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第460話 北へ

「次は第8ダンジョンの結果をご報告しますわね」


 ユウキと入れ替わりに立ち上がったのはエヴァリーナだった。第11階層から本格的な探索を始め、伝説級の魔物との遭遇戦、第17階層におけるラーメラとの出会い、第8ダンジョンは130階層まであり、第18階層にあるという転移装置の捜索と発見について簡潔に説明した。


「スフィンクスって伝説級の中でも特級の魔物よね。どうして仲間になったの?」


 ユウキが疑問に思ったことを聞いてみると、ラーメラはにぱっと笑って、


『いや~、エヴァリーナちゃんが臭っさい下痢を盛大に漏らした原因を作ってしまいまして、お詫びしたくって。それと誰も来ないダンジョンがつまらなくて、皆さんと行動したほうが楽しそうだったので』


「へえ…下痢を…」


 ニヤリと笑みを浮かべるユウキと、笑いを押し殺すミュラーにラピス、アンジェリカ。エヴァリーナの顔は屈辱で真っ赤になるが、ラーメラに悪気はないことがわかっているので、怒りを抑えて報告の続きをする。


「ごほん…。ユウキさん、あなたには後でお話しがあります。さて、最終階層に到達した私たちですが、そこで魔人と遭遇し、戦闘になりました」

「魔人…まさか…」

「そのまさかですわ。ユウキさんが以前話してくださったヘルゲストたちに遭遇したのです。しかも、ユウキさんとエドモンズ様が倒した唐揚げレモンとラデュレーという名の2人の魔人も引き連れて」


「彼らはガルガを復活させ人間世界に復讐すると言っておりました。そのためにガルガの手がかりを探していると。結果、魔人たちと刃を交わすことになり…」

「唐揚げレモンはエドモンズ様が、ラデュレーはマーガレット様が倒したものの。ヘルゲストには逃げられてしまいました」


「そう…」


 次にエヴァリーナはテーブルの上に最終階層で手に入れた図面を広げた。


「これが得られた宝物です。ガルガの対抗兵器の設計図らしいのですが、教授の見立てでは現在の我々の技術では理解も製作も不可能だと…」

「仕方ないよ。でも、発見して持ち帰ってくれただけで有難いよ」

「ユウキさん、そう言っていただけると助かります」


「次は我々だな」


 エヴァリーナの説明が終わり、次にラインハルトが立ち上がった。第10ダンジョンの1階層はユウキの想像通り従魔と体を接すれば突破で来たこと、途中パールとアリエルと激しい戦闘となり、倒した2人の命をカストルが助けたことから、カストル大好き状態になったことを話した。


「最後は魔界の怪物デビルズ・アイと遭遇したんだ。ヤツの魔眼でポチとリザードが魔獣と化し、ルツミがポチに喰い殺され、リザードは我々に刃を向けてきたが、最後の最後でクリスタを守るため、自分で命を絶った…」

「ううぅ…」


 サラとクリスタが彼らの最後を思い出したのか、小さく嗚咽を漏らした。アルヘナも思わずもらい泣きしてハンカチを握りしめる。


「デビルズ・アイ…。それでどうしたの?」


「我々の前にダンジョン・コアの具現体と称する老人が現れて、デビルズ・アイを倒せるのは魔眼の影響を受けないアリエルとクリスタだけだと言い、強力な装備をくれた。そしてアリエルの援護のもと、クリスタが倒したんだ」


「そうだったの…。その武器ってのは?」

「これです」


 クリスタはアブソリュート・ゼロを鞘から抜いて見せた。圧倒的な魔力と冷気を放つ美しい剣にユウキやエヴァリーナたちは目を見張った。


「ありがとう、もういいわ。それで…」

「ああ、得られたものはこれだ」


 そう言ってラインハルトは1冊の本をテーブルに置いた。豪華な表装の厚い本に否が応にも期待は高まる。


「こ、この本は? 何か凄い内容が記されていそう」

「世界名物料理列伝究極完全版」

「え?」

「世界名物料理列伝究極完全版。世界中の伝統料理や各都市国家の最高級レストランから街角の定食屋の名物料理まで、調べに調べつくした究極のグルメ本だそうだ」


「もう一冊、幻の発禁本「ぷっしーちゃんのたわわな実り」という巨乳美女を集めたフルヌード写真集もあり、カストルが自分のお宝にしようとしたのだが、激怒したアンゼリッテに取り上げられてしまった」


