもたまには役に立つね」

「ひでぇ言い方だな。俺はいつでもどこでも役に立つっつーの」

「ところでユウキ、どこに行くんだ? それに、こんなお洒落して」

「ふふ、着いてくれば分るよ」


 アンジェリカとミュラーは顔を見合わせて「?」となるが、ここは黙って着いていくことにした。


 繁華街から市内を走る循環馬車に乗って到着したのはイザヴェル王宮だった。豪華な装飾がされた白亜の大理石造りからなる正門から中に入ると、幅100m程の石畳の通路が王宮まで伸び、両脇に広がる庭園の散策路では多くの観光客が季節の花々を鑑賞して楽しんでいる。


「こんな美しい宮殿は初めて見た…」

「わたしも初めて見た時はあまりの美しさに言葉を失ったよ。実はこの宮殿、生前のエロモンが造ったんだそうだよ」

「え~っ! ウソだぁ~。絶対に信じない」

「ホントだってば」


 アンジェリカとふざけ合っていると、いつの間にか通路を抜けていて、王宮の門前に到着した。ユウキは通用口の警備兵に来訪とその目的を告げると、警備兵はあらかじめ用意していた入館証を渡し、中に通してくれた。


「お、おいユウキ、これは一体…」

「うん、実はイザヴェルの用事ってここだったの。予め手紙でお知らせしていたんだ」


 思いがけない場所に来たことで、アンジェリカとミュラーは益々「?」となってしまった。ユウキは王宮の門にいる衛兵に二言三言話をすると、2人に迎えが来るからと言って通行の邪魔にならない場所に移動した。10分ほど待っていると…、


「ユウキ! 久しぶりだな!」

「リシャール様。ご無沙汰しております」


「リシャール様、ご紹介します。こちらの方はミュラー・ベルテ・カルディア様。カルディア帝国の第1皇子です」

「ミュラーだ」


「なんと…。私はイザヴェル王国第1王子リシャールです。以後、お見知りおきを」


 リシャールは敬礼をして挨拶する。ミュラーは鷹揚に頷いた。その様子を見ていたユウキはいつもと違うミュラーの似合わない応対にぷっと噴き出してしまうのであった。


「ぷっ…くくっ…。ご、ごほん。こちらはアンジェリカ・フェル・メイヤー嬢です。元スバルーバル連合連合諸王国アレシア公国の貴族の出で、今はわたしと一緒に冒険者をしています」

「ア、アンジェリカと申します。よろしくお願いします」


 少々緊張気味のアンジェリカがスカートの端を持って礼をした。


「ようこそイザヴェルへ。王国は皆様の来訪を歓迎します。さて、堅苦しい挨拶はこれまでにして、早速案内しよう。母上もお待ちかねだ」

「はい!」


「ユウキ、これはどういうことだ?」

「なんだ、話してなかったのか?」

「へへ、驚かそうと思って…」


「そうか。詳しい話は後でするとして、ユウキは我が弟アンリと一緒に死の呪いにかけられていた母上…、この国の女王を救ってくれたのだ。その際、女王を呪いによって暗殺し、国を乗っ取ろうとした犯人を捕まえてもくれたのだ」


「ユウキったら、そんな事してたのか」

「そういえば、帝国の外交調査文書に重病に臥せっていたグレイス女王が奇跡的に回復したことが記されていたな。実際はそうだったのか…。ユウキちゃんがな、さすが我が嫁」


「ん? 嫁?」

「あっ、わわわ…、ミュラー、しーっしーっ、黙ってて!」

「なんでだ?」

「いいから!」


「…………。そうか、ユウキは居場所を見つけたのだな。おっと、早く行こう。母上を待たせてしまう」


 一瞬寂しそうな表情を見せたリシャールだったが、すぐにいつも通りに戻すと着いてくるように言った。女の勘で敏感に感じ取ったアンジェリカは、この2人に何かあったのだろうかと思ったが、今はその事を詮索するべきではないと思い直し、何となく申し訳なさそうな顔をしているユウキの後に続くのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「母上、ユウキをお連れしました」

「まあ、待ちかねたわ。早く中に来るように言ってください」

「ハッ」


 リシャールに案内されたのは謁見の間だった。女王の言葉にリシャールが合図を送るとユウキが中に入り、一礼して女王の前に進んで再度一礼した。アンジェリカとミュラーは謁見の間に入ってすぐの場所で待機し、ユウキの様子を見ていた。そのユウキの前に1人の女の子が進み出てきた。その女の子は年の頃15歳前後で美しい銀髪をショートカットにしており、煌びやかなドレスを着ている。


「誰だ、あの子は? アンジェリカ知ってるか?」

「いいえ何も…」


 その女の子はユウキに抱きつくと小さく嗚咽を漏らした。ユウキもまた目に涙を浮かべて優しく抱きしめている。


「ステラ、会いたかった。会いたかったよ…」

「私もです。ユウキさん…ぐすっ…」

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