「カストル君…」(ユウキ)

「うむ、聖人君子のような顔をしてても、君はやっぱり男だったんだな。お姉さんは安心したぞ」(アンジェリカ)

「カストル、あとでその本回収しようぜ」(ミュラー&レドモンド&エドワード)

「お兄様たちのドスケベ!」(ラピス&アルヘナ)


「最後にこれだ」


 ラインハルトは最後に入手した本をバッグから取り出した。その本は料理本より二回り大きく、様々な装置と注釈などが記されている。しかし、この本も未知の古代語で記されており、すぐには解読できそうもないと教授が申し訳なさそうに言った。しかし…、


「ここだけは読めますな。「ルナ…、機構図…」何の事でしょう」

「ルナですって!」


 エヴァリーナとレオンハルト、リューリィが同時に叫んで椅子から立ち上がった。突然の行動にユウキやラインハルトたちは驚いた。


「そうか…アイツがいたな…」

「どういうこと、ミュラー」


「私たちがウルの廃鉱山で出会ったアースガルドの遺産、文明の記憶装置「ルナ」です! そうです、ルナならこの図面の解析ができるかもしれません!」


「だが、あそこに行くのは一苦労だし、仮に行ったとしても戻ってこれねえ。エヴァリーナさんの転移の腕輪もあと1回しか使えねえんじゃないか」

「そうでした…。でも、何か手はあるはずです。帝国に戻ってお父様と相談しましょう。それに、私とレオンハルトの事も報告したい…。ポッ…」


「最後、どういうこと?」

「エヴァちゃんとレオンハルト君はね、相思相愛の仲になったのよー」

「ええ~っ!! い、いつの間に…」

「また置いてかれた…」


 ニヤニヤ笑いのマーガレットが2人の関係を暴露し、ユウキは驚き、アンジェリカは落胆する。


「わははは、レオンハルトのむっつりスケベめ、やっと覚悟を決めたか。エヴァ、よかったな」

「ミュラー…。はい、ありがとうございます!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「それで、今後の事なんだけど、一度帝都へ戻る事でいいわね」


 マーガレットの言葉を否定する者はいない。


「エヴァちゃんとレオンハルト君は、ルナというアースガルドの遺跡の件をお願いするわ。邪龍ガルガに対抗できる兵器、何としても手に入れたい」

「分りました。ラサラス姫とアルテナ姫も協力お願いしますわ」

「はい!」

「了解したのだ!」


「ボクは教授のお手伝いをします。邪龍ガルガに関する解析をしたいと思います」

「ふむ…帝国皇室関係者の協力が得られれば心強い。よろしくお願いします」

「…………(リューリィ君と離れちゃうのかな)」


「ルゥルゥさん」

「えっ…な、なに?」

「ボクと一緒に来てくれませんか」

「あ、あたしが? いいの? 本当に一緒に行っていいの?」

「はい、ルゥルゥさんに側にいて欲しいんです」

「う、嬉しい…。うん! あたし、リューリィ君のために一生懸命頑張るね!」


「青春ねー」(マーガレット)

「妬ましい」(ラサラス)


「マーガレット様はどうされるのですか?」

「私はハルワタートを追うわ。起動システム2つを得た彼らは最後のシステムを手にしようと動くはず。私は何としてもそれを阻止したい」


「でも1人では…」


 エヴァリーナは心配そうに呟く。今まで黙って聞いていたレグルスが立ち上がり、2人の護衛騎士に命じた。


「レドモンド、エドワード」

「ハッ!」

「2人に命じる。マーガレット様に同行し、ウルの野望を叩き潰せ。困難な任務だが君たちにならできる。ラファール騎士としての矜持を見せよ!」

「ハッ! 必ずやご期待に沿えて見せましょう!」


「ありがとう、レグルス君。とても心強いわ」

「私もマーガレット殿に同行しよう。サラ、君も来るか」

「はい王子! わたしは王子の行くところ、どこまでも着いていきます!」


「お母さま、わたくしもお母さまと同行します。2人の駄目イドも一緒です」

「え~、私たちもですかぁ~」

「ぶーぶー」

「嬉しいわ。ラピスの成長ぶり、見せて頂戴ね」

「はい!」


「カストル、アルヘナ、クリスタは帝都で学校生活に戻ってくれ。いずれ、君たちの力が必要になる。その時はまた力を貸してくれ。レグルスとポポも同様だ」


『はい!』


 みんなの目標目的が決まっていく中、ユウキは難しい顔をして黙っている。ユウキの行動が決まっていない事に気づいたエヴァリーナは不審に思った。いつもなら、いの一番に自分の想いを発言するハズなのに…。


「ユウキさん? どうなされたのですか?」

「…………」


「ユウキさんは、私と一緒に行ってくださるのでしょう?」

「エヴァ…。わたし、一緒に行かない」


「えっ、ど、どうしてですの?」

「わたし、みんなとは別行動を取ろうと思ってる」

「別行動…とは? 一体どこに行こうというのです」


「北へ…」

「北?」


「そう。北の大陸、ロディニアに行く」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 北の大陸ロディニアに行くと発言したユウキにその場の全員が驚いた。


「ロディニアですって!」

「ユウキさん! ロ…ロディニアに行って何をしようというのです!? それがどんな危険な事か分っているのですか。もし、ロディニア王国に見つかったらどうするつもりなのです!」


「落ちついてエヴァ」

「これが落ち着いていられますかってーの!」


「理由なく行くわけではないよ。神殿遺跡から回収したプレートに記載されたことを思い出して」

「…プレートの記述?」

「そう」


 ユウキを除くプレート解読に立ち会った全員が考え込んだ。そしてバルトホルト教授がハッとして顔を上げた。


「思い出しましたぞ。「本体は北の地に封印する…」でしたな」

「うん。北の地をよく考えてみて。少なくともラミディア大陸の北には邪龍を封印できそうな地形はない。あるとすればオルノスだけど、そこは南の果てで、プレートの記述とは一致しない」


「エリス島はどうなんだ」

「ミュラー、あの島はエリス様が降臨したとされる聖地だよ。まず違うと思うな」

「ロディニアと思う根拠はなんだ」


「ロディニア大陸の北には強力な魔物が跋扈する黒の大森林が広がり、その奥には人跡未踏の脊梁山脈がある。邪龍の本体を封印するとすればそこしかないと思う。だからわたしは行く」

「そんな危険そうな場所、いかなユウキとて行くのは難しいのではないか」

「普通に考えればアンジェの言う通りだけど、わたしなら行くことができる」

「その根拠は?」

「黒の大森林の側でわたしは育ったから。その他にもあるけど、今は言えない」


 ユウキの決意は固い。もう誰が何を言っても翻意はないだろう。そう考えたエヴァリーナは、


「では、私も行きます。ユウキさんを独りで行かせる訳には行きません」


 と言ったが、ユウキは首を振った。


「だめだよ。エヴァにはエヴァの役目があるでしょう。だからエヴァは連れて行かない。アンジェ」

「なんだ」

「一緒に来てくれる?」

「勿論だ」

「できればミュラーも…」

「遠慮しがちに言うなよ。俺は行くぜ」

「ありがとう…」


「ロディニアにはわたしを含めて3人で行く。みんなにウルの件とガルガ対策を任せてしまって申し訳ないけど…」


「ユウキさん。お願いがあります」

「なに? エヴァ」

「貴女を止めはしません。ひとつだけ約束してください。必ず生きてここに戻ってくると」

「…うん。必ず戻るよ。だって、わたしの居場所はここ、ラミディアにあるんだもの。約束する」

「本当に約束ですよ。破ったらリリアンナの魔力回復薬を飲ませますからね」

「それは困るな。何が何でも戻ってこなきゃ」

「ふふ、約束…です。ぐすっ…、ふぇええん…」


「レオンハルトさん」

「なんだい」

「エヴァを頼むね」

「ああ、任せろ」


 最後にユウキは全員としっかり握手をした。温もりを確かめ合うように…。

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